実況できる奴は頭と口が直接つながってるに違いない。
けたたましい音ととも横転し、横滑りしながら我が眼下でストップする馬車。厄介事が文字通り滑り込んできました。物凄いジャストな位置に止まるでねーか!!
山賊グループは馬車に意識を集中しているみたいなので幸いにもこちらには気づいていない様だ。
ここからは実況風にお送りしよう⋯⋯。誰にだ!?
さあて追いつきまするは山賊御一行!!確認できる人数は9人也。そのうち2人が弓矢使いで伏兵として馬車の左右にある木の上に配置。
そして残りの人員は馬車を取り囲むフォーメーションだ。横転している馬車の扉にアクセスしやすい屋根側に3人。その後ろにこの集団のボスらしき男が偉そうにつったっています。
さらに乗員が逃げにくい車輪側は2人を配置。残り1人は斥候として馬車に近づいていったー!!
そしてなんと身軽に馬車に登って行くではありませんか。
まさに動物園の猿山の若き雄がおやつのさつまいもを目指すが如く実に素早い動きです。
さあ真横になった馬車の扉に手を掛けたぞ。
実に乱暴にまるで床下収納をあける様に扉をあけたー!!
その勢いでは普通の床下収納では壊れてしまうだろう!!
しかしそこは異世界製の馬車!!壊れません。丈夫です!
さあゲスい顔した山賊が扉の中を覗いた。
一体中に何があるのか?荷馬車では無いので物では無いだろうから
人でしょう。貴族かはたまた金持ちか。それとも一般ピーポーか?
一般人だったら実入りは少なそうだ。
もし綺麗なお嬢さんだったら大変な事が起きる予感がします。
おっと!?
扉の中から何かが勢いよく飛び出し、山賊を吹き飛ばした!!
馬車から転がり落ちる山賊!!一体何が起きたのか?
録画データをスローで見てみましょう。
なんと!?
山賊が扉を開けた瞬間。燕尾服を着た初老の紳士が拳を突き立てて龍が天に昇るが如く舞い上がり、山賊をぶっ飛ばしていたではありませんか。これは凄い。まさに昇龍!今では出掛かり無敵だが、初代は上昇中ずっと無敵だったと古の書で読んだ記憶があるあの伝説の必殺技の様です。
さあ山賊をぶっ飛ばした紳士、馬車上から何やら言うております。
此処からではよく聞こえないのでセンサーで拾ってみましょう。
「この薄汚い山賊どもめ!!お嬢様には指一本触れさせん!!」
おおっと!!中にはお嬢様が乗っている様だ。
これは熱い!!女を守る戦い!!まさに男が憧れるシチュエーション!!この燃える闘魂を持つ紳士はお嬢様を守り切れるか!?
今戦いのゴングが鳴ります!
さあ紳士、馬車上から勢いよく飛び降り眼下の3人+ボス目掛けて飛び蹴りをかました!!
あまりの速さに3人の真ん中1人がダイレクトに蹴りを受けたぞお。
これは効いた!!革鎧の上からでもこれは痛い!!
そして余りの勢いに吹っ飛んだあー!!これは起き上がれない。
左右の2人が距離を取るべく飛び退こうとするも、先に紳士の拳が2人の顔面にヒット。これも良い角度で入ったあ!
紳士凄いです。縮地です。目にも止まらぬ早技で距離を無視して拳を叩き込んだあ!
喰らった2人は顔を押さえて悶え苦しんでいるぞ。実に速い!!
実に鮮やか。
相手に武器を抜かす隙すら与えない素晴らしい徒手空拳!!
これは行けるかあ!?勝てるかあ!?
男の夢を成就できるかあ!?
とここで、山賊ボスが何やら合図を出した〜!!
車輪側に待機していた2人が剣を抜いて紳士に向かってきたぞお。
まさに殺意の塊!!剣が鈍い光を放っております。
剣の種類はショートソードです。恐らく機動性を重視しているのでしょう。防具も金属製は装備しておらず革製を使用しているあたり
攻撃力よりスピード、失敗したら即離脱。実に合理的です。
さあ素手でどこまで戦えるか!?紳士、手甲なぞ装備していないぞ。刃を受ける事はできない!!受けたらそこあるのは死!!
