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第9話 かつての関係を垣間見る。

 会話の後、すぐに俺たちは捕虜となった少女のところへと向かった。

 医療棟を出ると、雪が降っておりヘンリクが肩に提げていた上着をくれた。お礼を言うと、グレースが用意してくれたものらしい、復生体のコートより明らかに上等な生地で、すべすべとふかふかのちょうど中間のような触り心地だった。羽織ると無論暖かかった。

 基地の照明は落ちていたが、月と、積もった雪の乱反射のお陰で十分周りは明るい。


 まいったな。


 こんなことを思うのは、ヘンリクのせいだ。小声でお礼行っとけよ、なんて言ってくるから。

 先程の会話の件が俺の中で尾を引いている。

 俺は鈍くはない、と、自分では思っている。


 しかし、それを上手く消化して行動に移すだけの器用さがあるかと言われると、まぁ残念な感じだ。

 バレないように、グレースを見た。初めて成長したグレースを見たとき綺麗だと思った。

 そして今も。


 その横顔も整っていて、寒さから頬が朱色に染まっている。唇が薄くピンク色なのは、口紅を塗っているからだろうか。


 その小さな唇から白い吐息が漏れ、夜へと消えていく。

 俺はそれを眺めて、視線を前へと戻した。後ろめたさがあったからそうした。

 こんなこと思うなんて、本当に自意識過剰だよ。それに何歳差だ。まったく、自分が嫌になる。


 落ち着くために、先を歩くヘンリクの後頭部でも見よう。

 雪のように白い頭を見ていると落ちつくな、白は良い。心を落ち着かせてくれる。

 あ、あれは寝癖かな。つむじの近くの髪の毛が変なはね方をしている。

 俺は視線を外し、ちいさなため息を吐いた。

 男の後頭部なんて見ても、なんの面白みもないな。


「どうかした?」


 グレースに声をかけられた。

 見ていたことに気づかれたのだろうか、しまったな。

 横顔を覗き見てから少し時間が空いたから、居心地を悪くさせてしまったのかもしれない。

 申し訳ない。


「いや、なんにもないよ?」


 俺はそう思いつつも、言葉を濁してしまった。


「ため息」


 そっちか。ほっとしたせいで、またため息が出そうになるのをこらえる。


「いやほら、ため息っていうか、含み笑いだよ」

「どうして?」


 グレースの瞳があたりをキョロキョロと見渡す。

 それがなんだかおかしくて、俺の口から白い吐息がかすかに漏れた。

 俺は前方を控えめに指した。


「ヘンリクの頭、なんかはねてない?」

「ほんとだ」


 見つけた、というようにグレースの瞳が軽く見開かれた。そして、微笑む顔が俺を見る。


「聞こえてるぞ」


 そう言って、ヘンリクが、前を向いたまま大げさに手で自らの後頭部をわしわしとかく。

 心なしか、彼の声は弾んでいるような気がした。



8/8 0時頃から連続投稿します!とりあえずきりの良いところまで!


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