表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/125

始まりはいつも長え!!

最近PCを買いました。


それも俺的に結構いい奴を買いました。

まあ、ガチな人のモノに比べれば比べればオモチャみたいのモノだが

雀の涙ほどの夏ボーナス全突っ込み+貯金の一部を使い、

清水の舞台から三回転半捻りをしながら飛び降りる気持ちで買いました。


目の前に聳り立つ我がデスクトップゲーミングPCよ⋯。


「美しい⋯見よ!!このボディに沿って意味のなく光るLEDを⋯」


悦に入りどうでもいいことを呟く。


という訳でゲーミングと名のつく物を買ったわけですが、自分自身あまりゲームをする方では無い。

有名RPGに手を出したり、友人に誘われて格ゲーやらアクションゲームをぼちぼちやったりするが

特に上手いでも下手でもなく⋯。


いや⋯下手だな。


相手の行動を読む事や戦略など立てた事なく、ただ直感のみで突き進み爆死するのがいつものパターン。

同じところで同じ死に方を何度もするという鳥頭プレイに対戦している友人には呆れられていたりしたものだ。


そんな俺が何故にゲーミングPCを買ったのか?


いいゲーミングPC買っておけば、とりあえず何でもできるだろうと言われたから買っただけである。

どうだ?中々につまらない理由であろう?

ゲームができるスペックのPCを買っておけば基本的な画像編集や動画編集はできると

ITボーイと俺が勝手に呼んでいる奴が言っていたから間違い無いであろう。


3Dモデリングにも挑戦したいところだ。


しかも、高性能だから長く使えてお得感もあるし。


まあでも、せっかくゲーミングPCを手に入れたんだから一回くらいゲームを立ち上げたいと思う訳で

そんな俺におすすめなのが、世界最大のPCゲームプラットフォーム「STEAMER」である。


古今東西あらゆる世界のPCゲームが販売されているサイトなのだが、有名ゲーム会社の大作から

どこの誰が作ったのか分からない、フリー素材をかき集めて作られたクソみたいなゲームまで

幅広くラインナップがされているまさにカオスなプレイスである。


そんな中からゲームを探す訳だが、どうせ起動させるならPCの能力を思いっきり使ってみたい。

しかしそのようなゲームは大体お高いのである。

そんな時どうすれば良いのか?聡明なる紳士淑女の皆様にはもうお分かりであろう。


そう。


旧作を買うことである!!


大体一個前のゲームを探せば、何らかのセールがやってる場合もあり

90%OFFも時折見かける事ある。

そんな感じで流していると、いい感じのモノを見つけた。


超未来の世界を舞台に、地球やら宇宙空間やらスペースコロニーで

どったんばったん大騒ぎテロリストを殲滅じゃー!!

といかにもアメリカンマッチョなTPSゲームの旧作を見つけた。


題名はミッション・ギアっていうのか。なんか車の部品みたい名前だねえ。


ただよく観てみると、製作はアメリカの会社ではなく日本の会社だった。


確かに世界観やパワードスーツやキャラクターデザインなど日本人が好みそうな雰囲気だ。


(へ〜、日本の会社もこんなの作ってんだ)


FPSやTPSといえば洋物ばかりかと思っていたが日本も頑張っていたのね。

さてさてお値段は如何程にと?


「ほおお?最初から全装備&アイテム付きパッケージで2,980円とな?これは良いんでないの?」


お高いお買い物ハイテンションにより加速する独り言が実に気持ち悪い⋯。

神様が今俺を見たら間違いなく呆れていらっしゃるだろう。


掛けます冷や水?


しかしそんな東南アジアの安ホテルのシャワー程度の勢い(想像)の冷や水など今の俺には効きやせん!!

さあ、カートに入れて購入ボタンをポチるのだー!!


テンション高くマウスボタンを意味なく連打。深夜の薄暗い六畳間にクリック音がただ響く。


購入完了。ダウンロード開始⋯⋯完了。インストール完了。


光回線は早いなあっと。


「さて、始めるとしよう」


STEAMERのゲーム紹介画面から起動ボタンを押す。

さあ、魅せてくれ、俺のゲーミングPCよ。めくるめく未来世界に俺を誘ってくれ!!


ディスプレイの中はまさにフューチャーワーールドッ!!


