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マンション大戦争~35年ローンで買ったのに  作者:


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マンションの闇が暴かれた - 2

「この度の管理費の横領や工事業者からの裏金授受により、当マンションブリーザ幕路の会計に多大な損害を招いたことをここにお詫びします」


 理事長の山下さんの謝罪から始まった臨時総会の午後の部。挨拶が終わるとすぐに、


「実際に横領したり業者から裏金を受けていた区分所有者はいったい誰だ!」


 当然ですがきつい言葉が飛んできます。


「管理費を横流ししたのだから当然横領罪が成立するだろ、いったい誰が受け取っていたのか、受け取ったお金を返還させるめどは立っているのか、そしてその者たちを刑事告訴するのか、明確に答えてください!」


 午前の部で着火した火は、午後の部になると大火になって燃え盛る。少々の言葉を発信したところで鎮火は難しい、そう思いながら理事の席に座っていた僕。


「すみません、管理員の寺間です。午前中にも話に出ましたが、私は一連の不正の調査目的でこのマンションに赴任しており、調査の結果お金の流れについてもほぼ把握しています。当然ですが当該の方には弁済を求めますが、それ以降については今のところ白紙です」


 寺間さんの考えによれば当然刑事告訴するべき事案ではあるけど、金品を受領した者だけではなく、会計や監査の方たちも背任が問われる。時効の関係で全員を告訴はできないが、それでも人数がかなり多くなることのほか、ガバナンスが全く効いていないマンションとして価値を大きく棄損する事態に陥る懸念もある。そのあたりのバランスを考えた際、金品の弁済で済ませるほうが今後のことを考えた場合良いように思うとのこと。


「会計や監査の責任を問うのはともかく、実際にお金を受け取っていた者を告訴するのは当然じゃないですか? 悪い事をすれば罰せられる、普通の事ですよ!」


「お金を受け取っていたのは理事のどなたかで間違いないですよね? そのお金を受け取っていた人だけを訴えればいいんだ!」


「我々がマンション管理のために払ったお金を私的に使ったわけだ、弁償したから終わりと済ませるようなものではない!」


 首謀者は懲戒解雇された田割さんと言われているが、マンションブリーザ幕路だけに限って見れば藤本さんはほぼ同格の悪事を働いた。これだけ自身のことを非難され続けても平然と座っているこの根性は大したものだ。もしも僕が藤本さんの立場だったらこの総会には出席せずに雲隠れするか、逆に午前の部からずっと頭を床に擦りつけるように謝っているだろう。


 僕は仕事柄お客さんから非難されることもあるけど、自分自身が間違っていなければ絶対に頭を下げずに返り討ちにしてあげるし、店舗側にミスがあるならば頭がすり減るくらいに地面にこすりつけて謝る。でも自身が犯罪行為に手を染めていたとしたら、恥ずかしくて表になんて出て来れない。だからお金の魅惑に惑わされないように生きてきたのだが。




 一向に止まないお金を手にした者への非難と処罰感情。その気持ちはわかるけど、それ以上にやらなきゃいけないことがあるはず。そう思っていると土尻さんが、今回の件は田割さんを見てもわかるが同じ人物が長い期間担当し続けた事による弊害。だとすれば理事会の理事も多選禁止や、任期を一年に短縮するなどの改革が必要と訴えた。僕はこの意見に賛成だが反発する声もあり、


「それは何か、多選で理事の座にずっと居座っていることが原因だと言いたいのか?」


「そうです、現在の理事の中にも十数年理事を続けている方がおられます。こういったことも原因の一つかと思いますが」


「土尻さん、それは藤本さんへの当てつけか! このマンションのことをよく知る人が理事を続けるほうが、何か問題が起きた際にも対処しやすいだろ!」


 おそらく多くの主流派住人はこの考えを持つから、藤本さんたち主流派理事を支持し続けているのだろう。


「そこまで言われるのでしたらあれですが、ここまでどなたが横領や裏金を受け取っていたのか明らかにされていませんが、藤本さんはその一人ですよ!」


 今後のマンション運営や居住者間の対立構造を危惧し寺間さんは名前を伏せてきたのですが、土尻さんがはっきりと名前を明かしてしまった。


「そのほかにもいますが、一部の組織的行動によって何度も理事に選ばれている方が大半です!」


 藤本さんは顔色一つ変えずに座っているが、山下理事長、川田副理事長、横江大規模修繕担当、溝口会計たち主流派の主力メンバーは顔が真っ青になり、下を向いてただ黙ることしかできなかった。


