見て見ぬ振りと後からやってくる負債
なんというか⋯いやあ⋯気まずいですな。
お互い話しかけるチャンスをうかがっている感じになってしまっているな。
社交性強レベルそうなおっさんも何かどう出ようか迷っている感じだ⋯。
ここは、ワタクシがウィットに富んだジョークでも一発かまして会話のキッカケを作ろうではないか。
布団が吹っ飛んだ。アルミ缶の上にある蜜柑。どっちが良いだろうか?
と、人生最大の選択をしているうちにお嬢さんが少し頭を俺たちの方に下げ語りかけてくれた。
「この様な格好で失礼いたします。この度は私どもをお救い頂いて有難うございました。本当に感謝のしようもございません。私はラズール商会が頭目、エリオット・ラズールの娘、ルビー・ラズールと申します。こちらは私のメイドでアメリア、そして命を助けて頂いたのが執事長のアルベルトです」
お嬢さんを真ん中に後方左右におっさんとお姉さんが、とても綺麗な姿勢でピシッと立っておられる。
お嬢さんは暴漢に襲われたままの格好だ。破かれたスカートの布を巻き付けて、下着を隠している感じ。
「ああ、はい、ご丁寧にどうも。え〜と。私はイルマといいます。こちらに転がってるのはルゥシエルです。それと私から発せられる女性の声は、私に取り憑いている妖精でサテラです」
「兄さん、ウチの紹介の仕方雑やわあ⋯ルビーはん。よろしゅうなあ」
倒れながらも笑顔で手を振るルゥシエルさん。
「どうも初めまして。ご紹介に与りましたサテラと申します。さて。ルビー様、お着替えがあればお着替えになってはいかがですか?余り肌を晒していますと、お風邪など召しますよ」
お嬢さん、少し顔を赤らめて俯いてしまった。確かに恥ずかしいわな。
「申し訳ございません。ではお言葉に甘えて⋯アメリア」
「はい。お嬢様」
二人はおっさんを残して散らばってしまった荷物の方に歩いて行った。多分その中に着替えが入っているのだろう。
二人が木々に隠れ見えなくなった所で、おっさんがいきなり片膝ついて俺達に頭を下げた。いきなりでビックリだわあ!!
「主人の命どころか私ども使用人まで助けて頂き、お二人には感謝のしようもございません。本当に有り難うございます。しかしながら大変無礼と承知でお願い申しあげます。どうか精霊魔法を使われた事は御内密に⋯。虫の良い御願いだとは重々承知しておりますがどうか!!どうか御容赦願います!!」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。もしかしてこれって異世界式DOGEZAですか?所変われば品変わるというが⋯。
まあそれは良い。でも精霊魔法を秘密に?一体何故だろう?
「あ〜ええよええよ。気にせんといて。ちゃんとわかってるえ」
おんや〜。ルゥシエルさんもわかっていらっしゃると!?これは本格的にわかってないのは俺だけか?
いや、ポンのコツのAIさんもわかってないはずだ。一人で地獄に落ちる気はないぞえ!!お前も巻き込んでやる!!ぐへへ!!
と邪悪な事を考えてもしゃあない。素直に聞きまひょ。
「え〜っと。何で秘密なの?」
俺の発した言葉に思わず厳しい顔をするおっさん。精霊魔法で助けられた事を秘密にしたいって言ってたし。
聞き方が悪かったかなあ?もしかして脅迫とか思われちゃった?どうしましょ?
「ん?兄さん、人間なのに知らんの?まあ簡単よ。アルベルトはん。貴方、ゴルダード教の信徒やえ?そうやったら他の神様に助けられたなんて言えんわなあ」
「ゴルダード教?」
「んん?ゴルダード教知らんって、兄さんほんまに人間え?ほんま何処から来なすったん?」
異世界からゴチャっと飛ばされてきたもんだからそこら辺怪しいです。しかし、そのゴルダード教?この世界ではメジャーな宗教なの?と頭に?マークをたくさん生成した所にサテラさんのナイスアシストが。
「申し訳ありません。なにぶん我々、この地の宗教体系や文化など全くわからぬ超弩辺境からやってまいりましたので、もう何が何やらサッパリな訳であります。宜しければ、そこの所をご教授頂ければ幸いです」
「お願いしまーす!!」
サテラと俺による必殺ツープラトン!!俺を超田舎者という事にして情報を引き出すという高等テクニック?俺を踏み台に?まあ、マジの異世界から来てるから田舎モンどころじゃあなくホントに知らんからな!!
