第七話 父の帰還
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そして転生してから二週間ほど経過したが、その間オレはダイン家とこの世界についての情報収集に努めつつ家から押し付けられている仕事をナイーブとともにこなしていった。この家族について得られた情報の中で役に立ちそうなものといえば二人の兄のうち、ダイン家の長男に当たる方はディラン、次男に当たる方はジェラスという名前であることに加えて、現在父親フォーエンハイムは所用で出かけており、母親のメイヤーはバカンスを楽しんでいるということくらいだった。この世界の情報としてはオレのような日本人が思い浮かべるような異世界というわけではなく魔法はありふれておらず極々一部の人間のみが使えるレベルのものであり、かといって科学も発展していないといったことくらいだった。要するに近世のヨーロッパと大差はないといった感じだ。他国の動向を見てもやはり領土拡大のために睨み合っているような状況であるように感じられる。
オレは毎日、仕事をしてはナイーブと愚痴を言い合ってから寝るという毎日を過ごしていた。ナイーブと会話ができるのはせいぜい、朝彼女がパンを持ってくるときと仕事終わりの数十分間だったが情報を引き出すには十分な時間だった。
この生活に対して大きな不満こそなかったが、与えられる食事の量が明らかに少ないことや事あるごとに兄たちに言いがかりをつけられること、彼らは呑気に自分の好きなことばかりして過ごしていることなど小さい不満は上げ始めたらキリがない。
しかし今日はなんだか様子が変だ。オレは朝起きてから微妙な違和感を感じ取った。
朝のナイーブとの会話で父親が戻ってくることがわかっていたがそれだけでこんなにも家全体の雰囲気が違うものだろうか?家全体の雰囲気が違うというよりもオレが本能的に怯えているといった感じかもしれない。
そして父親が帰ってきた。廊下で談笑しているようで、兄たちは嬉々として彼の帰りを喜んだ。それに対して父親も笑顔を浮かべていた。
タイミングを伺ってオレは父親の前へ出向き、彼らと同様に父親に対して喜ぶそぶりを見せた。そして兄たちを扱ったのと同様の態度をとることにした。
「父上、長期間家を開けてのお勤めお疲れ様です。
父上のご帰宅を心待ちにしておりました。会いたか、、、」
ボゴッッッッッッ
オレは心にもないことを言い連ねている途中で、何を思ったのか父親はオレの顔面を思い切り殴りつけた。
「馴れ馴れしく話しかけるな、出来損ないが。貴様に父と呼ばれる筋合いなどない」
オレは床に倒れこんだ。この時は一瞬激しい憤りを覚えたが、感情に身を委ねて人生を終えた過去があるからかオレは無意識に理性でその感情を押し殺した。
日記には父親からの虐待は特に酷かった旨が書かれてあったが、自分を慕ってくれている(ような態度を取っている)相手に対してここまで非道な仕打ちができるものだろうか?少なくともまともな人間にはそんなことできるはずもない。
こういった不測の事態にうまく対処できなければ一発で人生終了となってしまうことだってありうるのだ。オレに今できるのは好機を伺うことくらいだ。
「申し訳ございません」
オレはそのまま土下座の姿勢をとった。こいつはきっと今非常に機嫌が悪いのだ。所用とやらで出かけた先できっと何かあったに違いない。土下座という文化がこの世界に存在しているのかどうかは微妙であるが相手に絶対服従しているという意思表示になるのではないかと思う。
「父上、このようなゴミ虫に構うのは時間の無駄です。それよりもお出かけされていた時のお話を聞かせてください」
「ジェラスのいうとおりです。向こうの部屋で話しましょう、父上」
「うむ、それもそうだな」
フォーエンハイムは土下座しているオレの頭を思い切り踏みつけてから
「朝食にしよう。早く準備しろ、無能メイド」
と、ナイーブに睨みを利かせて食事の部屋へといってしまった。
兄たちは案の定、殴られて倒れているオレを嘲笑い、蔑むような視線を向けていた。
「ミゼル様、お怪我はありませんか?今すぐタオルと水をお持ちいたしますね」
「いや、いいんだ。ナイーブは父上に料理を作ってきてくれ、さあ早く」
オレは彼女を促した。彼女も渋々、料理を作りに向かった。料理を作るのはオレとナイーブの仕事ではあったものの、今オレが料理を作って持っていっても父の逆鱗に触れかねない。
彼女が見えなくなったのを確認してオレは「クソッッッッッ」と家の壁を殴りつけた。
『お前が無能だからこの家はずっと四流貴族なんじゃないか。うまくいかないことへの怒りをオレにぶつけるなよ、クソジジイ』
オレは頭の中でそう叫んだ。
この日もオレとナイーブはいつも通り仕事をこなしていった。しかし父親が帰ってきたこの日を境にオレへの理不尽な虐待はさらにエスカレートしていった。
日々のストレスの解消先がないオレの頭は他者へのルサンチマンでいっぱいだった。他者とはこいつら家族だけではない。ただ幸せに過ごしている人間全員が憎い。オレばっかりこんな酷い目にあってなぜお前らは呑気に笑っていられるんだ。
家では虐待されるだけの日々、食料などの買い出しで外に行っても他人が幸せそうに笑っているのが憎たらしい。
オレにできるのはただひたすらに待つことだけだった、現状を突破できるような”何かを”。
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