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淀河源五郎によるラズィヲ体操暗殺術のすゝめシリーズ

淀河源五郎によるラズィヲ体操暗殺術のすゝめ3

作者: シギ




 さて、しつこくもここはやっぱり超日本、超東京都、うんももす町にある第3公園!!


 ……ではなく、同じ町内にある『活き活き山里商店街』であーる!


 しかーし、“活き活き”とは名ばかりで、過疎りに過疎り、某大型ショッピングセンターとネットショップに弁当箱の片隅においやられた、レンチンしたら生温かくなって臭くなるタクアンのごとく、”タヒにタヒに”商店街と言うに相応しい様相となっていたのだーった!!


 いやはや、コケやツタも生えまくった廃墟と見間違える古ぼけた商店街!


 床屋にはマネキンの頭が山積みになり、畳屋の売れなくなったタタミからはグロテスクなキノコが生え、タバコ屋の中にだってミイラが…間違えた! 普通にシワクチャのババアだった!


 いやはや、そんな中にあって、商店街のど真ん中に位置する不釣り合いな新築ピッカピカの85階建てのタワマン!!

 もちろん、これは公費で建てたものだー!! 町民からチューチューと巻き上げた税金を惜しみなく投入したのであーーる!!


 んでもって、煙となんとかは高い所が好きってな具合で、最上階にうんももす町の偉い人たち、シンクタクンクどもが集っていた!!


宝來院ほうらいいんは失敗したか…」

 

 スポットライトの当たった、一番上の純金の王座(血税にて制作)に座った、真っ黒なシルエット(スポットライト当たってるのに)がそう呟く。


「は、はい。も、申し訳ございません…町内会長」


 階下で平服していたのは、真っ白な無地の野球帽に、真っ白なシャツ、下が緑のジャージというモブったオッサン…つまり、公園でラズィオ体操を子供たちにやらせていたあの人物であーった!


「なにが武術体操だ。まったく口だけだったな、あの男は」


「お、仰られる通りで…」


「お前が連れてきたんだろうが」


「ぐッ…」


 オッサンは脂汗をダラダラと滴らせる。


「しかし、淀河よどがわ 源五郎げんごろう(63歳)…ですか。まったく困った事態ですな」


 町内会長より若干低い位置にあるテーブルにスポットライトが当たる。


「確かに。ラズィオ体操暗殺術なる怪しげなものを、子供たちどころか町内の者たちにまで勝手に教えておるそうではないか」


 いちいち喋っている町内役員にスポットライトが当たる。この意味不明な演出も税金で賄われていることは説明するまでもない。


「健康になりすぎた者が、町内会費(月間200万ぽっきり)の支払いを拒んでおるらしい」


「な、なんだと。それは由々しきことではないかッ。弱者救済と謳って吊りに吊り上げた会費を、使途不明金にして懐に入れ、我々が豊かになるという計画が台無しになってしまう!」


「うろたえるな」

 

 再びスポットライトが町内会長に当たる。


「そのために用意した」


 ざわ…ざわざわ…と、例の天才雀士にびっくら仰天する黒服たちのごとく、どよめく町内役員たち!


 そして、平服していたオッサンの後ろにスポットライトが当たる。


 そこに居たのは…


 超スカイツリーより高いかも知れない、雲を突き抜けてフライアウェイしているコック帽(室内なのにどうなってんねん!)をかぶり、一足がシロナガスクジラよりも重いとされる鉄下駄(建物壊れるだろ!)を履いた老人だった。


 しかーし、そう形容するのは正しくはあるまい。


 背丈は3メートル近くに及び、プロレスラーやボディビルダーを遥かに超える体躯だった!


 ピッチピチのコック服から、険しき山脈を思わせる黒光りする筋肉がはみ出している!


 巌のような顔からはみ出した真っ白なモジャ毛は、モミアゲを通ってヒゲと一体化している。なんなら鼻毛まで混じってそうなぐらいの剛毛だ!


 果たして、老いとは何なのかと思わせる姿なのだ!


「ひ、ヒィィィ!」


 オッサンがその“異様”を間近に見て、取り乱しその場に昏倒する!


