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殺し方で職業が決まる世界で、俺たちは旅をする  作者: カントゥーヤ


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16/21

同じ時間を生きていた

 廃れた高速道路の高架下で、焚き火の明かりを見つけた時、最初に思ったのは「人がいる」という緊張感だった。

 近づくにつれて、その感情は別のものに変わる。

「……あ?」

 声が、聞き覚えのある調子だった。



「もしかして……?」

 焚き火の向こうにいた三人組が、一斉にこちらを振り向いた。

 数秒の沈黙のあと、誰かが叫ぶ。

「マジかよ!○○!?健人に真白ちゃんじゃんか!」

 「タツ!?玲王と慎太郎まで!」

 高校の頃、クラスが一緒で毎日のようにつるんでいた顔だった。健人とこいつらのやらかしに何度巻き込まれたか分からないほどだ。

 部活帰りにコンビニで駄弁って、テスト前には愚痴を言い合って、放課後にカラオケではしゃいだ連中。

 世界が壊れる前の、どうしようもなく平凡だった時間。

「生きてたんだな……」 「そっちもな」

 笑い合いながらも、互いの装備や立ち居振る舞いを無意識に見ているのが分かった。

 全員、戦ってきた人間の目をしている。




 焚き火を囲んで座り、缶詰を分け合いながら、自然と昔話が始まった。

「覚えてるか? 文化祭の時さ——」

「タツがやらかしたやつな」

「あれは事故だって!タイミングだろ!」

「あそこで宮下先生が来るなんて、ほんとツイてなかったわ」

 みんなの笑い声が上がる。健人が笑いすぎて泣きながら膝を叩く。真白もニコニコしている。

 こんなふうに腹の底から笑えたのは、いつ以来だろう。

 タツが、ふと呟いた。

「なあ……あの頃に戻れたらって、思わねえ?」

 誰もすぐには答えなかった。

「……無理だろ」  

 俺はそう言って、焚き火を見つめた。

「俺たちはもう殺しすぎた、モンスターも人も」

 その言葉に皆黙り込んだ。



 

  夜が更け、交代で見張りを立てることになった。

 その時、地鳴りのような音が、遠くから聞こえた。

 「モンスターだ!」

 見張りをしていたタツが叫ぶ。

 


 

モンスターの群れはもう誤魔化せない距離まで来ていた。

「数が多い……」  真白が呟く。

 中型の群れ。とんでもない数だ。

 このまま固まっていれば、確実に潰される。

「分かれよう」  

  玲王が言った。

「二手に分かれれば、最悪どっちかは助かる」

 理屈は正しい。

 この世界では感情より理屈に従わないと生き残れない。俺は了承した。

「わかった。俺たちは右へ行く」

「じゃあ、俺たちは左だな」

 簡単に決まった。

 あまりにもあっさりとした、おそらく今生の別れ。

  手を振り背を向けて走り出す。

 数十秒、ただ足音だけが響く。

  その時だった。

 ——轟音。

 背後が、一瞬で昼間のように明るくなった。





  「……は?」

 振り返った瞬間、炎の奔流が視界を埋めた。

 空気が震え、地面が鳴る。

 炎の魔法。全力解放。

 撃ったのは——タツ。

「おい……っ!」

 怒鳴る暇もなかった。

 光と音に引き寄せられ、群れが一斉にこちらへ進路を変える。

 狙いは明白だった。

「なんで!なんでだよ!」

 返事はない。

 ただ、遠ざかる足音だけ。

 俺たちは、走るしかなかった。

 叫ぶ暇も、怒る余裕もない。

 モンスターが、来る。




  一体、二体、三体。人の形を残した化け物が鋭い爪を見せびらかしながら飛びかかってくる。

 数十体はいる。倒しても、押し寄せてくる。

 真白の体力切れで魔法の支援が減り、健人の腕が重くなっていく。

 俺も慣れない近距離での戦闘を強いられ、息が喉に貼り付く。

「……くそ……!」

 健人が転び、俺と真白が必死に引きずり起こす。



  三人は必死に廃ビルへ逃げ込む。モンスターたちはしつこく追い続けてくる。俺も健人もズタボロだ。健人は左腕が折れているようで、いつもは両手で振っている鉄パイプを片手で振っていた。

 俺も弾なんてとうに無くなり、石やガレキを投げている。真白は限界を超えて魔法を使い気絶した。

 夜が終わらなかった。





  夜明け前、ようやく群れの気配が消えた。

  「……生きてるな」

  「生きてる……だけだ」

 健人は息も絶え絶えに返した。

 俺は、立ち上がって言った。

  「周りを見てくる。真白を頼む」

  「無理すんじゃねえぞ」

  健人は心配そうに言った。





  追う気はなかった。

 だが、確認はしなければならなかった。

 あいつらと別れた辺りまで進むと、すぐに音が聞こえた。

「もう勘弁してくれ!来るな!やめてくれ!」

 切羽詰まった叫び。タツの声だ。

 


  隠れて様子を伺うと、瓦礫の向こうに元同級生たちがいた。十匹以上に囲まれている。

 中型の中に1匹姿が異なるものがいる。希少種だ。人とワニの中間のような見た目をしている。

 玲王は足をやられ、地面を這っている。

 慎太郎は武器を落とし、ボロボロの体でただ泣いていた。

タツは喚きながら魔法を打っているが、明らかに体力切れのように見える。

「違う……違うんだ……こんなはずじゃ……」

 俺たちの方に群れの大部分を押し付けることに成功したが、運悪く希少種を引き当ててしまったようだ。

 ツイてない所も高校の頃のままということだろう。


 

タツが、最後に泣きそうな顔で俺の方を見た。はっきりと目が合う。

「助けろよ……!同じクラスだったじゃねえか……!」

 俺は動かなかった。

 助ければ、今度こそ全滅する。

 モンスターが一斉に飛びかかる。

 叫び声。篭った悲鳴。

 プチプチと肉の裂ける音。

 数分もしないうちに、

 そこにあったのは——ぐちゃぐちゃの死体だけだった。

 無様で、必死で、

 昨日まで笑っていた人間の成れの果て。

 




  彼らは合理的だった。だが、合理的であることと許せることは違う。

 食事中のモンスター達にバレないように、ひっそりと背を向けて歩き出す。

 二人の元へ。守るべき仲間の元へ。

 俺たちは生き延びた。生き延びたが、

 この日の出来事は俺たちの中の何かを確実に殺した。

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