第28話 この戦いが終わったら グレースの場合
「ヴァシリオスとフェロメリアは子供を作り、その子孫がルーンディア王国の王家だ。まぁグレースならこんな事知ってるか……」
「うん」
「どれだけ差別をなくそうとも、当時の世界には奴隷が必要である理由があった。いきなりそれをなくしたんじゃ国は成り立たない。だから俺がその役目を請け負ったんだ」
「千年間も?」
「それは少し誤算だったけど、まぁ想定内の範疇かな」
「じゃあ、なんで私に女王なれって言ったの?」
「それは……月並みだけど、グレースが優しい人だと思ったからだよ。優しい人が王様に向いてるわけではないと思うけど…;少なくとも俺は、そういう人に王様になって欲しいんだ」
グレースはぽかんとした顔になった。
「あの時やさしかったのは、リベルの方だと思うよ?」
そして微笑む。
綺麗だな。
「ねぇ……?」
「なに?」
「あのさ、この戦争が終わったら……一緒に街へお出かけしよう?」
「お出かけ?」
「そう!」
強い眼差しに目が眩みそうになる。俺はこの瞳の正体を知っている。
「……その、大丈夫なの? あ、いや、やっぱりなし。一緒に街に行こう」
そう手を降って誤魔化す。
実現するのが難しいことなど、グレースもわかっているはずだ。
けれど態々口にした。それはきっと、グレースにとっての大切な何かに関係している。
「そっか! よかったぁ」
グレースが幼気に微笑むのに見入る。
「ああ。必ず行こう」
グレースは言った。戦争が終わったらと。それならば、戦争というものはどうすれば終わるのか? それには二つのパターンがある。ひとつめは、どちらか、またはお互いの疲弊による終わり。もう一つは人類の転換期となるような暴力の登場だ。兵器でも神能でもなんでもいい。それを持っていない国は、最終的には発言権すら事実上存在しないほどの暴力。
ルーンディア王国に、疲弊による敗戦はない。俺たちがいるからだ。もし負けるとするのなら、それは復生体と現在の〈巨神の石〉を凌駕する暴力によるものだろう。考え難いが、レーミアがいる。これほど高性能な機械の体の実用化には悠長に構えてはいられない。
ふと目線を下げるとレーミアが不思議そうな表情をしていた。
「遊んでおいで」
狭い範囲だし、機械の身体ではあるが、中身は子供。大事なことだ。
グレースに誘われて三人で雪だるまを作った。
帽子は金属バケツ、お鼻とお目々は大きめの弾薬、手は小銃のおかしな雪だるまには、最後にレーミアの手で赤いマフラーが巻かれることとなった。
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