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殺し方で職業が決まる世界で、俺たちは旅をする  作者: カントゥーヤ


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18/21

人であることの重さ

 夜は静かだった。

 風が草を撫で、遠くで何かが鳴いた気がしたが、それもすぐに溶けて消えた。




 俺は焚き火の向こうに立てかけた杖を見ていた。

骨だ。

正確には、骨を削り、幾何学的な模様が刻まれた、不自然な形状の杖。飾られた結晶はドクドクと脈打ち、生きているようだ。

 人の手で作られたはずなのに、人のための道具とは思えない。




(――使い方は、単純だ)

 研究所を出る前、あの男が俺に淡々と説明していた言葉が蘇る。

 殺した後に、死体へ杖をかざせ。

そうしたら杖が反応する。あとはお前の身体が勝手に取り込む。



 それだけだった。

 代償についても、限界についても、詳しい説明はなかった。

 ただ一言。

 ――強くなりすぎるな




 焚き火が弾ける音で思考が引き戻される。

「……ずっと見てるけどさ」

健人が言った。

「それ、そんなに気になるか?」

「気にならない方がおかしいだろ」

俺ははっきりと返した。

 「あの男が言ってたことが本当だとしたら……いや本当だろう。なら俺たちは強くならなきゃいけない。」

 そう、強くなきゃ守れない。こいつらも自分も。


 杖から目を離さず、静かに言う。

「……使い方は分かってる」

二人の視線が集まる。

「殺した後に死体にかざすだけだ」

「……それだけ?」

真白が驚いたように言った。

「ああ」

 一瞬の沈黙。


「……なあ」

健人が少し声を低くして言った。

「それ、どう見てもヤバいだろ。今まで上手くやってこれたじゃねえか」

健人は語気を強めて続ける。

 「強えモンスターも倒したり、逃げたり。なんとかやってきただろ。そんなの要らねえよ」


 俺は焚き火に枝を放り込んだ。

火が一瞬、大きく揺れる。

「まあそうだな」

「だろ?だからさ……」

「でも、これからは違うかもしれない」

健人は俯いた。


「生き残ったモンスターほど強くなる世界だ。だったら、俺たちも同じように変わらなきゃ釣り合わない」

「……それは」

真白が何か言いたそうな顔をした。

「分かってる」

俺は言葉を遮るように続けた。

「人間じゃなくなる、って話だろ」

 空気が重くなる。



「俺は……怖えよ」

健人が言った。

「強くなるために、人間であることを捨てるってなんなんだよ。その杖を受け入れたら、いつか取り返しのつかないことになっちまいそうだ」

 真白は黙ったまま杖を見ている。


「……でも」

俺はぽつりと漏らす。

「使わなきゃ、次は俺たちが死ぬかもしれない」

誰も否定できなかった。




 俺は立ち上がる。

「……試す」

「今から?」

「ああ」

反対の声は出なかった。

 


ほどなくして、小型のモンスターが姿を現した。五十センチほどの芋虫のような見た目だ。芋虫なのに顔だけは人間のようで、おぞましい。

 慎重に、だが迷いなく仕留める。

動かなくなったそれの前で、俺は一度だけ呼吸を整えた。

 そして杖をかざす。

 杖は、まるで職業を得た時のような、淡い輝きを放った。

「……っ」

光は杖を伝い、俺の腕へ、胸へと流れ込む。

一瞬、視界が歪んだ。脳が揺れるようだ。

何かを理解したような気がするが、知識ではない。

感覚だ。



「おい……今の」

健人の声が遠い。

身体が軽いような気がする。

心臓の鼓動がやけに落ち着く。

死体を見ても、いつもより嫌悪感を感じない。



「……成功だな」

 俺はそう言って、杖を下ろした。

 

誰も喜ばなかった。

焚き火だけが静かに燃え続けている。

人であることの重さが、

その夜、確かに一つ減った。

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