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悪辣王子の異世界侵略  作者: 蜩鳴
8/11

第八話 始まりの日

開いていただいてありがとうございます。

カクヨムでも連載していきますのでそちらもよろしくおねがいします。

あれから何日経っただろうか。オレにはもう日付を見る余裕すらなくなっていた。

オレは日に日にエスカレートしていく虐待に心身ともに衰弱していた。

顔はいくつも青いアザができており転生初日より明らかに痩せこけていた。


そして、そんな中オレが日々のストレスに耐えきれなくなり、目から生気は消え失せ何をされても無言を貫くようになった頃だ。オレはナイーブ伝手に父親から呼び出しをくらった。

また殴られるのか、いやそれとも食事抜きか、、、その程度ならまだいい方だ。



「お前に領地を与える。早くこの家から出ていけ。

お前などといった穀潰しをこの家で飼ってやるのももう終わりだ」


オレは父親の言葉に耳を疑った。そしてすぐに「私めに領地をくださるのですか?」と聞き返した。

「貴様には私の声が聞こえないのか?なんのためにその耳は貴様の頭についているのだっっっ」

オレは思い切り顔面を殴られた。顔を殴られるのはすでに慣れてしているしもはやどうでもいい事だ。

オレは「申し訳ございません。聞き間違いかと感じてしまって」といい場を取り繕った。


『オレにも好機が巡ってきたということか』

オレは心でほくそ笑むことをやめられなかった。


毎週一切の休みなく朝から晩まで雑用をこなし、自由な外出もできていなかったオレにはこの生活から逃れられるということだけで嬉しかった。オレは一瞬、光のない灰色な世界に希望が見えたように感じた。


 こうして二つ返事でオレは領地を受け取ることになったのだがあの父親のことだ。今回オレが受け取ることになる領地は何か””ある””に違いない。そうでなければあいつがオレにしか利益のないようなことをしてくるはずもない。

オレはこの家の情報やこの世界そのものの情報を仕入れることに全力を注いでいたのでその領地がどんなところなのかは全くリサーチしていない。慎重にことを進めたいが、オレにこの領地取引に対する拒否権などそもそもあるとも思えない。


 本当は自分で詳細を知りたかったが今回はナイーブを頼るしかなさそうだ。他に情報源がないから仕方ない。

 転生してからというものオレはナイーブとはだいぶ打ち解けていた。それもあってか、彼女はオレへの虐待がエスカレートするたびに自分の身を挺してオレをかばっていた。””普通の””人間ならこいつに惚れていてもおかしくはなかっただろう。オレの視点からすれば、こいつにはやはり利用価値があるなくらいにしか感じなかったのだけれど。


 人間は愛や恋などといった曖昧な感情を優先してしまう生き物であることは学校の授業では教えてくれないし、受験で使う参考書に書かれてあるはずもない。もっと早くそのことに気づいていれば、いや内心では気づいていたのかもしれないがそれがこんなにも利用価値のあるものだと知っていればオレの過去はもっとマシだったかもしれない。例えば、学校でもオレをかばってくれるような都合のいい女(恋人)がいれば、そいつにいじめをやめさせるよう訴えさせてイジメを傍観している人間の同情を誘うように仕向けたりできたかもしれない。仮にそれが失敗してもそいつが勝手にやったことだからオレには関係ないしな。



「フォーエンハイム様、ありがとうございました。失礼いたします」

 オレは最初に殴られた時から父親を名前+敬称で呼ぶようにしていた。父親もオレに父親だと思われたくないらしいし、なんならオレの方もこんな奴が自分の親だなんて思いたくはない。そしてフォーエンハイムの部屋を出ると兄たちにすれ違ったが何やら不敵に笑っていた。オレが領地を受け取ったことを確認しにきたのだろうか。もしそうであるならば、この笑みはやはり何かこの土地にはあることを示唆している。

 たとえ彼らが何かを知っているとわかったところで、オレに教えてくれるはずなどないだろう。


「兄上、お勤めお疲れ様です」

 オレは形式上の挨拶をしてすぐに今日の仕事をこなした。

『早く、ナイーブとコンタクトを取らなければ。早くオレが譲り受ける領地のことを知っておきたい』




 その晩、ナイーブはオレにいかにも心配そうな顔をしながら詰め寄ってきた。

「ミゼル様、お言葉ですが今回の領地を譲り受けるというお話、早急に断った方がよろしいかと思います」

「どうしてだい?オレは、大きい声では言えないけどこんな家さっさと出て行きたいと思っているし案外悪い取引じゃないと思うんだ」

「いえ、あの、申し訳にくいのですが・・・・」


 ナイーブは何やら言葉に詰まっている。


『こいつ、もしかしてオレが出て行ったら一人で寂しいとか言うんじゃないだろうな、それとも、ダイン家からの虐待を受けるのが自分一人になってしまうことが怖いとかそんな理由か?そんな理由だったら今すぐにでも思い切り殴ってやりたい。ちょうどストレスもたまっていたしな』

そんなことを考えながら、オレは一瞬顔に嫌悪感のある表情を作ってしまった。無意識的にかどうかはわからないが、全てを悪い方向に考えてしまうほどオレの心には余裕がなかった。



