自己認識と運動能力のギャップを感じてしまったあの歳⋯その6
俺にあてがわれた部屋に戻ろうと廊下を歩いていると数人の使用人に会うのだが、皆ギョッとした表情を見せるのである。それはそうだろう。服はボロボロ、全身に擦り傷、打撲、痣など、一体どうしたらこうなるのみたいな?いや、一日中暴力を受けたらこうなるんだよ!!
まるで幽鬼の如くヨロヨロと部屋に戻りベッドに倒れ込む。
「疲⋯れ⋯た⋯」
「はい、お疲れ様でした。どうです?何かご自分の中で変化がありました?」
俺とは正反対の生命力に溢れた様な声でサテラが俺に語りかけてくる。生命じゃ無いくせに生命力溢れてるねお前。
「わからん⋯ただもう疲れた」
「そうですか?始めた頃に比べれば僅かながら反応等の向上は見られますよ。これからも続けて行けばこの身体のポテンシャルを発揮出来る様になるでしょう」
「そうかい⋯嬉しいねえ⋯⋯道はまだまだ遠そうだが⋯」
「今日明日でできるモノではありませんよ!!千里の道も一歩から、ローマは一日にして成らず、3歩進んで2歩下がる、人生はバンジージャンプと歌もある様にそう簡単には行きません!!」
「な〜んか歌詞が違う様な⋯まあ簡単にいかないのは自分が良くわかってますよ⋯」
神よ⋯異世界転生?転移?の神よ!!もっと簡単に強くなれないもんですかね?ソフトウェアインストールみたいにささっといけませんか?
無理ですよねえ〜!!わかってますって!!ちょっと愚痴りたいだけ。
そんな妄想の中、扉をノックする音が。どうやら夕食のお知らせらしい。この格好のままで行ったらまずいだろうけど⋯もうめんどいし⋯いいや!!いっちゃえ!!普段なら絶対しないが疲れは意識を鈍らせ常識もどこへやらなのでこの格好も仕様がないのである。うんうん。
俺はフラフラと扉に向かいノブに手を掛け扉を開けると、呼びにきてくれた使用人は俺の姿を見てブフッて感じの顔になる。それでもなんとか冷静に俺を食堂まで案内してくれた。
彼の反応から見るに、俺の今の格好はかなり面白い感じになっているのであろう。例えるならそう⋯コントに出てくる実験に失敗した博士が爆発の煙の中からボロボロの格好で出てきた感じと言った所であろうか?
これは⋯食堂に入った瞬間、一同ドッカンドッカンじゃあないかあ?
でも、お嬢様方は立場上ねえ⋯⋯こりゃあ面白くなってきやがったぜ!!
笑ってはいけない夕食会の始まりや!!
俺は最後の気力を振り絞り元気いっぱいを装い食堂に入場するのであった!!
「やあやあ、どうやら私が最後の様ですな!!遅くなって申し訳ない!!」
何事もない様に自分の席に座ると同時に先に席に着いて食前酒など嗜んでいたルゥが口と鼻から酒を吹き出した!!
ルゥシエル、アウト!!気分的にはタイキックを喰らわしたい所だがここは自重。
そんな痴態を晒したルゥをスルーしてお嬢様方の方を向くと流石使用人二人はピクリとも⋯アルベルトさんは後ろ手に何かやっているなあ⋯尻でもつねっているのか?アメリアさんは行儀良く前に手を組んでいるがよく見ると左手で右手の甲をつねっている事が伺える。
さてお嬢様は⋯眼を剥いて口を真一文字に閉じて一生懸命に我慢している。どうやらこのコント的衣装が子供心のツボにインしたみたいですな!!
笑ってはいけない状況では普段あまり面白くないモノでも笑わずにはいられなくなる悲しき人間の性⋯⋯さあ!!楽しい食事会の始まりじゃあああああ!!
と思った束の間、口と鼻から食前酒には珍しい浅い色の赤いワインを垂らしたルゥがテメエの顔の可笑しさを差し置いて大爆笑!!
その笑い声が呼び水となり残り三人も顔を伏せ肩を震わせている。
あら、全員アウト。
お嬢様らが笑っちゃって企画が速攻終了。
あ〜あ、つまんないの!!後はただおかしな格好した男が居る楽しい夕食会になってしまった。
そんな食事会も終わり、部屋に戻った俺は全身にできた傷の痛みを感じながら風呂に入り部屋着に着替えるとベッドに倒れ込んだ。
ああ、やっと寝れる。なんか子供の時以来一日がすんごく長く感じた⋯⋯寝よ。
と、サテラに灯を消してくれいと頼もうと思った瞬間、部屋の扉が勢いよく開いた!!
何事ぞ!?と思い扉の方を向くと俺とは対照的なとても良い笑顔のルゥが立っている。
今の状況に着いて行けない俺はただ呆然とするのみ。まさにポカーンである。
「え⋯?なに?」
「うち今日なあ、昼まで寝てしもうてなあ、眠れんかったんよ。だから遊びにきたえ!!」
あっそうですか⋯俺は寝ていいすか?