「ほえ〜。ウチの村も大概思ってたけど、上には上がいるもんやわあ。ウチが知ってる世界ってほんまに狭かったんやなあ。ああごめんな、簡単に説明するえ。ゴルダード教ってのはなあ、遥か昔天の神様から啓示を受けたゴルダードって御人が広めた教えでなあ、この地に存在する人間の国の殆どが信仰しとるえ。まあ、中には違う神様を信じている国もあるけどなあ。そんでここからが重要え。ゴルダード教の教えでは神様は啓示を与えたその方のみ、他の神など存在せず。存在してはならず。神は唯一なり。他の神を認めない一神教なんよ。その信徒が他の神様の力で治りました〜なんてゆうたら、周りの信徒からどんな目で見られるか。下手したら異端審問にかけられて折角治った怪我がまた開いてしまうかも知れんえ」
「やだあ〜邪教徒扱いで傷口リニューアルオープンって怖すぎ〜」
「と、前にウチの村に薬草買いにきた商人さんから聞いたえ」
「随分とケツの穴の小さい神様ですこと。いや、小さいのは神様ではなく広めた人間の方ですか。どんなに崇高な教えも教えられた者の勝手な解釈と権力機構に組み込まれた瞬間、ただ組織を維持する為の集金システムに成り下がるのですね。教えを真に信じている人に対しては同情を禁じ得ませんね」
「まあケツ穴など!!言葉遣いが汚い!!でもまあ宗教なんてそんなもんだよねってその教えを信じている人を前にして
発言して良い言葉ではなかったな。アルベルトさん申し訳ない」
「いえ⋯私もそれほどゴルダード教に傾倒している訳ではありませんので⋯正直貴方様方と同じ考えになる事もしばしば⋯ただ⋯」
「ただとは何でしょう?」
サテラが疑問を口にする。
「商会としては円滑な商業活動を行う為にあらゆるリスクを想定し、それを取り除かねばなりません。この度私めの命を救って頂いた事、誠に感謝の言葉もございません。しかしながら、私めの事で商会を危険に晒す事があってはならんのです!!教会に睨まれるような事があれば、教会の影響下にある国々での商売はしにくくなりましょう。例え教会に睨まれずに済んだとしても他の商会に今回の事が漏れれば、あらぬ噂を立てられる事は火をみるより明らか」
「で、我々に流布するなと⋯」
サテラが無機質な声でおっさんの問いに答える。
「はい。誠に勝手な御願いとは存じますが⋯」
「なるほどねえ⋯まあそちらの事情はわかったが⋯んで、どうする薬師さん?生殺与奪の権利は魔法をかけた君にあると思うけど?」
俺の腕の中で怠そうにぐで〜んとしてるエルフに問いかける。なんかどーでも良いような、めんどくさ〜いって感じの顔になっているな。こんな顔したエルフにタマ掴まれてるおっさんカワイソス。
「さっき言うたわぁ?気にせんといてって。誰にも言わんわぁ。商会はんを敵に回す胆力なんてウチにはないえ」
「だそうですよ。いやはや、良かったですな」
ルゥの答えに思わず顔を上げるおっさん。その顔は決して嬉しそうではなく、己の情けなさで張り裂けそうな悲しい顔であった。大人のあの様な顔は社会人としてはなるべく見たくない。
「ありがとうございます⋯」
「何か聞かれたらウチが持ってたポーションで治した事にすればええわ。山賊相手に数で押された所をウチらが助けた。こんな感じでどうやえ?」
「そうですね、それが良いのではないでしょうか?胸部に結構深めな傷を負った方が一人で山賊を追い払うのは設定的に無理がありますしね」
「は⋯ではその様に⋯」
とおっさんが答えた瞬間、俺に電撃走る!!
あ、この女ども。自分らの関与を確実になる所まで持って行きおった。おっさんに言質とったぞ。すげえな。俺にはそこまでの考えに至らんかったわ。
多分、いつも起こるような些事だったら適当に小銭渡してバイバイだろうが今回はおっさん側に負債が!!
おっさんに、何か聴かれたら今言ったことを話せと。そして我々が助けた事をバッチリ上役に話せと。
話さなかった時にはわかってるであろうな。あ〜ん!?
と、この会話の裏に隠されている事がわかってしまった!!お金持ち相手に謝礼を獲りにいく姿勢には感服せざる得ない。
恐ろしい女達だわ!!
