激闘のマンション臨時総会 - 2
妻と土尻さんの奥さんの二人は、中立派とされているお宅を一軒一軒順に回って、大規模修繕工事と駐車場の建て替えやバイク置き場の新設工事を同時にするメリットや、費用と設置後の収入の見通しなどを説明していった。
当然ですが車やバイクを持たないお宅からは、どちらも関係のない我が家がなぜ負担しなければいけないのかといった質問を浴びるわけですが、バイク置き場は管理費の予備会計で賄えることや、安定した収入によって比較的短期間で設置費用をすべて賄える。
駐車場についても同様で、自走式の場合は融資を受けることになるが一〇年以内に返済ができる駐車料金にするとか、周囲には賃貸駐車場が少ないために外部利用者を募ることで、かなりの収入を得ることが可能であると説明した。
多くのお宅からは、駐車場のサイズが狭いためやむなく外部で借りているが、敷地内の駐車場が利用可能であれば移るといった声のほか、通勤用のバイクを購入したいがバイク置き場がないために諦めていたので、ぜひとも早期にバイク置き場の設置を実現してほしいという声もあった。
妻と土尻さんの奥さんの活動に対する嫌がらせか、角畑さんからのクレームやその他の住人からの苦情も一日おきにあるし、僕の会社へのクレームも相当多くなってきた。それだけではなく……。
「ねえ、勝、これお父さんの会社に送られてきた手紙なんだけど……」
仕事が終わって帰宅すると、義父の会社あてに送られた手紙が我が家へ送られてきたようで、妻の両親が心配しているという手紙も添えられていた。
「お父さんの会社へ佳奈の悪口を書いた手紙が送り付けられたの?」
「うん、このくすんだ白色のコピー用紙って、最近の苦情の手紙や主流派が入れたビラと同じよね。牧落さんもだけど……」
〝竹盛佳奈(旧姓 榊下佳奈)によるマンション内での奇声や居宅内での暴れる様に、多くの居住者が迷惑しています。病気などで自分をコントロールできないのならばまずは病院でしっかり診てもらいたいし、もしも薬物などの影響があるのならばそれ相応の処置を講じてもらわないと大変迷惑です。
また竹盛家が所有するスクーターは現在は場所の不足で止めることができないだけで、他の居住者と差をつけるのはおかしいとか、早急にバイク置き場の設置を求める行動もさすがに常軌を逸しています。
竹盛佳奈の主人はまったく動く素振りがないようですので、親としての責任を果たすべく、受診して検査を受けさせるようにしてください。 同じマンションに住む一住人より〟
このような名誉棄損行為も顧みずに手紙を送り付け、何らかの利権を守ろうとする姿勢には辟易します。妻はこのマンションで今、何が起こっているのか、そして僕の勤務先にもクレームのメールが送り付けられることを話し、心配しないようにとは話しました。
妻は義父の会社の顧問弁護士を通じて、民事に強い弁護士を紹介すると言われたようです。
僕も我が家だけではなく、妻の両親まで不安に陥れるあまりにも酷い所業だから、僕も警察や弁護士の力を借りるほうがよいと思いましたが、
「そうだなあ、不安じゃないと言えばうそになるけど……、もうしばらく二人で主流派対策を練って頑張ってみようかな。もしも無理そうだと思ったら、その時はお父さんに助けてもらうよ」
「佳奈、それで大丈夫か? 無理するのは絶対ダメだから、もうだめだと思ったら僕に知らせる前にすぐにお父さんに相談して、弁護士の力を借りるんだよ」
「うん、わかった」
いつものようにアニメやドラマなどのセリフを使っておどける余裕もない妻。まさか自分の両親を巻き込むような事態に発展するなんて思ってもみなかったのだろう。
しかし、義父の会社に妻のクレームの文書を送り付ける理由は何だろう。その会社には前理事長で現在も理事を務める藤本さんが勤めていて、副部長という重責を担っている。さすがにあの藤本さんがそんなクレームを送り付けはしないだろう。
