大人の階段は登ってからが本番である。その3
時間は朝七時少し前。朝食にはまだ早いので庭を散歩でもしますかね、と長い廊下を歩き階段を下り正面玄関より庭に出ると爽やかな朝の空気が鼻腔を通り肺に入ってゆくのを感じた。
ああ気持ちが良い。生きているって感じますなあ〜などと思いながら庭を歩いていると何やらあちらの方から猛々し声がする。
ちょいと覗いてみるとそこにはアルベルトさんが上半身裸で何やら武道の形をやっているようだ。お年の割に筋骨隆々な身体から発せられる拳や蹴り技のキレは大したものである。
そんな、男の子なら憧れる様を眺めているとこちらに気づいたアルベルトさんが声をかけてくれた。
「これはイルマ様、おはようございます」
「声も掛けずに失礼しました。おはようございます。いや、キレッキレでしたな」
「これは、お見苦しいものを⋯」
「いえ、とても見応えのある物でしたよ。いつもこういった鍛錬をされているのですか?」
「あ、いえ⋯先の事で自分の実力不足を痛感いたしましてな⋯今まで技術の維持程度ぐらいの鍛錬しかやってこなかった物ですから⋯これではお嬢様や旦那様を守れる訳ありませんな。如何に自分の腕を過信していたか⋯今、こうやって身体を動かしてみると、若かった頃と比べて動きづらくなってるのが有り有りとわかりますな。ですので朝の仕事をアメリアに任せて、こうして鍛錬をさせて貰っているのですよ」
「なるほどねえ」
「横から失礼致しますね。折角ですからイルマと手合わせをお願いできますか?この男、魔法はともかく格闘術の経験が足りておりませんので」
「ちょっ!?おまっ!?何言っとると!?」
「ほう!!そうですか!?ではこの年寄りにひとつ胸を貸して貰えませんか?」
「ええっ!?俺魔術士なんですけどお相手出来ますかね!?」
「ほっほっほ、何やら銀級冒険者になられたようで。界隈ではちょっとした騒ぎになっておられますよ?そんな方が老人の拳をいなせない訳無いでしょう?」
「いや⋯そんな話全く聞きませんが⋯」
「では、参りますよ!!」
「ちょっと人の話をですな⋯」
と、次の瞬間!!高速&高威力の拳が俺の頬を掠めた。いやあ⋯マジな時って本当にスローで見える物なのね。顔面右ストレート時のアルベルトさんの顔もハッキリ見えたもん。鋭い眼光と謎の笑顔が怖いの何の。
しかし⋯俺避けれてる?完全に無意識の反応だったな⋯あ、次が来た。顔面狙いのハイキック。姿勢を低くして避けるとアルベルトさんは伸ばした脚をそのまま振り下ろす。
俺は横に転がり撃ち下ろされる脚を避けるが間髪を容れずに低めの回し蹴りが飛んでくる。全く忙しいったらありゃしない!!更に低く這いつくばるような姿勢をとり、高速で頭上を通り過ぎる脚を避けつつ距離を取る為に転がり移動すると全身のバネを使い即座に立ち上がる。
まるで体操選手みたいな動きだ。こんな動き方が出来るなんて自分が一番驚いている!!
こちらもやられっぱなしじゃあ無いぞ!!拳打によるラッシュをかけたる!!
一発一発にはそう威力は無いが、絶え間ない衝撃がじわじわとダメージを与えるはず!!だがその時、俺の動きに合わせて後退していたアルベルトさんの眼が光る!!彼は拳打を上手くいなし俺の腕を掴むとそのまま投げへ!!
勢いよく放り投げられた身体は弧を描く様に宙へ。いやあ、地面に叩きつけられるような投げじゃ無くてよかった!!
俺は空を舞う猫の如く空中で体勢を立て直し四肢で地面に着地する。
すると今度はあちらさんがラッシュをかけて来るではありませんか!!確実に俺より早く高威力の無数の拳と脚が襲い掛かってくる!!
何とか全身を使い拳打や蹴撃をいなすが、数発はガードになってしまいジワリとダメージが蓄積されるのを感じた。暫く防戦が続くと下ろしたばかりの我が長袖シャツの両の袖がボロボロになってしまい、某有名格ゲーの真の格闘家を目指す主人公の道着のような姿に⋯なんでこうなる?あの人の拳からは殺意の波動でも出てるのか?
このままでは徐々に服をひん剥かれてセクシーさ大爆発になってしまうでは無いか!!これはいかんぞ!!世の婦女子の皆様を悶々とさせる訳にはいかん!!
ここは一旦距離を取る為一旦大きく後退するとアルベルトさんもこちらに合わせて踏み込んで来る。これよ!!これを狙っていたのよ!!
俺は後退しつつ左足を軸に回転し、素早く彼の方に背中を向けると右足を身体に引きつけ地面に顔が付かんばかりに勢い良く前屈し、両手を地面につけると同時に右足を向ってくるアルベルトさんに突き出した。
これぞ躰道の技の一つ海老蹴り!!のモドキである。
この蹴りの凄いところは正面から見ている場合、相手がいきなり低い姿勢をとる事から一瞬視界から外れ、まるで消えた様な錯覚に陥りその後下方から蹴りが飛んで来るという本物の躰道ファイターが使えば非常に恐ろしい蹴りなのである!!