「証拠を当然示せるんだな!」


「その他の理事たちは誰一人受け取ってはいないのか!」


「土尻さん、あなたはいつも藤本さんへの対抗意識をむき出しにするが、今回の発言は看過できないものだぞ、その自覚は当然あるんだろうな!」


 先ほどまでは管理費の横領や工事業者から裏金を受け取っていた者は告訴するべきという声ばかりだったのに、藤本さんをはじめとする主流派の理事が受け取っていたという土尻さんの発言で急に風向きが変わってきた。自分たちが信じている藤本さんたちに飛び火しそうになると急にかばい始めたのです。


 土尻さんが何か発言しようとするのを寺間さんが制して反論への回答をはじめた。調査をして的確な証拠を得たうえで、現在工事を施行している二つの業者のほか途中で契約を切られたコンサルタント会社からは、理事の一部から圧力があったと明確に認めている。このマンションを担当していた田割氏からも発言が取れている。そして寺間さん自身が領収証の改ざんなどで協力するようにと一部の理事の方から言われ、その会話を録音したボイスレコーダーがあると言った。


 さすがに主流派をかばうような発言をしていた所有者たちも、寺間さんの発言で黙る事しかできなくなった。そりゃあそうだろう、明確に証拠があると言われれば反論のしようがなくなるのだから。




「あの、すみません、少しだけお話ししたいことが……」


 もっとも後ろの席に座る妻が手を上げて発言を始めた。


「寺間さん、これを見てもらってもいいですか?」


 妻は会場の前方まで歩いて行き、我が家に投函された苦情や管理組合からの通知などを手渡した。


「パッと見た感じではわからないと思いますが、このコピー用紙って頻繁に紙の質が変わっているんです」


 妻は寺間さんに管理組合などの通知と苦情との関係性を説明した。通知と苦情は時期が同じならば用紙の種類が同じだと言うことを。


「竹盛さん、と言うことはこれらの苦情は管理員や管理組合、または理事たちが送り付けたものではないかと言うことですか」


 寺間さんからの質問に妻は断定はできないが、ただ言いがかりの苦情は我が家が理事になる前、つまりは理事を辞退しろと言う意味で郵便受けに入れられていたのだと思う。理事になってからは重大な議決の前になると苦情が増加していた。多選を繰り返す理事本人ではなく、応援する人たちだと推測すると説明した。


 寺間さんは何度も通知と苦情を見返し、間違いなく同じ時期にはあまりにも酷似した用紙が使われていることを確認した。何せ我が家では通知にも苦情にも、我が家へ届いた日を小さく裏面に書き込んでいますから比べやすいですから。


 同じ人物をずっと理事の座に座らせておけば安心だという気持ちから、邪魔をする者は排除したいという表れだと思う。しかし同じ人物を長い期間理事の座に座らせ、管理会社の担当者もずっと同じ人だから癒着した。だから多選は禁止、理事の任期は一年、理事選出辞退届を出して理事長に理事選任を任せるのも禁止するべきと、妻は強く訴えた。


「でもその苦情の内容が事実だったら、お宅のご家庭で苦情が出ないようにすればいいだけだろ!」


「苦情の大半は言いがかりです、うちにはテレビなんてないのにテレビの音が大きすぎるとか、私も主人もタバコなんて吸わないのに外廊下でタバコを吸うなとか、吸い殻や灰を捨てるなとか。うちは自転車置き場を使っていないのに自転車以外の物を置くなとか。そんなのばっかりですけど」


「そんなことはないだろ! 排水管を流れる水がうるさいっていう苦情があっただろ!」


「どうしてそんなことをご存じなのですか? あなたが苦情を書いたのですか?」


「いや、それは、その……」


「竹盛さん、それは私が書いた苦情ですね、排水音がうるさいのは事実だから書いたんです。それだけじゃない、暴れるからドンドンという音が響いて迷惑だともお伝えしましたよね」


「角畑さんのお部屋の中には、うちから流れる排水が通っていましたっけ? 窓でも開けていたんですか? 暴れて響く音は角畑さんのお隣の子どもが暴れるからだと、インターホン越しでも説明しましたよね?」


