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マンション大戦争~35年ローンで買ったのに  作者: 光島吹


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13/22

修羅場な理事会 - 3

 主流派理事たちは理事会が行われた日の夕方には、毎回慰労会として飲みに出掛けるのが通例のようで、第二回目の理事会が終わった今日の夕方も集まっていました。


「土尻め、駐車場やバイク置き場の話をまた掘り返しやがって。おかげで今度の総会で同時施工の賛否を問うことになったが、さすがにマズいんじゃないか?」


「藤本さん、三つの工事の費用を同時に示すわけですから、合計金額を見て高すぎると言ってみんな反対しますよ。それに金額ばかりが注目を浴びると、前回の工事費用の高さをまた問題視する人が出てきそうで」


「藤本さん、否定されたらすぐに、では大規模修繕工事を単独で行うのはどうですかと問えば、間違いなく可決されますよ。何せ前回より工事費用は安いですから」


「それに立体駐車場の建て替えやバイク置き場の新設工事は予算案もなく概算だけです。今度の総会で問うのは同時施工に賛成か反対かだけ。反対されて大規模修繕工事だけを行う賛否は、施工会社と予算案を承認してもらえるかどうか。規約改正のおかげでハードルが下がるから楽なんじゃないですか」


「なるほどなあ、そのほうが都合がいいな。とにかく大規模修繕工事は予定どおりに進められるように次の総会で可決させなきゃいかん。大規模修繕工事自体を認められなかったら〝あの方〟は怒るだけでは済まないぞ」


「でも藤本さん、どうして〝あの方〟は素山ではなく敷上をコンサルにするように言ってきたんですかね?」


「そうなんだよなあ、前回の工事より俺らの取り分がかなり下がるだろ? 〝あの方〟のことだから、何か手を打っているとは思うが……」


 主流派理事たちにとって大規模修繕工事を実施できるかどうかは死活問題、やはり工事に入ればかなりの〝裏金〟を手にすることができるのかもしれない。しかし藤本さんまでもが口にする〝あの方〟とはいったい誰なのか。僕たちが知るのはまだかなり先のことでした。




 対するこちら反対派は三日後の水曜日の夜、土尻さんご夫妻が我が家に来ていた。臨時総会まで二カ月というタイミングで、降って湧いたように立体駐車場の建て替え工事とバイク置き場新設工事の話が出てきたため、その対策を話し合うのです。


「竹盛さん、初めまして、土尻(あきら)と申します。妻から話を聞いて、一度お話したいと思っておりました」


「竹盛勝と申します、いつも妻がお世話になっております。何もわかりませんので、いろいろ教えていただきたいと思っております」


 挨拶を交わしながら、儀式である名刺交換をしました。


「あの、初歩的な質問ですけど、コンサルタント会社って必要なんですか」


 僕は本当にわからないので土尻さんのご主人に聞いてみた。すると前回の大規模修繕工事の問題点から、立体駐車場やバイク置き場を同時に施工することに、なぜ主流派理事は難色を示すのかまでを説明してくれた。


 コンサルタント会社の最初の仕事はマンションの状態を調べて、どのような修繕工事が必要なのかを調べて工事の設計や仕様、見積りを出すこと。そして管理組合側に立ち、また管理組合の代理として、施工業者の選定や工事の状態などを監理する役目を持つ。


 前回の大規模修繕工事ではコンサル会社が主流派理事と裏で手を組み、高額な見積りの作成や施工会社に安価な素材を使うことなどを指示して、その差額を裏金としてコンサル会社と主流派理事がキックバックを得ていた疑いがある。


 このため今回の大規模修繕工事では同じコンサルタント会社ではダメだと土尻さんが強く主張し、修繕委員会もその線に沿って別会社を指名したため主流派理事が折れた形となっている。


 前回の修繕工事では見積りが出された段階で念のため、土尻さんのご主人の兄が勤める大手ゼネコンにまったく同じ条件で見積りを出すように依頼し、四社から回答を得た結果はどこの会社も二、三割は安かった。このために理事会で別会社で見積りを取り直すように要求したが、逆に土尻さんがマージン欲しさに別会社への変更を要求していると主流派理事に非難され、そのまま修繕工事が行われた。


