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薬の糖衣を考えた人は天才

「うう⋯お腹が痛い⋯」


何やら背中で声がする⋯ってあたりまえやん!!だっておぶってますからね。

食いしん坊エルフを。一通り食べ終わって、さあ人里に行かんと歩き出してすぐに倒れましたからね。


「あたりまえだろう。すきっ腹にあんだけ突っ込めば胃もビックリするわ」


「だって~。あんな珍しいもん食べない訳にはいかんもん。兄さんのせいやでぇ、どんどん見た事も無いもん出してくるから⋯」


「苦しそうですね。胃薬を飲まれたほうが良いのでは?」


「胃薬あんの?」


「医療キットの中にはいっておりますが」


「うう⋯ホンマやったら胃薬くらい作れるのに、材料も道具も全部炭⋯しかも薬師やのに自分の体調管理もできんとは⋯ホンマ情けないなぁ~。あ~ウチは不幸やぁ~」


背中から聞こえるちょっと芝居がかった嘆きを黙らせる為にルゥをいったん背から降ろし、ストレージから胃薬とペットボトル入りの水を取り出す。光沢のある白い錠剤とカップに移し替えた水をルゥに渡す。

すると先ほどレーションに向けた好奇心旺盛な目を、今度はペットボトルと薬に向けた。


「兄さん!!その透明なの貸して!!」


「あん?ペットボトルの事か?」


水が半分くらい残っているボトルを渡すと、ルゥは不思議そうに触ったり眺めたりした。


「ほわ~この瓶、見た事もない素材でできてるわぁ~。ガラスやのうに透明で薄い、しかも軽いときた。柔軟性もあって割れる心配もない。すごいなぁ。兄さん!!これ何でできとるの?」


「石油」


「せき⋯ゆ?って何?」


「地から湧き出る黒い油で、細かい事はわからん!!サテラさん!!ご説明を!!」


「石油の何を伝えれば宜しいでしょうか?成分?それともこの黒い油を巡った人類の歴史をですか?」


「うむ!!取集がつかなくなりそうだからこの話は止そう!!つまりはそういう事だ。わかったかな?」


「まるでわからんわぁ⋯⋯う~ん。このペットボトル?といい板のショコラ―タを包んでいた銀色の紙といい、食べ物の入っていた不思議な袋といい⋯兄さんら、ほんと⋯どこからきたん⋯?」


「それはひみつです」


まあ秘密っていうか、正直に話しても絶対信じてもらえないからこういう時は黙っているのが良い。

下手にしゃべって怪しさ大爆発しても仕様が無いでしょう。

母なる青き惑星地球から来たなんて言った日にゃ突っ込まれてもどうやって説明すればいいかわからんし。


「それよりさっさと薬を飲んで飲んで。とっとと移動するぞ」


「これが薬⋯?真っ白だし生薬の匂いもしないし・⋯どうやって作ったん?」


「化学合成ですね。有効成分の構造を解析して化学的に再現した物です。生薬から成分抽出するよりも圧倒的高効率で薬品を生成する事ができ、それによってコスト削減と大量生産が可能になりより多くの人々に安価で薬品を供給する事が出来るようになりました。我々の世界を⋯失礼、国の根幹を支える大切な技術です」


お?世界を国と言い直したな。俺達はちょっと振り向いてみただけの異世界人だからな。

どこから来たのと聞かれれば、どっかの国と答えるしかなかろうて。サテラちゃん大正解!!


「化学?なにやらよーわからんわぁ⋯」


「貴女が普段行っている事の延長上の技術だと思っていただければ宜しいかと」


「普段⋯創薬の事?」


「そうです。それを突き詰めていったのモノが化学です」


「ウチでもできるん!?」


「この世界の化学がどれほど進んでいるかわかりませんので返答のしようがありませんが⋯少々お聞きしますが、錬金術はご存じですか?」


「錬金術⋯?聞いた事あるわぁ。確か石ころから金を作り出す研究だったと思うわぁ。でも成功したって例は聞いた事ないなぁ。でも鉄鉱石から製錬無しでインゴット作ったとか水を酒に変えたとかなんかあったような⋯」


「製錬無しでインゴット?なにか私達の知ってる錬金術とは違う体系のような⋯」


「魔力込めてボーンって感じらしいなぁ」


「魔力⋯?ボーン⋯?益々わかりません」


「あー君達。盛り上がってる時に悪いのだが⋯早く薬を飲め!!このままトークを続けていたら冗談ではなく日が暮れるわ!!」


つい口を挟んでしまったが、いやマジで早く飲んでお願いだから。空見上げたらわかるでしょ?