俺の顔から黒目が無くなり、真っ白になった目の下には謎の縦線が!!まるでとある演劇少女の実力の片鱗を見たムーンシャドウティーチャーのような顔になってる俺の後方から少女の高めの声が聞こえた。嗚呼、グラスマスクの幻影が俺に幻聴を聴かせているのであろうか?⋯と余りにもふざけた考えが頭をよぎったがなんて事はない。おっさんの主人がもどってきただけである。
「今の⋯どう言う事⋯?アルベルト⋯」
随分お早いお戻りで。先程まで無惨にも破かれて、細めだがとても綺麗な御御足が露出していたスカートは、真新しいロングな物に着替えられていた。
生足魅惑の何ちゃらってのは破かれたスカートからではなく、健全且つ合法的でなくてはならないとしみじみ思いました。さっきまでのはただ痛々しいだけだ。と中二的リビドーを炸裂させていた俺を横におっさんは何やら厳しいお顔をしていた。はてどうしたのかな?
「お嬢様⋯此れには⋯」
「私は先程はっきりと聞きました⋯精霊魔法をかけていただいた事を無かった事にすると⋯死に瀕する貴方を助ける為に膨大な魔力を使い倒れてしまった方に対し、そして自分の危険を顧みず賊から私達を助けていただいた方に対し余りにも不義理ではありませんか!!その様な恥知らずな事はラズール商会の者として、頭目の娘として看過できるものではありません!!」
「お嬢様⋯もはや言い訳致しません!!お聞きになった通りです⋯⋯」
「精霊魔法の事も、教会がその様な事をしている事も私は何も知りませんでした。いかに無知蒙昧であったか⋯いつもただ漠然に神様に祈りを捧げていた私はとても恥ずかしい⋯」
「お嬢様⋯」
「父はいつも申しておりました。正道を外れるなと⋯私達が虚言を吐き、ルゥシエル様達の行いを無かった事にする⋯それは正道から外れる事⋯それは出来ません!!それに教会が説く神様の教えも正しくあれと申しておるではありませんか。であれば神様も許してくれるはずです。それに嘘を付けば父の教えに背きます。アルベルト⋯正道を外れぬ事、これは我が父の言葉です!!貴方は私だけではなく、父の言葉にも異をとなえるのですか!?」
お嬢さんに詰められおっさん苦しい顔です!!トップの名前を出された時点でおっさんに分はない。
正論はお嬢様にある。ただ、大人の世界で考えるのであればここはなあなあで行くのが一番。それに魔法かけた本人がOK出しちゃってるし。でも若くて世の汚い場所から護られている真っ直ぐなお嬢さんには納得いかん事だろう。
「お嬢様⋯アルベルトさんは商会のために⋯ひいては⋯」
お姉さんがおっさんを見かねてお嬢様に話しかけるが、完全に意固地になってるお嬢さんには火に油。
「黙ってアメリア。私は商会の娘ではなくひとりの人間として話ています」
「しかし、それは余りにも⋯」
「そうやえルビーはん。ウチは大丈夫え。魔法かけた本人が言うてるんえ。何も気にせん。だからな!!」
「そうです。精霊魔法の行使を別の事象におき替えるだけの事です。別に我々の行為を無かった事にする訳では無いのですから特に問題はないはずですよ」
「でも⋯」
正論を吐く子供に対し、一生懸命言い含めようとしている小賢しい大人の構図が出来上がりである。あ〜あ、複数の大人に言い寄られてお嬢さんもう涙目だよ。仕方ない。第24回汚い大人オリン◯ック金メダリストとしてお嬢さんに真正面からビシッと言ってやるしかあるまい!!
「ルビーお嬢さん」
「はい!?」
大きな声の返事をいだきました〜。今まで黙ってた男にいきなり声を掛けられたことで少し驚いてしまったようだ。
「まずは謝らせていただきたい!!ごめんなさい!!」
「え⋯!?なぜ⋯?なぜ貴方が⋯?」
想定されていない方角から謎の謝罪が飛んできた事に戸惑いを隠せぬお嬢さん!!そうであろう!!私は何も悪くないのだから当然である!!しかしここにいる大人の一員として悪をなさなければならないから謝るのである!!
