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必殺の微笑み

「ねぇ、エース、ビビ……私、幻覚でも見ちゃってるのかな……。目の前に勇者様が……」

「わ、私にも見えるよ……。あれかな、ちょっと浮かれすぎちゃったのかな……」

「ふ、二人ともまずは落ち着きましょう。それじゃあ皆して同じ幻覚見ちゃってることになるわ……!」


こちらのことに気が付いた三人は、どうやらこの状況を信じられず困惑しているようだった。それに比べて流石はプロといった所か、屋敷に勤めている方々は一切動じず、すでに追加のティーセットを用意している。


「えーっと、あの子たちは? 二人で旅してたわけじゃないの?」

「こっちも色々あってね。あれは勇者のファンだよファン」

「ファン?」

「昔、アンリに助けてもらったことがあるらしく、憧れてるんだってさ」

「そ、そうなんだ。何だか照れちゃうなぁ、ボクなんてまだまだ未熟なのに」


口ではそう言ってるが、実に嬉しそうにしている。向こうでの扱いが扱いだったため、こういった事には慣れていないんだろう。


そうこうしているうちに、ようやく幻覚じゃない事に気付いた三人は、カチコチになりながらも、アンリに近付いて話しかけた。


「ア、アノ!」

「も、もしかしなくても」

「ユユユユ勇者様でゴザイマスカ?!?!」

「うん、ボクは勇者。女神に選ばれし勇者、アンリだよ」


――バタン。


「ええ!? だ、大丈夫!?」


アンリがポーズを決めた瞬間、ビビが倒れてしまった。


「だ、大丈夫です! ビビは極度の緊張で倒れただけです!!」

「いや、それ大丈夫じゃないような……」


「「大丈夫です!」」と二人は急いで倒れたビビを介抱しながら、

「はわわ。まさか本物だったなんて……。どうしよう、心の準備してないよ!」

「私だってそうだよ! シィの直感で分かんなかったの?!」

「私にもわかんないことあるよ! 確かにそうなればいいなーって思ってたけど、こんなすぐに会えるなんて思ってないよ!」


と、隠れてもない内緒話をしている。


「えー……っと、ちょっといいかな」

「ひゃ、ひゃい!」

「ああ、やっぱりそうだ! 君達はセイロン村の人だよね?」

「っ! お、憶えて……」

「……絶対に忘れるはずないよ。ボクがまだ未熟だったせいで……」

「…………勇者様……。……いえ、勇者様のせいじゃありません。あの時は言えませんでしたが、あの時は本当にありがとうございました」

「うん、そうだな。気絶したビビの分も含めて、本当にありがとう。勇者様のおかげで私たちは生き残れたんだ」

「……でも」

「勇者様。勇者様には助けてもらっただけじゃなく、大切なものも貰ったの!」

「大切な物……?」

「ああ、私たちは勇者様から希望を貰った。だから、今の私たちがある。だからそんな顔しないでくれよ!」

「……うん、わかったよ。君達も頑張って来たみたいだね。ボクには分かるよ!」


ニカっとアンリが笑いかけると、――バタン――バタンと、続けざまに二人は倒れてしまった。しかし、その表情はどこか喜びに満ち溢れていた。


慌てふためくアンリだが、そこは冷静に近くのメイドが彼女たちをベッドまで運んでいくのだった。


「アンリ。アンリは何でこっちに来たの? あんなに教会に行きたいって言ってたのに」

「いや、教会に行きたかったのは本当だよクゥ。教会というより、リィン……あの時いた聖女も会うのが目的だったんだよね」

「じゃあ、どうして?」

「……さっきも言ったけど、困ったことになってね。その……リィンに旦那さんのことがバレちゃった、かもしれない……」


……それ、不味くないか? 相手は聖女だろ? つまり教会のトップにバレたということは、今この聖都にいる状況がかなりヤバイということになる。


「アンリ、それはどういうことだ。わざわざバレない様に出て行ったのに、何でバレることになったんだ?」

「し、仕方なかったんだよ! ボクだって誤魔化そうとはしたよ! でも、あの時ごたごたしてたのもあって、後になってからリィンに問い詰められて……」

「それで助けて、と?」

「う、うん……。あのままだったら全部話しちゃいそうだったから、逃げてきたの……」

「はあ。そうなってしまったのはもう仕方ないとして、結局、あの後どうなったんだ? 折角だから教えてくれよ」

「わ、わかった。あの後のことなんだけど……」


それからアンリから聞いた話をまとめると、あの襲撃の後にも色々あったようだ。


まず、新たに明らかとなったグランドダンジョンマスターの存在。

まさか襲撃したのが今まで知られなかった上位存在(グランド)で、しかも勇者と聖女の二人がかりでも倒しきれず、逃がしてしまうほどの実力の持ち主という事実。この事実に教会は、衝撃を受け、これまで以上に邪悪なるモノに対して警戒するようになった。