木々の間から見える空がちょっと傾き始めてるの。明るいうちに少しでも動いておきたいの。

まあ夜になっても暗視モードがあるから動けるけどさあ、護衛対象が出来たからには夜にはあんま動いたくない訳。


「ごめんなぁ、すぐ飲むわ」


そう言うと白い錠剤を口に含み、渡しておいたカップの水をグイと飲みほした。


「ふぅー⋯不思議やなぁ。全く味も匂いもせんわぁ。ウチが作った薬は苦くて飲みにくいってよう言われたのになぁ。つまりまだ改良の余地があるっちゅう事やな。この化学⋯やったっけ?には及ばんでも、もっと飲みやすう薬はできるはずや。なんかワクワクしてきたわぁ」


「それは良かったね。んじゃあ、早速出発するぞ。暗くなる前に距離を稼ぎたい」


「んじゃあ兄さん⋯ん!!」


と腕を広げて何やらアピールしている。いったい何をしているのだろう?


「何をしているのだ?早くいくぞ」


「何って?はよおぶってえなあ。ウチまだお腹痛いんえ。薬が効くまでには時間が掛かるんよ。だからなぁ?」


病人が満点の笑顔で懇願するんじゃないよ全く。ちょっとは弱った演技でも入れろい!!


「はいはいおぶりますよ。胃痛エルフに歩かせる非道な人間にゃなりたくないからな」


「ふふ、ありがとなぁ。兄さんらには感謝や」


心がこもってるかわからんお礼の言葉を受け取り、胃痛エルフをおぶって歩き出した。

あ~あ。このギアが無かったら、背中にすごいデカい奴の感触を味わえたのになあ。

でもギアが無かったら間違いなく俺死ぬしなあ⋯性と死のジレンマよ⋯。

なんて馬鹿な事を考えつつ、ただひたすら歩きますよ。

さて、道中ルゥさんの魔物避けについて教えてもらったり。へ〜森の仲間達は魔物って呼ばれているのか。どうりでおっかねえ訳だ。

んでまあ、こっちは石油と人類の歴史をなんとなく教えたり、ギアの全センサーを動員して水浴びしているルゥさんを覗こうとしたらメインカメラをオフされて、たかがメインカメラをやられるだけで何にもできん事を痛感させられたりしました。

どうやら俺はニュータイプにはなれません。

と、また3日ほど歩いて行くと断崖絶壁が立ちはだかり2人揃って

まじまじと見上げるボヤくのであった。


「高いなぁ〜⋯」


「高いねえ⋯」


「どうする〜?」


「なに、簡単ですよ。イルマが先に登って上からロープで引き上げる。もしくはルゥがイルマの背中に捕まったまま登る。実にシンプルです」


「にしちゃあちょいと高すぎはせんか?」


「ギアの能力を鑑みれば実に簡単なミッションですよ」


「んじゃあ、どっちが良い?」


選択権を持っているルゥさんに聞いてみましょう。


「え〜!!両方怖いわぁ〜!!」


ですよねえ。ロープを垂らそうが、背中に貼りつこうが彼女の握力が無くなったらデッドエンドですからねえ。

もっと安心出来る対策をせんとなあ。


「なんか、俺とルゥを固定できるハーネスとか無いの?」


「ハーネスですか!?これは失念していました。ストレージ内を検索⋯ありました。今出しますね。これでルゥをギアに固定してください」


説明書通りにガチャガチャと付けてみるとあら不思議、90年代バラエティ番組でバンジージャンプをやらされる若手女優みたいな格好をなったわ。エルフとお笑いウル○ラクイズの異色にコラボだな。

まあ、ここには逆バンジー用のクレーン等は無い訳でえ代わりに俺のギアの背中部にある固定具にルゥを合体!これでルゥの握力を心配せずに崖を登れるのである。

はたから見れば親子亀の甲羅干し!!さあいざ参らん!!


「さあ、いくでぇ!!黒鉄の城発進やぁ!!」


「俺は、スーパーロボットでじゃねえぞ!!どこでそんな言葉おぼえた!?」


「黒い大きな背中見とったら、ふっと思い付いたえ。なあなあ、スーパーロボットってなに?」


ああ余計な事言ってしまったわあ!!まあ登りながら説明しますか、余裕があれば・・・・。

さて、止せばいいのにセンサーで大まかな高さを計ってみたら大体60メートルぐらいあるんだと。

今からここ登るんだぞ。もう怖いわ。でも登んなきゃ前に進めないんで登りますけど。


とりあえずサテラが示した掴まれそうな個所を頼りに登ってみましたが、さすが未来兵器。

スイスイと登れるではありませんか。これなら60メートル何かすぐじゃ。びびって損したわあ。

もう先ほどのスーパーロボットについても答えちゃうよ!!