「前回契約していたコンサル会社って、何かきっかけがあって契約に至ったのですか?」


「それがですね、主流派の人たちもわからないって言うんですよ。管理組合のポストに匿名で、素山建設設計はコンサル会社としての評判がいいって言う投書があって、それでアポを取って契約したらしいのです」


「あの、ところで、大規模修繕工事ってどのくらいの費用がかかるものなのですか?」


 一般的に大規模修繕工事の費用は一戸当たり七五万円から一二〇万円と言われていて、マンションブリーザ幕路では一億円から一億五千万円になります。ただ前回の大規模修繕工事では見積りで約二億円が提示され、積立金不足が露呈し各戸に平均五〇万円の上乗せ負担が必要になった。


「でも今回はコンサルタント会社が変更されたので、そう言ったことはなさそうなんですよね?」


「今回の敷上建設の見積りだと一億五千万円と、前回よりは安いしほぼ相場どおりですしね」


「じゃあ、その点は安心ですね」


「だと思うのですが、あの藤本さんたちが何も仕掛けてこないとも思えず……」


 主流派理事たち、特に前理事長で今期も理事として残っている藤本さんへの警戒感をあらわにする土尻さんのご主人。このマンションを実質的に動かしているのは管理組合でも理事会でもなく藤本さんのようです。


「施工会社は次の臨時総会で賛成が二分の一以上あれば決定なんですね」


「以前は四分の三以上の賛成が必要だったのですが、法改正を利用して管理規約を変えたんですよ」


 以前の法律で二分の一以上の賛成の普通決議でも良いとされたものは、〝改良を目的とし、かつ、著しく多額の費用を要しないものを除く〟となっていて、大規模修繕工事のように多額の費用がかかるものは四分の三以上の賛成が必要な特別決議が必要となっていた。


 ところがこの法律により大規模修繕工事が進まないケースが多くあったことから法改正し〝形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な修繕〟と金額による縛りがなくなり、この法律に則って主流派理事主導で管理規約も変更された。


「金額の縛りがなくなったのですか」


「そういうことです。形状などを変えない修繕目的ならば金額の多少に関係がない、こういうように読み取れる法律になり、主流派の人たちはそれに則って規約を変えたのです」


 大規模修繕工事とは言うものの、軽微な修繕を全館一斉に行うだけだから普通議決でも問題がないと主流派理事が主張し、規約の改正が実施されたらしい。


「どの程度の工事になると特別決議が必要になるのですか?」


「例えば建物の一部を崩してエレベーターを大型化したり増設したり、大掛かりなバリアフリー化工事とか、あとは駐輪場や駐車場を敷地内に増設する工事なども四分の三以上の賛成が必要ですね」


「主流派の人たちが、大規模修繕工事と立体駐車場やバイク置き場の工事を並行して行うことを嫌う理由は何ですか?」


 詳しくはわからないが考えられることとして、今回三つの工事費を足しても前回の修繕工事の費用より多少高いだけとなれば、前回の修繕工事費用の高さが際立ち追及される可能性を否定できない。だから同時施工をとにかく拒否していたのではないか。


 駐車場の建て替えやバイク置き場の新設工事に関しては当然ながらまだ裏で手を回せていない。あまりに早いペースで工事が決まると主流派が困る。


 大規模修繕工事の実施まで否認されると、目論んできた裏金が入ってこず困る。なので駐車場やバイク置き場の工事とは別で、大規模修繕工事の積立金支出や施工会社の認可までをとにかく認めてもらいたい、この辺りのことが考えられると土尻さんのご主人は話した。