ただ使われた用紙が今このマンションの管理組合が使用している用紙と酷似しているから、同じ用紙を容易に入手できる藤本さん以外の理事会メンバーが送り付けたのだろうか。
その後も我が家には同じような苦情の手紙が入れられ、僕の会社へはクレームのメールが次々に届いているのですが、義父の会社あてには何も送られてはいませんでした。これだけ執拗に、それこそ粘着物質のように付きまとってくる中で、義父の会社には一通だけというのも変な話だ。
「佳奈、佳奈のお父さんの会社に悪口の手紙が送られたことは、誰にも話していないよね?」
「うん、誰にも言ってないよ。勝の会社にも相変わらずクレームのメールが寄せられることも話していないし、我が家あての苦情の手紙のことも今は何も話していないよ」
「うん、それでいいよ」
「でもね、牧落さんが時々聞いてくるのよ、何か変なことは起きていない? って。私のお父さんのことが理事に知れ渡ったから、うちだけじゃなくほかでも変わったことは起きていない? って。心配してくれているのかな」
「そうか……。心配してくれているんだな。でも何も話さなくていいから」
「うん、誰にも言わない、どうしてこんなマンション買っちゃったんだろ……」
臨時総会まであと一〇日に迫り、中立派のお宅にはほぼお伺いして説明をしたので、あとは臨時総会に出席しないのならば委任状または議決権行使書を出してくださいとお願いするだけなので、特に動くこともなく昼下がりの部屋でのんびりすごしていたある日のこと。
自分の時間を一気に壊さられるかのように、インターホンが鳴り響く。
もう! 邪魔しないでよ!――。
そう思いながらインターホンのモニターを見ると、なんと女スパイのジェーン・スミスこと清掃員の西杉さんが立っていた。
〝これ以上変な動きをするじゃない!〟
玄関ドアを開けたとたんにこんな言葉とともに拳銃を構えているかもしれない、そんな恐怖心を抱きながらゆっくりとドアを開けた妻。
「ごめんなさいね、少しだけお話ししてもいい?」
「はい」
どうしよう、いざとなったら大声を出して助けを求めなくちゃ――。
拳銃は構えていなかったので玄関内へ入ってもらった。
清掃員は妻に熱心に理事の活動をしていて感心すると言われたようで、とにかく理不尽な方向へと向かうのが嫌、不当に高い工事費を負担させられるのもおかしいと答えた。普通のサラリーマン家庭なのだから、切り詰められるところは切り詰めないと生活が苦しくなるとも付け加えた。
清掃員も前回の大規模修繕工事が相場より二、三割は高いことや、総会までに声を上げておかしな点を指摘することも大事だし、前回の大規模修繕工事のときの理事が半数以上残っていることも指摘した。
あれ? 女スパイのジェーン・スミスこと清掃員の西杉さんは主流派の一員で、情報を探しては報告する役目を担っているのではないの?――。
妻は清掃員が自分の考えに賛同するので頭の中が混乱した。
「そうそう、理事ではないけど、前の理事長に近い立場の人の中にも、竹盛さんの案に賛成している人が少なくないわよ。だからそういうお宅にもうかがって話をされたらいいと思うわよ」
「そうなんですか? そんな方がいらっしゃるのですか?」
「ええ、名前は出しませんけど、一二〇二号室とか……」
「ありがとうございます、参考にさせていただきます!」
清掃員は女スパイのジェーン・スミスじゃなかったの? 私を騙して主流派に近付いたところで、竹盛はこんな不正をしている! って私を悪者にする気?――。
妻は清掃員が帰ってから僕が帰宅するまでの間にいろいろと考えて怖くなってしまい、土尻さんの奥さんや牧落さんには何も言わないようにと僕が念を押したことから尋ねることもできず、悶々としながら動くこともできずにソファに座り続けた。
「佳奈、ただいま、どうしたの暗い顔して?」
「あのね、今日のお昼過ぎに女スパイのジェーン・スミスに暗殺されそうになったの……」
