引き際と生え際の判断を間違えると大変な事になる。
さてルゥシエル監督にゴーサインを出されノープランで飛び出し、あっという間に地面に着地したワタクシ!!
勿論スーパーヒーロー着地なんて出来るはずも無く、新体操選手よろしく直立垂直にそのままズドンと地面の上。
このままビシッと決めたい所だったが、残念ながら姿勢を崩して2歩前に歩いてしまった。残念!!
そんでもって、そんな衝撃吸収的な姿勢を取らずに着地したもんだから結構派手な音が発生。
そんなやかましい音を立てたもんだから山賊御一行様が一斉にこちらに振り向いた。
いやしかし山賊の動きもてえしたもんだ!!俺を見た途端発情モードから一気に戦闘モードに切り替わりやがった。
お姉さんを取り押さえている奴以外全員武器を構えこちらを睨みつける!!
この世界の山賊って皆んなこんなに優秀なのかね?
お嬢様を仰向けに羽交締めにしていた山賊は、その太い腕をお嬢様の首にかけ無理やり立たせ
破れたスカートが動きを邪魔してしまいまるで引きずる様に俺から距離をとり始めた。
あ⋯おパンツが見えてる⋯しかし、この世界って剣と魔法の世界っぽいんだけどおパンツテクノロジーが進んでいるのは何故だろうか?元いた世界と同じような姿形をしているぞ⋯ゴムがもう一般化しているのであろうか?
おおっといかんいかん。現状把握をしなければ⋯。おブラはどうなっているのだろうか⋯?いやいやいや⋯。
あーっと⋯首を絞められている様になって苦しそうなお嬢様⋯嗚呼カワイソス。
そんでお嬢様を襲おうとしていた陰キャは、襲う際近くに置いてしまった小剣をつかみ俺に向けた。
陰キャの割には中々様になってるじゃないの。
位置的に言うと陰キャが俺に一番近かったので、コイツがこの世界に来て初の第一対人戦になるのだろうかな?
ノープランゆえここでサテラさんと小声で作戦会議。
「さてサテラさん。どうしよう?」
「そうですね。第一は少女の安全確保。次に女性の安全確保です。脅威判定は私が行いますので、貴方は目標指示に従って脅威の排除をお願いします」
「了解だ。軽装の人間が相手だ、ハンドガンで良いだろう」
「異存有りません。武器を展開します」
ここで森のフレンズ達にぶちこんでいたライフルなんぞ選んだ日にゃ元人間山賊風の赤い嵐が吹き荒れるだろう。
それはいくら山賊相手でも⋯ちょっとねえ。
サテラの武器選択が瞬時に終わり、右手に武器が握られる。それを俺は山賊の皆様にずずいと向ける。
さて選ばれた武器はナンジャラホイと。
手に握られていたのは、映画「ロボット・コップ」の主人公が使っていたあの銃じゃねーか!!
と思ったが、所々違う⋯まあ、そのままゲームで使える訳無いよね⋯権利関係がね⋯。
でもロングバレルとその下のスタビライザーが男心をくすぐるぜ!!これは否が応でも上がる⋯!!
銃の名前は、BER-A9か⋯。ギリギリの線を行くその生き様⋯嫌いじゃないぜ!!
発射可能弾数は60発。物理弾ではなくエネルギー弾だからできる芸等だな。相手は9人
1人6発ぶち込んでもお釣りがくるな。まあ我がクソエイムでは60発でも足りるかどうか。
でも大丈夫!!わたしには補正機能様が付いているから!!さあがんばるぞ!!
と、その前にちゃんと警告はしてあげよう。なんたってわたしは人権派サラリーマンだからな!!
ちなみにうちの会社では社員の人権は無い模様。入る会社間違ったぜちくしょー!!
さてここは一丁スタイリッシュにビシッと口上決めたいところだが、いかんせん気の利いた言葉なぞ浮かんで来ません。
偉人に名言集やゲーテの詩集なぞ愛読していれば山賊もイチコロの警告が発せられたかもしれんが、俺はそんな上等な人間じゃあない。
実際これから人殺しをしようと言うのに、心一つ動かんとは実に異常じゃあないか。
そろそろ山賊の皆さんも痺れを切らしそうですし、ここはみんなご存知!!使い古された文言で行こうじゃあないか!
