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森の住人はゲームのように優しくはない。

知ってるかい?文明は大体川岸で起こるんだぜ。

という訳でサテラ教官にしごかれながら川下へ歩く事三日。基本的初心者ムーヴを一通りやりました。

次々と現れる森のアニマルたちにGALM556カービンを使いエネルギー弾をぶち込むのだが、冷静な対応ができずトリガーひきっぱで

あっという間の弾切れ。火薬で弾を打ち出す俺世界の銃に比べれば反動は少ないものの見事に腕を持っていかれて四方八方に弾が飛んで行き目標は無傷。エネルギーカートリッジ交換に手惑い、相手の接近を許し逃走。

結局被弾上等、接近戦でひとチョップデストロイ。生身だったら確実に死んでいる戦い方である。

しかしなんでこの森の住人達はこっち見たら即おそってくるかな?

普通はあっちも警戒して止まるもんでしょ。


「いい加減慣れてください。三日もあれば賢い犬ならば芸の一つでも覚える頃ですよ」


いちいち神経逆なでするAIですなコノヤロウ。こっちだって好きで下手くそやってんじゃないんだよ!!


「わかってるって、知識はあんの!!知識は!!でも身体が動かんの!!意識と身体が合ってないの!!どうすれば良いかはわかってんの!!でも恐怖が知識を塗りつぶすの!!頭真っ白になるの!!ちょっと前まで平和な世界で暮らしてきた人間がいきなり銃を持たされてでっけえアニマルと戦えって言われたって出来る訳ないでしょ!!」


ご存じの通り、この身体は俺の身体じゃない。サテラの世界のイルマ軍曹の身体だ。

その中に入ってしまった俺は軍曹の知識を使える訳だが、どこにでも居るようなペーペー野郎がいくら知識を持った所ですぐに使えるはずなかろうて。経験に勝るもの無し。


「それはわかっていますが、やらなければあなたは死にます」


「はいわかってますよ!!死にたくないのでやりますよ。くそう⋯何時になったらこの森ぬけられるんだよ。いい加減寝たいよ。」


先ほど三日歩いてると申しましたが、マジで三日歩いております。

ギアの機能でフィジカルアシスト機能というものがありまして、一週間は寝ずに行動できるという非人道的な機能がついている仕様になっておりまして。まさに今使われている訳であります。

確かに一日でも早くこの森を抜けたいが、寝たいよ。眠たくないけど寝たい。

やはり精神衛生上よくない。もっと人間らしく生きたい。などと余計な事を考えていると警報と共にレーダー画面に大型動物らしき影を捉える。


「また熊か?それとも猪か?鹿でしたなんて無いだろうな?」


この森の動物達はバリエーションと凶暴性が豊かで、いったい何匹殺したかわかんねー数になっている。

全部ストレージに入れてるから後で見てみるのも良いかもな。

そんなこと考えられるようになってるのは少しは慣れてきたからであろうか。


「ライブラリーに該当する物体無し。新しいレーダー反応です。気を付けてください」


「了解」


慣れてきた時が一番危ない。新人会社員時代の苦い経験が頭をよぎる。

カートリッジのエネルギー残量を確かめ、相手に気取られないよう慎重に近づく。

こういう時ステルス機能とかあれば良いのだけれど、今のところソルデウスにはそういった機能は見つかっておりませんとの事。叶うのならばみつかって。

抜き差し差し足忍び足を実践するとは思わなんだ、そこいらじゅうに生えている木の幹の陰に隠れつつ目標に接近する。レーダー画面を再び確認すると、なにやら別の反応が目標前方に発現した。


「目標前方にライブラリー未登録の新たな物体を検出。目視による確認をしてください」


軍曹の記憶にあった了解のジェスチャーをする。こういう時声を出しちゃダメなのだ。

なんか特殊部隊になったみたいで俺カッコいい~。と、ふと思ったが悦に浸ってる場合では無い。

この鬱蒼とした大森林では、樹木が邪魔をしてギアの望遠機能をうまく使うことができない。

己の足で至近距離まで近づかないと目視は不可能だがギアというモノは大したものだ。

素人の俺でも目標の息遣いが感じられるぐらい距離に近づくことができた。


さて(やっこ)さん、どんな姿をしているのかいなと。

物陰からゆっくりと顔を出す。ほんとはカメラとか鏡とかあればより安全なんだけど、今無いから仕様が無いのです。


「恐竜⋯?」


つい口からポロリと素直な感想が出てしまった。正確に言えばでっけえトカゲである。しかも日本にいるような可愛い感じの奴ではなく、砂漠とかジャングルにいそうな厳つい奴である。

身体には立派な鱗と棘があり、見ている此方に無言の威嚇をしてくる。

第一目標確認完了。さあてと、第二目標は・・・・?