かなり驚き焦りながら妻から何があったのかを詳しく聞きました。暗殺ではなかったので胸を撫で下ろしましたが、僕もあの清掃員は主流派と繋がっていて、聞き耳を立てたり、ごみ置き場に捨てられたごみの袋を開けては情報を得て、そのすべてを逐一主流派に流す人という印象しかありません。
「でしょ? 女スパイのジェーン・スミスの言うとおりに主流派のお宅に行ったら、反対派はこんな不正をして高い工事費を容認させようとしている! なんて悪者にされそうで怖いんだよね」
「本当にそうだよな、個人情報をあっさりと横流しする人を簡単には信用はできないよ。土尻さんの奥さんは何か知っているのかな? この件だけメッセージで聞いてみるのはどう?」
僕の意見に素直に従って妻は土尻さんの奥さんにメッセージを送るとすぐに返信があり、そこからはチャットのようにメッセージでやり取りをした。
清掃員の西杉さんは主流派と繋がっているわけではなく、ただ居住者の個人情報を知りたいだけ。入手した情報をいろんな人に話して回るが趣味のような人。だから教えてもらった部屋番号のお宅へ近付いても大丈夫。
ただ妻は以前に主流派に付いていれば快適に生活できると脅すように言われたことが引っかかっていたが、あの清掃員は敵とか味方を作らずに思っていることを素直に言うだけ。現実問題として主流派に付いていれば苦情も言われず、快適に過ごせるのも事実だと。
これまでの七一一号室の住人は下の角畑さん個人からの攻撃に晒されるので、主流派に付いても快適には過ごせないし、ほとんどの人は根負けしている現実もある。
土尻さんの奥さんによると角畑さんは理事にならないだけで主流派の中心メンバー。主流派からの要求を受け入れれば過度な角畑さんからの苦情はなくなる。ただし角畑さんは自分の真上に人がいることが気に入らないらしく、完全には苦情は治まらないので根負けしていしまうという。
とにかく清掃員の西杉さんにはナイショと言う言葉がなく、誰の情報であってもマンション中に広められてしまう。そういった意味では清掃員に気を付けろとも言えるし、逆に上手く頼めばいろいろな情報を教えてくれる。こちらが尋ねても清掃員自身が知らないことの場合は、必ず調査して教えてくれるという。
妻のスマホでのやり取りを横で見ていた僕は、清掃員って結局は中立なんだなと言うと、
「意外よね、引越してくる前から聞き耳を立てられたり、主流派に付くほうが快適に生活できるなんて脅されたから、絶対に主流派の人だと思っていたのに」
妻は心なしか安堵の表情を見せていた。しかし、ごみ袋を漁って個人情報を探し出して管理員や主流派にその情報がすべて漏れ出ていたのも事実。僕にすれば気持ち悪いし不愉快な気持ちは変わらない。
とにかく、人のことが気になり、知り得た情報は人に話したい、そんな迷惑な趣味は勘弁してほしいという気持ちは些かも変わらない。
「ということは清掃員の西杉さんはスパイじゃなかったんだ、〝まいうー〟のほうが近い女スパイのジェーン・スミスじゃなかったなんて……。ということは探偵みたいな感じかな」
「それも人に雇われて動く探偵じゃなく、迷惑な趣味の一環で動く探偵って感じ?」
「これからは女スパイのジェーン・スミスではなく、ミス・ジェーン・マープルって呼ばなきゃいけないのかな」
「ミス・ジェーン・マープルって誰?」
「アガサ・クリスティの小説に出てくる、ちょっと年を取った女性探偵なの」
「女スパイから有名な探偵に変わったのか」
「探偵さんだし趣味で動いてくれるのならば、こちらからお願いして動いてもらおうかな」
「意外と大規模修繕実施の鍵を握る重要人物になりそうだな」
「ミス・ジェーン・マープルの活躍でマンションブリーザ幕路は救われたのであった! みたいなストーリーで終わってほしいけどなあ」
「昨日はありがとうございました、あの、一つお願いしてもいいですか?」
妻は翌朝、汗をかきながらごみ置き場でごみのチェックをしていた清掃員に話し掛けた。