「その人達を放せ。さもなくば⋯後悔するぞ」
1人の山賊が吹き出し笑い始めると、周りの奴らも釣られて笑い出した。どうやら笑いは伝染するらしい。
君達がお笑いグランプリのお客さんだったら、演者はどんなに助かるであろうか⋯。
「おやや騎士様?お腰のモノが見当たりませんが?まさかお急ぎの余りお忘れになった訳じゃありませんよなあ?」
「丸腰でこの人数相手はちっとキツいんでないかい?」
「騎士道かなんか知らんが戯れに俺達のお仕事に首突っ込むんじゃねえよ!!うぇーはっは!!」
1人が何やら合図を出すと木の上に陣取っている弓兵から矢が発射された。だが君達の位置などマルっと全部おみ通しだっつうの。この程度の攻撃ならば避ける必要皆無。
矢は金属同士がぶつかり合う音と共に我がギアに弾かれた。
しかし、この弓兵ほんと腕がいいなあ。ちゃんと稼働部?装甲の合間を狙ってくるのだから。はなまるあげちゃう。
「あら、実に貧弱な攻撃ですね。この人達は本当にこの世界の住人ですか?」
「いや、あの森の住人達が変なだけじゃないの?実際生身だったら今の矢で俺死んでると思うしさあ。これがこの世界のスタンダードでしょ?じゃなかったら僕生きていけない」
「はいはい、脅威判定が終わりましたのでさっさと処理してください」
「あら?冷たい言い方だこと」
サテラが示すターゲットに銃口を向け引き金を引く。
エネルギーがチャンバー内で破壊力に変換時発せられる音と銃身内の空気がエネルギー弾に押し出され弾ける音がほぼ同時に
炸裂し、少女を取り押さえている男の頭半分が消えズルりと少女の身体を伝う様に力なく倒れた。
次はお姉さんを抑え込んでる奴に発砲。ちょうど首のど真ん中にヒットし、頭を支える部位が無くなり髭もじゃおもろフェイス付きのモノがボトリと地面に転がり落ちた。
「いややああああ!!」
自分を拘束していた男の頭がちょいと欠けちゃってる遺体を見てお嬢様が叫びを上げ、先程来怒濤の如く押し寄せていた恐怖についに耐え切れずぶっ倒れた。まあ⋯御愁傷様。
「お嬢様ー!!」
取り押さえてた山賊が首ポロりしたおかげでくびきから解き放たれたお姉さんは、叫びながらお嬢様の方へ
走り寄った。後から他の山賊が追いかけようとしたが、それと同時に山賊の一人が叫ぶ。
「コイツ騎士じゃねえ!!魔術師だ!!身を隠せ!!」
どうやら銃撃を魔術と勘違いしたらしい。まあ銃なんて見たこと無さそうだし、離れた相手の頭がいきなりパーンってなったら魔法とか呪いとか怪しいパワーを疑うわな。
山賊の叫びで仲間達が逃げるお姉さんを放って置いて一斉に木の影に隠れた。
間を置かずに再び矢が俺に向かって飛んでくる。効かなくても良いから仲間の回避時間を稼ぐ為に俺の気を逸らさせる様撃っているのであろう。
健気な!!
そんでもって一番俺と近い場所にいた陰キャですが、残念ながら近くに遮蔽物がなく背中をむけて逃げようとした所に
打ち込んで終了。こちとら騎士道精神なんて持ち合わせておりません故後ろからバッサリいかせて頂きます。
いやはや世の中荒れ放題ですな!!