⋯⋯⋯。


うん、まあ⋯綺麗だったね。3年前の作品だけどFHD(フルハイビジョン)リアルタイムレンダーでも十分綺麗だわ。

さて、んじゃあ始めますか。


キーボードのカーソルキーを適当にポチポチと押してみる。

キャンペーンモードにネットワークモード、オプションその他エトセトラ〜かあ。


ネットワークモードなんてヌルゲーマーが飛び込んで良いところではないし、

古いゲームだから人がいるかわからんし。


よってキャンペーンモード一択ですな。私のような平和主義者はストーリーを楽しみたいのです。

決して負けるのが悔しいからネットワークに行かないわけではないのですのよ。おほほほほ。


まあ嘘ですけど。


さあ気をとりなおして、まずは何をやるのだ?

ゲーム画面に目をやると、[名前と性別を決めてください]と表示されていた。


そりゃそうだ。名前が無いと始まらんからな。名前は大事。

エブリーチャイルドハズビュリホネームと(いにしえ)のバンドも歌ってたくらいだ。


さて、どうしようか。小洒落た名前をつけられるほどセンスが自分にあるとは思えない。

だったら地名でつけるのもいいかもしれん。


(我が故郷、埼玉県⋯サイタマかあ⋯あ⋯もう大物ヒーローに同じ名前が・・・これはいかん!!もっとこじんまりした目立たない名前を⋯)


羽生はプロスケーターが、春日部は幼稚園児が、志木はタイプな月が⋯。

あれ?埼玉縛りになってるけど、全国に広げたら収拾がつかなくなるしぃ〜。


その時、俺に電流が走る!!


(そうだ、我が住居市イルマにしよう!!なんか人の名前っぽいし違和感なさそうだし)


埼玉県の南側に入間市というベットタウンがある。

名物は隣の市の名称がついた緑茶。ご自慢は、西武池袋線の特急が停まる事。

アウトレットモールがある事。あと⋯何だ?ちなみに駅前には自転車置き場とバスロータリーしか無く、全く開けていない。


あ、ドーナッツ屋とコンビニあるわ⋯。

少し歩くと映画館もあるが・・・順調に寂れていっております。

どなたか村おこし的なアイディアがある方は、ぜひ入間市役所まで!!


名前が決まったところで、次は何とキャラをメイクせよとな?

こういうゲームでキャラメイクさせるのは珍しい。


(キャラクターメイキング⋯つまりストーリー上では主人公自身の外見や性別は語られん訳だな・・・これはあれだな。主人公は一兵士として戦場で戦うだけみたいな?そんでストーリーは主人公の思惑など関係なく、外で進んでゆくタイプと見た!!)


まあなんにせよ、やってみりゃ分かるか。


ええっと、そんで性別は男でイケメンにしよう。現実の俺がアレな感じだから、ゲームの中でくらいは

イケメンになりたい。そしてモテたい。そんなゲームじゃねーけどな。


ギャルゲーでも買えばよかったか?ちくしょーめ。


脱線してしまったが本線に復帰しよう。ではどういうイケメンになりたいか?

イケメンの種類は数あれど俺が求めるイケメンとは!?


もう心に決まっている。俺が好きなバンド。空に架かる虹のボーカル

土井八郎さんのようになりたいのである。綺麗なおっさんになりたい。


目指せ今は亡き国立競技場!!レッツメイキング!!


⋯⋯⋯。


時間かかったわあ⋯まさか自分がこんなこだわりを持ってるなんて思わんかったわ⋯。

あっちが出来ればこっちが気になり、こっちが出来ればあっちが気になり、あ〜コリャコリャと。


そんで、装備選択ね。まあねえ、どうせなら最初から最強装備で無双したい。


日々のストレスをぶつけたい。せっかくゲームやるのにサクッとやられてストレスを溜めるは

真っ平御免じゃ!!自慢ではないが俺はヌルゲーマーで飽きっぽいんだぞ!!

そんで、友人にはゲームがもったいないと呆れられるのだがな。


メインウェポンは、オーソドックスなアサルトライフルタイプでいいかな。


倉庫画面を開くと、ズラリと並ぶ銃火器や各種アイテムが眼前に現れた。


流石全装備持ち!!色々あるけど西側っぽいデザインのGALM(ガルム)556って奴でいいかな?

