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第23話 復生体Bは国境を超える。

「正確には単一の国ではない。トップである連邦政府が、所属している様々な国々にあらゆる制限、そして 自由を保証することによって成り立っている連邦制国家だ」

「ある程度の自治権が認められているのはいいな。俺の記憶では千年前には主要な国に連邦制の国はなかった。形だけで自治権が認められていない国は多かったが」

「もちろん暴力装置は敷いている。戦争の決定権も、連邦政府が持っている権利の一つだ」

「今の話を聞いてそれが気になった。戦争の権利なんて、自治権ともろに関係するだろう?」

「もちろんそうだ。それは民主的に決められた議会によって決められる。各国がそれぞれ三人の議員を排出し、それらが連邦政府での票を有している」

「議決の票数は? 戦争なんて国の一大事だ」

「三分の二だ。が、ルーンディア王国との戦争の議決は満票に近いものだったと聞いている」

「満票に近いって、どうやったらそうなるんだよ? 戦争賛成のプロパガンダが上手くいったのか?」

「もちろんそれはしているさ。しかし民意はそう単純ではない」

「ならどうして?」

「目的をより神聖なものとしたのだ。占領ではなく救出とな」

「救出?」


 俺は首を傾げそうになるのをどうにか堪えた。なんと身勝手な理由だろう。目的がそれでも過程が同じなら意味がない。


「そう、救出だ」

「ルーンディアにジェロン出身の民族がいるのか?」

「いるにはいるが、掲げたのは民族の救出ではない」

「ならなんの?」

「あなたたちの救出だ。リベル・ダ・ヴェント」


 男はため息とともに答えた。


「復生体の?」

「そうだ」

「なぜ?」

「神能を持つ者、持たざる者、そこには圧倒的な暴力的な差がある。ジェロン連邦に強力な神能者はいなかった。元は弱小国家の寄せ集めだ。そこにリベル・ダ・ヴェントという英雄が登場したのだ。彼は己が何百人、何千人、何万人死のうとも、神能者に立ち向かった。あなたが千年前に強力な神能者たちを倒してくれたおかげで今の我々がある。連邦ではそう教育している」


 思わず目を見開く。


「そんな理由で……」

「十分な理由だ。ジェロン連邦にとってあなたは神に等しい。空想やおとぎ話ではない、千年以上も実際にこの世に存在している現人神だ」

「そこまで大したことはしてないよ」

「そうだろうか。現にジェロン連邦はルーンディア王国の軍事力を超えている。それでも戦線を拡大できていないのはなぜだろうな。塹壕で戦車の進行を止められている現状を、あなたはどう見る?」

「王国には〈巨神の石〉があるだろ?」


 苦し紛れだった。


「それを保有する王族には限りがある。それまでの戦線の維持は?」


 想像した通りの言葉が帰ってきて辟易する。ため息が白くなり後ろへと流れた。


「言いたいことはわかるが、俺が戦争の理由になっているのはいい気分ではないな」

「そうであろうな」

「こっちからも質問いいか? お前、神能者じゃないだろう」

「そう。ぼくの力は科学の力だ」


 男は両手を広げながら、さも誇らしげに答えた。


「否定するわけではないけど、似て非なるものだ」


 男は苦笑した。心底愚問だと言いたげな表情で。


「そうか? 神に愛されたものが神能者なら、神がこの世に与えた理を読み解き、理解しようとする科学は、神を愛し、その愛を形にしようとしていると言っても過言ではないだろう? そこにあるのは愛すか、愛されるかの違いだけだ」

「なるほど。一理あるし、愛云々っていうのも気に入った。そうだ。想いが重要なんだ。思想だ。それだけが世界を動かしてきた」

「ありがとう。理解してくれて」


 男は複雑な表情で笑った。俺が理解できるとは思わなかったのだろう。


「お前言ってただろ? 俺をジェロンに連れてくれば市民権がもらえるって。俺の目的はジェロン連邦に行くことだ。知りたいことがあるからな」

「どういうことだ」

「ジェロンに俺を連れて行けって言ってるんだよ」

「……まさか。いや、そうか。双方に取って利益があるということか」


 男は自らの口を塞いで考え込む仕草をしてから、半ば独り言のように納得した。


「なら交渉成立ってことで、連れてってくれよ、ジェロン連邦。どのみち、俺一人だとめんどうだったんだ。あ、そうだ。名前は?」

「そういえば名乗っていなかったな。今は正式な名前はない。戸籍がないからな」

「そっかー。ならなんて呼べばいい? 呼び名くらいはあるだろう?」

「そうだな。恩人からはウィリアムと呼ばれている。戸籍登録するときはその名を使うつもりだ」


 俺の唇が一瞬震えた。それは寒さからではなかった。


「それならビリーって呼ぶよ」

「それでいいさ。あと道中暇なときでいい。手合わせをしてくれ」


 ビリーの返事は俺の頭の上を素通りして夜空へとかき消えた。遠くを見る。ジェロン連邦の国境のある遠くを。

 月と星のみの銀世界の向こう、誰かと目があった。そんな気がした。

 そいつの顔の見当は、すでに付いていた。

 なんか、とても面倒臭いことを言われた気がする。

連続投稿5話目になります!

是非次も読んでください!



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