サテラの指示通りのルートを進み、ルゥの質問に答えながら危なげなく頂上付近まで到着。

ビバ未来テクノロジー!!


「ふわー兄さんの国にはそんなすごいもんがあるん?」


「いや、想像上のもので実在はしてないんだけど手は飛びます」


「想像力豊かやねぇ。こっちにも似たようなもんでゴーレムとかあるけど手は飛ばんわぁ」


「さて頂上に到着だ」


断崖絶壁を登り切りあらためて忌まわしき森を振り返るとそこはもう絶景であった。

眼下に広がるのは、あの一週間近くひたすらデッドオアアライブを繰り返してきたまっくら森が水平線の向こうまで広がっていた。俺達はいったいどれくらい歩いてきたのであろうか?どれくらいの魔物を狩ってきたであろうか?ストレージ内には屠ってきた魔物がちょいとした産廃業者が積み上げた土砂くらいあるがね。サテラに何か考えがあるらしく取ってあるのだが⋯なんだろう?


「すごい眺めやなぁ~。兄さん見てみい。この崖、あの森を遮る壁みたいにずっと続いてるえ。すごいなぁ。あ、降ろしてもらってええ?」


といって、ハーネスを外し俺の背中から降りると登ってきたクソ森崖と反対方向へ好奇心MAXのウキウキ顔で走っていった。余程先が気になるらしい。

そんな彼女を見送り、あらためて景色を眺めてみるとなんかすげーのな。


「しかし、こりゃまいったね。やっぱ地球じゃない事を思い知らされるよ」


「そうですね。ストレージ内の怪物を調べてみても、地球に生息する動物とは似て非なる物ばかりです。この風景もグランドキャニオンやグレートリフトバレーを彷彿とさせますが⋯あくまで現在得られた情報からの推測ですが地球上の地図に存在しない地形ですし・・・」


「そうなんだ⋯やっぱり」


「UAVが動かせる様になったら、一度大まかな地図を作る必要がありますね」


「そういうのあんの⋯?まあ、任せるよ。できるようになったらやっちゃって」


「了解です」


近い将来やる事の打ち合わせを終え、この圧倒的景色をぼーっと見ているとルゥの呼ぶ声がした。


「おに〜さ〜ん!!サッちゃ〜ん!!ちょっと来てくれへん。大発見やあ!!」


「サッちゃんとは私の事っでしょうか?」


「でしょうね」


声のする方に小走りで行くとルゥが四つん這いになって下を向いていた。その先はまたまた崖になっており

その高さは先ほどの断崖絶壁に比べると低いもんであるが、20メートルぐらいかな〜?

まあそんくらい。そんで重要なのが崖の下にあるもの。


「道だ⋯」


アスファルトが敷いてある訳でも無く、石畳がある訳でも無く、ただ乾いた土が露出した簡素なモノだが

明らかに人の手が入っている。崖に沿って森が切り拓かれた感じだ。


「そう道や!!これを行けば街があるかは知らんけど、人家はきっとあるわあ!!あの森抜けたえ!!」


「やったー!!これで命の危険が減ったー!!ばんざーい!!」


「あの、サッちゃんって何ですか?」


サテラの問いを無視し二人でワッチャワッチャしていたら、何やら道の向こうから騒がしい音が・・・・。

センサーで凝視してみると、馬車が猛スピードでこちらにやってくるじゃありませんか。しかも馬車の後方には

馬に乗った世紀末では無く、中世風ヒャッハー系男子が全力で追っかけてる光景が!!


これは⋯もしかして襲われてる?


「ルゥ⋯あれ⋯」


音がする方向を指差しルゥに意見をですな⋯。


「何?⋯あれま!!」


ルゥの驚く声と同時にヒャッハー達が放った矢が御者と二頭の馬にヒット!!馬車から放り出される御者に倒れ込む馬達

その勢いで横転する馬車。ヒャッハー達の矢の腕は実に大したものだ。きっと名のあるヒャッハーに違いない。

ただ、その横転した馬車がなんで俺達の下で止まるかね!?おかげで身を伏せて隠れなくちゃならんではないか!!


「山賊襲われるなんて不運やねぇ〜。兄さんどうする?」


さてどうしよう?

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