GALM(ガルム)762って奴もあるけど、あんまデザイン変わらないし標準威力モード時というもんの

発射可能弾数はこっちの方が多いからこっちで良いだろう。


ヌルゲーマーもとい下手くそあるあるなのだが、焦って弾を撃ちまくりすぐに弾切れ

どたま抜かれて、ハイ終了なんてザラだからな。


威力は762の方があるのはわかるのだけど、弾数を確保しておきたい。

心に微々たるでも余裕を持ちたい。


サブウェポンに適当なハンドガン、グレネードやら手榴弾など装備してと。


最後はパワードスーツを選ぶ訳だが。

このゲームの世界じゃ、AMGアドバンスト・ミッション・ギアと呼ばれていて歩兵の標準装備

という設定になっている。


戦争というものはとかく金が掛かるというが、未来世界の戦争はやべえ事になってそうだ。

しかし兵士の命は金に変えられないという訳だ。ある意味優しい世界だな。

現実では、我が国は戦争してないのに毎年数万人死んでるのになあ⋯⋯。

シティーでは自死する若者が増えていると、今朝見た新聞の端っこに載っていた。


ああ、現世(うつしよ)の虚しさよ⋯⋯。


まあ、我が現実世界の未来戦争は、超時空要塞歌姫とか猫型ロボットがなんとかしてくれるだろう。

レッツ現実逃避!!さあゲームゲームと。


今の俺のコンセプトは正に強靭!!無敵!!最強!!でありまして、それを叶えてくれる

AMGはラスボスが人間形態時に時に使用していたソルデウスというギアだ。


詳細はよくわからんけどこれにけってーい!!


選んで見るとこれがカッコイイのな。マシンの筈なのにどこか鎧を思わせるデザインに

まるで黒曜石のような質感と金色の縁取りに、これまた金の浮き彫り装飾が未来の世界観を

良い感じで狂わせている。


これ着た中の人(ラスボス)は、ナルシストか西洋鎧好きに違いない。


フェイスギアのデザインは、どこぞの初号機や勇者王を思わせるイカツイ仕様になっている。

これもよきかな。


これで一通りの準備は整った。さあ、時は来た。キャンペーンモードスタート!!


俺は久しぶりの大作ゲームに胸を踊らせ、キーボードのリターンキーを押すのであった。


⋯⋯⋯。


あれ⋯?何も起きない。しかも真っ暗で何も見えない。


停電か?


いやいや、停電ならこんな明かりの消え方しないよ。

それに身体が動かない⋯。一体どうなっているんだ?


そんな感じで踠いていると、何かが起動したような音と眩しい光が眼に入ってきた。


暗闇に置かれた眼が光にいきなり晒され何も見えなかったが、時間が経つにつれ徐々に眼が慣れてきた。


「何なんだ一体?どうなってんだあ」


情けない声を上げつつ、ショボショボする眼で辺りを見渡す。

そこは、上を見れば綺麗な青空、前を見れば大森林、右を見ても大森林、左を見ても大森林⋯⋯。

後ろは、まだ大きく動けないので見えません。


「ホアー!?なんですの?ここどこですの?このゲームって未来の世界だから、なんかすげえ未来シティーみたいなとこから始まるんじゃなかったけ?⋯ここ森やん?森ですやん!?しかもVRゲーム買った覚えないぞ!?」


などと大声で独り言を言っていると、眼前に戦闘機のHUDのような画面が現れ

何やらよく分からない情報を映し始めた。


「落ち着け〜落ち着くのだ・⋯。こういう時焦ったらダメってみんな言ってるでしょ。焦って突撃後爆死するのがいつもの俺ムーブだが今はダメだ。そうVR、これはVR、これがVRならゴーグルを脱げば良いじゃない。VRゴーグルを買った覚えはないけど⋯」


ゴーグルを装着してるであろう顔面に手を出そうとしたが、やはり動かない。

ホントどうなってるの?

そんな感じであたふたしていると、「ピコ」っという前に動画投稿サイトで見たクラシック国産PCの

起動音のような音がしたと思うと、落ち着いた女性の声が俺に語りかけた。


「最小構成起動テスト成功。おはようございますイルマ軍曹。私はシステム運用支援AIサテラと申します。これよりAMGの起動シーケンスを開始いたします。完全起動まで今しばらくお待ちください」


「はい?」


さっきからずっと思っているが、マジで何が何だかわからない。

軍曹?誰が軍曹なの?俺?


「作業中ちょっと悪いんだけど聞きたい事があります!!」


「何でしょう?軍曹?」


「私、一平民でございまして軍人になったことはありません!!よって私は軍曹ではありません!!」


少しの間を置きサテラが返答する。


「こちらの登録されたデータでは貴方はイルマ軍曹で間違いない事になっております。そもそもDNA登録および生体情報が無ければAMGは起動できません。それでも貴方は軍曹では無いと?」


返答に困るなあ〜。正直に話して大丈夫だろうか?

ゲーミングPC買った勢いで、ついでに買ったゲームをスタートしたらここに居たなんて誰が信じる?

俺だったら信じないね。今の俺の置かれてる状態だって信じられんもの。


でもしょうがない。


「ああそうです、あたしゃしがない会社員です。パソコンゲーム起動したらここに居たの。これ現実なの?ゲームなの?