「こ、この男は…」


「老舗和菓子屋“蔵菊堂くらきくどう”の店主、黒皮くろがわ 餡憎あんぞう…(年齢不詳)」


 町内役員たちはびっくら仰天しすぎて、震える声でそう呟いた。


「そうだ。我らが商店街、最強にして最恐の超和菓子職人…この黒皮であれば…」


「…“マーマレード”」


「……」


「ワシのことは“マーマレードじいさん”と呼べ」


 深い影の落ちた、窪んだ眼窩から覗く猛獣のような眼が、ギロリと町内会長を睨む。


「ふ、フフ…。この私が気圧されるとはな」


 さしもの町内会長も、わずかに上擦った声でそうのたまわった。


「いいだろう。“マーマレードじいさん”であれば、淀河 源五郎も敵ではない」


「確かに。源五郎をかつて倒したことがあるとかないとか、そんな話を聞いたような聞いたことがないような、そんな気がする…この男であればあるいは…そんな気がする」

 

 一番老齢の町内役員がそう呟く。しかし、なにもしてねぇのにプルプル震えているぐらいだから、記憶力がヤベーことになってる可能性も否定しきれない(そんな状態で役員やるな)!


「では、マーマレードじいさん。君の望むものは用意した」


 黒服が純金のワゴン(公金で買った)をコロコロと転がして、黒皮の前に持って来る。そして上にかけていた超高級なカシミアの赤布(公金で買った)をサッと外した。


 ワゴンの上に乗っていたのは、額縁に入った賞状らしきものが2つだった。


「超調理師免許(偽造)と、営業許可証(偽造)だ」


 そう! もはや説明するまでもない! 彼は営業許可もなく、違法に商店街で超和菓子を勝手に営んでいた問題児(老人なのに問題児とはこれ如何に?)であったのであーる!!


 黒皮はチラッとワゴンの上を見やり、それから町内会長を見やった。


「これでこの依頼…受けてくれるかな?」


「承ったぁッッッッ!!!!!」


 黒皮の気合いが入りまくった承認の叫びは、音速を超える衝撃波を巻き起こし、ビルの窓という窓を叩き割った!


 当然、白目を剥いて失神する町内役員たちと、白帽子のオッサン。その耳からはダラダラと流血していた。


「これ程とは…。な、なんとも頼もしい…」


 なんとか耳を塞ぐのが間に合った町内会長も、ズリッと椅子から滑る。

 

「……任せろ。ラズィオ体操暗殺術など、アンコを練るより簡単に丸めてくれるわい」


 大破したスポットライトが、ふたりの間にガッーシャンと落ちたのであーった!




凸凹凸凹




 さてはて、ここはよくある超日本風建造物! いわゆる平屋のフツーの家屋であーる!


「うまい! うますぎるッッッ! ばあさんの作るナメコの味噌汁は天下一品だッッッ!!」


 ほっぺにご飯粒をつけて、源五郎はちゃぶ台の前で絶叫した!


「うますぎる! おかわり!!」


「はいはい……」


 見た目は幼女、中身は還…ンゴホッ! もとい、年齢は源五郎に若干近い、そんなマドカは空になった丼ぶり茶碗に白米をよそう!


「どうした? 食わんのか? ラズィオ体操暗殺術をして腹が減っているだろう?」


 源五郎の前に着座する、越宮えつみや 紫苑しおんことシオンと、諸好もろずき 健司たけしの小学6年生に向かって源五郎は問うた!


 なぜ彼らがここにいるかと言えば、朝飯のご相伴いただいていた次第なのであーる!


「いや、お腹はすいてますが…」


 シオンの視線は天井を見やっていた。


「これは量多すぎだってばよ!」


 タケシが喚く。なぜならば、茶碗にこんもりと盛られた白米は天井に届きそうなほどの超激盛だったからであーる!


「育ち盛りなんだから食べなきゃダメ……」


 マドカはしゃもじを持って頬を膨らませる。そして、源五郎にやっぱり超激盛りにした丼ぶりを手渡した。


「ラズィオ体操暗殺術は、フルマラソン3回分(およそ7,000〜10,000カロリーに相当する)のカロリーを消費するからな! 食べないと持たんぞ!! ンガンゴォォオッッッ!!!」


 物凄い勢いで飯をかっこむ源五郎!!