 バイク置き場新設工事は期間も短く生活に影響はないが、大規模修繕工事と立体駐車場建て替え工事を同時に行うと、マンション敷地内のすべてで工事となるので生活に影響が出ることは避けられない。しかし、トータルで見た場合の工事期間短縮と、バイクや自動車をマンション敷地内に止めることができない多くの住人にとっては待ち望んでいる工事でもある。藤本さんをはじめとする主流派の人たちが本当に裏金を得ているのかは証拠もなくわからないが、とにかく主流派の都合だけで区分所有者が損を被らないことだけを願う僕です。




「ねえ、勝、購入したばかりのマンションでこんなことが起きているとは思わなかったよね」


「そりゃあ思わなかったよ。業者からキックバックを受けているとすれば、今後どのようになるんだろうな」


 土尻さんご夫妻が帰宅した後、僕と妻は真剣に話し合っていた。


「もしも本当にキックバックを受けていたとしたら、それって結局は積立金や管理費を盗んだのと同じだよね。マンションに住んでいながら、そのマンションのお金を盗るってどういうつもりなのかな」


「キックバックを受けて儲かっているつもりでも、結局は管理費や積立金がどんどん上がっていくから、差し引きすると大した金額にならない気もするけどな」


「でもキックバックとは何の関係もない住人は丸々損しちゃうんだよ。キックバックを受けている人たちにプレゼントしてるのと同じだもん」


 実際に必要な工事費よりも多くの工事費がかかったと吊り上げることで、積立金からの支出を増加させ、業者と主流派の一部の人がその差額を受け取る。キックバックとかではなく横領だろう。積立金は毎月管理費とともに各区分所有者が支払い積み立てられているが、横領されれば積立金が減って次の工事の際には工事費が足りなくなり、今度は追加で区分所有者が負担する。一部の主流派の人たちのお財布にお金がどんどん流れていく……。


「本当にそうだよな、そう思うときちんと考えて議決権を行使したり、それこそ積極的に理事会や総会に参加して、意見を言ったりおかしなことにはどんどん異議を申し立てないと、結局は自分たちの首を締めることになるもんなあ」


「でもさあ、その業者やお金を受け取った人たちを懲らしめることってできないのかな。何だかものすごく歯がゆいんだけど」


 現実の問題として私刑は許されないので法の裁きを受けてもらうことになるのですが、そのためには証拠が必要。証拠がなければ警察も検察も動きませんから。弁護士にお願いして工事の施工会社やコンサル会社、マンションブリーザ幕路の帳簿類を調べてもらって、不正な取引や裏金が動いた証拠を見つけなければどうすることもできません。


「何だか腹立たしいなあ、〝ご存じ! 愛と正義の美少女戦士佳奈! 月に代わっておしおきよ!〟って、本当に暴れまくってお仕置きしたいよ」


「佳奈、さすがに美少女は無理があるよ……」


「うーん、たしかに今年三五歳になるのに〝美少女〟は無理があるか……。でも中年とか熟女なんて年でもないしなあ。ねえ、勝、何かいい言い方ない?」


「そういえば、男だと少年の後は青年とか壮年という言い方があって、四〇歳くらいからが中年かな。でも女性の場合は少女から中年までの間の呼び名がないなあ」


「熟女も四〇歳とか五〇歳くらいの人よね。じゃあ今の私は何? 年を取った少女、それともまだ若い中年?」


「うーん、そうだなあ、お姉さんでいいんじゃない?」


「お姉さんって大学を出たくらいから三〇半ばまでの女性じゃない?」


「そうか、改めて考えると難しいなあ」


「よし、これで行こう、〝ご存じ! 愛と正義のお色気微熟女(びじゅくじょ)戦士、佳奈! 月に代わっておしおきよ!〟どう? 微中年でもいいけど」


「美熟女じゃなくて微熟女ねえ、でも佳奈にお色気って言うのは……」


「おかしいなあ、そんなに色っぽくないのか……、だから勝はいつも私を放置したまま先に寝ちゃうんだ!」


「それはまた別の理由だよ、仕事で疲れているしさあ……」


「今晩から愛と正義のお色気微熟女戦士佳奈になって、勝をおしおきするからね!」


「お手柔らかにお願いします……」

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