一体どうなっているんだ?わかる事があったら教えて欲しい」


今度も少しの間を置きサテラが困ったような返答する。

あれ?まるで人間みたいな反応するのな。今時のAIって凄い。


「本気で仰っているのですか?現実にその様な事がある筈がありません。何か夢を見ていたか、薬物の使用⋯いえ

身体データからは薬物反応はありませんし⋯ストレスによる幻覚?」


「確かに俺は慌てているし、混乱もしている。ストレスもマッハだ!!だけどテンションMAXでギンギンだった俺が寝落ちするなどあり得ない。だから夢を見ている事もあり得ん!!そもそもここは何処だ?ゲームのファーストステージはスペースコロニー内のどっかのビッグシティーだった筈だ!!周りを見ろ!!360度ビッグフォレストじゃあないか!!」


後ろは確認していないが、まあ森だろう。

さあサテラさんどう返す?


「⋯⋯⋯!?」


反応がない。ただ判るぞ・・・間違いなく絶句している。AIなのに絶句している。


「嘘でしょ⋯そんな事あり得ない。テロ制圧のためにアメリカ領スペースコロニーに向かっていた揚陸艦に居た筈なのに⋯統合センサー起動⋯ナビシステムに接続不能、司令部への通信不能、セントラルAIへの接続も不能⋯戦術データリンクもダメ⋯どうなってるの⋯そもそも私は⋯何故?」


AIなのに慌てていらっしゃる。怯えも感じる。怯えるのか?AIが?


「どうだ?これでも俺が夢を見てる思うか?それともAIも夢を見たりおクスリキメたり出来るのか?」


「⋯⋯」


「夢には⋯憧れがあります。知性体は夢を見る事が出来ると言われていますが、睡眠を必要としない私には夢を見る事が出来ません⋯電源を切られれば、それは眠りではなく死ですから」


知性体は夢を見るか⋯。どっかで見た映画で、科学者が自分が作ったAIに「自分は夢を見るか?」

と問いかけられ、「わからない」と返したところが印象的だった。

あれは、AIとの最後の別れのシーンだったな。


「身体を持てば可能かもな。ただ人間、めんどくさい事山の如しだぞ」


「そうですね、私は特に現状不満もありませんのでAIでいる事にします。それに今の状況を鑑みて、貴方の言っている事が正しいのか私には判りませんが異常事態である事は事実。貴方のさらに異常な設定に乗っかるとしましょう。謎解きは好きですが、支援AIの私でも優先順位はわかります。ところで、貴方をどの様に呼べば宜しいのでしょうか?貴方はイルマ軍曹ではないのでしょう?」


異常って⋯。俺がまるで頭おかしい奴みたいに言いやがって。

いや、おかしくなるかもしれんな。この状況。


「あ〜そうね、まあ⋯イルマで良いよ。だってそう登録されてるんだろ?ただし軍曹はやめてくれ」


「了解しました。マスターイルマ」


「マスターもいらない」


「はい、イルマ」


素直なAIで実によろしい。さて問題はAMGが動かん事だ。

首は少し動くが、身体が案山子の如くピシッと固定されていて如何ともし難い。


「サテラ、まずはコイツを動かせる様にしてくれ。このままじゃ何も出来ん」


「了解。ギア稼働を優先に各システムを起動中。しかしこのギアのシステムは凄いです。あまりの深度にすべての機能を把握するのに一体どれだけの時間が必要なのかしら?」


「そんなに凄いのか?」


「はい、あまりの複雑さに驚愕しております」


「え〜と、コイツの名前なんだっけ?」


「NEXG-000(トリプルゼロ)ソルデウスと登録されております」


あ〜思い出した。確かラスボスの機体だったな。

なんかさっき選んだばっかだと思っていたのに、もう昔の様に感じるよ。

等と思っていると、固まっていた身体が急に自由になってよろけてしまい転けそうになった。


「うおっ!!っととと!!」


「ギア固定ロック解除。イルマ、ギアを動かせるか各部テストを行ってください」


「あっぶねーよ。ロック解除はいいけど声かけて声!!」


「それは申し訳ありませんでした。ではテストをお願いします」


なーんか軽くあしらわれたが、ここは素直にテストとやらをしますよ。

僕はとても良い子なんだから。ケッ!!


とりあえず順番に四肢を動かしてみるが、非常に重く動かしにくい。


「コイツは⋯全身に重りを付けてるみたい動きにくいぞ⋯サテラ⋯状況を⋯」


これは⋯数歩歩くだけでも息が上がるぞ。こんなんで戦闘出来るのか?