「何故なら大人の都合で、貴方の正論を封じなければならないからです」
「え⋯?」
「お嬢さん。貴方の後ろに居る人を見てください」
お嬢さんが後ろを振り向くと、そこには哀しそうな顔をしたお姉さんが立っている。
お姉さんと目が合ったお嬢さんは何か感じ取ったようで、少し落ち着きを取り戻した様に見えた。
「アメリアさんがいますね。そして今は見えませんが、アメリアさんの後ろにも実はたくさんの人がいるのですよ。わかりますね」
「商会で働いている方々の事ですか⋯?」
「さすが聡明であられますな。そうです。その人達がいるのです。そこで、もしですよ?もし教会の息のかかったところで商売が出来なくなったとすればどうでしょうか?お話を聞くところによると教会の勢力は中々なもんと言うじゃありませんか?商会としては大打撃ですね。力を削がれた商会は規模を縮小するしかありません。つまりは⋯?」
「働いている人達を辞めさせないといけなくなる⋯」
「そうです。そして小さくなった商会は群雄割拠のこの時勢。他者に吸収されるか潰されるか⋯だいぶ乱暴な想定ですがまあ大体こんなとこでしょうかね?」
「⋯⋯」
「アルベルトさんもそこにおられるアメリアさんも正道から外れようとも、例え頭目の言葉に逆らおうとも護らねばならぬものがあるのです。執事長であられる方がなぜ何処の馬の骨ともわからん奴に首を垂れているか。この意味が貴女ならよく分かるでしょう。どうか察してあげて頂きたい・・・は余計なお世話ですな」
お嬢様の顔を見ると、大粒の涙がポロポロと大きな瞳からこぼれ落ちていた。やっぱりこの娘は頭が良い。
「アルベルト⋯アメリア⋯ごめんなさい⋯」
俯き涙をこぼす姿は、年相応の女の子に見えた。さっきまではなんか大人っぽく見えたもんだがね。
商会のお嬢さんとして色々教え込まれてるんだろうな。俺のガキの頃と比べたら、まあ実に大変そうだ。
「お嬢様、何を仰いますか!?悪いのは我々なのです!!本来ならばお嬢様が正しいのです。お嬢様のお心をお護り出来ない我々が悪いのです!!本当に申し訳ございません!!」
おっさんとお姉さんがお嬢様の前に跪き頭を下げた。しかしお嬢様は頭を横に振り、違う違うと言い出した。
「ううん。違うの。貴方達を困らせるつもりは無かったの⋯でもイルマ様のお話を聞いて⋯私も何処かはわかってはいたのだけれど⋯私の正しさを⋯我を通す事で貴方達を困らせてしまった⋯貴方達の姿を見てやっぱり違うと思ったの⋯。本当に⋯ままなりませんわね⋯」
涙を拭い、力一杯のつくり笑顔をするお嬢様。先程までの年相応さは鳴りを顰めてなんか⋯大人に見えた⋯。
見た目十二、三歳の女の子なんだけど、雰囲気が何か違うな。ほんと俺のガキの頃は何だったんだろう⋯?
さあ、気を取り直して汚い大人から最後の押し付けがましい言葉を。
「お嬢さん。貴女の言う通りこの世を生きる事はままなりません。残念な事に神様の教えや人としての正しさよりもそれに外れた事の方が生きる方法として最適解なんてのが多々あります。今回の事も、教会の権力、他商会との力関係によって貴女の正しさを通せなかった。なら通すならどうするべきか!!力をつけるのです!!他商会をもぶっちぎり教会も手を出せない位の力を!!どうせなら貴族もぶち抜いてやりましょう!!そのくらい力を付ければ貴女の正しさを押し通すことができるでしょう。私は貴女ならできると思いますがね?」
お嬢さんは少し驚いた様な顔した後、小さく吹き出し作り笑顔では無くちゃんとした笑顔になった。
「過分な評価ありがとうございます。でもそれは買い被りですわ。私にはできません。確かに権力を得ればより商売はやり易くなりましょう。でもそれは商売の本質からは離れている様な気がしてなりません。私は権力で思想やモノを押し付けるより、皆様が心より求める物を提供したいのです。皆様に寄り添い幸せになって頂く。そのお手伝いの代価として金銭を頂く。そんな商売をやっていきたいと存じます」
「うんうん。そうですか。いやあ、余計な事を言ってしまいましたな。アルベルトさん、アメリアさん、立派なお嬢さんですな」
おっさんはただただ頷きお姉さんがとても嬉しそうに
「はい!!私達の自慢のお嬢様です!!」
と笑顔で答えてくれた。いやあ、なんか知らんけど何かが解決した様でよかった!!はははは!!
「さあ、帰りましょう!!私達の街へ!!」
「はい!!お嬢様!!」
「少し宜しいですか?」
意気揚々と帰還宣言したお嬢さんにサテラが問いかける。
「街への帰還は我々にとっても願ってもない事なのですが⋯移動手段をどうするか考えないと⋯」
長らく見ないふりをしていた場所を横目でソロ〜っと見ると、横転している馬車。馬の遺体。御者に至っては矢に射抜かれた挙句、馬車の横転時の勢いでどこかに飛んでってしまい行方不明に。散らばる大荷物。ここから街への距離がどんだけあるか知らねーが、この荷物を抱えて歩くのは大変そーだ。
どうしたもんだろ?