視線を奴が歩いている方向に向けると、何と、人が倒れているではありませんか!!

頭まで覆っているマントに包まれて顔は見えないが、靴が見えるので間違いなく人だ。


「ああ、倒れていたのでセンサーに引っ掛かり辛かったのですね」


「やべえ!!あれやべえよね!!ええ!!どうする⋯?」


「救出の必要性あり。第一目標の無力化を進言します」


「ああ、そうだ!!助けないと。あの鱗⋯ぶち抜けるか?(こいつ)が効きますように」


AI(わたし)による、射撃補正を起動します。救出対象を危険に晒す訳にはいきません」


「はいはい。ワタクシのクソエイムじゃ危険ですからねえ!!ちきしょー!!」


ぶー垂れながら銃を構えつつ目標に向かって飛び出してゆく。

幸いな事にトカゲの後方に陣取れたお陰で、気付かれる事なく背中?を取る事ができた。

さて駆除方法だが、正直急所が何処にあるかわからん。心臓に一撃入れられれば良いのだけれど、トカゲの身体構造など俺は知らんしサテラも知らない。今から検索かけるかあ?とも思ったが地球のトカゲと同じ構造をしているとは限らない。と言う訳で、万物共通ど頭を狙うのが一番クレバー。

どんな生き物でも脳をやられれば捕食行動は止まるだろう。

まあ、爬虫類とか身体と頭がオサラバしても動き続ける事もざらだから弾を頭に撃ち込んだら、救出対象を抱えて即離脱と洒落こみます事よ!!さあうまくやれよ俺!!


「とう!!」


トカゲの背に乗るためにジャンプすると同時につい声が出てしまった。勢い着ける為には声出し重要。

その声に反応してトカゲが後ろを向いた。フハハハハ!!もう遅いぞ爬虫類!!

トカゲの背中を踏み台に再びジャンプ。上方から奴の両目中央やや後方部分に狙いを定めトリガーを引く。射撃補正のおかげでブレも少なく集弾性も良好なり。心配だった銃の威力も杞憂だった。

トカゲの薄っぺらい頭を貫通し、地面に穴を掘るほどだったのには驚いた。未来兵器スッゲ。


「おーし!!やったあ」


マジで自分の描いた通りの出来に思わず大声を出すが、喜びのあまり着地の事を失念してしまい頭からダイブ。無様な転がり方がカッコ悪いったらありゃしないが、幸運にも救出対象の近くに転がることが出来た。銃はちゃんと持ってるな。よし!!

即体勢を立て直し、横に転がっている救出対象を抱え、一目散にトカゲから距離を取った。


「後方カメラからの情報。目標、追跡してきません」


足を止め後ろを振り向く。本当に追ってこないな⋯。

しかも頭血出して白目向いて舌出してるし⋯死んでるのか?


「殺ったとおもうか?」


「わかりませんが、恐らく。センサーがまだ完全に機能していないので此処からだと判断がつきません。

ですので近づいて調べるしかないですね。まあソルデウスの装甲ならばひと咬みされても大丈夫でしょう」


「君ねえ⋯俺を何だと思ってるの?バケモノに殺されるより先に君に殺されそうだよ全く」


「大丈夫です。私は貴方を殺しません。貴方をちゃんと活かしてみせますよ」


「な~んか言い方がねえ⋯でもま、仕様が無い。やりますよ調べますよ」


「言い方。もっとやる気出して下さい」


「やる気出させたいんだったらもっと優しきしなさいよ。俺はねえ褒められて伸びるタイプなの」


「褒めて伸びるならそうしますよ。それはもう砂糖菓子の蜜掛けくらい甘~くしましょうか?」


サテラが悪戯っぽく艶めかしい声を出してきた。馬鹿にされてる事がありありとわかる。

実に気持ちが悪い。


「胸やけ虫歯糖尿必死じゃねえか。御免だそんなの。もっと考えなさいよ。支援AIなんでしょ?俺より頭いいんでしょ?だったらナイスな回答があるんじゃないの?」


「AIと人間の思考方法は全く違いますので、比べられても良し悪しなんてわかりませんよ。それより調べに行きますよ」


「へいへい」


抱えていた元救出対象を木に背中を持たれかけさせ座らせる。

フード付きマントで顔はよく見えないが、軽さと大きさから子供か婦女子だろう。

婦女子だったら身体にさわっちゃったじゃん!!後で痴漢容疑で訴えられませんように・・・。


「さてと、死んでろよ~」


俺は銃を構えながらゆっくりとトカゲに近づいてゆく。あちらさんに反応は無い。

ちょいと首をのばせばパックんちょされる位置まで近づいたが特に動き無し。

銃の先っちょで鼻先を突いてみるが、息をしている様子も無い。これはもう死んでんだろ。


「サテラ」


「はい、そうですね。目標の無力化を確認しました」


AIのお墨付きを得てホッとする。

しかし戦ってる時は余り意識をしない様にしていたが、あらためて見てみるとかなりデカい。

トカゲの側面に回り、厳つい鱗と棘に覆われた部分を軽く叩いてみると、まるで金属とかセラミックのような感触がした。異世界のトカゲすげえな。いったい何喰ったらこんな硬い身体になるんだ?

