第六話 ナイーブの価値
開いていただいてありがとうございます。
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オレはもう一度寝てしまおうかと思っていると何やら部屋の外から走ってくるような音が聞こえた。そして次の瞬間俺の部屋の壁は大きく音を立てて開いた。
「おい、穀潰し。いつまで寝てるつもりだ?さっさと起きて働け」
またも俺に罵倒の言葉が投げかけられた。
そこに立っていたのはさっきのイケメンと似た別のイケメンだった。やはり金髪で、目は青みがかっていた。
彼の顔を見て一瞬で日記に書かれていたもう一人の兄、この家の長男であると察した。
そして日記の内容から俺はよく口答えをしたことで殴られたり蹴られたりしたことを知っていたので俺は今のところは兄たちには逆らわないことにした。
「兄様、申し訳ございません。今部屋の掃除をして休憩していたところです。
すぐに働かせていただきます」
「う、、うむ。早く働きたまえ」
兄はそういうとすぐにドアを勢いよく閉めて出て行った。
やはりこちらの兄も普段と違う様子のオレに動揺しているようだった。
前のミゼルはきっと正義感の強いやつだったのだ。そういう奴だからこそ自身に向けられた理不尽な言いがかりや不当な扱いには真っ向から立ち向かっていたと考えるのが自然だ。正直者はバカを見るとはよく言ったものだな。たった一言の罵倒を耐えるだけで殴られなくて済む。こんなに簡単に解決できるいじめはないだろう。オレが過去に耐えてきたいじめとは比較にならない。
オレはすぐに立ち上がった。日記の内容から考えて、オレはこれから家の掃除や洗濯といった仕事をナイーブと一緒にこなすはずだ。この家はやはり四流貴族であるから、ナイーブしかメイドを雇っていないため一人では物理的に手が回らないのでオレもそれを手伝うことになっているといったところだろう。そういった扱いをさせたいからオレを養子として拾ったということだろうか?
そんなことよりもすぐに仕事に行かねばなるまい。オレはすぐに部屋を出ると壁際にナイーブが待っていた。
「ミゼル様〜。お着替えは終わったんですね。今日も一緒に頑張りましょう!!
あ、けどミゼル様は記憶がないんですよね?けどナイーブに任せてください、しっかりとお仕事のレクチャーをさせていただきます!!」
「いや、ナイーブ、さっきのは実は嘘なんだ。なんだか退屈してしまっていたからちょっと嘘をついたんだ。ナイーブがまんまと騙されてくれてオレも楽しかったよ。ハハハハハ」
オレは、記憶がないというのは嘘であるということにした。オレはこれからこいつを利用する上で記憶がない新たなミゼルとして認識されるよりも、ナイーブとお互いに恋愛感情を持っている時のミゼルを演じることで過去の信頼関係を成立させたままにしておく方が得策であると考えたからである。それにオレに都合のいいことに、彼女の性格や自分が現在置かれている状況などは日記を暗記しているオレには手に取るようにわかっているのだから、前のミゼルを演じることは造作もない。
「えーーーーー、ひどいです。ミゼル様〜」
彼女はなんだか怒ったような顔をしている。
「ごめんごめん。けどその嘘のおかげでナイーブがオレのことを好きだってことがわかったからオレもすごく嬉しかったよ」
「ち、ち、ち、違います。私はミゼル様のことは好きじゃない、、というと嘘になってしまうけど、、、、
人としては好きですけど、、、、」
「ん?オレは人として好きだってことがわかって嬉しいって言ったんだけど〜。あれ、本当は男としてオレのこと好きだったりするのかな?」
「だから、、それは、、えーと・・・・・・」
彼女は言葉に詰まって、またも顔を赤らめながら黙ってしまった。
やはりこいつの扱いは簡単だ。それにこいつには心底オレに惚れさせておく必要がある。オレが危険な状況に陥った時があれば身代わりに使えるし、オレの目的遂行のために人手が必要になっても利用できる。
オレは前の世界では童貞ではあったが、異世界転生アニメのキャラとは違って恋愛に関して鈍感ではない。
奴隷というのはやはり頼もしいものだ。世間一般がいう仲間とは意味に乖離があるかもしれないがまあその差なんて会社で言うところのカルテルとコンツェルンの差異くらいしかないだろう。
「さて、ナイーブ、今日も仕事だ!さっさと済ませて終わりにしよう」
オレたちは家の掃除に取り掛かった。仕事中も兄らにはなんども言いがかりをつけられたが先ほどと同様に彼らに一切逆らわないことでやり過ごした。
兄たちを捌くのもそこまで難しくはなさそうだ。
しかしまだオレは気づいていなかった。ダイン家の中でオレのことを最も煙たがっているのは兄たちではないということに。
読んでいただいてありがとうございます。
ナイーブのことをオリーブと書いてしまっていたので修正しました(泣)。
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