第12話 昔話をしようか。
暖炉の火を眺めている。
レーミアとの邂逅は、俺に長年忘れていた郷愁を思い起こさせていた。
グレースもヘンリクも、それに気付いているのか、先程から何も言わない。
とりあえずグレースの部屋でもう一度話そうと集まったが、三人の間には沈黙が流れていた。
ぱちぱちと不規則に暖炉から音がするのに耳を済ませると、このままでいいとも思えてくる。
落ち着く。
が、しかしそういうわけにはいかない。
グレースは先程からチラチラとこちらを見ている。
チャコールグレーの前髪が揺れていた。
ヘンリクの方は、天井を向いて目を閉じている。
リラックスしているように見えるが、待っていてくれているのだろう。
快活だが、うるさいわけではなく思慮深い。
最近それがわかってきた。
「えっとどこから話そうか……」
「最初から頼むぜ。千年も前だ」
意を決して口を開くと、ヘンリクが口の端を曲げてそう言ってきた。
「……そうだな。グレースもそれでいい?」
「いいよ」
落ち着きがなかったグレースの動きが止まっていた。
赤いスウェード生地のソファに深く背中を預け、両膝を両腕で抱えている。可愛い癖だと思った。膝に押さえつけられた胸元に自然と目がいく。
いやいや、だから何歳差だよ。
そういえば、この二人は、前の俺から昔の話を聞いたのだろうか。
重複する内容もありそうだが、今の俺にはそれがわからない。
「……まぁ、いいか。二人は、復生体の歴史について、どのくらい知ってる?」
「そうか。リベルは当人か……そう考えるとすごいな。歴史の授業なら一瞬で教室が埋まるぜ? どこまで知っているかといえば……ガキの頃の絵本とか、教科書で読んだくらいだな。うろ覚えだ。この国じゃあ建国の歴史にも関係があるから、その辺は常識として知ってるな」
ヘンリクは顎に手を当てて頭を捻っている。
ミクシアも絵本で読んだと言っていたな。ルーンディア王国では、建国の歴史を、絵本を使って子供にわかりやすく、親しみ易くしているのかもしれない。
「ちなみに、その、絵本ってどんな内容なんだ?」
「あんまりしらねぇ方がいいと思うぜ?」そう言ってヘンリクは、気不味そうに苦笑した。
その反応で察する。
「グレースの方は?」
「わたしは、遺体の秘密を知っている」
グレースは王女だ。ヘンリクなどの臣民が知らない、復生体の秘密を知っていてもおかしくない。
ヘンリクの方はピンときていないようだ。
俺たちを復生する遺体には秘密がある。単に遺体と呼ばれているが、その仕組や正体は謎に包まれている。
「それについても話そうか。グレースいいかな?」
「いいと思うよ」
あっさりした返答だ。
「いいのか。ヘンリクが知らなかったということは、臣民に教えちゃいけないことなんだろ?」
「大丈夫だと思う。ヘンリクには効く資格がある」
「ならいいんだ。あと、一応言うけど、長くなるよ。年寄は話が長いんだ」
笑って言うと、二人も小気味の良い笑顔を見せてくれた。
そんな笑顔の裏側で、俺の意識は深い記憶の海を潜り始めていた。
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