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殺し方で職業が決まる世界で、俺たちは旅をする  作者: カントゥーヤ


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11/21

あんなところに山は無かった①

 大きく高い壁に囲まれた街というのは、それだけで人を安心させる。見張り塔があり、門があり、武装した人間が巡回している。外で何が起きていようと、ここだけは違う――そう信じさせる力があった。





 城塞都市とすら言えそうな堅牢な見た目だったが、俺たちは名前を聞かれ簡単な持ち物検査を受けただけであっさりと通された。

「最近は静かでね」

 門番の男はそう言って笑った。

 壁を見上げながら、誇らしげに付け加える。

「侵入例は、もう半年ない。ここは安全だよ」


 門の内側では洗濯物が揺れ、露店の呼び声が響いている。子どもが石畳を走り、大人がそれを叱る。モンスターの気配はない。見張り塔の上に立つ人間も、肩の力が抜けているように見えた。

「ここは長く居られそうだな」

 健人がそう言って、軽く伸びをする。

 俺は頷いた。立派な壁だ。ここまでの高さと分厚さは今まで見たことがない。何らかの職業によるものだろうか。黒光りする不思議な材質をしていて、傷一つつかなそうだった。


宿屋の男は、三人を見て少し驚いた顔をした。

「若いな。旅か?」

「そんなところです」

「今日は祭日なんだ。タダ飯食ってけよ。うちのカミさんが広場でやってるからよ」

この街は食料にも、人々の気持ちにも余裕があるようだ。


 俺たちは広場で振る舞われているスープを頂いた。

 木の椀を差し出してきた女性は、にっこりと微笑む。

「学生さんかな?」

「はい、高校生でした」

「そう。……大変ね。でも、ここにいる間は安心して」

 当たり前のように言われたその言葉が、胸に残った。


俺たちは壁の増築の為の用心棒に滑り込み、数週間街に滞在した。食い扶持を得て、暖かいベットで眠れる。久々な平穏だった。瓦礫を運び、モンスターを追っ払い、仲良くなった同僚たちと酒を飲んだりもした。真白はここの料理をえらく気に入り、たまに宿屋の女将さんに料理を習っているようだった。

 「このまま永住しちまおうか」

健人はそう言って笑った。


 違和感はある日の夕方だった。

 壁の上から外を眺めていた健人が呟いた。

「なあ……」

「どうした?」

「あんなところに、山あったか?」

 俺もそっちを見る。

 壁の外、少し離れた場所になだらかな隆起が見える。夕焼けに染まって、影のように見えた。

「元からじゃないのか」

「いや……道があった気がする」

 確信はない。

 その日は、それで終わった。



 翌朝、その“山”は、少しだけ近づいていた。

 距離というより、存在感が増している。昨日は背景だったものが、今日は風景の一部として主張してくる。

 見張り塔が騒がしくなった。

 人が集まり、指をさし、ざわめきが広がる。

「色が変じゃない?」

 誰かが言った。

 確かに土の色じゃない。

 赤黒く、濡れている。ところどころに白いものが混じっており、表面が脈打っているようにも見える。

「生きてる、のか?」

 その言葉で、空気が変わった。

 鐘は鳴らなかった。

 まだ「非常事態」と決めきれなかったのだ。


 民兵が数人、壁の外に出た。

 慎重に距離を測りながら、様子を見る。

 “山”は、動いていた。

 滑るように、にじむように、地面を這っている。

 その正体が見え始めたのは昼前だった。

 岩でも土でもない。

 肉だった。

 崩れた筋肉が層を成し、皮膚だったものが乾いてひび割れている。内臓の名残が、地形のように折り重なっていた。

 瓦礫が埋まり、倒れた電柱が肉に飲まれていく。

 破壊というより、吸収だった。


 矢が放たれた。

 突き刺さり、沈み、消えた。

 銃声が続く。

 表面が波打つだけで、動きは止まらない。

「……効いてない」

 誰かが呟いた。

 街は、まだ壊れていない。

 だが、人々の顔から余裕が消えていく。

 俺は真白と健人を見た。

 三人とも、同じことを考えていた。

 ――これは、戦う相手じゃない。



 その日の夜、会合が開かれた。

 街の中心に人が集まり、声を荒げる者、黙り込む者が混じる。

「壁がある!」

「まだ距離がある!」

「近づいてきてるじゃないか!」

 答えは出なかった。

 ただ一つ決まったのは、「様子を見る」ということだけだった。

 


翌朝、“山”は、街のすぐ外まで来ていた。

 平和が崩れる音が聞こえた。

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