第九話 身代わり
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オレは領地を譲り受ける話があって数日でオレは家を出ていた。
もちろんその数日間に何もしていなかったわけではない。賢者ばかりの村に貴族であるオレが領主として、ただ出向いてもきっと煙たがられるだけだろう。オレは村で自分がいかに惨めな境遇であるかを話し彼らの同情を誘い、そしてはじめのうちは良い領主として君臨しようという作戦をたてていた。
ダイン家出発数日前
この家を出発するにあたって初めに考えたのはナイーブを連れて行きたいということだった。やはり彼女はオレにとって非常に都合の良い人間である上にどこで身につけたかは知らないがそこそこ教養がある。ダイン家のような四流貴族はおろか、二流貴族以上の教養があるのではないかオレは推察していた。
それにオレがいかに惨めな境遇だったかは自分で説明するよりも他人が説明した方が説得力があるだろう。
だが、ダイン家がナイーブを連れて行くことに対して、はいそうですかとすぐに了承するはずもない。そこでオレはまず新たな奴隷を調達することを決めた。すでに当たりは付けてあった。
食料を調達するときに出向いていた街の外れには多くの物乞いがいた。そいつらの大半は男性で横暴であった。金を持っていそうなやつを集団で襲うなどして食料を奪うゴロツキであることはあらかじめナイーブに聞かされていた。だから最低限の金しか渡されていなかったオレは極力近づかないようにしていた。それでもオレが前の世界で学んだのは革命やデモを起こしてきたのはいつも社会に不満を抱えた大衆であったから何かに物乞いたちを利用できないかとしばしば遠目で観察していた。そしてオレはその集団内に似つかわしくない女性が一人いることに気がついた。年齢でいうと、顔を見る限り30代前半程度でありオレやナイーブよりもひとまわり以上年上に見える。やつれてはいるもののそれなりに気品があるように感じられた。
彼女はみるから弱々しく、時折男に暴力を振るわれていたし、何度も男性に路地裏に連れ込まれては元の段ボールが敷かれた定位置に戻ってくることを繰り返していた。しばらく観察していたが男らが奪ってきた食料を頼りに生活しているのは明らかだった。
『おそらくだが、彼女は食料を受け取る代わりに男性の奴隷のような扱いを受けており性処理などをさせられているのではないだろうか』
オレが食料を調達する際ほぼ毎回彼らを観察して得た答えがこれであった。彼女にどう言った事情があるのかは知らないが、ナイーブの代わりに使えるのではないかと感じた。
家を出るまでに行ける食料調達はあと一回しかない。その日、オレは賭けに出ることにした。
食料を調達する際にオレは彼女に渡すための食料をいくつか買って、あの物乞いの中に紛れた。オレは服装からしても物乞いと変わらなかったため意外にも怪しまれなかった。
そして段ボールに座っている彼女に対して食料を渡し他の物乞いがしていたのと同様に路地裏に連れ込んだ。
「こんにちは。名前を教えていただけますか?」
オレは優しそうな雰囲気を装いながら笑顔で話しかけた。
彼女は怯えた雰囲気で「暴力はやめてください、、ちゃんと相手しますから・・・・」と弱々しい声でいう。
「そんなオレはひどいことをしにきたわけじゃないですよ。むしろ助けに来ました。早くここを出ましょう!」
彼女はなんだか困惑しているようだ。
「オレ、実はダイン家という貴族の息子なんです。で、今実家に仕えるメイドを募集していまして。その勧誘に来たんです。悪い話じゃないでしょう?」
「いえ、、けど、、」
彼女は言葉に詰まっているがオレは続ける。
「オレには時間がないんです。ここでいつまでも男たちのいいなりになっているつもりですか?それよりメイドとして働いた方がいいと思いますよ」