それまでのダンジョンマスターはそれ以下も以上なく、等しく同じ邪悪なるモノとして認知され、基本的に生み出したモンスターにさえ気を付けていれば、対処は容易だと考えられていたが、今回の件でその認識が変わった。


それに伴い、ダンジョン対策も見直されることになるようで、今までは教会が冒険者ギルドを立ち上げ、各国が運営し、依頼という形で冒険者に丸投げされていたが、その方針から国家間による協力体制を敷いて、明確な行動指針を持った冒険者連合と言った大がかりなものを計画中とのこと。


その初めの施策として、実際に西の大陸でダンジョン攻略を成し遂げたドラグニア帝国との和解へとなったようだ。当初予定されていた会談と異なる内容になってしまったが、ジークの思惑通りにドラグニア帝国がかなり有利な条件で話が進められているらしい。


他にも、女神の使者が揃ったことや、邪悪なるモノが怪しい動きをしていることとか、世界的に見ても情勢の変化の真っ只中にあるようだ。


「そっちは大変そうだな」

「いやいや、他人事じゃないよ! 旦那さんも確か、ぐらんどってやつだったよね? むしろそれが何なのか教えてよ!」

「教えてと言われても、教えられるほどのことも知らんしなぁ。……アンリだって勇者って何? どんなことできるの? って言われても答えられるか?」

「うっ、そう言われるとわかんないかも……」

「それに俺がアンリを殴り飛ばせるほど強そうに見えるか?」

「……全然見えない」

「つまりそう言う事だ。一つだけ言えるのは、どんな目的で能力を使ったかで、変わるってことぐらいだ」


その一言に「ううん」と悩みだすアンリ。隣でクゥリルが「旦那様はわたしにとっての唯一無二」とか「最高の料理やどんなものでも出してくれるよ」とか、俺に代わって説明してくれているが、知りたいのはそう言う事じゃないぞ。確かに俺の場合はクゥリル特化なのは認めるけどな。


「あっ、そういえばアレがあったよね、何か色んな情報が見れるヤツ。それで見たらいいんじゃないの?」

「あー……そういえばDMちゃんねるがあったな。こっちは今の今まで忘れてたのに、よく覚えていたな」

「そりゃあ、忘れないよ。それのせいでボクは酷い目に遭ったようなもんだからね」


久しぶりに“DMちゃんねる“を開くと、懐かしい感覚と共に頭の中にそれらの情報が流れ込んでくる。


「……あれ。スレッドの傾向が今までと違う?」


前に見た時の“DMちゃんねる“にあったスレッドは主に三つに分類できていた。

一つ目は雑談・相談スレ。基本的に他者と関わることがないダンジョンマスターは、主にこういった場で気を紛らわして、常に誰かが書き込んでいる一番人気のスレッドだ。

二つ目はダンジョンマスターの能力についての質問・検証スレ。初心者向けのよくある質問からマニア向けの能力検証など、多岐に渡るスレが乱立していたりする。

そして最後は襲撃・撃退スレ。ダンジョンを狙う冒険者の情報から対策についてまで、結構ためになることがあるのだが、その分嘘の情報も多い。因みに、ダンジョン襲撃時の実況といったものもこれに含まれる。


そして今回。先ほど挙げたどれにも含まれないスレッドがあった。

それは――【第十三回選定会】と、一風変わったタイトルが付けられたもの。しかも既に【5part】に入っているようで、今もリアルタイムで書き込みが増えている。


書き込み内容からして、ダンジョンマスターを集めて何やら仲間集めのような事をしているようだ。しかも、仲間になればより多くのポイントを稼げる方法を知ることができたり、安全な場所を提供出来たりと、魅力的な特典も盛りだくさんで、一番の目玉としてグランドダンジョンマスターに至る方法についてまで、仄めかされていた。


逆に言えば、それ以外でグランドについての情報が不自然なまで書いて無く、そのスレッド内だけしかない。


「グランドについては全く分からなかったが、アンリが言ってた通り、ダンジョンマスターが集まって何かやってるみたいだな」

「本当!? 一体どんなことを企んでるの!?」

「いや、そこまでは書いてないな……。あっ、でも丁度次の選定会がフレーシア方面で開かれるみたいだな」

「よし! それじゃあ、そこに乗り込んで問い詰めよう! こっから近いんでしょ?」

「……言い忘れていたが、ここは聖都だ。全然遠いぞ」

「え、ええええええ!!?」

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