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イコール

怪我をした時には、薬草を塗って包帯を巻く前に、傷を清めて魔の気が入らないようにするために聖水を振りかけるというのが基本である。そのため今回の遠征の積み荷にも聖水は大量に入っている。


魔の気の化身ともいうべき悪魔が聖水を触れたり飲んだりすると、全身がぐしゃぐしゃに溶けて大ダメージを受ける。

人間が飲むと普通に体調がめっちゃ悪くなる。人間も別に邪気のない聖なる存在というわけではないためだ。

アモモモモモモモモモ、モッ、モギョー


気持ち悪い断末魔と共に、岩石で出来た巨竜の体はボロボロと崩れ落ち、後には瓦礫溜まりが残るのみとなった。

なんとか巨竜は二体とも始末することが出来たが、先ほどから次々と地面から巨大で狂暴なモグラやらミミズやらが次々に湧き出てくるため、包囲されてしまって全然帰れない。


「こいつら地中から・・・アルバートの野郎が接近を許したのはこういうことかよ!!これキャンプの方大丈夫なのかぁ!?」


焦るゴメスに、いざとなったら俺が全速力でキャンプに戻る作戦を伝える。とはいえ、これだけワラワラと敵がいては俺の突破力をもってしても途中で阻まれてしまいそうで俺も不安になってくる。

その不安を後押しするように地面から人間ほどの大きさの数十体の人喰い蟻が姿を現し、直後にキィィィィンという音が鳴り響く。撤退の合図の音だ。最悪のタイミングに俺は苦笑してしまう。

防御や回避を完全に捨てて全身を食いちぎられながら突破すれば、満身創痍にはなるものの高速でキャンプにはたどり着けるはずだが、果たしてそれで辿り着いて戦力になれるのだろうか。

いや、それでもやるしかない。マリー達が殺されちまうよりよっぽどマシだ・・・そう覚悟を決めて走り出そうとした俺を、ゴメスが抱え上げる。


「歯ァ食いしばれロドニー!!俺様式必殺遠投、ゴメスキャノン!!ふううぅぅぅっぅぅぅぉぉおおおおおん」


次の瞬間、俺は全身の皮がめくり上がりそうな爆風を受けて、視界がグルグルとかきまぜられる。世界の輪郭がハッキリと安定してきたころ、眼前に空が広がり、背後には森を見下ろしているような光景が広がっていることを確認する。

爆風が止まったころようやく俺は思考が現状に追いついて、その爆風は空気抵抗であり、自分は空中にブン投げられたのだという事を理解した。

次の瞬間、地面に吸い寄せられるような強烈な落下感。俺は木々の隙間を見通して落下地点にテントが無い事を確認して、枝葉をクッションに速度を緩めながら、地面に衝突する瞬間に転がるように受け身を取る。即座に立ち上がって意識を研ぎ澄ますと、強烈な殺気を左手に感じる。この気配の濃さならキャンプはおそらく近い。俺は体のあちこちに広がる鈍い痛みを一瞬で忘れ、全身全霊で殺気の方向に駆け出した。



突然キャンプ地に悪魔と思わしき存在が現れたので、ロドニーに合図を飛ばした後、悪魔を狙撃しながら現場へと走る。

不味い事に、狙撃しても悪魔は一切怯む様子を見せない。だが代わりに、何故かその場から動くこともなかった。状況が読めないが、とりあえず狙撃を止めて走るのに集中して良さそうだ。

岩石竜の後を追うように大量の魔物が出現してロドニー達を包囲していたのを確認した時、ロドニーの到着が遅れることを予測し、いつでも自分が現場に駆け付けられるようキャンプ地の近場に位置を移していたので、1分も経たないうちにキャンプ地に辿り着くことができた。

そこで目に飛び込んできたのは、網の中で暴れる大型のテント一個分ほどの巨躯の悪魔の姿だった。

筋肉が膨張して皮膚が張り裂けた人間といった容貌のそれは、肩の辺りに白い布切れをなびかせている。その布は、学者たちが身に着けている白衣を引き裂いたものであるように見えた。


「待ってたよアルバート君。とりあえずこれを弾丸に振りかけたら多少は通用するようになると思うよ。」


ロドニーの介護士の女、マリーとか言ったか。そいつが投げつけてきたのは聖水の入った瓶だった。それを片手でキャッチしながら、ここで何があったのか説明しろと命令する。


「こいつはジェフィールドといってね、人間の姿に化けて監督官として私達に紛れてたんだ。なんか企んでそうだったから先手打って、お茶でもどうぞっつって聖水飲ませたら全身溶け始めて悪魔の姿を露呈させた。」