「お話はありがたいんですが私はここを離れられないんです。息子が奴隷商に売られてしまっていてここにいないと売り払われてしまうんです」
理屈はよくわからないが彼女がいうには息子のためにここから離れられないということだった。それならその根本を解決してしまえばいい。
「わかりました。これから奴隷商のところに行ってあなたの息子は僕が買って部下にします。それなら問題ないですよね?」
彼女は考え込んでいる様子だった。今一気に畳み掛けるしかなさそうだ。
「オレ、実は今度隣国の領主になるんです。領主の直属の部下ですから待遇も良くします。その代わりにあなたには僕の実家で働いてほしい、悪くない取引だと思いませんか?」
あと一押しだ。この辺で息子の感情の代弁でもしてやろうか。
「あなたは立派だ。自分の息子のためにこんな理不尽な扱いに耐えている。けれど、息子さんはそれを望んでいるでしょうか?自分のために母親が売りたくもない体を売ってまでそれに耐えてほしいなんて考えると思いますか?今ここで決めましょう、さあ早く」
「わかりました。私はどうしたらいいですか?」
「逃げましょう。今すぐに」
オレは女を連れてあらかじめ調べておいたルートを通ってこの路地裏から抜け出した。
オレは自分が高校生の時に身を粉にして働いてくれた両親とこの女を無意識に重ね合わせていたのかもしれない。心の荒んだオレにもこのような熱のこもった言葉が発せるのだと内心少し驚いていた。
そしてまず質屋に向かった。彼女の奴隷を買う金も必要だが、領主として国民を信用させるために色々と金が必要だった。
オレはダイン家の部屋を物色した時に四流貴族にはふさわしくないほど母親が宝石などの光り物を隠し持っていたのを発見していた。初め母親がバカンスに出かけて何ヶ月も戻ってこないことに呆れていたのだが、むしろそれは幸運だった。宝石をいくつか盗んで質に入れて金を手にする。ここまでは計画通りだ。
質屋には案の定足元を見られたが、息子のために金が必要だと泣いた母親に心打たれたのか、安く買い叩かれずに済んだ。
そしてそのまま奴隷商に向かった。奴隷商ではいかにも小悪党といった小太りの男が接客していた。
「お客様、いらっしゃいませ。どんな奴隷をご希望ですかな?」
「レイ、どこにいるの、レイ?」
彼女は店に入るなり、すぐに息子を探し始めた。
「あーこれはこれは、レイくんのお母様でしたか」
「あそこにいますよ。目つきが悪いんで誰も買おうとしなかったので売れ残っちゃって、けど買い手が見つかって私もとっても嬉しいです」
奴隷商は皮肉まみれにいった。売れない奴隷など、奴隷商からしたらただの穀潰しに過ぎないのだ。
「おいッ、何しにきたんだよ」
檻の中でオレたちを睨みつけている彼は見るからにあまり嬉しそうではなかった。むしろ不機嫌だった。
「この方は領主様でね、あなたを助けてくださるっていうから急いできたのよ、ほら早く立ってご挨拶して」
「誰がそんなこと頼んだんだよ。もうオレのことは放っておいてくれ」
彼は寝転がったままそっぽを向いてしまった。
「レイ君、オレはミゼル・ダイン。君にはオレの部下として働いてもらいたいんだ」
「結局お前はオレを奴隷として買いに来たんだろ?何が部下だよ。それにオレはお前みたいな貴族は大嫌いだ。ダインってのは貴族しか名乗れない苗字じゃないか」
『ほう、それは知らなかったな。それにしても生意気なガキだ。あとで教育してやろう』
「おい、奴隷商、こいつと二人で話がしたい。オレを檻の中に入れてくれ」
奴隷商は鍵を開けオレは檻の中に入る。
「話の腰を折らずに最後まで聞いてくれ」
そういってレイにあることを伝えた。特別なことや脅迫などは一切していない。ただあることを伝えただけだ。
レイはすぐに立ち上がった。
「オレ、この人の部下になるよ。今すぐここを出してくれ」
彼は力強く自分の意思でそう言った。
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