プロローグ
「ねえ、どうする義姉さん?僕から逃げる?それとも俺のものになる?」
(今さら義姉さんなんて……)
血が繋がってないとは言え姉弟のように育ってきた。それなのに最近では全く姉として呼んでくれないのに。思わず心の中で舌打ちを盛大にしてしまった。
たしかに数年前の幼い頃にはたどたどしくも、義姉さんと呼んでくれていた。
しかしいつしか一人称が僕から俺に変わった辺りで、義姉さんとは呼ばれなくなっていた。それは彼自身、一番よくわかっていることだろうに。
それに散々意識させてこんな風にしておきながら、全くもっていまさらながらの問いかけだ。
その問いに答えることなくミルティは顔を背けた。
「ねぇ、どうしたい?ミルティ?」
するとクスクスと笑うように、再び耳元で甘く囁かれ心地よい声に捕らわれていた体が締め付けられる。
キッとミルティが自分よりも背が高いルシウスに向かって睨めば、天使の様に綺麗なその顔は楽しそうに目を細め柔らかく微笑んだ。
しかし、楽しさのなかにどこか獲物を逃がさまいとする獣の様な色を瞳に孕み、鋭く冷気を放っているように感じるのは気のせいではないだろう。
そもそも彼はミルティの答えをきっと知っている。それでいて選択肢を与えてくれているように見せかけていても、毛頭もミルティに選ばせ逃がす気もない事くらいわかっている。
勿論言葉上だけでなく、とらえた体も離す気はないのだろう。壁に背中を押し付けられ、前方はルシウスが顔がくっつきそうな距離で塞がれている。更にはミルティの両手をルシウスは優しく、それでいて力強く握り反抗する動きを封じている。そんな状態なのだから逃げることなど出来ない。そもそもルシウスから逃げることなどミルティにできるわけがない。
それすらも知っているのに、とまた心の中で舌打ちを繰り返してしまう。
「わ、わかってるくせに……。ルシウスのバカ……」
目の前の天使のような微笑みを崩さない、ルシウスと呼んだ男にそう言い返す。それが彼の義姉であるミルティに出きる今の精一杯の反抗だ。
「うん。知ってるよ?でもね、それでも俺をこんな風にさせるミルティが悪いんだよ?」
「なっ……んんっ!」
そんなのは理不尽だと抗議しようと開いた唇が塞がれるようにルシウスのキスが休む間もなく降り注ぐ。
「……っ、ミルティ」
キスの合間に名前を呼ばれればその声の甘さに心はさらに締め付けられ、徐々に深くなるキスにミルティはどんどん甘く溶かされる。
(義弟……なのに……。年下なのに)
彼から逃げるなんて選択肢はやはり最初から用意などされてはないのだと改めて認識させられる。
むしろ逃げるどころか、このままずっと甘く溶かされ続け捕らわれつづけたいと自らが願うほどだ。
自分はずいぶん前から彼のものになってしまっていたのだろうとミルティは痛感しながらそっと目を伏せる。
「ミルティ、愛してる」
(ルシウスの愛からなんて逃げられるわけなかったのよ……)
体中甘い痺れで溶かされミルティはルシウスに自分を委ね、ぼんやりとする意識に従ってゆっくりとそのまま瞳を閉じた。
はじめましてとお久し振りです!
しばらく定期更新になりますので楽しんでいただけたら幸いです。
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