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ダンジョン、時の流れは早い

本日1話目。元々一つだったものを分割投稿。

「春になったから、これから毎日来れるようになったよ!」

「へぇ、意外と冬が終わるの早かったね」

「むぅ、こっちは毎日忙しくて大変だったんだよ、雪かきとかすごい大変なんだからね!」


確かに雪かきは大変だ。前世でやったことあるが寒いし重いしで腰に来た日には……うん、あの時はマジやばかった。

毎日雪かきをしては3日に一度狩りに出る、そんな日々から解放されることが嬉しいのか、尻尾をいっぱいに使って表現している。


「でね、今年は全然吹雪かなかったからその分早く春が来たんだ」

「ヘーソウナンダー」


……もうそのこと(氷の精霊様)は忘れよう。

春になればダンジョンマスターになって一年経つというのに、毎日が同じような何事もない日々だったので実感はわかない。

いまだってのんびり、コタツに入りながらゆったりしている。


「もう一年経つのか、早いものだなぁ」

「うん! わたしも一人前の狩人になって一年になるんだ」

「それはめでたいね、じゃあお祝いに何か用意しようか」

「いいの? やったぁ!」


煎餅を食べているというのに、まだ欲しがるのか。まぁいつもお世話になっているし、今までとは一風変わったものでも用意しようか。


「俺もここに来て一年になるからね、一緒に祝おうか」

「そうだったんだ! じゃあわたしもなんか用意するね。この時期になると、外から珍しいもん持ってくる人がやってくるんだ」


どれだけすごいか話してくれるが要約すると商人がやってくるとのこと。

冬から春にかけての時期――吹雪が収まり、まだ冬眠から目が覚めていない一番安全な時――に、こことは違う遠いところから人がやってきて交易するらしい。

この地域にはない珍しいものがいっぱいあって、狩りぐらいしかすることのない村にとっては一年のうち数少ない楽しみのようだ。


1年経ってもクゥリル以外の人――冒険者とか迷い込む人とか来ないから怪しいと思っていたが、やっぱりここは辺境の地だったらしい。


「ふふふ、おじさんの為にすっごいもの持ってきてあげるね」


異世界での交易品か、それは確かに楽しみだ。

ダンジョンコアを使えば大体のものは簡単に出せるけど、それは言わないでおこう。


「じゃあこっちは――「待って! まだ言わないで、その時まで秘密!」


――手作りのモノでも用意するかなって言おうとしたけど止められた。

おっきな獣耳を両手でふさいで聞かないように努めている。どうやらサプライズがお好みのようだ。

まぁ素直に従おう、気軽に手作りって言ってハードル上げるのも嫌だし、今のうち保険だけは掛けとくか。


「わかったわかった、その時まで秘密ね。こっちはそんなすごいものじゃないかもしれないから期待しないでね」

「うん!」


ふむ、今日もかわいさいっぱいだ。絶対に分かってないだろと言いたいのをこらえて、手慣れた手つきで頭を撫でながら何を作るか考える。

今日も平和な一日だ。




ダンジョンコアを使えば大抵のものは出せる。しかし、折角の贈り物だ。それでは味気なくて手作りにしようと思った。思ったのだが、実は俺、器用でもなんでもない。


作るには作ってみたが、かなり不格好なものとなってしまった。

今日は前もって決めていたプレゼント交換の日だというのに、手に持つ袋を見ては後悔している。


ああ、なぜ俺はあの時手作りでなどと考えてしまったんだ……、今更ダンジョンコアに頼るのも何か負けた気がするしどうしよう。


「おじさぁん! プレゼント持ってきたよ!」


そんなことを考えていたら、クゥリルがやってきた。

どうやらいいものを手に入れることができたのか、いつもより声のトーンが高い気がする。


「はい、これ!」


アイテムバッグから取り出してみたのは紐の通った丸い珠。珠をのぞいてみると黒く透き通って煌めいていた。幻想的な夜空のようで、覗くたびに違う煌めき見せ――いつまでも見ていたいと思った。


「どう、この腕飾り! すごいでしょ!」

「なんか、すごい感動した……ここまで綺麗なものはじめてみたかも。……これ、本当にもらっていいの?」

「もちろんいいよ! 代わりにおじさんのをもらうからね!」

「え……、あっ!」


今手にしているものを思い出して、後ろ手に隠してしまおうとするが、行動するより早く取られてしまう。

そのまま止める間もなく、袋の中にあるものを取り出されてしまった。


――獣のキバでできた、首飾り。

錐を使って穴をあけツタ紐を通したもの。簡単な作りなのだが穴は中心からずれているし、円ではなく歪な楕円になってしまっている。

安全の為にやすりをかけたのも悪い結果となり、丸みを帯びすぎていてキバというには悲しい感じの見た目だった。


全てクゥリルが取ってきてくれたもので作ってみたものの、いかんせん出来が残念すぎる。


「……えっ、と。それはその、なんというか手作りしてみたんだけど。……ごめんね下手くそで、やっぱりこれで出すよ、何でも言って」


別のプレゼントを提案してみるが、反応はない。

ただクゥリルはジーっとその首飾りを見つめて、止まってしまっている。


「……これで、いい」

「え?」

「……これがいい! これじゃないとダメ!」

「本当? 気を使わなくてもいいんだよ。クゥが持ってきたものに比べるとさすがに気が引けるよ」

「んーん、とっても嬉しい! それなんかよりもずっとずっと嬉しい! おじさん、ありがとう!」


あ、なんか涙出てきた……。

人にものを贈って喜んでもらえることがこんなに嬉しいことだなんて初めて知った。


今日まで生き延びてこれたのも、こうやってプレゼントを渡せるのも、あれもこれも全部クゥリルがいてくれたおかげだ。それなのに懐いてくれる。俺のほうが頼りっきりの毎日なのに、信頼してそばにいてくれることが、本当に、本当に――


「――ありがとう。クゥ」


クゥリルも恥ずかしがっているのか、頭を胸に押し付けてきていつものように撫でることを催促してきた。


今なら転生してよかった、そう心から思える。


――ダンジョン始動から一年の生存を確認。


は?


――制限事項の解除を実施致します。


いったい何?


――外出に伴う忌避感、制限解除。――自棄及び自傷行為、制限解除。――各種悪感情の抑制、制限解除。――…………――


だから、一体何が起きてるの!?


次から次へと頭の中に機械的な音声が流れてくる。

わけもわからないまま聞いていたら、今までに浮かんでこなかった考えが頭の中にどんどん浮かんでくる。頑なにダンジョン外に出たくなかった思いも今はなく、そんなことがどうでもいいように思える。


――……全制限事項の解除完了。


ただひとつだけわかったことは、あの自称神ができるだけダンジョンマスターを生存させるために施したものだということは理解できた。


せっかく気分よく感動に浸れていたのに、理不尽に思考を歪められた事実が、今この瞬間を邪魔されたことが、この至高の時間を邪魔されたことがただただ腹立たしい。


おのれ神め……。


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