「ナイーブ、怒らないから正直に言ってごらんよ。君の意見が聞きたいんだ」

 オレは優しい表情を作りながら言った。

「ミゼル様、実は私、ディラン様とジェラス様が話しているところを聞いてしまったんです。今回の領地取引は、、、、」


 ナイーブは一人話し出した。

 要約すると、オレが今から譲り受けようとしている領地には昔から高度な教育制度が確立されていたため、そこで育った人間には貴族や領主に対して不信感や反発心があり、諸外国が何度も支配下に置こうとしたが未だうまくいっていないのだと言う。そんな貴族にとっては厄介な土地をフォーエンハイムは先日外出していた際に無理やり押し付けられたのだそうだ(まあ、ダイン家でその領地を支配するように”上の”貴族から命令されたと言ったところだろう。そう考えれば父が帰還したあの日はすこぶる機嫌が悪かったのにも合点が行く)。

 それでいったんオレを派遣することにしたのだという。父親たちが考えているのは、その国の支配に成功すればダイン家の手柄とみなし、失敗してもオレを世間体を気にせず家から追い出すために最もらしい理由が得られるといったところだ。あいつらはオレのことは過小評価しているから後者が本命だろう。


 ここでオレの頭に一つの疑問が浮かんだ。

「ナイーブ、一つ聞きたいんだけどいいか?」

「はい、なんでもどうぞ」

「なぜそんなに強い国なのにその国から長を出さないんだ?ナイーブの話を聞く限りわざわざ貴族が支配しなくともいいように思う。他国を退けるほどの武力がありながら、他国の支配下に置かれている意味がわからないよ」

「なんでもその国の住民はわざわざ国の長を据えるとそこに権力などが集中することを理解しており権力をめぐる抗争を含めた、いかなる争いも起こしたくないからだと聞いています。それで特に選民思想みたいなものが嫌いなのだそうです。ですから、国というよりも良識者が互いの利益のために集まった共同体という理解の方が正しいと思われます。それに地縁的なつながりが強く血の関係がなくとも国民の多くがいわば家族のようにフラットに接するような関係だそうです」


『なるほど。これは随分と厄介だな。中央集権という昔から現在に至るまで取られてきた支配体制がどれだけくだらない権力争いを生み、死者を出してきたかを理解しているわけだ。それを理解したところでその体制を放棄して理想の国を達成するなんて不可能だと諦めるのが関の山だろう。少なくともオレが過去いた世界の先進国と呼ばれるような国では常にそうだった。なんなら学校という小さなコミュニティですらスクールカーストなる人間選別が行われ得るというのに、平等主義を国単位で貫くなんてそこの国民は全員悟りでも開いているのか?』


「国の人数は?経済システムはどうなっている?それから他国との貿易関係はどうだ?」

 オレは矢継ぎ早に質問した。

「人口は1000人未満だと聞いています。経済圏としては住民同士で助け合って生活しており自給自足の生活をしているようです。それゆえ外国との貿易関係などは結ばず国内のみの資源で生活をまかなっているようです」


『なんてすごい村なんだ』

 オレは素直に感心してしまった。心底から他者をすごいと感じるような、ポジティブな感情が出てきたのはいつぶりだろうか。物心ついてから、心の底から何かを思うときは決まって他人を見下す時くらいだったから、なんだか新鮮な気持ちだ。俗にいうジャメヴというやつかもしれない。

それにもし今こいつがいったこと全てが事実なら、前の世界で、現実的ではないにせよ理想の社会を追い求めた人間に対して空想的社会主義者というレッテルを貼って社会に敷衍させてきた学者どもにその国を見せてやりたいものだ。




「つまり諸外国はその国を支配下に入れるために何度も首長を置こうとしたけれど今のところ全て跳ね除けられているというわけか」

「はい。ですのでミゼル様がこの土地をもらって、出向いてしまうと最悪殺されてしまうようなことも考えられます」


 それにしてもこいつ、無教養なのによくオレの質問にスラスラと答えられるな。この世界の学校教育では読み書き計算くらいしか教わらない、というかそのシステムが発展していないから教えられないはずだ。一部の貴族しかまともな教育を受けてはいないと思われる。本当にこいつはナイーブ(世間知らず)なのか?


 冷静になってみるとオレはすっかりオレのもらう予定の土地以上にナイーブのことの方が気になってしまっていた。

 だがオレは絶対に自分を曲げない。こいつが賢い人間であろうとなかろうとオレにとっては駒に過ぎないのだ。利用するだけしてその価値がなくなったらあっさりと捨ててやる。そしてオレはこれから領主になってその国の完全なるシステムを破壊し、オレに都合の良い社会へと変革していくつもりだ。


「大丈夫だよ、ナイーブ。オレは絶対死んだりしない。

オレは自分の意思でその国を譲ってもらうんだ」

 オレは笑顔で言った。



 今日この日から始まるのだ。オレの、オレによる、オレのための異世界の侵略の日々が。


読んでいただいてありがとうございます。

もしよろしければ感想などいただきたいので、どんなことでも書いていただけると励みになります。

よろしくお願いします。

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