第五話 ナイーブとの関係
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その後のことは記憶にモヤがかかっていて全く覚えていない。それ以降の記憶にあるのはオレが自殺してしまったことくらいだ。
だがそんなことはもう関係ない。オレは決めたのだ。この世界では絶対に他者の上に立ち全てを見下せる地位についてやろうと。
この世界に記憶がある状態で転生したということはオレにやり残したことがあるということの証左であると思う。それを達成しろと神が言っているのだ。
オレはこの世界が夢であると疑いもしなかった。それにオレにはオレのやることが絶対うまくいくという自負がある。だからこそオレが前の世界で自殺しようとしたならばそれが失敗に終わるはずもないのだ。故にこの世界はオレにとっての新世界であり新たな現実である。
過去のことを思い返しながらオレは部屋に戻って衣服を着替え、再び廊下に戻った。そこにまたナイーブが戻ってきた。
「ミゼル様〜、着替え終わりましたね」
「ありがとう。ナイーブがいなかったら濡れたまま今日1日を過ごすところだったよ」
オレはこいつを利用して情報を得なければならない。利用価値がなくなるまではいいやつを演じておこう。
前の世界のオレに足りなかったのは他人を利用する努力だ。オレが過去にしてきた努力は全て勉強に向いていたし自分をいじめてくるやつらを懐柔して利用してやろうなんて考えもしなかった。もう同じ轍を踏んだりしない。最終的にオレが全てを見下せる地位に立てれば良いのだ。そのためだったらプライドだろうがなんだろうが捨てられるものは全て捨てる。
まずは味方が必要だ。前の世界では一人もいなかった味方、それが一人いるだけでもだいぶ状況が変わってくるかもしれない。
オレはひとつナイーブがオレにとって信頼に足る存在であるかどうかを試してみることにした。
「ナイーブ、ちょっといいかな?」
「はい、どうしました?」
「ナイーブはオレのこと好きか?」
「み、み、ミゼル様どうしてそんなことをお聞きになるのですか?」
ナイーブは目に見えて動揺していた。顔も紅潮しているように見える。
「オレが記憶をなくす前はオレとナイーブは恋愛関係にあったのかなあって」
「そそそ、、そんな、私とミゼル様は従者とその主の関係ですのでそのような事実はご、ご、ごじゃいません。」
こんなにわかりやすいやつがあるだろうか。将来絶対詐欺に遭うな、この女。
「そうだったのか、、残念だな」
オレはそう言い残し自分が目覚めた時の部屋に戻った。
彼女はみるからに嬉しそうにしながら、部屋に入るまでオレを後ろから見つめていた。
やはり彼女はオレに恋愛感情を抱いていたらしい。これが演技だったら大したものだがそれをするメリットなど彼女にはないはずだ。それなりに信頼できる存在としてみていいだろう。
けど彼女がオレにとっての有益な情報源とはいえど、客観性に欠ける。彼女の一存だけではなく、もっと多角的な視点で物事を判断したい。頭の悪い人間は自分の持っている偏見に固執する場合が多いからである。オレには彼女もそちら側の人間である可能性が高いように感じられた。
そこでオレは情報収拾のために部屋の中を物色してみることにした。部屋はやはり薄汚れていて、机もいたるところが埃をかぶっていた。
しかし、机の下に何やら貼り付けられているノートを発見した。日記だった。きっと見つかると捨てられてしまうから隠していたんだろう。
それを手にとって開いてみると、前のミゼルの残した文章がびっしりと書き連ねてあった。
そこに書かれていたのは、彼が置かれている八方塞がりの状況を嘆く文や、どんな嫌がらせをされてきたのかばかりでろくに役に立ちそうな情報はほとんどないように感じられたが、ナイーブとした会話や彼女と過ごした日々について書かれたものがいくつもあった。どうやら前のオレと彼女はお互いに信頼しあっていたらしい。ダイン家の人間から受けた嫌がらせやそれに対する不満などを互いに愚痴っていたような記述が見られた。それに元のミゼル側にも彼女に対する恋愛感情があったらしく彼女のことは詳細に文章として綴られていた。
オレはすぐにそれらの記述を暗記した。そしてナイーブがどんな人間であったかを頭に叩き込んだ。お互いに恋愛感情を持っている状態は大いに利用できて都合がいい、それ以外の考えは一切なかった。
また他の文章から、ダイン家はオレ以外に父親、母親、兄二人で構成されていることが推察できた。まずは家族のいじめから逃れ、この四流貴族ダイン家を完全に掌握して貴族としての位を上げていくことがオレの目的達成に大いに役立つだろう。
オレはこの日記に書かれていることから得られる情報をなるべく頭に入れるように努めていると軽い睡魔が襲ってきた。どうやら頭をフル稼働させすぎたらしい。そのままベッドで横になると枕元に鏡が置かれているのを見つけた。
『そういえば自分の顔すら知らないままだ』
オレはそう呟いて、鏡を持ち自分の顔を確認した。
自分の容姿は客観的に見て特筆するような要素はほとんどなかった。どこにでもいるような黒髪で目は黒く、肌は白かった。顔はいたって普通ではあるものの、髪がボサボサで手入れされていないのは明らかだった。このボサボサな髪と綺麗とは言い難い肌をなんとかすればそれなりに整っていると言えるかもしれない。
しかし自分の容姿など今はどうでもいいことだ。
オレはベッドで天井を見上げながらこの家をいかにして自分のものにするかを冷静に考えていた。
『絶対に全てを見返してやる』やはり今のオレの頭にはそれ以外の考えなどあるはずもなかった。
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