「竹盛さん、おはようございます、何でしょうか?」
「ええ、実は……」
妻は主流派が今後どのように動き、どのように仕掛けてくるのかを知っていれば教えてほしいとたずねた。
「ここではあれだから、一〇時を回ったころにお伺いしますので、その時に」
「はい、お願いします」
清掃員は一〇時三〇分を回った頃にやってきた。部屋に上がっていただきお茶しながら話をしました。
「理事に近い人たちのことね。私が見聞きした範囲だと……」
総会で三つの工事を同時に行うことが否決されることを想定していて、総会の招集案内にも書かれているとおり、大規模修繕工事の実施の賛否だけを問うことができる。これならば管理規約を改定しているおかげで普通議決となり、二分の一以上の賛成で工事に入れる。
そして駐車場やバイク置き場の工事は大規模修繕工事が行われ始めてから話し合いを始め、来春修繕工事が終わってから着工できれば良いと考えている。
予想どおりの回答で〝やっぱりな〟としか妻は思わなったのですが、清掃員は意外なことを口にし始める。
「これは私の勘だけど、ひょっとすると本当の黒幕がいて、その人がストーリーを描いているような気がするの」
大規模修繕工事のコンサルタント業務を担当する敷上設計とどういういきさつがあり、そして契約に至ったのかを藤本さんたち主流派理事も知らないという。前回の大規模修繕工事のコンサル業務は素山建設設計だったけど、あれは匿名の投書があり理事会側から接触を図って決まったものだけど、敷上設計に関してはほぼ筋書きができていたかのように契約に至ったと主流派は話しているらしい。
このマンションで主流派が関与せずに物事が決まったことは一度もないが、ある日突然話の流れが変わって決定することも多いという。駐車場の建て替えについてはここ数年話し合われてはいたけど、いつも先送りばかりしていた。
ところが先日急に自走式の駐車場の話が出てくると、藤本さんが賛成に回って話が急に進みだす。だから主流派というより藤本さんの後ろに黒幕がいて、その黒幕が筋書きを描いて藤本さんが賛成して話が進む、こんな図式が成り立つような気がすると言うのだ。
「黒幕……、それって誰なんですか?」
「さすがにわからないし、あくまで私の勘と言うか想像の話だからね」
でも清掃員が言うように、藤本さんたち主流派の後ろに黒幕がいて、その黒幕がすべて指示しているとしたら話の説明がつくかもしれない、妻はそう思った。
まさか、下のおばあちゃん(角畑さん)が黒幕?――。
なんてことまで考えたのですが。
「そうそう、竹盛さんや土尻さんが戸別訪問している場面を隠し撮りしているわよ」
「隠し撮り? 投票前に反対派が不正な動きをしていた! って騒ぐとかですか?」
「いいえ、よそのお宅に訪れることは何にも悪いことじゃないわよ」
「そうですよね、だったら何が目的なんだろう?」
「マンション内で不倫しているって騒ぐつもりらいしいわよ」
「えーっ!」
清掃員はその隠し撮りされた写真も見たらしく、妻や土尻さんの奥さんが一人でよそのお宅へ入っていくように撮られている。なんでも藤本さんと仲の良いプロのカメラマンが三階に住んでいて、巧妙に撮影されているという。
もしも不倫だとでっち上げられたりすれば住人間のトラブルに強い弁護士を紹介するし、七、八年前この部屋に住んでいた住人が角畑さんからの謂れなき苦情に耐えかねているのを見て、その弁護士を紹介したこともあると清掃員は言う。
「それはそうと以前私におとなしくして、理事や古くからの住人の言うとおりにしていれば快適に生活できるって言われていましたけど、あれはどういう意味なのですか?」
「あはは、今の竹盛さんとは正反対の行動だったら、昔からの住人による嫌な思いをしなくても済むでしょ? それだけのことよ」
「私はてっきり西杉さんは管理員や理事とか古くからの住人側の人だと思ってました」