「私は目付けられてたから他の学者に毒を盛らせて、苦しみ出すと同時に私が魔物捕獲用の網で抑えたところだ。でもこの感じじゃそろそろ破られてしまいそうだね。」


「グゴゴゴゴゴ、マリーキサマ、ナゼ、アクマト、ワカッタ」


「分からなかったよ。ほんとにただのお偉いさんなのか、悪魔を匿ってる一味の人間なのか、悪魔そのものなのかなんて。ただの決め打ち、実験みたいなもんさ。」


「ニンゲンダッタラ、ドウスルツモリ、ダッタ!?エライヒト、ウタガッテ、セイスイノマス、ヨクナイ。ヨクテ、クビ。ワルクテ、コロサレル。」


「どうするつもりだったんだろうね。多分、めちゃくちゃ謝って、ダメそうならどっか逃げたんじゃないかな。」

「知らなかったのかい?学者、研究者ってのはどうしても実験したいことがあったらその為に貴族を敵に回せるような、社会で生きる能力の欠落したイカれた生き物なのさ。アホのロドニーでも知ってることだよ。」

「おっと、そろそろ本当に網が破れちゃうな。後は君に任せて離れてていいかい?アルバート君。」


ああ、ちょうど弾丸に聖水も塗り終わったところだ。心配しなくても確実に殺してやる。


網が破れると同時に、ジェフィールドの捕らえられていた地点が爆発し、こちらに向かって巨体が砲弾のように射出されてきた。

咄嗟に軌道上にいる自分と学者を風魔法で吹き飛ばして紙一重で回避する。僕たちを掠めた巨体はそのまま直進して大木に激突し、その幹の幅よりも大きい直径の穴を開けた。だるま落としのように一瞬にして真っ二つにされた大木の上半分は倒れることなく直下に落ち、大木の幹が短くなった。

なんというデタラメな破壊力だろう。こんな事が出来るなら最初からこれで網破れば良かったのにそれをしなかったのはおそらく、コレは僕のさっきの緊急回避と同じ「自分を吹き飛ばす」技だからだ。

網が無かったからさっきの爆発で綺麗に吹き飛ぶことが出来たが、網に抑えられていて加速が妨げられた場合、網を破れたとしても自分の繰り出した爆発から逃げ切れずに自らが粉々になっていたのだろう。

だったら簡単、向かい風で押さえつけて奴が満足に加速できない状態を作ればあの技は封印されるはず。いや、封印するのはもったいないな、むしろ・・・


…などと考えていた時、奴が着弾した箇所に巻き起こった土煙のかすかな変化から、奴が再びこちらに自らを射出しようとしているのを察知する。

その吹き飛ぼうとする予備動作に呼吸を合わせ・・・爆発と同時に全力の向かい風を放つ!


案の定、グゴアアアアアという悲鳴と共に、爆発で黒焦げになったジェフィールドがこちらに吹き飛んできた。向かい風で速度が抑えられ、爆発の勢いにも上手く乗れていないため、この程度なら風魔法を使わずとも回避が出来る。

ジャンプでその場から飛び退きながら、吹き飛ばされている巨体の軌道と速度を読んで聖水弾を撃ち込んでいく。

弾倉の弾を撃ち尽くし、即座にリロードしながら次の奴の動作に備えていると、予想外の光景が目に入る。

受け身をとって体制を立て直した奴が、おそらく先ほど土煙の中でやっていたようにクラウチングスタートの姿勢をとったのだ。

また黒焦げになりたいのだろうか?ならば望み通りにしてやる、そう思って呼吸を合わせ、奴が力むと同時に向かい風を放つ。


すると次の瞬間、奴の手前の空間が爆発した。奴は向かい風に逆らわずに後ろに吹き飛んで、風の届かない範囲まで離れたようだ。

そして即座にまた吹き飛んだと思うと、奴はいつの間にか僕の視界の左端に居た。最後にこちらに吹き飛んできて、僕は咄嗟に風魔法で回避しようとする。


くそ、翻弄された。反則だろ。いくらなんでも速すぎる。目で追えない。


間に合え。間に


間に合わない


死が、迫ってくる


死ぬ


僕は、ここで、死んでしまう






「ワーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッ!!!!!」


奴が僕に衝突する直前、背後から嫌な音が聞こえたと思うと、何かフワフワしたものが僕を吹き飛ばしていった。直後に香る芳醇な小麦の香り。

僕は即座に状況を理解する。遅かったじゃないか、美味しいパン屋さん。お前が遅れたせいで僕が死んでたら殺してたところだった。


「大丈夫かアルバート!!マリー達も無事か!?」

「マリー達はコイツの突撃祭りに巻き込まれないようにそこの大岩の陰に隠れてる。僕は見ての通り奴の性質を完璧に見切って黒焦げにした後ハチの巣にしてやってたところだ。」

