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ここに七枚の絵がある。図面の様にいろいろと線が引き込まれているから絵図といってもいい。これは女神という戦闘用の人型兵器だ。どれも惹き付けるような美しい姿をしている。
この女神に乗るパイロット達は皆世界的な著名人。メディアへの露出も高く、人々の人気を博している。今丁度メビウスという女神に乗ったパイロットがTVに出ているところだ。
「あ、ジェシカさんがこちらにやってきます。戦闘の後だというのに疲れを一切感じさせない笑顔です」
リポーターは早口に説明する。軍広報部の広いロビーにメビウスのパイロット、ジェシカがやってきて戦闘後の会見をする。盛大なカメラのフラッシュを浴びてジェシカは微笑んでいる。まぶしくはないのだろうか。
先ほどまではメビウスの戦闘シーンが放映されていた。一度メビウスが追尾カメラを振り切ってしまった為に、五分ほど青空が写っていた時間があったが、大半は華麗な戦闘で敵を墜としていく。その場面は圧巻だった。メビウスは戦っているというよりは踊っているように動き、敵が消えていく。不思議な戦闘スタイルだ。初めて見た者は画面に釘付けになるだろう。白金色の女神が敵たちの中で踊り、消えていく。それは歌手のプロモーションビデオを見ているような、そんな印象すら感じてしまう。
「ジェシカさんお疲れ様です。今日の戦闘はいかがだったでしょうか?」大勢のうちの一人の記者が聞いた。
「まあ、いつも通りかしら。私にかかればどんな敵も瞬殺です」
確かにメビウスの戦闘は短い。一回の戦闘で五分程度。他の女神は同じ規模の戦闘をしても二〇から三〇分はかかる。長ければ一時間という長丁場も。
「このイギリス戦線が一番過酷と言われてますが、このことについてコメントは?」
「皆さんも知っていると思いますがイギリス戦線はいま非常に過酷な状態です。他の女神たちは苦戦して、昨年は大きな悲劇もありました。ですが私は女神の中でも一番力を持っています。私がいる限りこの戦況が不利になることはないと思っています」
ジェシカは一目見て美人だと分かるような容姿。その一言一言が人々を惹きつける。一部に彼女を神と崇め、神聖視するような過激なファンもいるほどだ。
「ところでジェシカさん、今度の新曲については、どのようなコンセプトを?」
「はい。私が女神に乗って戦っているときに思いついた曲です。それをもとに踊っていると思っていただいても結構です。どうか応援よろしくお願いします」
美人であり強気なところが幅広い支持を受けている。
「ジェシカさん。ある男性との交際がスキャンダルされましたが、それについてコメントを」
苦笑い。
美人はどんな顔をしても絵になる。マネージャーらしき男性が横から入り込む。
「プライベートな質問はご遠慮ください。今日の会見はここまでです」
やまないフラッシュと記者たちの質問。今や彼女は時の人だ。