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ダンジョン、冬が訪れる

冬が訪れるのは意外と早かった。

クゥリルと遊んではお菓子を食べ、訓練をしてはお菓子を食べる。そんな日々を繰り返していたらあっという間になっていた。


冬の間はほとんどの生き物が冬眠し、毎日のように吹雪いているので外にもまともに出られず滅多なことではやってくることはないらしい。外の様子はわからないがおそらく雪が降り積もっているのだろう。


散々冬が来たら来れなくなると言っていたので、この3日ほど姿を見せていないことにも心配はしていない。

だから、安心できる日々が続くのは良いことなのだが。


「暇だ……」


ダンジョン内は空調がなくても部屋の温度は変わらないので、季節の違いなどない。

一応は冬なのでせめて雰囲気をだけでも出そうと思い、コタツにミカンも出したが一人では空しいだけで、心までは温まれない。


まさかここまで寂しくなるとは……。

元の世界では一人暮らしは当たり前だったし、人付き合いがなくても平気だと思っていたが、あと数か月は一人きりでこの冬を過ごさなければならないことに気が暗くなる。


「体動かすか……。せめて少しでも体力付けておかないとな」


気を紛らわせる為にも室内でランニングを始めることにした。

しばらく走り込みをしていたら、――カラカラと、聞きなれない音がダンジョンの入口の方から聞こえてくる。


「この音って確か、クゥが仕掛けてくれた罠の音? え、ということは、まさか何かやってきた!?」


冬の間は来ることはないと言っていたのに、まさかの事態に焦る。こういう時こそ落ち着いて対処しなければならない。


「まずは何が来たか確認するとして、えーっとダンジョンコアは、と」


少し前から知ったことだが、ダンジョンコアを持っている状態であれば、カメラを覗くようにダンジョン内を見渡せることができるので、早速それで侵入者を探す。


罠のある通路を意識していくと、白と黒の斑模様の毛皮を持つものが今まさにこちらに向かって歩いているところが見えた。


「こいつは、確か……クゥリルがいつも狩ってくるやつか」


それはクゥリルがよく狩っている獲物一つで、狼のような風貌でクマほどの巨体を持つ生き物だ。


このあたりでは一番大きめな獲物で、力こそ強いがそこまで俊敏ではないので楽な部類らしい。一応訓練でも想定敵としどのように対処すればいいかも教えてくれた。

小型ドラゴンの動きを止めたときに使った手段で、網を頑丈なものに変えれば動きを封じれるといっていたが、本当にできるか不安になっていく。


「一人じゃ心もとないが、やるしかないか」


まずはよく観察することが大事と言っていたので、今までの記憶のモノを見比べてみる。

少し細い感じもするので、十分な食事が得られず冬眠できなかった個体だろうか、それに動きにもどこか違和感があるし、うまい具合に二つ目の罠にもかかったと見ていいか、とその様子を観察する。


「このスピードならあと数分といったところか。」


そんな長い通路ではないが、相手はのしのしと慎重に歩くよう遅い。その間に頭の中で対処するイメージを繰り返していく。

始めが肝心だ、姿を見せたらすかさず閃光手榴弾を投げてひるませる。そして鋼鉄製の網を真上に出して動けなくする。後は死ぬまで攻撃をし続ける。

イメージだけでも閃光手榴弾を持つ手に汗を握ってしまう。


――がおおぉぉぉ!


「来た……、ッ!?」


姿を見せるや否や、こちらに気づくと自らを主張するように、幼さを感じさせる鳴き声で叫んでこちらに走りかかってきた。

だというのに、相手が子供だという事実に気づき、戸惑い初動が遅れてしまう。


「あー、クソ。何やってるんだよ、俺……」


悪態をつきながらも横に飛び込みなんとか回避することはできた。

図らずも前と同じようになり、閃光手榴弾も回避に合わせて、すでに手から離れ……、閃光と爆音が弾ける。


無意識のうちに相手が子供だという可能性を抜いてしまっていた自身の覚悟の足りなさが不甲斐なく思う。たとえ、相手が子供であってもやらなければこちらがやられる。

覚悟を新たにして光が収まった後に目を開けるが、そこには何もいなかった。


「見失った!? ――ッ!?」


急いで姿を確認しようとするが、いつの間にか背後に回ったのか背中越しから威圧的な気配を感じてその場から動けなくなる。


ああ、まさかこんな最後になってしまうとは……。生き延びるって約束したのに情けないなぁ。


「うひゃあ! ちょ何!? 何、何なの!?」


世の中弱肉強食。敗北したことを受け止め、早々に生きること諦めようとした時、突然脇をくすぐられて思わず声が間抜けな声が漏れてしまった。

なんとか身をよじって逃れようとするも、なかなか離れようともしてくれず、くすぐりはどんどんエスカレートしていく。


「あは、あはははは、あーはっははは、やめて、クゥもうやめて」

「諦めるの早すぎ、わたしじゃなかったら死んでたんだよ! もっと頑張ってよぉ」


背後から毛皮を被ったクゥリルが指をこしょこしょしながら抱き着いていた。どうやら先ほどまでの襲撃はクゥリルの自演で、まんまと俺は一杯食わされてしまったようだ。

たぶん抜き打ちで確認しに来ただろうと予想できるが、俺はクゥリルを認めさせるほどの基準を満たせなかった。少し情けなくなってしばらくくすぐり地獄を、あまんじて罰を受けることにした。