「私は人のうわさ話が好きで知りたいから動いているだけよ。だいたい私はここに住んでいるわけじゃなくお掃除しているだけ。どちらかの味方とか敵でもなんでもない。お金持ちの方のいろいろな面を知れるのが楽しいだけだから。じゃあ仕事に戻るわね」
「ありがとうございました」
「竹盛さん、頑張ってね。でも近付いてくる人ほど注意しなきゃいけないわよ。それと裕子と敦夫さんにもよろしくお伝えください」
「え?」
お昼前の三〇分ほどの間清掃員と話をした妻。情報がいろいろとありすぎて頭の中が渋滞を起こし、上手く整理できないために混乱状態が続いたようです。
仕事から帰宅すると、妻が今日一日にあったことや聞いたことをつぶさに話し始めたが、三つの工事の同時施行が否決された場合のことはほぼ予想どおり。とにかく大規模修繕工事に入れればそれで良く、駐車場やバイク置きはその後じっくりと業者に手を回せればそれで良し! という感じでしょうから。
「それはそうと、主流派の後ろに黒幕がいるかもって、いったい誰なんだろうな」
「私はね、下のおばあちゃんだと思うの」
「角畑さん?」
「うん。だって、主流派の動きを助けるような苦情を入れてくるし、それとは関係なく自分が気に入らなくても入れるでしょ。なんだかね、下のおばあちゃんが指令しているような気がするんだ」
「清掃員も黒幕の真実が掴めていないとすれば、居住者以外が黒幕だからじゃないかな?」
「探偵ミス・ジェーン・マープルこと〝まいうー〟な清掃員でもわからないのだから、居住者以外かもか……」
しかし写真を隠し撮りされて不倫をでっち上げようとするなんてことは、さすがに名誉棄損で十分訴えられるから、そこは即弁護士に相談することで妻と意見が合致。これまでのようにもう少し様子を見てとか、今挑んでいる難題が終わるまでなんて悠長なことは考えないほうがいい。何も行動を起こさないから、相手もどんどんエスカレートしてくるのだから。
「近付いてくる人ほど注意しろって、これは特定の誰かを指して言ってるのかな?」
「僕が佳奈の旧姓は榊下だって理事会で言ってマンション中に広がっているからだろうな……」
「変な詐欺師とかが近付いてくるからとか?」
「詐欺師とか、榊下の名前を使って人儲けを企もうとする人とか……、ごめんね、僕が話したばかりに」
「もういいよ、本当のことだしね。あとは私自身が気を付ければいいってことだよね」
妻が清掃員から聞いた話の中で、本当に驚いたのが裕子と敦夫と言う名前を出したこと。これは妻の両親の名前で、なぜ清掃員が知っているのかが不思議だった。
「榊下グループだと言うことまではバレているから、調べたらすぐに出てくるからな」
「そっかあ、お母さんの名前もどこかに載っているかもしれないもんねえ」
妻はそう答えたのですが、だとしても、どうしてお母さんの名前をまるで友達が呼び掛けるように呼び捨てで〝裕子〟と呼んだのか。この時の妻はそこまで疑問に思わず、調べたから分かったのだと思い込んでいたようです。
「マンションのことはすべて佳奈に丸投げで本当にごめんね」
「いいよ、勝は働いてローンをせっせと返してもらわなきゃ♪ 私もいじいじせず〝慎重になりすぎることが最大のリスク〟だと肝に銘じて頑張らなきゃ!」
「あれ? 名言とかセリフはないの?」
「言ったよ、〝慎重になりすぎることが最大のリスク〟って」
「それは誰の言葉?」
「ドナルド・トランプの言葉だよ」
「そんな言葉どうやって調べてるの……」
今日の戸別訪問は夕方から土尻さん夫妻で行い、主流派ではあるけど今回の大規模修繕工事では反対票を投じそうなお宅の一部を回ったそうだ。口々に前回の大規模修繕工事での工事費の高さと、一部の人が裏金を受けていたのではないかという疑念があるからと話したそうで、感触も良さそうで手ごたえはあったらしい。
しかし逆に中立派の中にも、修繕工事と駐車場の建て替えを同時に行うことに反対するお宅も少なくはない、そんな感触も得たそうです。決戦まで一〇日を切った。




