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夏の果てに  作者: げんぶ
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1話

夏は俺にとって毎年憂鬱になる季節だ。

同じ学生たちは皆、輝かしい青春を送ろうと、自らをさらけ出し、開放感に浸っているように見える。毎日を退屈に平凡に過ごしている俺にはそうとしか見えなかった。

こんな憂鬱で退屈な時間は早く過ぎ去ればいい。

夏季休暇は個性を磨き上げる大切な時期であると担任の教師は言っていた。

その言葉は妙に頭に残り、毎日その事を考えて時間が手からこぼれ落ちていく感覚に襲われる。夏休み開始から5日目、答えはまだ出ない。

この5日間はクラスメイトから連絡が来て、俺を退屈からしてくれるという期待感があった。だがよくよく考えると。


「俺、連絡先誰とも交換してねーじゃん」


5日目の朝この答えに辿り着いた。

ふと、危機感を覚えた。このままでは、俺の人生において最大の汚点を残すことになると察知した。

そして俺は、ゲーム機の起動ボタンに手を伸ばす。

端的に言うと、俺はめんどくさがりなのだと思う。

誰かと遊んでみて感じる虚無感、一人で好きなことをして最後に残るのはただの虚しさ。

一日の楽しみは携帯に来るメールの通知と自宅の郵便受けに入る手紙。そして期待したものはこない。


さて、ここまでくると退屈な人間の退屈な物語に思えるだろう。だからこそ夢を見る。見てしまう。見たくなってしまう。波乱万丈な物語開始の合図をベッドの上で待つ。創作物特有の展開。転生したり、幼少期、少年少女の恋焦がれる存在になったり、恋が始まったり。  

そういった夢を見たくなるし、憧れを抱く。俺がそう思う理由は一つである。体験したことが無いからである。非現実的だとか、起きるはずがないとかみんなそういう。

端的に言うと俺は動いた。そして、見つけた。俺が言いたいのは一つ、探せば案外いるし、見つけられてしまうのだ。結局、何処に何がいたのかというと、田舎に住んでいる俺の祖母の隣に住んでいたのである。俺に恋を教えてくれる人、くれた人だ。

なんで俺がこんな幸福な状態なのかというと、日本全土の思春期真っ盛りの少年少女達よ、すまない。俺には唯一、感のいい幼馴染がいた。そんな奴に夏休みに祖母の家に帰宅すればいいことあるかもなんて言われれば、誰でも動くでしょ。


「へ~、それでちゃんと会えたわけだ。」

「ああ、感謝してるよ」

「それで、夏休み5日間家でニートしてたお前が今相手をしてるのは?」

「宇宙人」

「青~!早く遊ぼ~!」

足元にいる宇宙人もとい、従弟の関平は俺に遊べと30分以上足元で駄々をこねていた。

「検討を祈るよ、吉峰青葉」


幼馴染、霧谷涼香は俺を煽り満足して通話を切ったようだった。

腹立たしかったが、こんないい思いをさせてくれたのは彼女のおかげもあるので文句は言えなかった。


「土産でも買っとくか」


「霧谷!」

「なんです?先輩」

「誰と話してたんだ?」

「内緒―」


気の抜けた声で適当な返しを霧谷はした。

電話の相手が何故にそうも気になるのか、霧谷は疑問を抱きつつバイトの業務に戻った。


「関平は今夜浴衣着るのか?」


午後14時、俺は、10歳の従弟とのキャッチボールに付き合わされていた。

適当な話題を振るも返事はかえって来なかった。


「どしたー?関平は浴衣嫌いなのか?」


関平は下を向き首を横に振った。

俺が投げたボールは関平のグローブに収まらず田んぼの中に転がっていく。


「青はどうせ祭りに行ったら夏姉ちゃんと2人で何処か行っちゃうもん。

つまらんは!」


俺は絶句した。10歳の子どもと甘く見ていたがよく見聞き、観察していると思ったからだ。

こういう時、なんて言ったらいいのだろうか。

俺は答えを持っていなかった。


「それに浴衣は青のもんだもん」

「俺のって…なんで…?」

「青いっつも浴衣着てる。浴衣は青のもんだもん」

「馬鹿なやつだな。いいか?俺がこれを毎日着てるのはただのカッコつけだ。

 浴衣は俺だけのもんじゃないし、関平も好きな時に好きなものを着ろ。」


誤解があってはならないから訂正しておくが、俺が浴衣を毎日来ているのは霧谷涼香との賭け事に負けたからである。しかし、こんな格好の悪い理由を従弟の前で言えなかった。


「それにお前を除け者にはしないよ。一緒に回りたかったら初めから言えばいいのに。

 でもそういえばお前、クラスメイトの子と一緒に回るとか言ってなかったか?」

「青の方がいい」


俺は嬉しくなり、涙腺が緩んだ。


「でも青はこういう思い出に残ることは友達といるべきだと思うぞ」

心の底から思う悪意ある本音が思考回路を回すことなく口から出る。

関平には悪いと思ったが、今夜は誰にも邪魔されたくなかった。


「何言ってんの。関ちゃんずっと楽しみにしてたんだから!一緒に行ってあげないと駄目に決まってるでしょ!?」


午後16時20分、関平の俺の母への告げ口により、関平の願いは成就される形となった。

願いというのはどうしていつも届かないのだろうか。稀に願いは届かないから願いなのだと聞こえのいい言葉を耳にする。俺にはその考えが理解できなかった。届かないのであればなぜ、願う必要がある。その考えに至ったのは中学3年の夏だった。そして俺は野球選手になるという非現実的な希望を、願いを、夢を捨て、現実的な将来家族を持つという夢に変更した。


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