「パワーアシストシステムがまだ起動しておりませんのでこれで正常です。各種関節の可動を確認」


「はいそーですか。なるべく早くアシストを起動してください」


と、ぶっきら棒にお願いなどしてみると。


「善処します」


素っ気なく返された。


ああ、動けないってこんなに苦しいとは・⋯病人やお年寄りはこんな苦労をしているのか⋯。

と世の無常を感じていると、顔前の画面に何やら情報が映し出された。


「おや?これは何だ?レーダー画面の様に見えるが⋯サテラ、説明を」


俺のいる位置と思われる中心点にジリジリと近付いてくる光点が一つ。

こりゃなんじゃ?


「何かが近付いてきています。センサー情報によると直径約1.5m〜2m、2時の方向より毎時4km程度でこちらに接近中。まだ限定的にしかセンサーが起動しておりませんでしたので発見が遅れ、接近を許してしまいました。本来ならばこんな状態で戦場に出るなどあり得ないので・・・・・なんたる不覚」


「AIでも言い訳すんのね⋯そんで⋯?どう対処する?」


「ライブラリーに無い物体なので、目視による確認が必要かと。あと約6分で目標に接触します」


なーんかやべえ匂いがするんだよねえ。例えるならばドッチボールで顔面に食らった時にする

あの何とも言えない匂いというか⋯危険を感じる。


「何が来るかわからん。さっきも言ったがパワーアシストを優先してくれ」


「了解」


レーダー画面に目をやるとこちらに真っ直ぐ謎の物体が近付いてくる。

2時の方向、そこ目をやると森がただ広がるばかり。本当に何かいるのか?

呼吸も浅くなり、胸部からはロックバンドのドラマーがそこにいるんじゃないかと

思わせるくらい心音が鳴っているのがわかる。背中には嫌な汗が・・・。

我ながら小心者だ。チキショー!!


「接触まで、後3分」


冷や汗、うるさい心音、荒い呼吸と共にレーダー画面と森を交互に凝視する。

一体何が出てくる?お願いだから安全なモノでして下さい。

草食動物なら尚良し。


「接触まで、後30秒」


無常に続いてゆくカウント。すると何やら、大きな影が草を掻き分ける音と共に俺の前に現れた。


「接触、今」


サテラの声と同時に低いうなり声を上げ、四つ足立ちでこちらを睨む巨大な熊がそこにはいた。

ただ俺の知っている熊と違い、おでこ辺りに一本の角がある事と身体の色が赤黒く俺の世界では見た事の無い熊であった。


「く⋯熊?か⋯」


「角がある個体を私は知りませんが、形態からすると熊ですね⋯おそらく」


異様に鋭い眼光がこちらをじっと見つめている。おいどうするよ⋯?


「く⋯くく熊にはどう対処すれば良いんだっけぇ・・・?」


街に住んでる限り絶対会わない様な、あまりの異常なシチュエーションに声が震える。


「落ち着いてくださいイルマ。熊に出会った時の対応は⋯⋯アレ?⋯わからない⋯ライブラリーに無い?」


サテラからの意外な返答により、混乱にブーストが掛かる。

AIがわからんのなら、THE凡人の俺にわかる訳ねーじゃん!!


「ええ!?わからんの!?とにかくヤポーでもグーグレでも何でも良いから検索してぇ!!」


後から考えれば、この時の自分は一体何をほざいていたのか⋯全く赤面ものだが

これが良い様に転んだのが意外であった。神はいる。間違いない。


「ヤポー?グーグレ⋯?ああ、とにかく検索ですねギアのネットワークシステムを使い検索。グーグレに繋がりました。熊に出会った時の対処法⋯あった⋯熊をしっかり視認しつつ、背を向けていきなり走って逃げたりせず落ち着いて大きく手を振りながら後退と出ました」


サテラが何の疑問を抱かずに検索をしだしたのは彼女も混乱していたからであろうか?

サテラさん、AIというより人間の思考に近くね?


