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夏の果てに  作者: げんぶ
9/15

9話

「古い民家?」

 俺は今までの結果からの予想を口にした。


「よく調べてたんだね。

 その通り、この地図に示したのはもう誰も住んでいない民家さ。どうやってそれを知った?」

「去年、ばっちゃんに私が聞かされた。そこに行けば見つかるかもしれないって。」

「そうか、母に聞いたんか。」

「なんで全部誰も住んでいない、古い民家なんだよ。ばぁちゃん」

「母さんには昔、とても仲のいい友達が6人いた。でも皆消えていなくなってしまった。」

「なんで?」

「私たちと同じように、神隠しにあったのさ。そして、母さんだけが帰ってきた。よく言ってたよ、どうして私だけって。」


 俺と夏華は黙って聞くしかなかった。

 神隠しに合って何があったのか、どうしてそうなったのかなんてもう誰も知らない。

 語っていいのは祖母だけだと。


「残された家族は悲しみ、ただただ帰りを待った。

 その後、ある噂が流れた。消えた子の家には森の呪いが刻まれ、災いが起こる。

 防ぐには災いを家に呪いを封じ、家族は退去すべきだ、とな。

 勿論、家族はこれに対して反発し、家に子どもを探し残り帰りを待った。

 だがそれから奇妙なことが多発した。

 失踪した近隣の家で火事が起こったり、奇妙な変死を遂げるような事件が多発した。

 噂は瞬く間に広がり、呪いの性であると決めつけられた。

 結果、残された家族は家を放棄し、引っ越したり、村から出ていった者もいたそうだ。

 今と違って、昔はそういう呪いとか災いとかいうのは力を持っていたからね。」

「じゃあ、この赤い印がしてあるのは…」

「そう、消えた子どもたちの家さ。根強く残った噂は、今でも形を残して維持されている。最近ではもう誰も信じなくなって、使えるようにしたり、老人たちの集会場になってたみたいだけどね。」

「でも始めに行ったところは集会場だったらしいけど、誰も使われなくなったって聞いたよ?」

「出たんだとさ、子どもの霊が。それで誰も寄り付かなくなったらしいよ。」

「報われないな…」

「本当にね。でもその家には何か残されたものがあるかもしれない。伝説に関するものだといいけど」

「私が知っている伝説はさっき話した通りだ。

 といっても母の受け入りだ。これ以上の話は私も聞かされていない。」


 祖母は壁にかけてあった時計に目を向ける。時刻は午後11時を回っていた。


「さ、あんたらもさっさと寝な」

 祖母はゆっくりと立ち上がり、洗面台のある方へ向かって部屋を後にした。

 俺たちもそれぞれの寝室へ向かい、寝床に着いた。


 そんな会話があったことも知らずに三十間近の男2人は寝ずにベランダに座り、煙草に火をつける。

 夜空に上る煙は月に駆け上がり、夜空に橋を架ける。

 風は髪をゆっくりとあおり、描いた橋を容赦なく吹き飛ばす。


「孝介、電話なんか見ても意味ないよ」


孝介は携帯を開き、なんの通知も来ない携帯をじっと見つめる。


「本当はさ、今日返事が来るはずだったんだけどな。」


 孝介は携帯を閉じ、ポケットにしまい、呟いた。


「今回はどうなりそうなん?」

「知らねーよ。良くも悪くもこれじゃあな。」

「俺らも謎解きでもしてみる?」

「ガキ共の暇つぶしを手伝えってことか?嫌だね。時間の無駄だ。」

「出た、孝介の口癖。時間の無駄。」

「喧嘩売ってるのか?」


 孝介は今年で28歳、守も同じく今年で28歳だった。守は気楽で優柔不断な性格の男。

 だが孝介は即断即決、迷いある行動が嫌いな性分であり、決めたことにはまっすぐ突き進む人生を送ってきた。しかし、ここ数年はそうではなくなっていた。大学卒業後、大手企業に就職してから7年。

 自分がやりたかった事をして、好きな女性に出会い、自分でも満足する恋人生活を送り、社内での実績も積み重ねてきた。そして、切り出された結婚の話。当然と言えば当然だった。

 ここ2、3年でそういう話になっていたし、なんとなくそのつもりでいた。

 しかし、ここにきて迷いが生じていた。本当にこれでいいのだろうかと。自分の人生と相手の人生。

 今までは自分の事だけを天秤に乗せ、駆け抜けてきた孝介にとって、初めて覚えた違和感だった。

 吉峰青葉と同じく、数年ぶりに里帰りをした孝介はそのことを祖母に相談する為に、帰ってきていた。 

 しかし、帰ってきてみれば謎の怪奇現象に遭遇し、とても祖母と話せる雰囲気ではなく、気が付けば高校時代の同級生である守を煙草に誘い、無駄話をしていた。そんな自分にも嫌気がさしていた。


「お互い30間近のおっさんだ。

 悩みがあるんだったら一回全部忘れて、子どもたちの手伝いでもしながら頭すっきりさせようや。

 こんな薬吸っても、意味ないで。」


孝介は守にしては珍しい事を言うと思いながら、最近は身体を動かしていなかったことに気づいた。


「手伝いって、何をするんだよ?」

「曾祖母ちゃんの倉庫掃除だよ。」


 守は曾祖母の死後、主の帰りを待ち続けるかのようにただそこにそこされ、手つかずの蔵を指さした。


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