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殺し方で職業が決まる世界で、俺たちは旅をする  作者: カントゥーヤ


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3/21

誰も剣を持たない町

町には、武器がなかった。

 正確に言えば、武器という概念そのものが存在しないかのようだった。



 俺たちが町に入ると、まず目に入ったのは整然とした通りと無傷の家々だった。

 窓ガラスは割れておらず、落書きもない。



「……ここ、ほんとに現実か?」

 健人が思わずそう言う。

「信じられないくらい普通だね」

 真白も同意した。

 だが、違和感はすぐに見つかった。

 町の人間は、誰一人として何も持っていなかった。

 包丁も、斧も、棒切れすらない。

 俺の背中のライフルに視線が集まる。おもちゃのエアライフルに。そこには恐怖と嫌悪がはっきり混じっていた。



「……武装した方はお引き取りください」

 そう言ったのは門番らしき老人だった。

 手ぶらで、ただ立っている。

「危害を加えるつもりはない」

 健人が答える。

「それでもです」

 老人は首を振った。

「ここは“非武装区”です」

 





話を聞くうちにこの町の成り立ちが分かってきた。

 モンスターが湧き始めた頃、この町の人々も自衛の為に戦おうとした。だが、なぜかこの町は狙われなかった。モンスターになる人間もおらず、外からモンスターが襲ってくることもなかった。

人々は困惑し、そして一つの結論に至った。

 ――戦うからモンスターが生まれるのではないか、と。

 


モンスターを倒せば、職業を得る。

 職業を得た者は、また戦う。

 戦い続ければ必ず誰かが死に、モンスターに殺された人間もまたモンスターになる。

それがこの世界の新しいルールだ。



「だから私たちは戦わないことにしました」

 町の代表だという女性は穏やかに語った。

「誰もモンスターを倒さなければ、誰も職業を得ない」

「そして職業がなければ、争いも起きないのです」

「今までは運が良かっただけだ」

 健人は吐き捨てるように言った。

 「……でも」

 俺は聞いた。

「モンスターに襲われたら?」


「逃げます」 「隠れます」 「祈ります」

 健人が拳を握るのが視界の端で分かった。

 





 俺たちは武器を預ける条件で町に滞在することを許された。

 武器庫、ではない。

 封印庫と呼ばれる、石造りの建物だった。

 ライフルを置いた瞬間、胸の奥が少し軽くなった気がした。

 それが正しいことをしている証拠のようにも思えて嫌だった。

 


町は確かに平和だった。

 子どもたちは走り回り、老人は日向で話し、夜は灯りがともる。

 誰も疑わず、誰も警戒しない。

 だが夜半、遠くで咆哮が聞こえた。

 モンスターの声だ。

 町の灯りが一斉に消える。

 人々は家に閉じこもり、息を殺す。

 俺はただ暗闇の中でそれを聞いていた。

 




数日滞在したある日、町の外れで人が死んでいた。

 ごく普通の若い男だった。だが、顔が……変わり始めている。

「……モンスター化だ」

 真白が呟く。

 


町の人々は男を囲んで祈っていた。

 「ついに出てしまった、ついに」

「神よ、神よ」

「どうか、変わりませんように」

「どうか、時間が止まりますように」

祈るだけの人々。見ていられなかった。

 


代表の女性が俺たちを見る。

「あなた方なら……終わらせられるのでは?」

 沈黙。

「……それは」

 俺は言った。

「この町のルールを壊すことになる」

 女性は頷いた。

「承知しています」

 祈りと、決断が交差する。

 




 結局、俺たちは武器を取った。

 封印庫の扉を開けた瞬間、町の空気が変わる。

 恐怖と、安堵と、裏切りが混ざった視線。

 変わりきる前に終わらせた。

 銃声は一発。

 短く、静かだった。

 


町の人々は泣かなかった。

 ただ、目を伏せていた。

 




 出立のとき、代表の女性が言った。

「私たちは、間違っていましたか?」

「……分からない」

 俺は答えた。

「でも、戦わない選択にも誰かが血を被る」

 


健人が町を振り返る。

「次はどうするんだろうな」

「きっと」

 真白が言った。

「また祈るんじゃないかな」

 


町は今日も非武装だ。

 平和で、脆くて、静かだ。

 俺たちは歩く。

 武器を持って。

 それが正しいかどうかはまだ分からない。

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