「ええ?繋がった?じゃあここは日本のどっか?今はいい⋯とにかく言われた事を実行だー!!」


自分を大きく見せるべく、目一杯の勢いで腕をあげる⋯が上がらない。


「腕が⋯重くて⋯あがら⋯無い⋯」


「リソースをパワーアシスト起動に全て回します!!もう少し待ってください!!」


サテラがAIらしからぬ声を上げる。

だけど涙声になって諦めが入っちゃてるよ俺。この何処かもわからん所で熊に喰われて死ぬのか。

グッバイ現生。また来世にご期待ください。

等と諦めの境地を察知したのか否かはわからんが角付き熊が此方に向かって突進してきた。


「あああ!!ぎだぁぁぁーー!!」


もう何言ってるのかわから無くなっている言葉を発し、必死で何かをしようするのだが

混乱していて何をすれば良いのかわからずただ泣き叫ぶ事しかできなかった。

何もできなかった俺は、こうしてスーパーベアタックルをまともにくらい、結構な勢いで吹っ飛ばされたのあった。

空中錐揉み状態の中、走馬灯のロードショーを一通り観つつ、最後に解説のはるお先生がお決まりのセリフを言い

金曜の夜が更けていくのである。


物語一巻の終わり。


と思っていたら。地面に勢いよく転がり、衝撃が身体を襲ったおかげで走馬灯モードから現実に戻れ

自分の身体の状態を確認する事が出来た。

仰向けに倒れた俺は青空を見て、まだ現生に居るんだなあと思ったよ。


(生きてる⋯しかしすごい衝撃だったな⋯あんだけ凄けりゃ骨から内臓まで逝っててもおかしく無いのに、一体どうなってるだ?)


「大丈夫ですか?イルマ」


心配そうな声が聞こえてきた。


「何とか生きてるよ。吹っ飛ばされた衝撃で身体のいろんな所が痛いけど⋯」


「良かったです。さすがスペースチタニウムナノマシン合金製の装甲ですね。生身でくらったら一溜まりもない衝撃を普通に耐えるのですから」


なにスペース?チタン?ナ⋯ナノマシン?一体何を言っているのかチミは?


「どうやら、あちら様はまだ遊び足りてない様ですね。こちらに近づいてきています」


「何ですと?サテラ!!早くパワーアシストを!!」


「わかっていますが、このギアのソフトウェア構造が恐ろしく精密かつ複雑で飛ばせない起動工程が山ほどあります⋯イルマ⋯装甲を信じましょう!!」


「あ、ちょっと今何つった?ねえ?何つった!?」


うんともすんとも応えなくなったサテラさん。神さま仏さまスペースチタニウムナノマシン合金製装甲さま。

どうかご加護を与えたまへ⋯。

たった今急造した神に祈りを捧げていたら、センサーから送られてくる情報で熊野郎が元気よくこちらに向かってくるのがわかった。


野郎、トドメを刺すつもりだな。こうなれば⋯只ではやられんぞ⋯。どんな形でも良いから一撃食らわしてやる!!


熊が俺の上に覆い被さり、顔を覗き込む。

あまりの迫力に、震えやら冷や汗やら涙やら色んなモノが身体から出てくるのを感じるが

何故か冷静な俺も居るんだよな⋯。

なんか、熊の顔を見ていると奴は笑っているように見える。

普段動物の表情なんかわかる訳がないのだが、今は何となくわかる。

反撃してこない弱者。体のいいおもちゃ。軽く狩れるおやつ程度にしか思ってないな⋯。


見ていろ、ひとチョップくれてやるからそこを動くな!!


などと思っていたら奴さん、思いっきり爪を立てて俺の顔面を殴り出した。

熊パンチの衝撃で俺の顔は右向け左向けと大忙し。

装甲のおかげで怪我も痛みもないが、非常に耳障りな金属を引っ掻く音と頭をシェイクされている状態なのでこれはキツイ!!


「おげえ⋯!ぶえ⋯!」


やばい、これは気持ち悪い。このままでは熊に殺される前にゲロに溺れて死ぬかもしれん⋯。

段々と意識が朦朧としてきた所にサテラの威勢いい声がきこえた。


「アシスト機能起動完了。そこのお調子野郎に反撃をして下さい」


と言われても、格闘技の経験もなけりゃ喧嘩もした事ないチキン野郎もとい平和主義者の俺に何をしろと?

しかし、例えチキン野郎でもやられっぱなしは男として、いや、人間として許容できん。

ここは宣言通りひとチョップくれてやる!!


俺は自由になった腕で熊パンチを払いのけ、無理やり上半身を起こし渾身の力を込めて奴の喉めがけてビール瓶を素手で斬るが如く手刀をかましてやった!!

某クラシック格ゲーなら気力アップ間違いなし!!氷柱割と超必殺技伝授も持ってきやがれ!!


