取調室のカツ丼文化はいつ頃出来たものなのだろう?その2
森を抜け空を見上げると薄明が地平線を黒く映し出し、弱光が星空を侵食し始めグラデーションを作り上げている。
ああ、美しい⋯。死体⋯⋯担いでるけど。
とぼとぼ歩き結局お屋敷に着いたのは日が登り街の住民達が活動を始める朝飯時だった。
いやいや、道順に沿って歩くと意外と遠かった。屋根伝いショートカットを使いたいと何度思った事か。
ラズールのお屋敷に着くと臨時で門番をしていた使用人が俺を確認し門を開けてくれた。
しかしこのお屋敷、常駐の門番を置いていないみたいなんだよなあ。ここいら辺の治安がいいからだろうか?
それにお屋敷の規模の割に使用人の人数が少ない気もする。何故だ?
正面玄関付近に着くとアルベルトさんとお嬢様が出迎えてくれたがあと一名はどこへ行った!?
「お戻りになられましたな。守備隊に使いの者を走らせておりますので彼等がこちらに来るまで中でお休みになって下さい」
「イルマ様、お疲れ様です。すぐにお茶と軽食を用意致しますわ。さあさ、中へ」
お嬢様とアルベルトさんに誘われ屋敷へと入る。ロビーに入ると遺体袋を床に下す。
「イルマ様、この中に?」
「ええ、賊の亡骸が入っています」
「分かりました。ではこちらを守備隊に引き渡します」
遺体を担ぎあげ何処かへと持ってゆくアルベルトさんを見送るとお嬢様が一階玄関ロビーすぐ横にあるサロンより俺を呼んだ。
「イルマ様〜、こちらですよ〜」
ギアでサロンに入るのは不粋と頭に過ぎり武装を解く事にする。
「ギアアウト」
「レディ」
サテラの声と共にギアがどこぞへと収納され肌が外気に触れる。と同時に俺の着ていた服がもっと無粋であった事に気付く。
「あらまあ!?」
お嬢様の少し驚いた声と興味津々な熱い眼に自分の姿を改めて見るとTシャツ短パン裸足であった。
「あ⋯ちょっと⋯失礼します」
俺はそう言うと玄関ロビーにある物陰に隠れどうにか体裁を整えようとサテラに小声で相談する。
「やっちゃったよ!!どうする!?うら若き乙女の前で下着晒しちゃったよ!!」
「う〜んそうですねえ⋯軽く見ても死刑ですかねぇ〜?」
「そうかあ⋯⋯死刑かあ⋯なんとか回避出来ないもんかねえ?」
「そうですねえ⋯取り敢えずルビー嬢をお待たせする訳にもいきませんから服装を整えますかね。こちらで適当に選びますので少々お待ちを」
そう言ってポンと出てきたのは俺の体型にあった細身のワイシャツにこれまた細身のスラックス。無難なデザインのベルトに地味な色の靴下。それとソールの交換ができなさそうな中途半端な値段に見える革靴。それと何を思ったかループタイまで出してきた。
これでzomahon.co.jpで大体金貨2枚分が飛んでったそうな。
出された服に着替え再びサロンに戻る。おろしたての革靴のなんと歩きづらい事か。
それに服とサイバーなデザインのグラスが絶妙に合わん事よ。
「いや、お見苦しい物をお見せしました⋯」
「あ⋯いえ、父以外の男性の下着姿など見た事なかったもので⋯こちらも狼狽えてしまい⋯って私何言っているのでしょう!?恥ずかしい⋯」
狼狽えてたかあ?ガン見していた気もするが⋯まあそこは突っ込むべきところではない。
「あ⋯いえ、こちらこそ申し訳ない」
「ええ、ああ⋯こちらこそ⋯⋯ではこちらへ」
気まずい空気が流れる中、赤い顔したお嬢様が席まで案内してくれた。
席に着くと彼女はベルを鳴らす。すると恐らく扉の向こうでスタンばっていたであろうアメリアさんがサンドイッチやスコーン、フルーツや紅茶をワゴンに乗せ席まで運んできた。彼女の眼元が赤くなっていたのは泣き腫らしたのであろう。
テーブルの上にそれらを並べるとなかなか壮観。お茶を注ごうとしたアメリアさんに私がやるわと言いお嬢様自らカップに紅茶を注ぐ。
「ミルクはお入れいたしますか?」
「はい。お願いします」
彼女は紅茶ポット横に添えられていたミルクピッチャーを手に取りカップの中に注いだ。
ピッチャーから注がれる白い液体は少々の粘度が確認される。むむ!?これは一般的な牛乳ではなく生クリームか!?コスト的に一般家庭では無理なや〜つですな!!
「どうぞ」
美しい陶磁器製のソーサーに乗せられた香り高い紅茶の入ったこれまた美しきティーカップが俺の前に置かれる。あったかいですよ〜っと言わんばかりに薄く湯気が立っているのが見える。
「では⋯いただきます」
ソーサーを手に取りカップのハンドルを片手に紅茶を口に含むとまず暖かさが感じられ、次にミルクのまろやかさと甘さ、そして紅茶の風味が舌に広がり香りは鼻腔を通り抜けなんとも言えない満足感を俺に与えた。
なんと言う事か⋯たった一口で⋯これがお高い紅茶の威力なのか。