もしこの様な出会い方でなければ同じ陰キャ同士、友になって⋯いないか。
レ○プ犯の友人は欲しくありません。
次に、お嬢様を狙える位置にいる弓兵を撃つ。山賊らの仕事はお嬢様の始末だ。
現在この状況でお嬢様に対して攻撃手段を持っているのはコイツらだ。幸いお嬢様に駆け寄ったお姉さんが遮蔽物となって、左右一方の弓兵からはお嬢様を直接狙いにくい状態になっている。お姉さんを射ったところでお嬢様の方に倒れこみ覆いかぶさる様になってしまう確率が高いだろうからあっちからは射たないだろう。
と言う訳で、ターゲットはもう片方の奴だ。あちらさんが狙い射つ前にこちらが狙い撃つぜ!!
例え木葉の中に隠れても、こちらのセンサーには丸見えよ!!レッツシューティーン!!
銃声と共にちょいと離れた木の上から大きな塊が落ちてきた。さあ次だ。
と思ったら、もう一方の弓兵が動き出した。こちらから狙いにくい場所に移動している。
残念ながら君の動きはリアルタイムでトラッキング済みだ。他の奴らの位置も把握している。
木の裏に隠れている山賊に向かって発砲。ぶっとい木の幹に大穴が空き、破片が飛び散る。
「ひいぃぃぃぃ⋯⋯」
おっさんの悲痛な声が聞こえる。
どうやらしゃがんでいたらしいな。位置は掴めるが遮蔽物の裏で何しているかは分からないからしゃーないか。
こちらもお嬢様の方に移動する為の牽制として山賊達が隠れている木や岩に対して発砲してゆく。
発射音と薙ぎ倒されていく木々と削れて行く岩。そしておっさん達の叫び声。
「誰かあの野郎を止めろー!!」
「どうやって近付くんだよ!?」
「援護の矢はどうした!?なぜ射たない!?」
あんだけ強者オーラを発していた山賊達が悲鳴を上げている。
そりゃそうか。見た事もない訳の分からん攻撃に恐怖しない方がおかしい。
相手の手に握られている黒い物体から音が出る度に、仲間が死んだり木が倒れたり岩が割れたり。
まあこちらも御愁傷様。運が無かったね。
ぶっ倒れているお嬢様を抱きかかえている姉さんに対して、盾になれる位置に着いた。
お姉さんが不安そうな顔つきでこちらを見る。やーん!!お姉さんと目が合っちゃった!!キャッ!!
「流れ弾に当たらん様、身を屈めていて下さい」
「は⋯はい!」
弓兵が茂みに隠れこちらを狙っている事をセンサーが捉える。しかしターゲットであるお嬢さんはお姉さんに抱えられ伏せている状態である為に非常に狙い難く中々射てん様だ。
んじゃあ、コチラが攻撃させて頂きます。さようなら。
銃口を茂みに向け引き金を引く。短い間隔で銃声が3回とほぼ同時に眼前のディスプレイに映し出されていた人型の頭が無くなった。いやあ〜あの映画の通りに3点バーストなんて製作者はわかってんなあ。
ちなみに実際のプロットガンは3点バースト機構が付けられなくて演者のトリガー操作で頑張ってたとか何とか。
豆知識以上!!
さて、そろそろ銃のエネルギーが切れるな。武器管理画面に目をやると残り後三発と表示されていた。
よし!!エネルギーパックを交換してしまおう。
やる事は現代の銃と同じ。マガジンを交換するのと何ら変わりない。
銃に付いているエネルギーパックを外すボタンを押して取り出し、新しいパックに交換するだけ。
「サテラ、新しいパックを」
「レディ」
ボタンを押すと重力でパックが地面に落ちて行くが、途中にストレージ画面が現れパックは吸い込まれて行った。
と同時に俺の左手に新しいパックがいつの間にか握られている。う〜ん。いつも突然なんだよねえ。仕組みもう考えても仕様がないので頭空っぽで行きます。
さっさと右手に握られている銃にエネルギーパックを収納する。
「左後方より高速で接近するものあり!!」
いきなりの警報に驚くが、歴戦の戦士の身体が未熟な俺をカバーしてくれている様ですぐにディスプレイで確認する事ができたがそんな必要はもう無いみたいだ。
だって、もう数メートル前にいるんだもん。コイツめ!!出来るだけ体勢を低くして接近してきやがった!!