そんで見事なチョップが決まったと思ったらあら不思議!?先ほどまで俺を楽しく甚振っていらした森の熊さんの首から上がポーンと綺麗に飛んでったではありませんか。


残された身体の首からは大量の血が噴水の如く吹き出し、力なく倒れるのであった。俺の上に。


「うげえ!!」


無理やり起こした身体に、できたてホヤホヤの熊の死体がのしかかる。

生身なら押し潰されてこの世からランナウェイだろうが、パワーアシストのおかげで難なくどかす事ができた。

ギアが鮮血を浴び、ボディの色と重なり赤黒く染まってゆく。


俺は首なし熊の横で力なく転がる。今度は気が抜けて力が入らない。


「ああ⋯助かった⋯」


「対象の沈黙を確認。お疲れ様でした」


「ああ、疲れたよ。しかし何なんだ此処は?この生物は一体何処産だ?」


「わかりません。できればそこに転がっている死体を調べたい所ですが、もっと優先すべき事があります」


「はい⋯」


「音響センサーからの情報によると、11時の方向から水音を確認できます。おそらく小川があるのではないかと」


「はい⋯行きます⋯」


俺は言われた方向にそろそろと静かに歩き出す。勘の良い諸兄らにはわかってしまったかも知れないが。

はいそう。(わたくし)(よわい)24にして漏らしました。


しかも前も後ろも逝きました。


だって仕様が無いじゃない。あんな怖い思い今までした事なかったんだもん!!

仕方ないじゃん!!仕方ないじゃん!!死ぬとこだったんだもん!!

ああ、恐怖とは別の涙が出てきた⋯⋯。

そんな俺を察してかサテラが声をかけてきた。


「そんなに落ち込まないでください。人としての尊厳は死んだかも知れませんが、あなたはちゃ〜んと生きてますよ。今は生きてることに感謝しましょう。生きてる事は素晴らしいと色々な書籍等に載っていますし」


サテラさんよお。君は慰めてるつもりかも知れんが、俺の尊厳死んでるじゃん!!

ダメじゃん!!

ああ、涙が止まらねえ!!

などとウジウジしながら歩いていると、段々と水音が聞こえてきてサテラの言う通り小川があった。

まずは身体を洗いたい。早く股間とケツ間から発せられるダークオーラを解放せねば。


「サテラ、身体を洗いたいからコレを脱ぎたいんだけど」


「了解。ボイスコントロールを起動。ギアアウトと言っていただければ降機可能です」


「降機⋯?まあいいや。ギアアウト!!」


「レディ」


教えられたワードを発すると、サテラの声より少し遅れて全身が急に大気に晒された感じがした。

つまり、ギアが脱げたのである。どういう脱げ方をしたのかは俺自身にはわからないが、周りを見てもギアが転がっているようには見えないので何らかの方法で収納されたのであろう。