 飯粒が吹っ飛ぶが、巧みな箸さばきで飛び散る米粒も残さず戴く!!


 これには農家さんもニッコリであーる!!


「い、いただきますわ…」


「絶対に残しちゃうぜ…」


 シオンとタケシは食べ始めるが、一向に減る気配がない!


「いいものがある……」


 食が進まない2人を見て、マドカは台所から甕壷(かめつぼ)を持ってくる。


「それはなんですの?」


「マドカが漬けた……」


「そ、それは! くれ!」


 猫まっしぐらみたいになった源五郎が飛びかかろうとするが、それをマドカは指先ひとつで止める。


「えっと…?」


 戸惑うシオンの前に、マドカは甕壷を開いて平皿に載せる。


「マドカ特製の梅干……」


「ゲー! 俺、梅干、苦手!」


「タワシ。好き嫌いダメ……」


「タワシじゃねーよ!」


 タワシがやっぱり喚くが、マドカは有無を言わせず皿に取り分ける。


「梅干はビタミンやミネラルが豊富なだけじゃなく、消化増進、抗酸化作用と色々と身体に良いもの……。塩分が多いから食べ過ぎはダメだけど……」


 そう言いつつ、マドカは自分も梅干を口に含む。


「すっぱぁ……!」


 キューッと顔をすぼめるマドカはめちゃんこ可愛かった! とても還暦のバ…ウェホウェホッ!


「ワシにも!!」


「ダメ……。源五郎はラズィオ体操行く前に食べてる……」


 指先ひとつで転ばされ、動きを完全に制御されてしまう源五郎!


 まるで子供の遊びだ(どう見ても幼女によって老人が遊ばさせられているようにしか見えないが)!


「まだこんなことをやっているのか!」


「え?」「へ?」


 シオンとタワシがびっくら仰天するのも無理はなかった!


 いきなり居間に現れたスーツ姿のリーマン的なオッサンが大声を出せば、そりゃキョトンともするさ!!


健康太郎(けんこうたろう)…」


 マドカがそう呟くと、リーマンはカチャリと黒眼鏡を人差指で上げた。いかにも仕事ができるタイプのリーマンだ!


「その名は捨てた。そんな呼びずらい名前はね! いまは“健太郎けんたろう”だよ。母さん」


「母さん…ってことは?」


「勝手に家を出て、久しぶりに帰って来たと思えば! “健太郎”だぁ!? そんな普通すぎる、安直な名前はなんだぁ!!」


「普通でいいじゃないか! “健康太郎”ってなんだよ! 駄菓子の名前じゃないんだぞ! 父さん!!」


 怒り狂う源五郎と、健康太郎は激しく言い合う!


「まさか…」


「……そう。健康太郎は、マドカと源五郎の子。40年前の7月3日吉日、12時42分に3,280gで産まれた健康優良な赤ちゃんだった。11歳までおねしょは治らなかったけど。嫌いなものはピーマン。でも、ミジン切りにしてカレーにこっそり入れたら食べられる」


「や、やめてよ! 母さん! なんで知らない子供たちの前で僕の個人情報を垂れ流すんだ!

 え? それにカレーにピーマン入れてたのか!? 知らなかったぞ、それ!!」


 なぜかマドカはピースしている!


「ゴホン! …とにかく! 父さん、母さん! 僕は話があって帰ってきたんだ!」


 健康太郎はキリッとした顔をする。どことなく、鋭い眼光は源五郎に、整った顔はマドカに似ていた。


「ラズィオ体操暗殺術の跡を継ぐことを拒否って、18年前に勝手に家を出て、今更になってなにが話があるだ!!」


「ああ! 勝手に出たのは悪いと思っている! けど、僕はラズィオ体操暗殺術なんてやりたくなかったんだ! 変だし!!」


「なんだと! 貴様ァ!! 変とはなんだ! 変とは!!」


 マドカは「どうどう」と、飛び掛かろううとする源五郎の首元を押さえた。


 シオンとタワシは「変」という部分を否定できずに複雑な表情で俯く。


「でも、聞いてくれ! この十数年で僕は変わった! 結婚して子供もできた!」


「け、結婚…だと?」


「こ、子供……孫……?」


 源五郎とマドカがポカーンと口を開く。


「ニートだったお前が…」


「今は違う! スポーツジム『リモート・ムキムキ』を知っているか!?」


 キョトンとする源五郎にマドカ。


 だが、シオンとタワシは「あ!」っとびっくら仰天する!