2人が剣を振りかぶって猛ダッシュでやってきたー!!
しかし無視だあ!!追いかけてくる2人を無視してボスに攻撃を仕掛けた!!速い!まさに縮地!まるで音速を越えんばかりの拳撃がボスに向かっています。
あーっと!ボス、避けました!これは凄い!
あのスピードで迫る拳を最少の動きで避けました。何という事だ。
伊達にゴロ付きを束ねている訳では無い。強くなければ荒くれ者共を御せはしない。かなりの実力を備えている事がわかります。
ここでボスが剣を抜いた!!
紳士は斬られまいと距離を取ります。しかし後方から追い付いた山賊が紳士に襲いかかります!さあどうする紳士?
「さて、どのタイミングで介入するのが最良どうしょうか?」
「そうやねぇ〜。やっぱ最大限恩を売るためにはお嬢様の危機にびしっと助けるのが1番ええと思うわぁ。でもその場合おじさんに負けてもらんとあかんしなあ」
「そうですね。死なない程度に撃破されるのを希望します」
おーと、隣で何やら女性陣、怖い事を言っております。
そして介入するのは私で間違い無いでしょう!
なんという事だ、私不在で話が進んでおります。これは実に恐ろしい。
等と自分の心配をしているうちに紳士がボスと山賊2人に囲まれた!と思った瞬間ボス以外吹っ飛んだー!
やはり紳士強い。このままでは女性陣の目論みが外れてしまいます。紳士的にはそちらが良いと思うが、こちらの事情も考えろと人道に劣る考えが頭をよぎります。遂に私も隣に毒されたか?
いやいや、ここは紳士に勝って頂きワタクシの働きは横転した馬車を起こすくらいにして頂きたい。
あーっと!!ここでボスが紳士に切りかかった~!!彼の剣捌きは実に見事なものです。
早くて正確!!剣の軌跡が実に美しい!!電光石火とはまさにこの事を言うのでしょう!!知らんけど!!彼は本当に山賊のボスでありましょうか?実は名のある剣士なのではないでしょうか?
この華麗な動きは、あのTHE山賊という風体からは想像もできません。一見髭面で家なき大人と呼べるような恰好をしていますが実に凛々しい顔をしております。家なき子はかわいそうですが、家なき大人は痛々しくて見ていられません。
おーっと!?この猛襲に紳士も後退をせざる得ないようです。しかし紳士も大したものです!!
この物凄い早い剣をよけるよける。まるで相手のパンチを軽々よけるボクサーの様です。華麗なステップと上半身の捌きで刃の一つもかすりもしません!!しかしボクサーとの違いは相手は拳ではなく剣です。ガードなどしようものなら、そのままバッサリいかれてしまいます。反撃しようにも拳より剣の方がリーチがあるのは明白!!どうする紳士!?
「馬車より右後方の樹木上より射出物あり」
サテラさんが何かつぶやきましたが⋯⋯おーっとどうした事だー?紳士が体勢を崩したぞ!!いったい何があったー!!これは非常にまずい!!達人同士の戦いでは少しの隙が命取りです!!
もちろんボスが見逃すはずがありません!!ボス踏み込みます!!
「ぬわーーーー!!」
「あらら、やられてもうた⋯」
なんとも言えない乾いた感想をありがとうございますルゥシエルさん。
そして悲痛な叫び声と共に袈裟斬りが決まったー!!これはまずい!!これは致命的だー!!
紳士の断末魔が辺りに轟きます!!倒れてしまったー!!
肩から胸にかけて一直線に斬られました。どうした紳士?先程まではキレッキレのムーブをかましておりましたが・・・一体どうしたのでしょうか?サテラさん。
「先程申しました様に、木の上から矢が打たれました。目標は燕尾服の男ではなく男の足元の様です。どうやら剣の男のためにわざわざ隙を作りたかったのでしょう。足の動きを予測して撃ち込み、矢を踏むように持っていくとは・・・弾道計算機も無いのにたいしたものですね。なぜ燕尾服の男を直接狙わなかったのかは疑問ですが」
「それはあれや!!達人に殺気を向けた矢を放ったら避けられてまうからちがう!?何かの本で読んだことあるえ!!」
ははは・・・私は一般人ゆえ全くと言って良いほど見えませんでしたが、センサーはしっかり捉えておりました。わたしのギアはたいしたものです。
さて紳士、胸部から血を流して仰向けで白目を剥いて倒れてしまいました。この後一体どうなってしまうのでしょうか?
