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賢きモノと強靭なモノ

「それに殺気もないし、こっちの事試してるだけでムカつく」


戦いの最中だと言うのに珍しく悪態を吐くクゥリル。確かに識者は何かを見定めているようで、ただこちらを見下ろしている。


「旦那様、賢者って本当は馬鹿じゃないの?」


それが気に食わないと、更なる辛辣な爆弾発言を投げた。


「……クゥ、あれは賢者じゃなくて識者だよ」

「でも旦那様だって、賢者って気付いてたから気遣ってたんだよね。あんな奴気遣う必要なんてないよ」

「バレバレだけど、こういうのは気付かないフリをするのがマナーだよ」


まぁ、普通に考えればわかることだ。

識者の発言からも察しられるし、なにより空を飛ぶような魔法を使えるってことは、それだけで対象は限られる。


後から知ったことが、前にアンリに渡した空を飛ぶ魔道具も浮かぶだけで膨大な魔力を消費するという、普通の人間には動かす事すらもできない代物だった。あれは勇者のような無尽蔵に魔力を持つ者にしか扱えない欠陥品ということだ。


それを魔道具なしで空を飛んでいるとなると、膨大な魔力とそれを魔法と発現する能力の両方を有するのは、残る女神の使者の賢者ぐらいしか考えられない。


「ふん、どうやらそれなりに頭も回るようだな……どこぞの筋肉馬鹿とは大違いだ。その通り、僕はかつて賢者として、女神に言われるがままダンジョンマスターと敵対していた愚かな人類の一人だったということは認めよう」


あっさりと、その事実を認めた。


「嘘だ!! 女神の使者が人類を裏切るはずなんてない!」


それを認めたくないアンリは叫ぶが、すでに識者はアンリのことなどいないものとして扱い、無視して続ける。


「だが、一つ言うとしたら賢者と言う存在はもういない。もはや今の僕は女神の使者ではなく、真実に目覚めた“識者”だ!」


――ゴゥっと、識者を中心に暴風が吹き荒れる。

クゥリルが俺の正面に立って槍を振り回して暴風を相殺するが、アンリはそのまま風によって後ろへと吹き飛ばされ、木に叩きつけられてしまう。


それを合図にズシィンと、空から何かが降ってきた。


「ようやく来たか、この筋肉馬鹿」

「あ゛あ゛? テメェにはこの筋肉の良さが分からねぇのか!? それと俺の事はチャンプと呼べと言ってるだろうが賢者ァ!」

「お前こそ僕の事は識者と呼べと何度言えば分かる。脳ミソまで筋肉でできてるんじゃないか?」


それは上半身ピッチピチのシャツを着た、洋画に出てきそうな顔面凶悪面の男だった。


チャンプという事はアレがロータスの街を襲った、三人目のグランドダンジョンマスターか。

つまり盟友と言ってるのはおそらく一人目のことで、更に三人目もいて、ついでに言えば賢者までも協力関係にあると。これって結構ヤバイ事態にまで進んでいるのかもしれない。


「まぁいい、それよりお前向けの出番だ。さっさとやってこい」

「なんつーかよぉ、もっとマシな相手はいねぇのか? 女ばっかで野郎はヒョロヒョロときた。こんなんじゃ満足できねぇぞ」

「……何を言っている、再戦したいと言ってた相手じゃないか。あの男と獣人が例の二人だぞ」

「テメェこそ何言ってやがる、俺があん時見たのはもっと強そうなヤツだ。こんな女とひ弱

そうな男じゃねぇよ」


こちらを一瞥すると、ケッと唾を吐き捨てる。

識者とチャンプの二人が言い争っていると、ようやくアンリが立ち上がり戻って来た。


「うぅん……二人とも大丈夫? ……って、あいつはあの時の!? クゥ、二人でアイツを倒すよ!」

「アンリはダメ」


意気揚々と前に出ようとするアンリをクゥリルが遮って止める。出端をくじかれたアンリは「なんで!?」と聞き返すが、それは意外と単純な理由だった。


「だってアンリ弱いままだよね。こんなに敵がいるのに、アンリの動きに切れがない。いくらアンリでも、分からないはずないよね」

「っう」


図星を突かれたアンリにクゥリルは「そんなんじゃ邪魔になるだけ」と、更なる追い打ちをかける。事実を言われたアンリは目に見て分かるほど落ち込むが、そんなアンリの肩にクゥリルは手を置く。


