空回りの道化師
俺たちは大きな生存者コミュニティの噂を頼りに、かつて倉庫だったという廃工場の裏手を歩いていた。瓦礫に混じる雑草を踏みしめる。この辺りにはモンスターは多くないそうだが、警戒を怠ることは無い。
「……人の声がするな」
俺の耳にかすかに聞こえた。喚くような男の声。風に混じっても明らかに人の声だ。
声の方に進んでいくと曲がり角からおかしなものがみえた。電柱にしがみつく一人の奇妙な男。カラフルなデカい帽子に赤い鼻、そして真っ白な顔。モンスターに囲まれていて身動きが取れない様だ。
「何してんだ、あいつ」
健人が不可解そうに呟く。
俺はライフルを構えてモンスターに照準を合わせた。
男は帽子を大きく揺らしながらカラフルなボールをモンスターに投げていた。どこから出てきているのか、さっぱり分からない程に大量のボールだ。
「ええい、俺に構うなあ!」
その動きは少し空回りで、逆にモンスターを刺激してしまっていた。
「いろんな人がいるね」
真白が眉を寄せる。
どんなにふざけた奴でもこのまま放っておく訳にもいかない。真白の魔法でモンスターは凍りつき、俺のライフルで砕けた。
道化師は電柱から転がり落ちるように着地し、手足を払いながらも笑顔を作る。
「ふ、ふぅ……助かった……志半ばで餌になるところだったよ」
健人は呆れた表情で聞いた。
「あんたは一体何なんだ」
男は白い頬を膨らませ答えた。
「俺は道化師だ。こんな職業になっちまったばっかりに苦労が耐えねえんだ。」
「道化師?そんな職業があったのか」
俺は驚いた。旅の中で色々な職業を見聞きしたが、聞いたこともない。
「弱そう」
真白が言うと、道化師の男はしょんぼりした様子で答えた。
「これでも仲間内では重宝されるんだぜ。モンスターは俺しか狙わねえからな」
なるほど、確かに便利そうではある。
だが単独行動に向いているとは思えない。
「俺らの拠点の近くの街に好きな子がいるんだ。彼女の家にある家族の写真を取ってきてやりたかった」
彼は嬉しそうに写真を見せてきた。色褪せているが、きっと喜んでもらえるのだろう。
「もうこんな無理はするなよ」
健人は短く言った。
道化師は手を振って答える。
「分かってる」
俺たちは道化師に聞いた街を目指し、進み出した。
夕暮れが廃工場の瓦礫を赤く染める。
願わくば、彼の命懸けの恋が成就しますように。




