第二話 メイドの名は
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オレはあのクソ野郎のせいで濡れてしまった体を乾かさないとと思い、先ほどの長い廊下に戻ると若いメイドのような女の子がオレの元へ駆け寄ってきた。
「ミゼル様〜、大丈夫ですか〜」
彼女は明らかにオレに向かって話しかけている。
『ミゼル、、オレの名前なのか?』
「あ、はい。大丈夫です」
オレは思わず敬語で返事をしてしまった。
この子は明らかにメイドなのだからオレが敬語を使うのはどう考えてもおかしい。
案の定、彼女も少し困った顔をしている。
「あのー、ミゼル様、、私に敬語は必要ありませんよ。どうされたのですか?」
やはりそうだ。オレは返事に困り、「服が濡れてしまって困ったなあ」とつぶやいてみた。
すると彼女は「すぐにタオルを持ってきます」と言って廊下の方へと走っていった。
彼女は茶髪で細身だったがオレの部屋と同様なんだか薄汚れていた。
『ミゼルか、、確か英語かフランス語でみすぼらしい、哀れなといった意味があったな。今のオレにぴったりな名前じゃないか。、、いや今だけじゃない、、か、、、、』
オレにはこの世界で目覚める前の記憶があった。
オレは自殺したのだ。どうして自殺したかは思い出せないが死因は飛び込み自殺、電車に飛び込んで死んだ。
なぜその方法にしたかって?
他の大勢の人間に迷惑をかけて死んでやろうと思ったからだよ。電車のダイヤが狂えば多くの人は予定を変更せざるを得ない。それにあそこは東京で最も多くの人が乗降する新宿駅だったし、多くの人間にオレという存在を見せつけてから死んでやろうってね。死んだ後のことはわからないけど、きっと全国で報道されているはずだし歴史にも名を刻んだんじゃないかな。
オレは自身の自殺を正当化した。心理学の防衛機制で言うところの合理化というやつだ。死んでなお、自分の行為を正当化するオレは文字通りミゼルだった。
「ミゼル様〜」
彼女が戻ってきたらしい。手にはタオルと替えの衣服を抱えている。
「ありがとう。おかげで助かったよ」
タオルを受け取ってそのまま顔と髪を拭いた。
そしてその行為に注力するふりをしながら彼女からオレの素性を聞き出すために新たな質問を考える。
『どんな質問をするのがいいんだ?怪しまれないようにしないといけないし、いっそオレにこの世界での記憶がないことを話してしまおうか、、』
そんなことを考えていると彼女はオレのことを心配しているようなそぶりを見せるので一旦ひとつ嘘をつくことにした。
「ごめん、メイドさん。まずは名前を教えてもらえる?」
やはり彼女は困ったような顔をする。それは当然だ。顔見知りの人間から名前を尋ねられるなんて経験があろうはずもない。そこでオレは付け加えた。
「おれ、実は病気でさ、、寝る前に記憶をちゃんと整理しないと全部忘れちゃうんだ、、健忘症とはまた違うと思うんだけど、、、、」
流石に苦しい嘘かもしれないと思った矢先、彼女は泣きそうな目で言った。
「私のことも覚えていないんですか?」
「ああ、すまない。何も覚えていないんだ」
どうやら信じてくれたらしい。こんな嘘に騙されるなんてこの子は大丈夫なのか?、、そう思っていると彼女は悲しそうに現在のオレの状況を教えてくれた。
まずオレはこの家にとって養子でありこの家の人間から嫌われていること、またこの家は(彼女がそう言ったわけではないが話から察するに)四流貴族であること、そして彼女はメイドとして働くこの家の奴隷でありオレとはその惨めな境遇から仲が良かったことを教えてくれた。
「ありがとう。一旦着替えてくるよ」
オレは彼女の持ってきてくれた衣服を受け取ってそう言った。
「では失礼します」
「いやちょっと待ってくれ。最初の質問を忘れてしまったのかい?君の名前を教えてくれ」
オレは彼女を引き止めて名前を聞いた。別に興味があったわけじゃないが名前くらいは知っておかないと不自然だと感じたからだ。あるいは自分の質問に格下の人間が答えなかったという事実が癪に触ったのかもしれない。
「私はナイーブです!」
彼女は嬉しそうに答えた。
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