番外編①終末にもラジオは必要だ
今回は別視点から見た主人公たちの話です。
これからはちょっとずつこのような番外編も書いていこうと思っています。
――カチッ、という軽い音。
「えー、こちらマツザキ放送局、DJマツザキの《終末深夜便》です」
自分で言っておいて、少し笑ってしまう。DJという概念がまだ生きているのかどうかも怪しい世界で、深夜便もクソもないだろう。
「いやー、皆さん。本当にご無沙汰してました。生きてます。ちゃんと、生きてます」
当然ラジオの向こうから返事はない。それでも喋る。
「配信が止まってた理由?トラブルです。それも致命的なやつ」
送信機材が沈黙した日を思い出す。
電源は入る。ランプも点く。だが、音が飛ばない。
「で、普通ならここでゲームオーバー、僕のDJ人生も終わるんですが……世の中捨てたもんじゃない」
少し間を取る。
「ヒーローが通りかかったんですよ」
その日、俺はキャンピングカーの前で頭を抱えていた。
郊外の道路脇。モンスターがわんさかいる訳では無いが、安全とは言えない場所だ。
「……くそ、なんでこの世界でラジオやってんだ俺は」
そう呟いた直後だった。
人影が三つ、道路の向こうから現れた。
ライフルのようなものを持った目つきの鋭い男。
鉄パイプを担いだ短髪の大男。
そして、ぼーっとした表情の可愛らしい少女。
正直、最初は逃げるべきだと思った。
「待ってくれ!」
声を張り上げたのは、もう後戻りできなかったからだ。
事情を話すと、三人は顔を見合わせた。
「都市部のテレビ局なら、機材は残ってる可能性あるな」
目つきの鋭い男はそう言った。
「蜘蛛の巣になってるけどな」
大男が肩をすくめる。
「……蜘蛛、嫌な予感しかしない」
女の子はぼそりと呟いた。
テレビ局には中型の希少種が巣を張っているらしく、彼らはあまり乗り気では無さそうだったが、なんとか頼み込んで取引は成立した。
食料と、俺が持っていたなけなしのモンスター産金属片。
命を賭けるには安すぎる報酬だったかもしれないが、彼らは受けてくれたんだ。俺があまりにも必死だったのもあるかもしれない。とにかくいい奴らだった。
テレビ局は、予想以上に地獄だった。
入口から中まで、天井から床まで、白く濁った糸が張り巡らされている。一歩踏み間違えれば、糸に引っかかって位置がバレちまう。
「足元、気をつけて」
女の子が囁く。その直後だった。
足首にベッタリとした冷たい感触。反射的に足を引いたが、遅かった。
「……あ?」
俺はあっという間に上へ引きずり上げられる。
悲鳴を上げる暇もなく、俺は天井へと引き上げられていた。
気絶しちまったのか、気づけばでっかいスタジオの中央。ステージ上に張り巡らされた蜘蛛の巣の中に俺は囚われていた。俺もエンターテイナーの端くれ。こんな状況じゃなかったらこの大舞台にワクワクしたんだろう。
巨大な蜘蛛の影が、照明の残骸の向こうで蠢いている。
「ちょっと待ってくれ!俺ただのラジオDJ!あんたの口に合うとは思えないね!痩せてるしさ!」
蜘蛛から返事はなかった。ただ無機質な目が俺を見てた。これまでかと思ったね。あのでっかい蜘蛛に美味しく頂かれちまうんだと思った。
だが、次の瞬間。
銃声が蜘蛛を巣から叩き落としたんだ。
そこにすかさずでっかい氷が奴を貫く。蜘蛛も堪らず大きな声を出してやがった。その時の俺は蜘蛛って声帯あんのかな、なんて考えてた。ちょっとした現実逃避さ。あんな強い奴ら見たことないからさ。
「無事か!」目付きが鋭い男が叫ぶ。
「無事じゃなかったら喋ってねえよ!ありがとな!」
自分でも驚くほど口が回った。
大男が糸をちぎって俺を担ぎ、四人で逃げた。
背後でデカブツが暴れ、建物が軋む。
夜風を浴びた時、初めて生きている実感が湧いた。
「というわけで、今俺が生きてるのはあの三人のおかげです。しかも彼ら、俺を探す途中で機材まで確保してくれてたんだ」
ラジオに向かって、俺は深く頭を下げる。
「名前は聞かなかった。聞くのも野暮だと思ったんでね」
少し笑う。
「終末でも、ラジオは必要です。
誰かが生きてるって確認するために」
カチッ。
「次の放送まで生き延びましょう。DJマツザキでした」




