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第6話 感電死の謎を追え

 車に乗って件の場所へと向かう。

 その場所は針葉樹に雪が降った森の中だった。


「ここで復生体が殺されたのか……」

「そうだ。復生体が一人、ここで寝てるみてぇに死んでたらしい。死因となるような外傷がなかったから、最初は凍死だと思われてたが、検死の結果は感電死だ。復生体の検死に遺族の許可なんていらねぇわけだからな、ほぼ間違いない。が——」


「外傷がなさすぎることがおかしい」

「そうだ」俺の回答にヘンリクは唇を曲げた。

「検死の結果、感電死とわかったことまでは良いが、無駄が多い。人間なんて銃で撃てば死ぬからな。まさか普通の人間を殺すために新兵器を作るなんておかしな話もねぇだろ?」

「そしてもう一つ気がかりな事がある」


「なんだ?」ヘンリクが声を落としたので、反射的に俺も声が落とす。


「結果的には感電死だが、どうも出力が弱いらしい。復生体を殺せるか怪しいくらいの電力だそうだ。上の方はジェロンが試験的に導入した新兵器だと結論づけた。それで、即刻調査に乗り出したってわけだ。他にも、こんな寒冷地じゃあ、バッテリーとの相性が悪いってのもきな臭いポイントだな」

「なるほどね。で、なんでヘンリクもいるんだ?」

「で、じゃあねぇよ。殺されたのはお前と同じ復生体だ。死んだ人間と同じ人間に調査を全て任せるわけなぇだろ? 言いたいことはわかるけどな……」


 俺は静かに頷いた。

 復生体が殺されたという事実は重い。

 俺たちには、すぐに戦場に投入しても問題ないほどの経験がある。千年間生きてきた事による経験が、戦場という仕事場での過酷な任務を支えている。


 技術もそうだ。いくつかは時代遅れになったものも多いが、それが全てではない。役に立つスキルは多い。

 そして、大きな強みは死を比較的恐れないことだ。


 記憶を引き継ぐことになれてしまって、個が死ぬことへの感覚が大きく麻痺している。


 しかし、ヘンリクなどの普通の人生を生きている人間にはそれがない。


 俺はたとえ死んでも、失うのは記憶だけ。ヘンリクはすべてを失いその先も無くなってしまう。だから危険な場所にはできるだけ来てほしくはない。ここまで考えて、今更かと、一人で納得する。

 こいつは志願して兵士になっている。それをどうこう説得できる術を、俺は生憎持ち合わせてはいなかった。

 意志を固めた者を説き伏せることなど不可能に等しいことを、俺は自分自身の経験から理解していた。聞く耳を持たなかった側のときのことも含めて。

 雪が降ってきた、と最初にヘンリクがぼやいた。

 薄いコートは寒気を通す。二人して辟易しながらフードを被った。


「調査に来たのはいいのの、痕跡がない」


 当たり前だ。雪が降った森の中だ。足跡などは風や新たな雪ですぐに消える。空が曇って薄暗くもあるのだから、痕跡など見つかりようもない。


「帰るか?」

「ばか。めんどくさがんじゃねぇ」

「仕事するふりしてここでコーヒーでも飲もうぜ? 一揃い持って来てるんだろ?」


 ヘンリクが背負ったリュックに軽く指を向ける。


「まぁな。兵士にも休憩は必要だろ?」

「やっぱり」鏡を見れば、小悪党みたいな笑みを浮かべているだろう。

「よし。ティータイムとでも洒落込むか!」


「そうだな!」こいつ。ちょっと小突いただけで調子乗るなぁ。一応、ここは復生体が殺された場所だ。ついでに言うと、ここに来てまだ一時間も経ってない。


 ま、いいか。熱いコーヒーが飲みたい。このまま調子に乗ってもらおう。


「そうと決まれば薪だ薪。クソさみぃし焚き火で暖を取りながら湯を沸かすぞ」


「はいはーい」適当な返事を残して二手に分かれて森へと入る。まったく、任務中に焚き火なんて、あいつは誰に仕事を教わったのやら。まぁ言い出したのは俺だけど。


 枯れ木などそこら中にある。地面に落ちているものは雪で濡れて燃えにくいから拾わないとして、火口には倒れかかっている倒木などが狙い目だ。辺りをつけてナイフで削ぐように採取する。それを片手で抱えられるだけ持って元の場所に戻ろうと、地面にある自分の足跡を目でなぞった瞬間、俺は動きを止めた。


 それは地面にあった。見逃さなかったのはたまたまだろう。降っている雪のせいで、それは今にも消えそうなほど薄かった。

 戦場に不釣り合い。そうであるはずのもの。

 それは子供の足跡だった。

 とりあえず、ティータイムは中止だ。

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