「あのよくMoroTube(モロチューブ)でCMが流れている…」


 文明の利器、インターネッツなんて使わずに未だにブラウン管テレビと新聞だけが情報源の還暦世代は「はぁ?」って顔をした!


「そうだ! 僕はそこの社長なんだ!」


「なぁにが社長だ! どうせニートだった時にやろうとしていた“テレビゲーム”の“ハイシン”なんたらになるとか言っていたヤツと同じだろうが! どーせ、従業員はお前だけの零細企業だろうがッ!!」


「ち、違いますわ! 源五郎おじいさま! 超オリンピック選手も多数輩出している、業界最大手のトレーニングジムですわ!」


 こりゃびっくら仰天! 健康太郎は、越宮財閥でも知る新進気鋭やり手の実業家社長であったのだ!


「そうだ! そして今はそこそこの稼ぎもある!

僕は親孝行をしに戻って来たんだ!!」


 健康太郎はそう言って、ちゃぶ台の上にパァンとチラシ紙面を置く!

 

「こ、これは…」


 シオンがびっくら仰天するのも無理はない! それは高級有料老人ホームの案内だったからだぁ!!


「父さん、母さん! 僕が金を出す! 入所してくれい!!」


 源五郎の額の血管が、ビキビキッと浮き立つ!!!


「ふざけるなァァッッッ!!!!」


「……まだ、そんな年齢(とし)じゃない」


 マドカも頬を膨らませて怒る。


「いや、そんなこと言ったって、老化の波はすぐにやって来るんだ! 大丈夫! ふたりの墓も作ってあるし、戒名だってつけてある! 今後の心配は一切…うんももすッ!!」


 健康太郎が最後まで言い終わらなかったのは、源五郎がブッ飛ばしたからであーる!


「超健康体であるワシに向かって、老人ホームに入れとは何事だァァァッ!!!」


「そうやってすぐに暴力を振るう! まさに老化による前頭葉萎縮だ! 感情を抑制できていないんだよ! 父さんは!」


 源五郎の前頭葉が盛り上がる…いや、怒りで額のシワが盛り上がっただけだー!!


「超健康体にもなってないモヤシが、なにを抜かすか!!」


「イャアアッ!!」


 源五郎は健康太郎のスーツを破り、シャツの下のプニプニの腹筋を晒させる! 健康太郎は乙女みたいに叫んだ!


「と、父さんはデリカシーの欠片もない! 非常識だ!! そこが嫌いだったんだ!!」

 

 シオンもタワシもそこは否定できず目をそらした。


「出ていけぇーー!!」


 源五郎は、健康太郎の胸ぐらとベルトを掴んで担ぎ上げ、人間ロケットを放つ姿勢を取る!


「あ、これお土産だから!!」


 健康太郎は投げ飛ばされる前に、手に持っていた紙袋をパージした。それをシオンが受け取る。


「どおりゃああーーッ!!」


「うわああああーーッ!!」


 そして勢いよく、縁側から塀の向こうへと健康太郎は投げられて、ウル○ラマソのようにジュワーッと飛んでいく!!


「あー! 頭に来る! ワシは公園でラズィオ体操でストレスを発散してくる!!」


「源五郎おじいさま!」「源五郎先生!」


 怒り冷めやらぬ源五郎は、ふたりの制止を振り切り、頭と肩から沸騰したヤカンみてぇな蒸気を噴き出して、怒りつつ玄関に向かってゴーイングマイウェイしたのであーーった!!


「……ん? シオン、そのお土産」


「え? ええ。この紙袋…たぶん和菓子ですわ」


 なぜか真っ黒な袋には洋式便器の座面のような家紋が書かれており、マドカは難しい顔をしてその紙袋を受け取る。


「……まさか。アンコ?」


「アンコ? どら焼きなら嬉しいな!」


 呑気なことを言うタワシだったが、マドカは中身の箱を取り出して目を見開く。


「こ、これは…」


「マンジュウだ! さっそく食べようぜ!」


「……ダメッ。タワシッ」


 マドカが止めるのも聞かず、タワシは箱を奪い取り、その包装をビリビリに破く!


