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7、sideルシウス

(クッソ……)


 あわただしく二人が去って行った扉を睨みつけたまま、ルシウスはその場から動けないでいた。


『今回の事がきっかけでミルティが貴方の気持ちに気づくかもしれないのに、貴方はその機会を失ってもいいの?』


 愛しい人によく似た顔で声で耳元でささやかれた甘い誘惑に、ルシウスはすぐに反論する事ができなかった。

 ミルティは母とはあまり似ていないとつぶやくが、ルシウスから見ればミルティは彼女の父にも母にも十分に似ている。むしろ彼らのいいとこどりしているような顔つきだ。

 そこは常日頃義両親に対して心からルシウスは感謝していた。ミルティを産んでくれてありがとうございますと。

 勿論幼い自分を渋々ながらこの家に預けてくれた両親へもかなり感謝している。英断をありがとうと。

 それくらいミルティのそばにいる事が出来て、生家から一人幼い頃にこちらに来てよかったとルシウスが本気で思っていた。

 何だったらもっと前からここに来て、ミルティの全てを見たかったとも。


(俺()ミルティ……)


 花の妖精か、はたまた可憐な美の女神かと見間違うほど愛らしいミルティを他の男がいるパーティ、ましてや夜会に一人で参加させるなどルシウスの中で絶対にありえない事だった。


 またいつぞやの令息のようにミルティをそそのかす屑が出てくる可能性がある。だからルシウスは絶対にミルティに屑が寄り付かないように、今までの社交界全てを事前にリサーチしてきた。

 ミルティは気づいて居ないようだが、ミルティが参加していたパーティーにいる男は全て婚約者かパートナーがいるものを極力選んでいた。居なくても事前にルシウスが要チェック人物に目星をつけて必ず()()()()()う等の対応をしていた。

 勿論、その時はロウリー家の跡継ぎとして顔を売るためも兼ねてもいたが。


(まあ、ミルティに近づいて来たとしても……)

 いつぞやのように屑はゴミ箱に片付ければいいだけだ。


 けれど今度のパーティーには自分がいない。もし他の男がミルティを見つめ、ミルティのあの小鳥のさえずりよりも美しい甘い声を聞いてしまうのではないかと考えるだけで――ルシウスは眩暈した。

 そんなことを万が一でもされたらと、想像上でしかない男たちをばっさばっさとルシウスの脳内でモザイクがかかるような悲惨な姿に変えていく。


 それでも……


(ミルティが俺の気持ちを……)


 そう思った瞬間に甘い誘惑があっけなくルシウスの心を屈してしまった。


 この家に来てからしばらくして気づいたこの気持ちをミルティがついに受け入れてくれる?ずっと自分の気持ちをミルティに伝えてきてはいたのだが、頑ななまでに弟としか見てくれようとしなかったミルティが?


 自分の思いを受け入れて欲しい。

 男として……。


 何度心から切に願ってきただろうか。


 ミルティが自分の気持ちを受け入れてくれる為に邪魔になるものは使えるものは全て使い、なんだったら時には生家の力も借りて全て排除してきた。それでもそんな自分の重たいほどの思いを隠しミルティに怯えられないように、それでも逃がさないように伝えてきたのに。ミルティはルシウスを弟と言い張るばかりで、受け入れようとしてはくれない。寧ろ弟にそんな気持ちをもつことを悪いことだと思っている節まで有るように感じていた。

 何度自分は年下で、弟と思われている事を恨めしく思ったことか。もう最近は弟と思われることに我慢の限界がきつつあった。


 そんな中でミルティが自分の気持ちを受け入れてくれるかもしれないと聞かされてしまい、ルシウスは動けないまま二人をパーティに向かわせてしまったのだ。


「クッソ!」


 今すぐミルティを連れ戻したい思いと、ミルティが自分を受け入れるきっかけを壊す恐怖のはざまで動けず、もう何度目かわからなくなるほどつぶやいた苛立ちにルシウスは耐えきれず唇をさらに強くかみしめた。

 そんな時、ルシウスにそんなに強く噛んだら血が出るよ?と優しい声がかけられた。

 みればそこにはいつの間にいたのか困ったような顔をした義理の父が立っていた。


「もうルシウスは心配性だなあ。大丈夫だよミルティはああ見えて素直な賢い子だから。ただちょっとサリーに似て思い込みが激しいだけ。ミルティもサリーも形や過去にとらわれないでもう少し自分は幸せになっていいんだってわかってくれるといいんだけどねえ」


 のんびりと話す義父にルシウスは苛立ち交じりのため息をぶつける。


「あなたも知ってたんですか?」


 そういえば義父はにっこりと微笑む。


「もちろん知ってたよ?だってサリーもミルティも意外におっちょこちょいだから。だから僕もちょっと君に秘密にしていられるようにお手伝いしてあげてたし。あ、でも僕が知っていたのはサリーに内緒ね。僕が知ってるっていうとサリーはすぐ僕が思ってることと違う風にとらえちゃうから」

 そこが可愛いんだけどねとにこにことつぶやく義父にルシウスはますます深いため息をついた。

 道理で自分は何もわからなかった訳だ。

 意外にこの義父はしたたかだ。


「前から気になってたんですけど、どうしてあなたはつかず離れずな振りをするんですか?」


 彼も彼で愛しい人を逃がす気はないだろうに、何故か愛しい人と距離をとっている。ミルティにとって当たり前で気にもならないようだからルシウスも何もいわなかったのだが、幼少期にこの家に来た時に感じていた違和感。それを素直に聞けば義父はくすくすと笑う。


「サリーはね、未だに自分がこの家に買われたって思ってるんだよ。それに僕は厄介者を押し付けられたかわいそうな人だともね」

「違うなら違うっていえばいいのでは?」

「うん、そういってはいるんだけど。人の心の傷は言葉だけでは救えない事もあるんだよ。もちろんそんな傷を負ったサリーの全てが愛おしいと感じるからこそ僕はいつか彼女が心から幸せだと思えるようにしたいんだ」

 例えそれがつかず離れずの関係でもね。

 そういって笑う義父の笑顔はどこか寂しい。


「……報われないですね」

「そうだね。報われないかもね。だからかな、ミルティにもルシウス。君にもちゃんと報われて欲しいと願ってるよ」


 ぽんぽんと頭を撫でられた手からはやんわりとぬくもりが伝わる。


「それに、ちゃんと虫よけは配置しておいたから大丈夫」

「は?」


 自分以外に誰がミルティの側で彼女を守るのか。驚きで顔を上げれば義父はルシウスに1枚のハンカチを見せる。そのハンカチの模様を見るなりルシウスの瞳は大きく開かれる。そんな様子を見て、


「まぁ、ルシウスは嫌かも知れないけど、ちょうどいいからお願いしておいたよ?」


 そういってくすくす笑う義父に構う事なく、今度こそルシウスはミルティを連れ戻すべく駆け出していた。

デレはしばらくお待ちを。

多分五万字行かない程度で完結予定です。

完結までお付き合いいただけたらさいわいです。


よろしければ、ブクマ評価よろしくおねがいします!

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