「なんでクゥがここにいるの。冬の間は来れないって言ってたでしょ」

「んーっとね、なんか今年って全然雪降ってないんだってぇ。いつもより暖かいし、それで冬眠するはずの獲物も冬眠しなくなっちゃって、それで狩りしてもよくなったの」

「暖冬ってやつか。異世界も似たようなもんなんだな」


前世で住んでいた場所は豪雪地帯だったから共感ができることがある。そんなことを思い出しては感慨深くなる。


「あとね、今年の山の主は寝坊助だなぁ、って村のみんな言ってるんだ」

「山の主? そんなのもいるのか」

「うん、氷の精霊様ってのがいるよ! 冬になるのは精霊様が目を覚ますからなんだってさ。なんか神様?っていうとってもすごい人が生み出したとかいってたけど、だらしないよねぇ」

「そうなんだ、一体どんなのなんだろうね」

「なんでも氷を身にまとってて、その吐息はどんな物も瞬く間に凍らせるんだって! すごいよね! やばいよね!」


神が生み出した存在か、そういえば自称神はどうしてるかなっと思っていると、最近どこかで見たことがあるような外見に、ふとのあの時の出来事が脳裏によぎってしまう。……いや、流石に違うよね?


「冬ってさ、時々煩いことあるでしょ、それも精霊様が叫んでるからなんだって。でも今年はそんなことないし、静かで温かいから籠らなくてもいいの」

「ヘーソウナンダー」

「氷の精霊様には悪いけど、こんな冬が続くなら、ずっと寝てもらってた方がいいよね」

「ウンソウダネ。……たぶんこれから先も穏やか冬が続くと思うよ」

「本当? だといいなぁ」


この間やってきたものが氷の精霊様だと確信し、やってしまった事実に内心動揺するがクゥリルは気付いてる感じもなく、お気楽なものだ。


まさか、あの時の小型ドラゴンが氷の精霊様だったなんて気づけるか。

たしかに動物とは思えない知性をもっていたけど、精霊というよりかは聖獣とかの部類じゃないか。……そういえば、あれが言っていた『邪悪なる者』ってどういうことだったんだ?


あの襲撃時、小型ドラゴンもとい氷の精霊に『邪悪なる者』と呼ばれ、命を狙われた。

ダンジョンマスターはこの異世界の人たちにとっては脅威かもしれないが、氷の精霊も同じく神が生み出したものなら仲間とまで言わないが、敵というほどじゃないと思う。


それなのになぜ世界の為死ななければならないのかわからない。

一方的に『邪悪』と敵対されたのが理解できず、そのことに一抹の不安を覚えた。

考えていても異世界事情を知らない俺では答えはない。だから気分を変えるためにもコタツへと入り、手招きする。


「……まぁそんなことより、まずはコタツに入ろう。寒かったでしょ、ミカンもあるよ」

「なにそれ入る! あったかーい」


クゥリルは楽しそうにこちらにやってきて、そのまま横に並んでコタツに入ってくる。


「そういえばさ、それなに?」


俺が指さすのはクゥリルが着ている毛皮。襲撃してきたときには騙されてしまったが、くり抜いた様に施された毛皮は着ぐるみとしか形容しようがない

その着ぐるみのままコタツの中に入る姿はむしろ暑そうだ。


「冬の防寒着! 吹雪がない時はみんなでこれ着て外出て雪かきするの。あと、わたしはやることはなかったけど、狩りごっこするときとかにも使うんだ」

「あー、なるほど。でもこの中じゃ暑いんじゃないの」

「あっついよ! でもいいの、滅多に着ることないもん。それに狩りごっこもできて楽しかった」


そうか、先ほどのが狩りごっこというやつだったのか。なかなか本格的過ぎて真に迫っていた。

狩りごっこのことを思い出しているのか、クゥリルは不機嫌顔で不満を漏らす。


「でもあれはないよ。どんな時も最後の最後まで諦めたらダメなんだよ」

「ごめんごめん、次からは諦めないよう頑張るよ」

「頑張るじゃなくてやるの! もう、また来るからちゃんとしてよね」


あははと、苦笑いでごまかす。

それからも他愛のない話をしながら、機嫌を取るためにコタツの中でゲームをすることになった。


「これ何?」

「人生ゲームというやつだ。順番にサイコロを回していって、ゴールに到着するまでにお金をいっぱい手に入れた方が勝ちだ」

「お金? む~、なんて書いてるかわからない」


ボードと紙幣をジロジロと見てるが、どんなものなのか想像もついていないようだった。

言語の翻訳は勝手にしてくれるとはいえ、流石に文字までも無理なようで教えながらゲームを始めてみることにした。


それからしばらくゲームを進め、


「ん、大体わかった!」

「ははは、クゥは賢いな」


驚くことに、少し教えてあげればするすると理解していき、初めは文字とか貨幣というものがわからなかったというのに、すぐに簡単な日本語なら読めるレベルになってしまった。

そういえば将棋のルールもすぐに覚えたんだっけか……、あれもすぐやり方覚えていい勝負できるぐらいだったな。


「まさか、頭の出来まで違うとは……、日本語ってそんな簡単なもんだっけ、あれ、俺英語覚えるにもかなり苦労したはずなのになんだろうこの差……」

「ん、わたしは賢くて強い! だから撫でていいぞ!」

「それじゃあありがたく、撫でさせてもらうよ」


軽く落ち込んでいる俺を励まそうとしてくれているのか、頭をこちらに寄せて撫でせてくれる。


なんか思い悩むとかどうでもいいことに感じてきた。

その後も2人だけでの人生ゲームなのになかなかの盛り上がりを見せ、3日ぶりということもあったのか、度々ゲームの途中に何度も撫でさせてくれた。


ああ、やっぱりクゥリルが来るとにぎやかになる。この3日間寂しかったのがウソのようだ。


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