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ウェイスター商会

「あそこのパスタ美味しかったですね! さすがは聖都、どの店も一級品揃い!」

「それはそうなんだけどさぁ。……シィ、あんたそろそろ遠慮ってもん考えたらどうなんだ。聖都まで来て付きまとってちゃあ迷惑だろ……」

「何を言ってるのよ、エース! このチャンスを逃さずして、どうやって上を目指すっていうの!? 私の直感がこの人たちについて行けば強くなれるって言ってるんだから!」

「あー、わかったわかった、わかったから大声出すな。ただでさえ無理言ってついて行ってるんだからさ……」


今は聖都での食事を終え、今は南の国フレーシアに向かう為の馬車の予約所へ向かう途中なのだが、冒険者パーティーのリーダーであるシィと仲間のエースが言い争っている。


もう何度目のやり取りとなるこのやり取りは道中でも度々見てきたので、大分見慣れたものだ。


「ごめんなさいね、うちのシィが騒がしくて……」

「気にしてないからいいよ。まぁ、もう少し静かだったらいいけど……」

「ほんとね。私もそう思うわ……」

「あ、ダンナさん! ちなみに行き先はフレーシア行でいいんですよね!? 一度決めたら変えれませんからね!」

「ああ、とりあえずフレーシアでいいよ」


ここまで来たらそのまま西の国カクタクスへと向かえばいいのだが、今更行き先を変えるのも変だろうし、とりあえずそこまで行くことにしよう。


……そこに他意はない。


「…………ジー……」


別に南が獣人の国で、獣人がいっぱいるから行きたいってワケではないからね? 方々で聞いた話から立ち寄るには一番面白そうだと感じたからであって……そんな目で見ないでくれ。というか当たり前のように心の声読まないで!


「着きました! こちらの一階で馬車の予約ができます!」


自信満々に案内された先は、デパートかと見間違えるほどの大きな建物だった。


いや、見た目だけじゃなく中身もデパートそのもので、内装からして他の建物と比べてデザインが大分先進的。入口に入ってすぐに大きな受付があって、その横には別の売り場へと繋がる階段という様になっている。


「知ってます? ここって、あのウェイスター商会が立ち上げた総合商品販売店(デパート)っていう画期的なお店なんですよ!」

「あ、やっぱりデパートなんだ。……ってウェイスター商会? どこかで聞いたことがあるような……」

「そりゃあ聞いたことあるに決まってますよ! なんたって世界のウェイスターですよ! 元々は西の大陸からやってきた商会なんですけど、中央に進出して、今じゃこの通り聖都を代表する大商会!」


興奮するように語っているのをまたエースに止められそうになっているが、

「それにここって庶民にも優しいんですよ! 下は庶民、上は貴族まで、あらゆる需要を満たし、さらには王族御用達にも選ばれる! いつかはここで最高の武器を買うのが夢の一つなんです!」と、その熱は中々止まりそうになかった。


ああ、思い出した。そういえば、ジルベールさんのとこがそんな名前の商会だったはずだ。つまり、あの時貰ったカードももしかしてが使えるのか。


「それじゃあ早速予約してきますね!」

「ちょっと待った。それは俺に任せてくれないか」

「え? ええ、良いですけど……あまり高いヤツにしないでくださいよ?」


ひとしきり言い切ったシィが早速向かおうとしたが、それを止めて受付の方へと向かう。

こちらに気付いた受付嬢が「いらっしゃいませ」と、礼儀正しく迎えてくれたので、サッと銀色のカードを取り出した。


「これ、会員証――「っ!? しょ、少々お待ちください!」――なんだけど…………」


取り出しただけでこの反応。慌てたように後ろに下がっていったが、何か思ってたのとちょっと違う。でも、これで少しはサービスしてくれるはずなんだよな?


それから程なくして、先ほどの受付嬢はスーツを着込んだ、見るからに偉そうな人を連れてきた。


「お待たせしました。そちらの会員証、拝見してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「…………間違いありません、本物です。対応が遅れてしまい申し訳ありませんでした。さぁ、お連れの方もご一緒にどうぞこちらへ」


そうして案内された先はこれまた豪華な部屋。部屋に入る前から専属のドアマンのお出迎え、さらに促されるように座ったソファーもふっかふかで最高の一言。出されたお茶も、菓子も、どれもこれも一目でわかる高価なものだった。


つまり、VIP待遇だ。


クゥリルはいつも通り興味ないことについては一切関心ないが他の三人は違う。いきなりのVIP待遇にガチガチに緊張している。


「え、なにこれ。……私達夢でも見てるの?」

「ハ、ハハ……し、信じらんねぇ……。あの天下のウェイスター商会にこんな特別待遇受けるなんて……」

「?!?!?」


うん、本当にまさかの対応だよ。ここまでサービスがよくなるなんて思ってないよ! ジルベールさんは一体何を渡したの?!


「本日はご来店、まことにありがとうございます。私が聖都支店総支配人のクリストと申します。何か至らぬ点がございましたらお申し付けください」

「いえいえ、全然大丈夫です。それより、こんな良くしてもらって、逆に悪い気が……」


そう言ってみるが、「いえいえ、そんなことはありません。ジルベール会長が直々にお選びになったお客様なのですから」と、支配人は笑って流す。


こうなったら開き直って、VIPとして振舞ってやろうではないか。金ならジークのところでたくさん稼いだものがある。むしろ使う機会があって良かったと思うべきだ。


「それじゃあ、馬車の予約をお願いします」

「馬車のご予約ですね? それでしたら――」


支配人は胸元から手帳を取り出し、パラパラっと何かを確認すると説明を始める。


馬車の予約と言っても色々なプランがあるようで、急ぎで向かうものもあれば、各地を巡りながらののんびりとした旅程もあったりと様々だった。


今回の場合は移動できればいいだけなので、そのことを伝えると、真っ先に説明されたの一番高いプランの快速直行便。その日の天候にもよるが、わずか数日、遅くても一週間以内には着くらしい。


その時に使う馬も普通の馬ではなく、八本足の巨馬という、もはや馬とは呼べない生き物が走る。ただし、現在戻ってきている馬が休息期間中の為、早くても二日後にならないと出発ができないようだ。


そして次に説明されたのは通常直行便。その名の通り普通の馬を使うもので、すぐにでも出発の用意はできるらしいのだが、途中で馬を休ませながら走らせないといけない為、早くても二週間ほどの時間がかかるとのこと。


ちなみに最低料金のプランだと貨物の輸送に相乗りする形で乗せてもらうもので、移動に一月以上かかるのが普通のことらしい。その分、冒険者の場合なら護衛という名目でさらに割引が掛かって、意外と人気があるプランだとか。


急ぎで行きたい場合は二日待って快速便で行くのがいいが、ここから離れたいとなると、通常便となる。


「我々としては、高速便をお勧めします。滞在期間中の宿は、こちらが格安料金で最高級の宿をご用意致します。さらに、普段はお客様にお見せすることがない秘蔵の品も用意致しますが…………どうでしょうか?」

「それでお願いします」


割とあっさり決めたけど、後ろで圧を掛けられたら頷くしかない。今も後ろで、小さく「やったぁ!」とか「秘蔵の品……!」とか「最高級宿、楽しみ……!」と、隠れてもいない喜びが聞こえてくる。


そんな訳で二日はこの聖都に留まることになった。当初の予定と比べると大きく変わってしまったが、灯台下暗しってことで、案外このままでも大丈夫だろう。そもそも聖都に着いた時にもすんなり入れたことだしな。

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