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第24話 ジェロン連邦最高顧問

 ジェロン入国のためのあらゆる検査を終えた俺は、ビリーに連れられて街の中を歩いていた。

 いくつも驚きを乗り越え、今は公園のベンチに腰掛けている。


「おどろいたかい?」

「おどろいたよ」


 俺は間髪入れずに答える。顔の横にドリンクを持って揺らした。


「発展してるんだな。この黒い飲み物もうまい」


 ストローで最後の一口を吸い切る。先程あったシュワシュワはほとんど残っていなかった。


「町並みもいい……」


 公園では子どもたちがボール遊びをしていた。青年たちは公園の隅でおしゃべりに夢中なようだ。そのすぐとなりには老夫婦だろうか。お互いを慈しむように見つめあっていた。きっと他愛のない会話をしているんだろう。俺もああなりたかった。

 そこには世代を超えた、尊い空間があった。

 ひとしきり眺めて、ビリーに目を向けた。


「さすがにここだと服を着るのな」

「当たり前だ。ぼくをなんだと思っている?」

「ならなんで脱いでたんだよ?」

「それは気分だ」


 おかしなやつ。


「まぁいい。それにしてもいい国だな。さっきの映画もよかった。恋愛映画は性に合わないが。それでも面白かったし、それに美術館もよかった、一般庶民が芸術に触れやすい環境は素晴らしい。王国だと、その辺はどうだろうな。俺は王国での生活の殆どを炭鉱で過ごしたからな、よくわからない」

「ご満足いただけたようで」

「そうだな、気に入った」


 自然と笑みがこぼれた。すぐに消えてしまうような微かな笑み。それでもたしかに自分が作り出したものだ。


「でも一番は、いろんな人間がいることだ」

「というと?」

「肌の色や出身、信仰の違いがあってもお互いを尊重して暮らしているのがわかった。もちろんトラブルは絶えないと思うけど、お互いの存在を認めているのはとても良い」

「それが、連邦の創設者の求めたものだ」

「創設者ねぇ……」


 俺の想像通りなら、きっとそいつは。


「そうだ。今さらだけど、俺は敵国の兵士だ。こんな簡単に観光して、街を出歩いてしまっていいのか?」

「大丈夫だ。ちゃんとした手続きは踏んでいる。そのことを感情で批判してくる人間は、この国にはいない」

「それならいい」


 俺は足を投げ出すように座り直した。


「そろそろ向かおうか」

「どこに?」

「連邦最高顧問、創設者の元へ」



 ジェロン連邦政府の最高顧問。その肩書に似つかわしくない質素な建物へと入ると、奥の部屋へとビリーと共に通される。部屋の扉を開けて入ると、大きなベッドに老人が横たわっていた。短く切られた髪は白髪だった。きっと、元は黒髪だっただろう。

 医療機器と管にまみれた枯れ枝のような体。うす青い病衣を着ていることでも体調が芳しくないことはひと目見てわかった。

 眠っていた老人の目がゆっくりと開いた。


「復生体を連れてまいりました」


 ビリーの言葉に、老人はかすかに、しかししっかりとした動作で頷いた。


「ご苦労」

「お前に聞きたいことがあって来たんだ。答えてくれるか?」


 挨拶などどうでも良かった。

 俺はこの老人が誰だか知っていた。もう千年生きた、どの年齢でどのような容姿になるのか完璧に把握している。

 目の前にいるこの男は、まごうことなき復生体だった。

連続投稿6話目になります!

是非次も読んでください!



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