んーー。まあお決まりのパターンですよね。
ここからが地獄の始まりよ!
「ちっ!!手間取らせやがって⋯おい!!何時まで寝てやがるんだ!!さっさと起きて仕事終わらせんぞ」
さあボスが紳士にのされた部下達に檄を飛ばしています。其処ら辺に転がっている愚鈍達は起き上がることが出来るでしょうか!!
「いつつつ⋯くっそう⋯ジジイだと思って油断したぜ⋯」
「いってえなあ⋯くそ⋯」
「野郎⋯ぶっ殺してやる!!」
起きあがっております!!結構いいパンチもらっていましたが、全員起き上がっております!!
流石、山賊アウトロー!!伊達に長期間風呂に入っていないだけあります!!実にタフです!!
その中の一人が紳士に近づいてゆきます!!これは止めを刺そうというのか!!もうワタクシ飛び出さなきゃいかんのではないでしょうか?
「瀕死の狸など放っておけ!!どうせ勝手に死ぬ。それよりさっさと目標を確保しろ!!」
「へい⋯」
ボスに怒鳴られ紳士殺害をあきらめた部下二人が馬車に向かって行きます。いったい馬車の中にはお嬢様がいるのでしょうか?そして今、暴漢が横転した馬車のドアを開けました!!
「隊長!!女が二人いますぜ。一人はガキだ!!」
「確認する。ここに引っ張ってこい!!」
「ヘイ」
突入要員の一人がショートソードからナイフに武装をチェンジしました。これは狭い馬車内用の対応でしょう。ショートといえどソードはソード。狭い中では扱いにくい事この上ないでしょう!!
ナイフを構え馬車に飛び込んでゆきました!!と同時に若い女性の悲鳴が聞こえます!!
「⋯ちか⋯な⋯」
なにやら馬車内から声が聞こえますが遮蔽物がある故良く聞こえません!!
とここで馬車から女性が出てきました!!年の頃は十代後半から二十代前半といったところでしょうか!?どうやら、突入した男に指示されて出てきたようです。すぐに待ちかまえていた山賊に取り押さえられました。これは恐らくもう一人いるだろう女性を人質に取られたのでしょう!!
さすが山賊!!やる事が汚い!!悪人ムーブも冴えております!!
と、残りの一人も男に肩で抱えられ出てきました!!見た目十代前半の年端もいかぬ少女の様です。
二人ともボスの前に座らされました!!髪を引っ張られて顔を強制的に上げられています!!
実に痛そうです!!ワタクシがやられたら禿げてしまうかもしれません。怖いですねー恐ろしいですねー。
「あなた達!!こんな事をして許されると思うの!!」
お姉さんの方がボスに食って掛かっております!!むさくて怖いおっさんに囲まれているのに実に気丈です。勇気があります!!がんばれお姉さん!!
一方、少女の顔は真っ青です。恐怖により硬直しております!
「あちらさんのご要望は娘の殺害だったな⋯。よし確認した。殺せ」
おーっとボス!!お姉さんを無視しました!!お姉さんのにらみ顔もボスにはどこ吹く風!!全く効いておりません!!隣の少女の顔は真っ青です!!
「隊長。殺す前に少し遊んでいいですかい?この頃店に行けなくて皆溜まってるんでさ」
「あー⋯。そうだな⋯終わったらちゃんと殺せよ」
おーっとボス!女に目もくれず馬車の方に歩いて行った!
どうやら積荷に興味があるようです!
目の前の女より金品。山賊とは言え経営者。金目の物を確保して内部留保の積み増しや部下達の給金が必要なのです。かなしいかな世の中金なのです!!
さて発情期真っ盛りの部下たちは久方ぶりの女にお祭り状態です。
あの⋯?ワタクシそろそろ出なくてはいけないのではないでしょうか?