「だから、アンリはわたしの代わりに旦那様……と、ついでに向こうの三人守って。これはアンリにだけしかできないことだから、お願い」

「クゥ……、わかったよ。ボクがみんなの事守るから、クゥは安心して戦って!」


戦力外通告された事よりも頼られたことの方が嬉しいといった感じに、俺を引き受けると嬉々として後ろに下がる。


「ほう、この結界がどういったものか分かって勇者を下がらせたか。賢明な判断だ」

「何か違和感あると思ってたけど、お前の仕業だったのか!」

「……ネタバラシしてやると、僕の魔法でダンジョンマスターを感知できないようになっている。今の勇者は少し力があるだけのただの小娘ということだ」

「……もしかして、ロータスを襲った時もそうなのか!?」

「――察しが悪いな。やはりお前と話すと反吐が出る」


地面から光の球が一つ飛び出す。


アンリはすぐに反応して剣で真っ二つに叩き斬るが、刃が触れた瞬間に弾け――たが、これといって何の変化もなかった。


「――?」

「アンリどうした? 急に口パクなんかして」

「――――!? ――!!?」

「あー……声が出ないのか」


アンリは思いっきり叫んでいるのだろうが、その口からは一切音を発していない。どうやら識者の魔法によって無理矢理黙らされたようだ。


「さて、煩いやつが黙ったところで今度はニ対一だ。いくらお前が異常個体だろうと、元賢者とグランドダンジョンマスター、この二人に勝てるかな?」

「オイ、何言ってやがる。女相手に二人掛りとか日和ってんのか? 賢者のくせによぉ」

「…………馬鹿にするのは勝手だが、やられても手助けしないからな」

「ハッ! こんなヤツ俺一人で……ッ!?」


チャンプが吹っ飛んだ。


後ろの方でバキバキと、木にぶつかりなおも貫通して、どんどん遠くなっていく。

中々に手厳しい一撃だけど、一応、拳を構えた瞬間に吹っ飛んだから、クゥリル的には待ってくれていたようだ。


まぁ、あれだけ馬鹿にするような発言してたら怒るのも仕方ないか。


「むしろそっちこそそれだけで足りるの? 後ろで見てるモンスターも合わせた方が良いんじゃない? どちらにしろ無理だけどね」


そう言うと、クゥリルは槍を地面に刺して、素手でも十分だという様に挑発までしている。それを識者は悔しそうに舌打ちをするだけで中空に浮いたまま動かない。


「嘘だろオイ! 何だコイツ!?」


頭に木の葉を付けながらチャンプが戻ると、意外な事にその顔は嬉しそうにしていた。


「言っただろ、お前向きの件だと」

「そう言う事かよ! ハハッ、面白れぇ、次は俺の力を見せてやるぜぇ!」


拳を向けて宣言すると、チャンプは先ほどと打って変わって真剣な表情となり、特徴的なステップを踏み出す。そして「シッシッ」と、自ら音を出して呼吸する姿はまさにボクサーそのもの。


それを見たクゥリルは何かを察したのか、同じように素手で構えると、奇しくも似たようなステップを踏んだ。


「あん? 見よう見真似ってか? そんな付け焼刃じゃ、俺には通用しねぇぞ」

「ふふん、どうかな」


あ、これ、止めた方がいいかも……。


不穏な気配を感じ取った通り、その考えは正しかった。しかし、既にクゥリルは一足で間合いを詰め、ソレを放つところだった。


「なんとか、ひゃくれつけん~」


間延びしたふざけた口調で技名を言うと、その可愛さと裏腹に恐ろしいほどの拳と蹴りがチャンプを襲う。まさか、昔見せた漫画の再現をするなんて思ってもみなかった。


「ふ、フザケンナァ!! 漫画を再現とかありえねぇ!!!」


たかが一瞬、されど一瞬。ほんの数秒で百発もの打撃を加える技の前に、手も足も出ないチャンプは叫ぶことができない。


……全くその通りです。しかもボクシングと一切関係ないね。


必殺技と言える一撃、ではなく百撃を入れたにも関わらず何ともなっていないことにクゥリル本人は「あれ? 爆発しない……」と、不思議がっている。


そりゃあ、アレは漫画だからね。


「はあ、はあ……焦っちまったが、意外と大丈夫なもんだな……。いやこの場合は違うな……ゴホン。ハハハ! お前の拳など効かぬ! 誰も俺を倒すことはできぬのだぁ!!」

「!?」


向こうも向こうでノリノリのようだ。

本当、その見た目と良い、筋肉と良い、とても似合ってるよ。

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