「な、なんじゃこの臭いは! …オンゲェェ!!」


 タワシはその場で吐いて倒れた。


 マドカは自分の鼻をつまみ、厚手のハンケチでシオンの鼻を覆う。


 それでも覆われている隙間から、腐った牛乳をクサヤの漬け汁と合わせ、オッサンの靴下と一緒に数ヶ月漬け込んだ様な腐敗臭がした!


「ま、まさか毒ガス…」


「……違う。マーマレードじいさん。“蔵菊堂”の殺人マンジュウ」


「マーマレードじいさん!? 殺人マンジュウ!?」


「なんでも煮詰めればアンコになると思っている超和菓子職人」


 マドカはトングを持ってきて、床に散らばったマンジュウの1つを取る。


 そこにはなぜか叫ぶ顔が描かれており、液状のアンコが眼窩から零れ落ちている様は血の涙を流しているかのような不気味なマンジュウだった。もちろん、異臭はこのマンジュウから放たれている!


「な、なんですの…。そのヤバい人は…」


「活き活き山里商店街…最強にして最恐の男……」


 マドカが親指の爪を齧った様子から、相当ヤベー相手なのだとシオンは察する。


 そして空になったハズの紙袋から、ハラリと小さな紙が落ちて舞った。


「これは…手紙? よ、読めないですわ…」


 綺麗に畳んだ和紙に、力強い達筆な文字で長々となにかが書かれていたが、草書体で書かれていたので、小学6年生が読むのは困難だった。


 マドカは受け取ると、読んで目を丸くした。


「……これは果し状」


「は、果し状?」


「……源五郎宛。しかも、日付が今日の8時00分。第3公園になっている」


 7時50分を差す時計を見やりながら、マドカが言う。


「な、なら…」


「源五郎が……危ない!」




凸凹凸凹




 さて、ようやくやって来ましたのは、うんももす町の第3公園!


 穏やかな午前、暇を持て余した年金受給者たちがたむろしているのは必然!


 しかーし、そこらの公園と違うのは、ここにいる高齢者どもは、揃いも揃ってボディビルダーみたいな体型をしており、オイルローションを全身に塗りたくり、マッスルポーズを決めて入れ歯を光らせていたのであーった!


「いやぁ、射坐阪(いざざか)先生」


 頭に1本だけ毛が生えた老人が、ダブルバイセップスを決めつつ声を掛ける。


「これはこれは異増野(いぞうの)さん。今日もいい筋肉ですな」


 丸眼鏡をかけた文筆家っぽい老人も、負けじとサイドチェストで応える。

 連れているテリア犬も土佐犬を思わせる勇ましい風貌であった。


「ハハハ、ラズィオ体操のせいで筋肉がつきすぎてしまいましてな」


「これはこれは、裏界隈のおじいちゃん」


「いつみても、これまた見事な筋肉美ですなぁ」


 2人に負けぬほどにパンプアップした禿頭、白髭の老人がモスト・マスキュラーを決めつつビーチクをピクピクとさせる。


「実は一昨日、健康になりすぎて、筋肉の膨張により、圧迫された心臓が止まったのですわい」


「「マジですか!?」」


 異増野と射坐阪はポージングしながらびっくら仰天する!

 

「しかーし、その止まった心臓を、大胸筋が痙攣し、勝手に心マ(心臓マッサージ)しましてな。昇天することも許してはくれんのですじゃ。筋肉(コイツ)めは♡ ワシを生かすのか頃すのか、どっちなんだいー!?」


 裏界隈のおじいちゃんは、自分の上腕二頭筋にキスして「ヤー!」と叫ぶ。


「困るんだよねー」


「「「ん?」」」


 公園の外から聞こえる女の声に、3人は振り返る。


「高齢者が元気なのは大いに結構。でもね、50年以上も毎年、毎年、タイムループしたみたいに歳も取らず、それでも年金受給生活。社会保障はそんな特異な支出を想定した制度じゃ断じてない…」


 それは軍帽を斜向かいにかぶった黒髪ショートヘアー、ファー付きの真っ黒なミリタリーコートを肩に羽織り(今回書き忘れてたが、季節はバチクソ暑い8月だ!)、その下はあろうことか真っ黒なマイクロビキニで、メロンみてぇなたわわな果実がふたつ丸見えであり、キュッと締まった腰と、プリリンとしたヒップ、舌舐めずりするような小悪魔っぽい20代の美女だーった! 