 佳奈、そんなケンカ腰はダメだよ――。


「音が上に伝わるわけがないでしょ! 音や振動は上から下に決まっているんです!」


「このマンションって下から上とか横へ音や振動は伝わらないんですか、すごいマンションですね、日本中探してもここだけかもしれませんね」


 ダメだ、佳奈が完全にキレている――。


「とにかく、あなたが静かにすればいいんです!」


「そうですか、じゃあ、これらたくさんの苦情や通知、同じ時期の時は同じ用紙が使われている理由を教えてください。角畑さんからの苦情もいつもそうですよね」


「もらったんだよ!」


「管理員にですか? それともずっと理事を続けている人たちですか? ああ、そういう理事さんを支援しているグループからですか?」


「古くからの住人に用紙をもらったんだよ、何か文句があるの?」


 角畑さんの〝何か文句があるの〟と言う言葉でスイッチが入った妻は、普段は絶対に見せない、それこそ僕もこれまでに一度も見たことがない鬼のような形相を見せ、角畑さんに噛みつこうとしました。


「竹盛さん、押さえて、もうそれ以上は……」


 寺間さんに制止され妻の代わりに説明を始めます。コピー用紙は過去の管理員が小口で頻繁に購入しており、時期と用紙の種類は調べた。通知文書の類は照合を終わらせているので、竹盛さんへの苦情文書もすぐに照合できる。苦情の文書に用いられた用紙がもしも管理組合の備品や消耗品だとすれば、何らかの犯罪に問われる可能性はある。また手書き文書は見た感じ同じボールペンのようだ。ボールペンも不必要に大量に購入されているのでそのあたりは追って調べる、そんな説明がされました。


「結局は藤本さんをはじめとする、ずっと理事を続けている人たちが好き勝手にしているってことか!」


 たぶん僕と同じ反対派の人だと思うが、ここまでの様子を黙って見ていたがもう我慢ならない、そんな感じの発言だったようです。この発言をきっかけに堰を切ったように、


「藤本さん! 金は返すのか返さないのか、はっきりしろ!」


「横領や裏金に関わった理事はこの場で辞任しろ!」


「もう二度と理事になれないようにしろ!」


「そんな甘い事を言ってちゃダメだ! 直接金を受け取った奴は警察に突き出せ! コピー用紙だろうがボールペンだろうが、もらったやつも同罪だろ!」


 朝からずっと元気だった主流派や主流派を支持する人たちは鳴りを潜め、今度は反対派の人たちが一斉に声を上げ始めた。ただこの状態では住人同士の間に完全な亀裂が生じることになり、常にいがみ合いながら生活することになる。それはさすがにマズい。


「今いがみ合っても仕方がありませんし、これまでの予算案に賛成していた事実もある。そして前回の大規模修繕工事の際も警告はしました。それでもみなさん賛成し、黙って追加の費用も払った。この人だから大丈夫と思いすぎないこと、あまりにも人を疑いすぎないこと、大人なのですからそこはみなさんバランスをうまく取れるはずです。今は今後こういったことが起こらないように、最適な方法を考える時ですよ!」


 僕がどう言おうかと考えている時に、土尻さんのご主人が先に発言した。


 結果的に横領や裏金に関わった理事は退任し、空席のまま今期の理事会を続ける。そして任期を一年に短縮し、多選の禁止と理事の辞退を原則認めないことになった。管理規約の改定が必要なため近日中に草案を作り、来年二月の定期総会で賛否を問うことになりました。


 横領や裏金によってマンションの管理費や積立金に損害を与えたことは事実だが、現時点では告訴はしない方向となった。ただし返還の要求は必要なので、管理会社の顧問弁護士と相談の上対処することに決まりました。


 主流派の山下さん、川田さん、横江さん、溝口さんの四理事は総会の最後に揃って土下座し、泣きながら何があってもお金は返済しますと頭を床に擦り続けた。出席者からの怒号が飛び交っても良い場面だったけど、誰も何も発さず黙って見ていた。なんだか哀れというか、かわいそうという感情が込み上げてきたからです。


 しかし、前理事長でもう一人の首謀者とも言うべき藤本さんは椅子に座ったまま腕を組み、土下座する人たちを後ろから眺めていました。お金を返すのだから問題ないだろうとの考えなのか、隙を見てまたやってやると思っているのかはわからないが、とにかく反省の色はまったく見せなかった。

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