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殺し方で職業が決まる世界で、俺たちは旅をする  作者: カントゥーヤ


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17/21

絶望と選択

 夜明け前、俺たちは山腹に半ば埋もれた旧研究施設に辿り着いた。

 コンクリートは苔と蔦に侵食され、扉の鉄は赤く錆びている。ここはかつて、モンスターを「理解しよう」とした人間たちの最前線だったのかもしれない。



 物資を調達しようと中に入った俺たちを迎え入れたのは、たった一人の研究者だった。

 白衣はすでに灰色に変色し、目の下には深い影が落ちている。

彼は名乗らなかった。名を名乗る意味をもう失っているようだった。



 研究所の中は異様なほど静かだった。

 機械は止まり、照明は半分以上が死んでいる。それでも、机の上の書類やホワイトボードの数式はつい最近までここが使われていたことを示していた。

 奥の部屋で研究者は椅子に座っていた。

 こちらに気づいても立ち上がらない。ただ、疲れ切った目で三人を見る。



「……君たち、何日生き延びた?」

 突然の質問に俺は言葉に詰まる。

 真白が指を折りながら答えた。

「……1年くらい」

 研究者は小さく笑った。

 馬鹿にした笑いではない。むしろ懐かしむような、諦めたような笑いだった。

「長いようで短い1年だった」

 彼は立ち上がり、ホワイトボードの前に歩く。

 そこには歪な曲線が何本も重なって描かれていた。

 「ちょっとした講義をしようか」




 「私たちは……といってももう私だけになってしまったが、ずっと外の化け物共を観察してきた。時には危険を犯してフィールドワークに勤しんだ」

「モンスターは倒すと消える。

 だが生き延びた個体は……変わる」

 研究者は一本の線を指でなぞる。

「戦闘回数、生存日数、環境への適応。

 条件によって伸び幅は変わるが共通点がある」

 彼はチョークを置き、俺たちを振り返った。



「あいつらは、生き続けるほど強くなる」



 一瞬、誰も言葉を発しなかった。

「……学習みたいなものですか」

 俺の問いに、研究者は首を横に振る。

「違う。あれは単なる成長だ。人間と戦おうと戦わまいと、時間とともにモンスターは強くなる。より速くより頑丈に、より力強く」

 空気が凍りつく。

「詰んでいるのさ、我々人類は」

 彼は研究データの束を力無く机に叩きつけた。

 俺の喉がひくりと鳴った。





 俺たちに与えられた力、職業は成長しない。

戦い続ければ強くなった実感を得ることはあるが、それは俺たち自身の技術と経験によるものだ。

分かりやすく言えば、どれだけ戦っても、健人の腕力が今の三倍になったりはしないし、真白の魔法の威力が上がることもない。

 健人は声を震わせながら研究者に掴みかかった。

「ふざけんな!信じられるか!」

 真白が慌てて止める。

「だが事実だ」

 研究者は白衣の乱れを直した。

 袖口には縫い直した痕と血の染みが残っていた。

「人間は成長しない。

 職業と装備、そして知恵で延命するだけだ」



 しばらく沈黙が続く。

 誰も反論できなかった。



 俺は絞り出すように聞いた。

「……じゃあ、希望は?」

 研究者は、少しだけ間を置いた。

「あるとすれば——

 人間側も、変わることだ」

 彼は立ち上がり、よろよろと歩く。大きな棚に手をかけ、引き出しを開ける。彼は一本の杖を取り出し、こちらに差し出した。



 骨らしきものと、ドクドクと脈打つ結晶のようななにかで組まれたそれは、見るだけで嫌な予感を抱かせた。

「これは、モンスターでいう“成長”を無理やり人間に流し込む道具だ」

 真白が息を呑む。

「代償は?」

 研究者は即答した。

「まだ分からん。

 分かっているのは——」

 彼は、俺を真っ直ぐに見据える。

「使い続ければおそらく人間ではなくなるだろう」



 重い沈黙が落ちる。

 それでも俺は杖に手を伸ばした。

 逃げ道がないことを、もう理解していたからだ。

 研究者はその姿を見て、目を閉じて呟いた。

「……これが私の選択だ、どうか……」






 この世界は優しくない。

 だが、それを知ってなお進み続けるもの、

 茨の道を歩く者だけが生き残る。

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