 手に持った細鞭で尻を叩かれたい…3人の後期高齢者がそう思ったのは、特に語るまでもあるまーい!


「そんなに元気ならね、年金生活しながら公園でブラブラしてないで、働いて稼ぎな!」


 下手したら孫よりも若いかもしれない年齢の小娘にそう言われ、3人に不穏な空気が生じる。


「……町内会長、大池(おおいけ) 薔薇子(ばらこ)


 裏界隈のおじいちゃんが血走った目で小娘…薔薇子を睨む。

 

 そう! もう言ったからおわかりだろうが、にわかなミリタリーコスプレしている彼女こそが、うんももす町の町内会長その人であったのだー!!


「そう! でも、そんな日々はもう終わる! その男のタヒでね!」


 薔薇子はビシッと指差す方向には、あの源五郎がいた!


「「「源五郎先生…」」」


 異増野、射坐阪、裏界隈のおじいちゃんは源五郎に対して臣下のポーズで跪いた!


「フフフ、来たわね。淀河 源五郎!」


「なんだこの野郎」


「こ、この野郎って、女性に向かっておかしいだろうが!」


 薔薇子は半泣きになりつつ叫ぶ!


「これから貴様を血祭りに上げてやる! さあ、来い!」


 勢いよく手刀を振り下ろす薔薇子!


 源五郎も、異増野、射坐阪、裏界隈のおじいちゃんも周囲を見回した。



──1分後──



「なんだ?」


「……あれ? ど、どうして」


 薔薇子は少し慌ててスマフォを取り出す。「もしもし、彼はどうしたの!?」などとやる。

 

 源五郎はアクビした。


 しばらくして、白帽子のオッサンが乙女走りでやってくる! 汗で脂ギッシュなお顔が大変なことになっていた!


「ち、町内会長! 繋がりました! 自宅の店にまだ居ました!」


 そのクリームパンみたいな手にガラケーを持って、左右に振っている!


「は? なんで携帯電話のひとつも持ってないのよ!」


 ブツブツ言いながら、薔薇子はオッサンからガラケーを奪い取る様にして耳に当てた。


「ちょっと! 果し状に書いた時間はとっくに…え? 果し状ってなんだって? なに言ってんのよ! いいから、早く来なさいよ! え? 店が忙しい? テレビ局の取材が来る? そんなの知らないわよ! 約束したでしょ! それを破るってなら、免許と許可証は返して貰うわよ! は? 元々持っていたものだ!? ふざけんな!! ? もしもし? もしもーし!? クソ! 電話切りやがった! あのクソジジイ!」


 薔薇子がガラケーを投げ捨てるのを、白帽子のオッサンがダイビングキャッチする!


「どういうことよ!?」


「なにぶん、かなりの高齢なんで…その、たぶん少しボケが来てるのかと…」


 薔薇子はあんぐりと口を開く。


「もういいか? ワシはラズィオ体操しに来ただけだ。終わったなら出ていけ」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! こんなこともあろうかと、次の手を用意していたのよ!」


 薔薇子が白帽子のオッサンに指示を出すと、「合点承知」と茂みの中にダイブする!


「フフフ…。さっきぶりだね。父さん」


「貴様は……。健康太郎。まだこんなところにおったのか」


 ビキビキッと源五郎の額に青筋が立つ!


 そう! 帽子のオッサンの代わりに出てきたのは、眼鏡が少しヒビ割れ、スーツがヨレヨレになった健康太郎その人であったのだっーた!


「そう! 通信空手を元に、通信ジム…『リモート・ムキムキ』で、エロッティなホットヨガや、スケベッティ体操を世に広めた超大手企業の社長に協力を要請していたんだ!」


 勝ち誇ったような笑みで、薔薇子は腰に手を当てて笑う。


「どうだ! 自分の息子に裏切られた気分は!? そして、まだそれだけじゃないぞ! 健太郎社長!」


「父さん! ここでイカれたメンバーたちを紹介しよう! そう! 僕の子供たちを!」


「なにぃ?」


 そして健康太郎の後ろから、体操着に身を包んだ若いマッチョな3人組が姿を現す!


