タイミングばっちり
「さぁ、何か言ってみなさい。どうせ、ダンジョンを踏破したというのも嘘なのでしょう?」
「あー……、リィン。その……」
「アンリ。こんな人をかばう必要はないわ。どうせ無理矢理言わされてるのよね。そうでもなきゃ、アンリが嘘なんてつくはずないもの」
アンリ、お前何やらかしちゃってるの……。
あまりの出来事に、あのジークですら頭を抱えてしまっているし、クゥリルは辺りを見渡して逃げ出すための準備をしている。ホント、この状況どう言い訳するんだ。
因みにその魔道具は明日お披露目する予定のもので、ジークが会談で有利に話を進めるための切り札の一つだったはずだ。だから、この場で壊れているとか、試験段階とかにしてしまうと、性能証明はもちろん、ジークのやってきたことの信憑性も危うくなってしまい、明日の会談に影響が出てしまう。
「ち、違うよ! ホントっ、本当のことだから! その魔道具はちゃんと邪悪なるモノを探知する道具だし、東の大陸にあるダンジョンだって、それで見つけて、ちゃんと全部攻略したよ!」
「……じゃあ、なにかしら。まさかこの近くに邪悪なるモノが潜んでいるとでも言うの? ……ねぇアンリ。アンリならは分かるはずよね。近くに邪悪なるモノがいれば、それがどこにいるかも」
「そ、それは……」
おいアンリ、こっちをチラチラ見るんじゃない。バレるじゃないか。
本格的に逃げる必要があるかなと考えていれば、深いため息を漏らしたジークがようやく口を開いた。
「はあぁぁ……。おい。それをこっちに寄越せ」
「キャッ! 何ですか、もう!」
「……ふむ。なるほど、そういうことか」
「そういうことって……一人で納得してないで、言い訳の一つでもしたらどうなの」
「何、簡単な話だ。これは偽物でもなければ、壊れてもいない。正常に稼働している」
「だ か ら。それだと、この場に邪悪なるモノがいるってことになるのだけど、それはどう説明するのよ! あの人がそうとでもいうのかしら!?」
はい、大正解です。
聖女が憤ってこちらに指を向けてくるが、ジークは落ち着いた面持ちで淡々と話す。
「落ち着け、そうは言っていないだろう。これは探査範囲設定を最大にしている為、近くにいるように見えるだけだ。それに、これは勇者用に作られた特別製だ。その分探査範囲は広く、大雑把になっている」
なるほど、そういう感じに言い逃れるのか。たしかに、ある程度は表示範囲を変えれた筈だ。勇者用云々はただの出まかせだけど、これなら誤魔化せるだろう。
「だったら今すぐ近くの表示を見せなさいよ。もし近くにいるなら、すぐにでも討伐隊を出さないといけないわ」
「断る。それに、これは本来明日披露する予定だ。今貴様に見せているだけでもありがたいと思え。……クックック。もしかしたら、すぐ近くまで来てるかもな」
「まったく、今世の覇者ときたら……! 貴方には女神に選ばれし者としての自覚はないのですか! アンリ。アンリなら近くにいるかどうか分かりますよね」
「あー……、ええと。ボクがわかる範囲には……、いない、かな」
「…………そう。それならいいわ。どうせ、明日で全て決まるわ。それが本物だということを証明できるのでしたら、先ほど言った通り認めてあげ……」
聖女が言い終わる前に――ドゴオォーンッと、遮る形で轟音が鳴り響いた。
何かがぶつかり、崩れていくような音と振動が伝わってくる。その後すぐに、ばたばたと慌ただしい足音が聞こえてきて、この宿を見張っていた教会の人がやってきた。
「お食事中失礼します! 先ほど、ダンジョンマスターを名乗る不審な人物が現れ、攻撃を受けました。 現在取り押さえようと交戦しておりますが、建物のいくつが崩落しており、周囲に危険が見込まれております。ですので、どうか対処が済むまで、安全な場所へ避難をお願いします」
「そんなっ! まさか本当に邪悪なるモノが出るなんて……!」
「え、嘘! 全然わからなかった……。いや、それよりボクたちは助けに行かなきゃ!」
「そうですね、アンリ。そこの貴方、私達を案内しなさい」
「いや、しかし……」
「心配なさらずとも、問題ありませんわ。それに、今ここには各国の要人が集まっております。その方たちに何かあっては教会の威信に関わります。聖女と、そして勇者の名において絶対に守り抜かねばなりません」
「ハッ! 了解しました。ご案内させていただきます」
ドタバタドタバタと、慌ただしくアンリと聖女が駆けていく。
この場に残されたのは、俺とクゥリルとジーク、そして料理を提供していたスタッフが数名。どう対処すればいいのか分からず、スタッフたちは不安げにしている。
「まさか本当に現れるとはな……。おい、ダンナ。わかっているな!」
「え? ああ、そうだな!」
「まだ他に隠れている奴がいるかもしれん。貴様はこれを持って、見つけ次第排除しろ」
そう言って、ジークは魔道具を投げ渡す。これで他の者たちには、ジークの指示で襲撃者の仲間を探し行くように見えるだろう。
だが、これはただそう思わせるだけ。教会の眼が別のところに向き、更には抜け出すための口実まで揃った今が、逃げ出すには最高のチャンスというわけだ。
「ジーク殿下、ご無事ですか?」
と、今度はオージン率いる帝国の一団が現れた。帝国は帝国で独自の警備を行っていたようで、教会に一歩遅れて、今になっての到着。
「オージン、来るのが遅いぞ」
「申し訳ありません!」
「よい。それよりダンジョンマスターが現れたようだな。状況はどうなっている?」
「……敵は一名。ですが、教会の衛士では相手にならず、被害が増えていく一方のようです」
「なるほどな。さて、我らも動くとするか。……皆の者安心するがいい! この場は我が覇者の名を以て、安全を保障してやる。各自持ち場にて待機し、指示を待て!」
「「は、はい!!」」
「ほら、お前も早く行け!」
「おう! そっちも気を付けろよな!」
ジークの指示で一気にその場に落ち着きが取り戻され、帝国の方々に見送られながらこの場をあとにするのだった。