小汚い格好に似合わない鋭い目を持ったボス野郎だ!!
現状のセンサーでは低い場所を感知しにくい事を知ってか知らずかこんチキショーめ!!
急いで銃を向けるが、奴の剣撃の方が早く銃を持っている右手を払われてしまった。
撃ち上がる右手と弾き飛ばされた銃。まずい!!俺の横には救出対象!!あちらにとっては抹殺対象!!
あっちの武装は右手にショートソード!!左手にナイフときたもんだ!!そんで俺の銃を弾き飛ばすために右手は使ったから残りはナイフ。このままじゃ横をすり抜けられて、お嬢さん!!お姉さんごとサックりと逝かれてしまうではないか!!
いかーん!!
こうなったらヌルゲーマー必殺!!ギアの防御力にあかせて接近戦で何とかするだー!!
この間1ミリ秒!!宇宙刑事の変身時間張りの高速決断!!ギアのパワーを使い強制的に体勢を立て直しボスに抱き付きに行く。
「おりゃああああ!!やらせはせんぞおぉぉぉぉ!!」
「ちぃ!!」
いきなり全身真っ黒な鎧が掴み掛かってくるのはなかなかの恐怖であろう。ボスは俺のハグをギリ避けし、咄嗟に左手のナイフを俺の脇腹あたりの稼働部の隙間に突き刺したのはいいがまあ通らないよね。オレが完全に障害物となり目標の殺害ができないと判断したのであろう、そのままナイフを捨て体勢を立て直し走り抜けていった。
「引くぞ!!」
ボスの掛け声で、生き残った山賊達が一斉に後退していった。よくある物語じゃ手下の一人ぐらいがまだターゲットを殺してねえとか口答えしたりするもんだが、そんなもんは無くサッと居なくなってしまった。
「随分と鮮やかな引き際じゃないの⋯トップの言う事にゃ絶対服従⋯山賊というよりまるで軍人だな⋯サテラ念の為に周辺のスキャンを」
「半径100メートルに反応なし。木々が障害物になっているはずなのに随分と逃げ足が早いですね」
「そんだけ慣れてるって事だろ?嫌だねえ⋯全く⋯おっと。お嬢さん方、もう頭あげて大丈夫だよ。」
お嬢様に覆い被さるように身を伏せていたお姉さんに声をかけるとゆっくり顔を上げ俺の方を見る。
その顔はやや緊張した趣であった。致し方無い。山賊の次は真っ黒い奴だもん。
「ああ、騎士様ありがとうございます⋯何とお礼を言ったらよいか⋯」
「俺騎士じゃ無いんだが⋯まあそれは良いとしてそちらのお嬢さんの様子はどうです?」
「はい、余りにもショックが大きかったのだと思います。ただ怪我が無くて本当に良かった⋯」
涙をうっすら浮かべてお嬢さんが無事である事を喜んでいるお姉さん。いやいや良い光景だ。
対象にちょっと女の子にさせるには可哀想な白目むいた表情で倒れられていらっしゃるお嬢さん。原因は山賊と俺のやっつけ方です。てへ。しかしこのお嬢さんの表情⋯どこかで見たことあるような⋯。
あ!!動画投稿サイトにあった宇宙人解剖フィルムの宇宙人の表情!!宇宙人のコンタクトレンズが外されたと時の白眼とポカンと開いた口が何ともそっくりではないか!!合点がいったね!!
ってそんな事は今はどうでも良い!!お嬢さんが目覚めん事にはなあ。
「おーい!!おーい!!」
なにやら上の方から声が聞こえる。声の方向に振り向くとそこには監督改めルゥシエルさんが手を振っているじゃあありませんか。すいません。忘れてました。
「終わったみたいやなあ〜兄さんウチも降ろして〜」
「あーい!!今行きまーす」
「それとなあ・・・」
おっ?なんだ?何かあるのか?まだ何か問題が!?
「オッチャン大丈夫?生きてる?」
あ⋯⋯もう一人被害者がいるの忘れてた⋯⋯俺⋯物忘れ激しすぎん?