「我が名は健次郎!」

 

 どこぞの世紀末覇者を思わせる風格を持ったマッチョが、落涙しつつ名乗る!

 

「私の名は健三郎!」


 どこぞの医療とかに特化してそうな若干顔に影のあるスタイリッシュなマッチョが、軽く咳き込みながら名乗る!


「俺の名は…健四郎」


 そして最後に、胸に7つの発疹がある哀しみを背負ったっぽい劇画風のマッチョが、半身に構えてターンターンしつつ名乗る!


「こ、この3人…テレビで見たことがあるぞ!!」


「た、確かに超オリンピックの体操部に出場する超日本人選手では!?」


 ここぞとばかりに、異増野と射坐阪が解説者のように説明する!


 ちなみに裏界隈のおじいちゃんは大胸筋が心マ中でそれどころではなかった!


「淀河 源五郎! いまからお前に、本当の超世界クラスの体操というものを教えてやるわ! それもアンタの孫たちがね!」


 薔薇子に台詞を取られた健康太郎は口をパクパクさせた。


「ワシの孫…か。健康太郎はモヤシだというのに、その子供たちは見事な体格だな」


 3人組の体躯は、健康太郎よりも源五郎に近い。そこには淀河家の血の濃さを感じぜられるを得ないような気がしないでもない!


「おじいちゃん。我が健康に一片の悔い無し!」


「おじいちゃん。生半可で覚えた健康体操は使わぬことだ」


「おじいちゃん。お前はすでに健康になっている」


 とても10代とは思えぬ風格で、源五郎に迫る!


「……見せかけの健康だな」


 源五郎がそう呟く。


「む…?」「なにを?」「見せかけ…?」


 3人が困惑するのに、源五郎は遠い目をする。


「トレーニングマシン、プロテインなどに頼り不自然についた筋肉……それではとても健康とは言えん」


「ぬう…」「貴様…」「なんだと…」


 3人組から怒りのオーラが漂う。


「父さん! 強がりはよせ! 僕の息子たちは徹底した栄養管理と、人体構造を研究した科学的にも正しいトレーニングを元に、理想的な筋肉を作り上げたパーフェクト的な超人だぞ!! 彼らは若さも相まって、還暦過ぎた父さんがとても勝てる相手じゃない!!」


「そうだ! 諦めろ! 淀河 源五郎! そして、うんももす町内会に、この私の元に伏せ!!」


 健康太郎を突き飛ばし、薔薇子がなにやら悦に入って、頬を紅潮させてハァハァ言っていた!!


「……フン。健康太郎。ワシの息子として産まれてなにを学んできたのやら。貴様らに真の健康というものを見せてやろう」


 源五郎は両足の踵を揃えて、気を付けの体勢を取る!


 異増野、射坐阪が「こ、これは!」と驚き、裏界隈のおじいちゃんは復活の余韻でアヘ顔ダブルピースでビクビクしていた!

 


──拾参之型 呼吸を整え全てを癒やす運動──



 源五郎は深く息を吸い込みながら両手を頭上にと上げ、それからゆっくり下ろすのと同時に息を吐き切る。


「な、なにをするかと思えば、普通の体操の締めに行う普通の深呼吸じゃないの…」


「いや、これは…」「違う…」「ただの深呼吸ではない…」


 3兄弟は一緒じゃないと台詞を言えないのかと、薔薇子はちょっとイラッとした。


「と、父さん…」


 健康太郎はびっくら仰天する!


 そりゃ源五郎の厳しいご尊顔が弛み、少女漫画のようなキラキラお目々で、天使のような笑顔になっていたからだー!!


 なんならその背後に、バブ味の深い赤ん坊が見えてくるような気がしなくもなーい!


「こ、神々しい!」「なんと無邪気な!」「あ、赤ちゃん…いや、これは赤さん!」


 3兄弟は、源五郎の天使の微笑み(エンジェルスマイル)に射たれ、戦意喪失してしまう!!


「な、なにをやってる! 息子たちよ!! さっさとその男を倒せ!」


「わからない? 健康太郎……」


「か、母さん!?」


 いつの間にかやって来ていたマドカ、シオン、タワシであーる!


