7話
「なんで誰もいないんだ?家に隠れてるのか?」
「なんでだろうね。私が気づいたころには皆消えてたよ。君たちはなんで残ってるの?」
「そんなの知るわけないだろ!?」
「だよね。私もなんで残ってるのか分からない」
少女は笑って完食したラーメンに合唱した。
「これからどうするの?」少女は2人に聞いた。
「そんなの決まってる。警察と両親に連絡して…」
「だから、いないよ。そんなの。」
少女は立ち上がって天城のそばに詰め寄る。
「信じられないなら周りの建物片っ端から見てきなよ。」
天城は外をじっと見つめ、ある異変に気付き始めていた。
「あーあ、降り始めちゃった。ずぶ濡れになって、いもしないものを探すか、私の話を聞くか、選んで。」
「私はあなたの話を聞く、先輩もそうするでしょ?」
「…わかった。」
少女は笑顔を見せると元居た座席に座り、二人も同じように座った。
「話をする前に、自己紹介しとくね。私は峰岸有梨。」
「私は霧谷涼香、この馬鹿は天城遼」
「涼香と遼ね。2人はこの仙波村の神隠し伝説知ってる?」
「私は知ってる。」
「俺は知らんが、後輩が里帰りしてる村が仙波村らしい。」
「そうなんだ。じゃあその伝説には実在した神様が関わっていたっていうのは?」
「それも知ってる。今その事で調査を進めてる友達が仙波村にいる」
「おい、実在した神様ってそんなのいるわけないだろ」
「あ~、君は空想上の存在は信じない子か。まぁいるところにはいるしあるんだよ。現に今、こうなっちゃってるでしょ?」
「わかったよ。続けてくれ」
「仙波村の神隠しは森から神を攫った村人の罪の話。守護者を失った森は村人にその罪を咎め、過ちを修正する。」
「償えない罪はない」
「だから村人も始めは罪を償おうとした。」
「でも彼らは自らの罪の重さに耐えきれず、森を封じた。」
「そう、攫った神と村人との間に生まれた子どもの力を使ってね。」
「それで、怒った森を封じてめでたしめでたしか?それとこの蜃気楼になんの関係がある」
「目覚めた森が仕返しに来たんじゃないかって言いたいんでしょ?」
「さすが涼香。ご明察。」
「でもそれだと決定打に欠ける。仙波村の神隠しと関係してるっていう根拠は?」
「古い友人がいてね、その子に仙波村の神隠しの謎を解明して来いって言われたんだよ。」
呆れた顔で天城は少女の発した根拠に唖然とした。
「それと一緒に渡されたこれが根拠。」
有梨は隣の椅子に置いていたカバンからクリアファイルを取り出す。
中に入れられた古い一枚の紙を有梨は2人に見せた。
絵には上下に反転した絵が描かれており、反転している方に人が吸われているような絵だった。
「なんだ、この古い紙は。古い文献らしいお粗末な絵だからってこれのどこが」
「先輩、この絵は仙波村のだと思うよ」
涼香はスマートフォンから「仙波村 神隠し伝説」という本に使われている資料が似ていることを見せる。
「私はこれから仙波村に行く。2人はどうする?」
「いってこれが直る可能性があるんなら俺はその村に行く」
「私もあなたについていく」
「本当に?よかった。心強い仲間が出来てうれしいよ。それじゃあ行こうか。」
「でもこの状況で交通機関が動いてるのか?」
「動いてるわけないから、勿論車で行くよ~。」
有梨は席を立ち、店の扉を開けて振り返る。
「あ、そうだ。こんな状況なんだ、村につく前には覚悟を決めておいてね。天城君が見たこともないような有象無象の生き物がいるかもしれないしね。」