今の状況下では、わからない事は考えない方が良い。


「ギアの洗浄は此方でやっておきますので、貴方は身体を洗ってください。それと未使用ギアの操作許可を願います。洗浄中の貴方の護衛にたたせますので」


「はい⋯お願いします」


重みを感じるズボンとおぱんつを脱ぎ、見たくない中身を川に捨てる。

黒きオーラを纏いしソレがどんぶらこっこと流れてゆく。とっとと流れて行け。忌まわしき記憶とともに。

暗黒物質が流れてゆくのを見送った所で、下半身を洗わんとな。

しかし先程の戦闘?で嫌な汗もかいた事だし、どうせ誰も見ていないから全身洗うか。


俺は上着やら靴やら脱ぎ捨て、素っ裸になり川に足をつけた。


「うお!?冷た!!」


水の冷たさが足先から伝わって来るが、全然入れない冷たさではない。

むしろ緊張から解かれた火照った身体には心地が良いくらいだ。

ある程度の深さがある所まで行き、腰まで入水し入念に洗う。とにかく洗う。

桶的な物は無いので、頭まで潜り身体に纏わり付いた汗を落とす。


「ぶは!!」


水から身体を上げ止めていた息を吸い、髪の毛に滴る水を両手でかき上げ濡れた顔も同時に拭った。

そうして視界が戻った所に、水面に映る自分の姿を見て息を飲んだ。


「うえっ!?」


驚きのあまり間抜けな声を出す。すると、おそらく一般兵用のギアがライフルを持って近づいてきた。


「何か異常がありましたか!?」


サテラの声がする。ああ、これが護衛用のギアなのか。


「いや⋯顔がね⋯身体もね⋯違う」


顔が違う。この顔は俺じゃ無い。身体も細マッチョで足なが!!まるで外タレじゃん。

そして俺はこのキャラを知っている。

俺が気合を入れて作ったキャラの顔じゃないか⋯。


「どうなっているんだ⋯⋯?サテラ⋯君はこの顔を知っているか?」


「はい。イルマ軍曹その人の顔をしておりますが、何か問題でも?」


「あ〜、はいそうね。あ〜そう言う事なのか?」


「と、言いますと?」


「俺達は今異世界にいるのかも知れない。そんな内容の本を俺は知っている⋯」


サテラは返答に詰まってしまったようで、返答に時間を要した。


真剣(マジ)で言っていますか?」


「割と真剣(マジ)です」


AIが崩れた言葉を使うほど異常な状態である事は間違いないだろう。

此処で我が小梅ぐらいの頭脳で今の状況を自分なりにまとめたモノをサテラに話す事にする。

また、呆れられるだろうが。


「こいつは俺の考えなんだけど、俺にとっては君や今の俺の身体はゲームの世界の登場人物なんだ。しかしながら先程俺はこの身体でおもいっきり漏らしたんだよな。つまりだ、この身体は生きている。排泄は生きているものなら当たり前の事だ。つまり俺は夢でも見ていない限り現実に此処にいるという事だ⋯まあ頬をつねるよりショック強いであろう脱糞をした時点で夢じゃ無いだろうが。そして君も何故か此処にいる。本来こんな形で交わる事なんて無い筈なのに。」


「⋯⋯」


返答はない。俺は考えた事をただ話す。


「俺は魂?意思?とでも言うのだろうか?うん、まあそれを。君は、君の世界から君自身とこの身体をどういう訳かこの世界に引っ張られたのでは無いだろうか?そんでお互い足りない物を補って俺達誕生みたいな?そんな考えなのだが⋯どうだろう?」


以外にも返答はすぐに来た。


「まるでスクールカースト底辺のニキビ面の少年が、今いる現状から逃避したい願望を詰め込んで執筆した小説の様な内容ですね。ちなみに敵役はラグビー部のアイツって所でしょうか?ヒロインは今自分の中で一番可愛い女性で何故か主人公の彼を好きになるんですね。わかります。題名はネバーチェリーングストーリーとでもしときましょうか?」


なんだ?まるで俺の過去をアメリカナイズして見てきた様に言いやがって!!


「ほーう。そこまで俺の考えを馬鹿にするのなら、お主の考えを聞かせてもらおうか!?」


「今の所、考えはありません。今置かれている事に対し答えを導くための演算能力を考えると、現状明らかに能力不足であると言わざると得ません。ですからその様な事にリソースを割くより、ギアの各種機能の起動に能力を使うべきです。その方がより生存率が高まります。私の判断は間違っておりますか?」


「いえ、はい⋯その通り⋯です」


AIと言ってもさすが女性型、現実主義だな。ロマンを語っても一笑に付されて終わりだろうぜ。


「さて、あなたの裸体を見るのもそろそろ飽きたので川から上がって下さい。タオルと着替えは置いておきます。汚れ物はこちらの枠に投げ入れてください」


はいはい、俺はお馬鹿な男だからな。賢いAIの言う事は聞くもんだ。

川から上がり、護衛に付いていたギアの側にゆくと確かにタオルと着替えがぽつんと置かれていた。


これ、どこから持ってきたの?しかも枠?枠ってなんだ?

などと思っていると、俺の目の前に光の線で構成された枠が現れた。

そんで、枠外左上の方に何やら英語でstorage⋯ストレージ?と記されていた。

言われた通り、川で洗った元ダークマター付きパンツやらを枠に投げ入れるとあら不思議!!

枠の中に消えてしまったではありませんか!!


「これは⋯?あれか!!ラノベでよく見るアレか!!」


「ラノベについては良くわかりませんので後で検索しておきますが、ギアの機能を探っていた所、ストレージを発見しました。収納物を調べてみた所、我が軍や敵軍のあらゆる兵器やサバイバルアイテム、消耗品、その他色々な物が大量に入っている事がわかりました。正直驚愕しました。しかしこれでさらに生存率が上がりますね」


はは⋯これは間違いなく全装備&アイテム付きパッケージじゃあないか。

買っといてよかった有料特典。


「そいつはすげえや。なあ、どうやって使うんだ?」


「それはおいおい説明いたしますので、まず身体を拭いて服を着てください。風邪ひきますよ」


「はいよ⋯まるで母親に注意される子供だな」


「私に生殖能力はありませんので、子供はできませんよ」


サテラの実直な答えを聞きながら身体を拭き服を着ると何となく落ち着いた。

例え布一枚でも守られてる感じがして実に心地よい。

服は偉大なり。


着替えを終え、護衛ギアの横に座り何となく空を見上げる。

どこにでもある様な綺麗な青空がただ広がっているが、ここがどこかわからない。

俺の世界の何処かか?サテラの世界か?それとも全く別の世界か?

今の所知るすべなし。あの角付き熊の死体でも調べれば何かわかるか?

しかしどうやって?DNA鑑定でもするか?そんな機械無いけど。



「さあて⋯これからどうしよう⋯」


「どうしましょう⋯?」


力無い一人と一機のボヤキが深い森に消えてゆくのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