「今まさに殺されかけてたくせに。下がってろ。」


アルバートは舌打ちして、マリーが隠れているらしい岩の上に陣取って魔力を練り直し始めた。掛け合いもそこそこに悪魔の方を向くと、突進を終えて土煙の中でゆらゆらと立ち上がっているところだった。

そして次の瞬間、さっき見た突進を俺に仕掛けてくるのをギリギリで回避する。過ぎ去っていった奴の姿を追うと、即座にドリフトするようにこちらに向き直って再び突進してきたが、これもギリギリで回避する。それからも次々と四方八方から俺に突進を仕掛けてきたが、全て回避していく。だんだんと突進にも目が慣れてきて、すれ違いざまに一撃を加えていけるようになった。

やがてその一撃が喉の辺りを捉えた時、めりこませた拳を一度開いて即座に掴み上げる。服を着ていたらいつも通り胸倉を掴んでいたところだが、着ていないので代わりに首を掴み上げるので我慢する。そして脳のリミッターを外し、狂ったように叫びながら顔面をボコボコにしていく。しかし奴は全くひるまずに暴れまわり、俺のみぞおちに拳を撃ち込んできたり凄まじい力で振りほどこうとしてきたりする。

どうやら向こうの方が体が強いのでこのままの体制で殴り合ったら負けてしまう。なので俺は足払いをかけて奴を倒し、マウントポジションをとって顔面をボコボコにしていく。暴れても全身の体重で押さえつけ、拳を突き出してきてもこちらに届くまで距離があるため殺気を読んで即座に振り払う。


しばらく攻防を続けていると急に奴は大人しくなって、素直に殴られるままになった。

特に疑問を覚えることもなく素直に殴り続けていると、ふと脇腹がずっとコイツの手に触れられているのを感じる。しまった、殴ろうとせずにただ触ろうとするだけなら殺気は出ないから、手が忍び寄ってきていたのを感知できなかった。即座に手を払いのけたが、触れられた箇所がなんだか熱くなっている。顔面パンチを続行しながら熱源に目を向けると、そこには時限爆弾のようなものが仕掛けられていた。


「オレノ、ノウリョク、バクダン。シュルイハ、フタツ。オレヲ、フキトバス、バクダント、オマエヲ、フキトバス、バクダン」


「バクダン、シカケラレタラ、モウ、タスカラナイ。ゼンシンニ、ネヲハル。ソノバクダン、モイダラ、イノチゴト、モゲル」


「ボウギョシテタラ、オマエ、イズレシヌ。バクハツスルノ、カラダノ、ナカ。オレ、マキコマレナイ。オマエ、シヌ。オマエ、シヌ。」


「ふざけるな、そいつを殺すのは僕だ!!」


アルバートが弾丸と魔力を充填し終わったようで、援護射撃が始まる。同時に奴は全身の筋肉を膨れ上がらせて、頭頂部に拳を乗せて前腕を顔の前で合わせ、どんどん丸まっていく。

俺たちは必死で攻撃するが、完全な防御態勢に入ったコイツを相手に、俺の拳もアルバートの銃もマトモなダメージを与えることが出来ない。

カチッ、カチッ、と、時限爆弾が無慈悲に音を刻む。表示を見るに、俺の命は残り2分で消し飛ぶらしい。


拳を振り下ろしながら、俺は自分の人生を振り返る。

ガキの頃からみんなから邪険にされて、一人で山を走り回って遊んでて。

俺の遊び場には、いつも同じ木陰で本読んでるやつがいて。そいつも友達居ないって言うから仲良くなって毎日一緒に遊んで。

でもいつまでも子供じゃ居られなくなって、親が死んで自分で働かなきゃいけなくなって、追いはぎで稼ぐって言ったらマリーに怒られて。

冒険者になろうと思って神殿に行ったらつまみ出されて、仕方がないから俺でも入れるギルドに入って、そこからもつまみ出されて。

結局、俺の人生はなんだったんだろうか。俺の存在価値はなんだったんだろうか。

走馬灯のように流れる記憶の最後を飾ったのは、マリーが美味しい美味しいと俺の出したパンを頬張る姿。


ああ、よかった。最後にそれらしい答えがあった。これが俺の存在価値だ。これが俺の人生そのものだ。

俺は、パンだ。



安らかに目を閉じて、眼下の怪物に拳を打ち付けるのを止めて。

そして俺の身体は、粉々に分解された。

暇だね、あんたも。

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