「来たわね! この常識外の美魔女!」


 薔薇子が、マドカを見て警戒したように叫ぶ!


「源五郎おじいさま!」「源五郎先生!」


 今度はシオンとタワシが唐突に叫ぶ!


「なんだ? シオン? タワシ?」


「いえ、ヒロインなのにまた忘れ去られそうな気がしまして……」「だから、タワシじゃねぇよ!」


 「用もないのに呼ぶな!」と源五郎は一瞬だけ素に戻るが、すぐに天使にと戻る! 忙しい!


「……ラズィオ体操とは本来、誰かと争うためのものじゃない。締めの深呼吸、これで軽い運動後の火照った肉体のクールダウン。“整った”時の穏やかな心は、悟りを開いた聖人のそれに匹敵する」


「なん……だと」


「今の源五郎は超健康的な至高の至福の状態にある。そんな極限のゾーンに入った脳波は、周囲にも影響を及ぼす。穏やかさが伝播されることで、争う気がなくなってしまう……」


「そ、そんな非科学的なことが…」


 健康太郎はプルプルと震える。


「……心も健康にする。戦わずして勝つ。コレが源五郎流ラズィヲ体操暗殺術」


「オラアアアーッ!!!」


「え?」「え?」「え?」


「あ」


 突如として豹変した源五郎は、3兄弟にラリアットをかましてブッ飛ばす! その後、馬乗りになってタコ殴りにする!!


「か、母さん! 話が違う! こ、これは単なる暴力じゃないか!」


「……そう。油断させといて奇襲することもある。世の中は弱肉強食。マドカはそれを言いたかったの」


 「嘘こけー!」と、源五郎以外はそう思ったのだが誰もツッコミは入れるのは避けた。マドカが頬を膨らませていたからであーる(説明するまでもないが、マドカの戦闘力は源五郎以上)!


「言え! ワシの孫なら、源五郎流ラズィオ体操暗殺術をやると言え!! 毎日欠かさず! そして心身ともに健康になれ!」


 左右の腕で健次郎と健三郎の首をクリンチし、健四郎の首を股に挟んでガクガクと揺さぶる!


「「「や、やります…」」」

 

 ようやく解放された3人は、その場で崩れ落ち、勝った源五郎は雄叫びを上げて拳を突き上げた!


「そ、そんな…まさか、超オリンピック選手でも勝てないというのか…」


 ビビリちらかす薔薇子。白帽子のオッサンはそそくさと逃げ出して行った。


「……薔薇子ちゃん。いい加減に諦めたら?」


「うっ」

 

 マドカに睨まれ、薔薇子はたじろぐ。


「小学生の頃から、源五郎に相手して貰いたくて、ついに町内会長になってまですることが…コレ?」


「え、それってもしかして…」


 シオンがびっくら仰天して、薔薇子を見やる。


「う、うるさい!!」


 薔薇子は顔を真っ赤にして首を横に振る。


「素直に自分もラズィオ体操やりたいって言えばよかったのに……」


「うるさいうるさいうるさいッ!!! 覚えていろよ! ちきしょうめ!!」


 半泣きになりながら、薔薇子は公園から逃げ出したのだーった!


「ちょ、ちょっと待て! 僕を置いてかないで! 町内会長!」


 腰を抜かしている健康太郎!


 そこに忍び寄る4つの影!


「健康太郎よ」


「「「お父さん」」」


「ヒィィ!!」


「「「「共に健康になろう!!!!」」」」


 父と息子に担ぎ上げられ、無理やりラズィオ体操暗殺術をやらされる健康太郎!!


 そう! 健康になるためには多少の強引さは致し方ない!!


 皆さんもこんな小説を読みながら、ポテチを食って、炭酸飲料飲んで、さぞかしダラシない体型をされていることだろう!!!


 心機一転! 健康になるためには、まずはやろうと決意することが必要なのであーる!!


 そして、うんももす町は健康老人ばかりになり、寿命が200歳を超え、年金支給額増大の懸念が広がったが、同時に健康になりすぎて健保医療費をまったく使わなくなったので、なんも問題もなくなったのであったが、それはまた別のお話であーる!!!




─終─

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