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第39話 夢の続き

 ルーンディアの王都に最初に来た日から、早いもので半年が過ぎていた。

 噴水のある広場、誰かを待っているのか。各々の男女が、自分の腕時計にちらちらと目をやっている。

 俺もその一人。

 時間には正確な方だ。

 けれど、一時間前はなぁ。

 浮かれているのか? 浮かれているなぁ。完全に。

 これはまいった。


 正直に白状しなくてはいけない。

 すごく楽しみだ。

 二人で何をしよう。いや、プランは決めてあるんだったな。

 でも、気になったところに二人で飛び込むのも楽しそう。


「ねぇ。早すぎじゃない?」


 どんな服装で来るんだろう。最近、今の時代のおしゃれがわかってきたから、とても楽しみだ。王族だから、やっぱり清楚な服装で来るのだろうか。ワンピースとか? 似合うね。うん、間違いなく。綺麗なチャコールグレーの髪も合わさって、まるでお姫様だ。

 お姫様か。


「ねぇ! 聞いてる?」

「ん? どうしたの? 可愛いお嬢さん」

「ふざけてないで、声かけたんだから、返事くらいしてよ」


 口元を尖らせた美少女がそこにはいた。

 少し大きめのキャップを被って、オーバーサイズの水色のパーカーを着ていて、ショートパンツだ。足元には高そうな桃色のスニーカー。剥き出しになっている脚がすごくいいね。健康そうだ。

 やられた。

 そう来たか。


「何でにやけてるの?」

「いや、カジュアルで攻めてくるとは、俺の負けだ」

「仕方ないじゃない。フォーマルなものはどれも街で歩くには浮いちゃうし」

「たしかに」


 王族が来るフォーマルな衣装なんて、値段が凄そうだし、上品過ぎて街だと目立つだろう。それに一瞬でグレースだとばれてしまう。

 レンズに薄くブラウンが入ったサングラスも変装の為だろう。


「似合ってない? 可愛くない?」


 グレースが不安そうにキャップに手をやって目を逸らした。

 ふ。口の端から思わず息が漏れた。


「可愛いよ。似合ってる」

「うん。よかった」


 幼さを感じる笑顔が眩しい。


「ちょっと早いけど行こうか。遠回りすればいい時間になるよ」


 そう言って俺は自然にグレースの手を取った。細い指先に自らの指を絡める。


「やるじゃん」


 満足そうな声が斜め後ろから聞こえた。

 俺たちは歩き出した。


「記憶、戻って本当によかった」

「グレースのこれのおかげ」


 俺は胸もとにしまっていた赤いドッグタグの束を取り出した。


「うん」


 グレースの瞳が少しだけ潤んだ気がした。


 結論から言うと、ジェロン連邦との戦争は終わった。

 あの戦いのあと、ジェロンの最高顧問がルーンディアに停戦を申し込み、それをルーンディが受諾したという訳だ。ルーンディア王国側からすれば、元より旨みのない戦争だ。是が非でもない停戦の要請だった。


 停戦した後は交渉が始まる。

 ジェロンの最高顧問が停戦後、交渉のテーブルに呼んだのは、王族の一部と、あの復生体を倒した人間。つまり俺だった。

 それと聞いて驚かないでくれ。なんと連邦の最高顧問は復生体だったのだ。

 といっても老衰寸前のジジイだけど。


 今まで二回行われた会談の議題は、同盟関係の締結へ向けての話し合いだ。

 もともと、ジェロンが戦争を始めてきたのは、ウィリアムの〈遺体〉を奪うためだったのだとその時に知った。まだ狙っているのかと聞くと、最高顧問は静かに首を振った。

 曰く、もうその必要はない、とのことだ。

 たったそれだけで、俺はそいつが何を思ったのか、わかった気がした。

 それをあえて口にすることはしなかったけれど。


 科学力に秀でたジェロン連邦と、〈巨神の石(メナカナイト)〉を持つルーンディア王国とが手を取り合い、戦争をする前よりもお互いの利益となる関係であろうと手を取り合う。

 きっともう、連邦と王国との間に戦争は起きない。俺はそれを確信していた。

 双方が多くの血を流したからこその平和への第一歩だろう。


 そしてなんとグレースの王位継承順位が一位になったそうだ。戦場での功績、特に戦争を終わらした場面での活躍が女王に強く支持されたらしい。

 グレースが女王になる日がくるかもしれない。その情報は俺の頬を喜びで緩ませた。

 ね。だから行ったでしょ! 一目見た時からグレースは女王様になる器だってわかってた!

 そんなことを調子に乗って言ったら、グレースに冷たい目線で見つめられた。


 レーミアはというとジェロンの元へ帰って行った。心配だったが、戦争中に破壊したはずのロボットが会談の際に現れて連れ帰ってしまった。レーミアが懐いているようだったから、大丈夫だろう。同盟が無事に締結すればまた会える。寂しいが、レーミアの容姿は復生体にとっては目に毒だ。ほとぼりが冷めるまで離れて暮らす方がいいのかもしれない。

 ヘンリクはというと直近会ったのはまさに昨日だ。デートに来ていく服が無いと相談すると、しょうがねぇなぁ、なんて言いながら手際よく服を笑んでくれた。その態度は心なしか上機嫌に見えた。

 

 街を、グレースと手を取り合って歩く。

 どちらからともなく取り合っていた手を外し、お互いの腕を組む。

 風が吹いた。どの時代も変わらず吹く優しい風が。

 時には厳しい風もある。

 でも確かに、彼ら彼女らは笑顔だった。そして、きっと俺も。

 俺たちは天国を目指す。

 確かにそこにあるだろう、より良い未来を求めて。

 振り返る。

 グレースが微笑む。照れてもいた。 


 ああ……ここが。

完結しました。読んでいただき本当にありがとうございます。


少しでも面白いと思って頂けたのならとても嬉しいです。


次の作品は、以下の4つのうちのどれかになるかと思われます。

そちらの方も是非読んでいただきますと幸いです。

1この作品の前日譚

2続編

3番外編

4全く関係のないラブコメ作品

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