鱗って皮膚が変化したもんだろ?たんぱく質がこんな硬くなるのか?


「これ何でできてるんだ?硬すぎだろ」


「ぜひ調べてみたいですね」


「そうね。しかしながら、この森で会ったバケモンの中で一番デカいな。10メートルはありそうだ」


「そうですね。30フィート以上はありそうですね」


「何故いきなりヤード・ポンド法!?」


「私がアメリカ製だという事ををそろそろ忘れられてそうなので」


「忘れませんのでメートル法でお願いします」


「了解です。さて、先程来あちらにほおっておいている救出対象の状態を確認しませんと。さっさとこのトカゲをストレージに入れて下さい」


「いえすま~む⋯」


ギアの馬鹿みたいなパワーによりトンの重さはあるであろうトカゲが、軽々とストレージに吸い込まれていった。いやあ~やってる俺もいまだ現実感ねえわ。

さっきまでドテーンと横たわっていたトカゲは綺麗に片付き、そこに残されている物は血痕と俺の銃が地面にあけた弾痕と言うにはあまりにもデカい穴だった。556だから5.56mmの威力だと思っていたけど、俺の認識を改めなくてはいけないな。人に向けて撃ったらどうなる事やら。

頭に撃ったらパーンってなるんだろうなあ。パーンって。あ~やだやだ今は考えない。暗いことは考えない!!


とにかく今は人命救助!!マントの人の様子を見ねば。

とりあえず顔を見なければ状態がわからないのでフードを脱がした。

するとあんれまあ~ベッピンさんが現れたじゃありませんかあ。髪の色は白なのだけれど、お年を召した方や俺にちらほら表れていた艶消しマットな質感のしょんぼ~りしている物ではなく、絹のように艶々としたとても綺麗な髪だ。ただ土埃で少々汚れてしまっているが。

ああ俺に語彙力があればもっと良い例えが出来そうなものを⋯。

髪型は姫カットっていうの?まあそんな感じ。そんで特徴的なのは耳。長く尖がってます。


これって?あれだよな?


「え~っと。サテラ。この()は人間なのか?」


「データ不足。わかりません。外見からするに人間の様にも見えますが、明らかに人間とは違う部分が見受けられます」


「ですよね~!!明らかに違うよね。これってあのファンタジーモノによく出てくるあれじゃないの?」


「検索⋯ああ、指輪の話やどこかの島戦記等に登場するエルフという種族の事ですね」


「はいそれ!!まさかこの目で拝める日が来るとは⋯ありがたやありがたや」


両手の平をあわせ、神仏を拝む様にエルフ(仮)に祈りを捧げる。夢をかなえてくれてありがとう。


「はいはい。倒れられてる人を前に祈るなど、まるで死人を弔っているようにしか見えませんのでやめてください。それよりちゃんとアイセンサーをこの方の顔に向けてください。このままでは状態の確認ができませんよ」


「ごめんなさい」


サテラに言われて仕方なく、仕方なくだよ。仕方ないんだからね。彼女の顔をまじまじと見る。

ジーと見る。穴が開くほど見る。


「近すぎです。適切な距離を取ってください」


「ありゃ!?余りにも熱心に顔を見ていたので、いつの間にか顔を近づけていた事に気づかんかったわ!!ホントだよ。あまりにも綺麗なお顔立ちだからつい引き寄せられただけだからね。下心は無いよ。フェイスギア越しでもいい匂いがしそうとか思ってないからね」


「はいはい。わかってますよむっつりスケベ。そんな言い訳しなくてもいいのです。私はちゃんと貴方の事はわかっていますからねエロ魔人。さて、この方の顔色ですが悪くはないですね。脈をとりたいので、貴方のギアの指をこの方の手首に接触させてください」


「⋯⋯」


ただ無言でサテラの指示に従う。だけど綺麗な女子がいたらドキドキしちゃうじゃない。お顔を見ちゃうじゃない。どことは言わないがお身体の方をを見ちゃうじゃない。だって男の子だもん。

などと思いつつ彼女の手首に触れる、と弱々しい声が小さな口から洩れた。


「う⋯うう⋯」


気が付いたのか?この世界のファースト住人。いったいどんな言葉を発するのか!?

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