このままだと色々凌辱系R18な行為が眼前に行われるのですが⋯。
ルゥシエル監督⋯動きません。いったい何を待っているのでしょうか?
ワタクシ凌辱系よりイチャラブが好きなので襲われるところ見てもうれしくないです⋯。
おっと、ここで動きがあります!!少女を取り押さえてる男以外の山賊達がお姉さんを取り囲みます。
「お嬢さんよお。そう言う訳だ。わりぃが全員の相手してもらうぜ。せいぜい壊れないように気張ってくれや」
「くっ⋯私は良い⋯お嬢様は⋯せめてお嬢様だけは助けて⋯」
「それは無理な相談だな。俺達の仕事は、そのお嬢さんの殺害だからなあ」
「雇い主は一体誰!?」
「ははっ!!冥途の土産に教えてやりたいが、俺達みたいな実行部隊に詳細が教えられる訳ねえだろ。俺達はただ与えられた仕事をこなすだけだ。その方が俺達にも雇い主にも好都合なのさ」
聞きたかった―!!詳細めっちゃ聞きたかった―!!いったいどんな陰謀が絡んでこの様な事件が起きているのか実に気になります!!あの少女の正体は何なのか?
お姉さんも少女も白地のブラウスに紺色のロングスカートを身に着けておりますが、結構いい素材でできてるっぽいですよ。差し詰め良家のお嬢様とお付きのメイドといったところでしょうか?
同じ様な服装なのは、こういう事態に備えて正体バレを分散させる為でありましょうか?
まあ同時に捕まってしまったので意味はあんまり有りそうに無いですが⋯。
さあそういっている間にも山賊に一人が何やら動き出しました。
「俺もう我慢できねえ⋯でもどうせ俺は後回しだろ⋯?だったら俺こいつでいいや」
どうやら山賊の中にもヒエラルキーがあったようです!!山賊界の陰キャと申しましょうか?いやそもそも陰キャに山賊が務まるのか?陽キャの中の陰キャという事でしょうか?もう何言ってるか自分でも訳が分かりません!!しかし、この陰キャとんでもねーこと言い出しました!!
少女の顔が恐怖でひきつっております!!
「おいおいまじかよ、こいつぁガキだぜ?」
「ガキでも穴はあるんだからできるだろ?」
おーっとここでとんでもない発言が飛び出した!!現代社会なら即お縄であります!!
いやあ、馬車襲ってる時点でお縄案件なのですが・・・・。
しかしまた山賊が何やら企んでいるようです。
「おお、そうだ。折角だからお嬢さんに素敵な見世物を用意しよう!!」
「な⋯何をするき!?」
「いやなに、お宅のお嬢様とうちの若いもんのおままごとをたっぷり鑑賞してもらおうと思ってな。そんでそれが終わったらお前の番な」
「やめろ⋯やめろー!!お嬢さまー!!」
お姉さん、必死に暴れますが汚いマッチョメンに取り押さえられており身動きが取れません!!
まずいです!!これはまずいです!!少女を取り押さえていた男が今度は羽交い絞めにして強制的に仰向けにさせました。そこに陰キャ山賊が近づいて行きます!!少女は余りにも非現実な出来事にフリーズしている様で声も出ません!!陰キャが少女のスカートに手をかけて引き裂いたー!!陰キャなのになんてパワーだ!!性欲から生み出されるパワー恐るべし!!
「いや⋯いやああああ!!アメリアァァ―ー!!」
恐怖が少女を現実に引き戻し、悲痛な叫びを出させました!!これはつらい!!
「はなせえ!!お嬢様ああああーー!!」
守るべき者を守れない絶望の叫びが響きます!!これもまたつらいです!!
「いまや!!GOや!!」
「サーイエッサー!!」
さあここで監督から出撃の命令が出ました。こんだけ様子を見といて何ですけども、何も準備していませんでした。声に反応して何も考えずに飛び出してしまいましたが、この崖を飛び降りて大丈夫なのでしょうか?ワタクシは無事に着地できますでしょうか?
ここで実況風を終わらせていただきます。
以上イルマでした。バイバイ。