その日
世界が終わった日を、俺は二度経験している。
一度目は、ニュースの速報で知った。
二度目は、俺自身の手で“それ”を殺したときだ。
モンスターが湧いた、と人々は言った。
最初は都心部の繁華街だったらしい。突然人が人でなくなり、牙と爪を生やして暴れ出した。警察が出動し、自衛隊が動き、テレビは「新種のウイルスか」「集団錯乱か」と専門家を呼んで好き勝手なことを言った。
だが、説明はすぐに破綻した。
感染経路がない。
潜伏期間がない。
原因がない。
ただ分かったのは――モンスターを倒したことのない人間は、時間が経つとモンスターになる。そしてモンスターに殺された人間もまたモンスターとなる、という事実だけだった。
変化には個人差がある。数時間の者もいれば、数日、数週間、あるいは数ヶ月、保つ者もいる。だが、例外はいないとされている。
そして、モンスターに殺された人間は、必ずモンスターになる。
世界はゆっくりと、しかし確実に終わっていった。
天井は崩れ、床には割れたガラスと乾いた血痕が散らばっている。よくある郊外のショッピングモールだった場所。エスカレーターの途中で、何かが引き裂かれた跡があった。
「……いるな」
小さく呟いたのは、隣を歩く友人――健人だ。
元高校生、今は“戦士”。手には鉄パイプを握っている。
「前方、十時方向。二体」
そう言ってスコープを覗く俺は“狩人”。
ショッピングモールの玩具売り場で拾ったエアライフルが今の相棒だ。
「了解。じゃあ私は後ろから」
少し遅れて声を出したのは、真白。
“魔法使い”。しかも炎以外――氷を操る、かなりのレアケースだ。
俺たちはまだこの世界に慣れていなかった。
慣れる、という言葉が正しいかは分からないが。
モンスターは人型をしていた。
顔は溶けた蝋のように歪み、目が二つ以上ある。元は人間だった、という事実だけがやけに生々しい。
「行くぞ」
健人が踏み込む。
鉄パイプが唸りを上げ、モンスターの頭部を粉砕した。
もう一体がこちらに気づき咆哮を上げる。
間髪入れずに真白の氷が足元を凍らせた。
転倒。
視界に見慣れない感覚が流れ込んでくる。距離、風向き、重力。
まるで世界が「ここを狙え」と教えてくれているようだった。
俺は引き金を引いた。
おもちゃの弾は化け物の胸部を簡単に貫通し、モンスターが倒れる。
「……何時になっても俺の力とは思えないな」
思わず呟く。
「狩人の力、だな」
健人が苦笑した。
モンスターを初めて倒した人間は、戦い方に応じた力を得る。
それを職業だの、クラスだの、スキルだの、異能だの、好き勝手な名前で呼ぶ。
重要なのは名前じゃない。これで俺たちは今日を生き延びたという事実だ。
世界が終わった日から俺たちは旅を始めた。
政府は機能していない。都市は危険で、地方も安全とは言えない。
なら歩くしかない。安住の地を探して。
「なあ、次はどこ行く?」
コンビニ跡で休憩しながら健人が聞く。
「北。寒い方がいい。モンスターは動きが鈍る」
「合理的だな」
真白が頷く。
彼女はぼーっとしているようで、いつも冷静だった。
魔法使いがレアだと知ったときも特別扱いを嫌がった。
「私たち、どこまで行けると思う?」
ふと真白が聞いた。
「さあ」
俺はライフルを整備しながら答える。
「でも、行けるところまで行くしかないんじゃないかな」
世界は終わった。
けれど、終わった世界にも道は残っている。
そして俺たちはまだ人間だ。
少なくとも――今日までは。
次の町まで、徒歩で二日。
そこに何があるのかは分からない。
それでも歩く。
狩人と、戦士と、魔法使いの三人で。
旅はまだ始まったばかりだ。
初投稿です。至らない点が沢山あると思いますが、指摘していただけるとありがたいです。




