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所長・変人・公爵令嬢?


「と、言うわけなんだ」

「はあ、事情は理解した。教会の奴らが諦めていなかったのは知っていたが、まさかこんな手段を取るとは……」

「ごめんなさい……」


あれから嘆くアンリを連れてオージンさんの所に向かった。そして、この騒動の原因を説明すれば、何かを察したのかため息まじりに苦慮しているようだった。


「それでだ。君はただ利用されたとはいえ、君のやったことは重大な犯罪だ。いまさら謝って許されると思っているのか?」

「そうネ、そうネ! 絶対に許さないネ!」

「所長は黙っていて下さい……」


アンリは先ほどから頭を下げ続けて誠心誠意の謝罪の意を示しているが、ここの施設の所長である女性は、まだまだ許さないと言った様子だ。


「それに君は一体何者なんだ? 教会側の人間にキミのよう危険人物がいると言う話は聞いたこともなければ、いまさら教会に肩入れする人なんていると思えない」

「き、危険人物…………」

「ワタシのよんちゃん(仮)を壊したのだから、キケンもキケン、大キケンヨ! アレは単独でダンジョン攻略を目的に作った試作機ネ! それを壊すなんてありえないネ!!」

「だから所長は黙って欲しいのですが……」


またも口早に責め立てる所長。今度は制止されても構わずアンリを一方的に責め続けていて、割り込む隙がない。

助けを求める様にアンリがこちらを見て来るが、「ドコをみてるノ! 人の話はちゃんと聞きなさいネ!」と指摘が怒涛の如く飛ぶ。


「もういいです……」


唯一の助け舟と思われるオージンさんもとうとう止めることを諦めてしまったようだ。

おそらく、オージンさんも何か言われ続けたのであろう。顔色をよく見てみればゲッソリしていて、疲れがたまっているのが窺える。


「仕方ない。ダンナ殿、代わりにお願いできるか?」

「ん? あぁ、そうだな。後で説明するって言ったけど、今揺さぶられ続けているアレ。実はアレ、勇者なんだよ」

「勇者……? 勇者と言ったら女神の使者の一人だが、こんなところにいるはずが……いや、それを言ったらファグ村から来たダンナ殿のことを言えないか」

「それで、あの勇者――アンリとは……「チョット待つネ、そこのアナタ!」


突然、アンリを責めていた所長が反応して、ビシィっとこちらに指を突き付けて割り込んできた。


「今、勇者って言ったネ? それは本当のコト!?」

「ああ、本当だけど……「という事は、アナタたちがジークの言っていた客人ネ! ナルホドナルホド、意外と普通なのネ……」


言い終わる前にまたも割り込む。さっきまでの怒りがウソのように興味へと変わり、ジロジロと舐めまわすように観察してきた。

ガラスの厚い丸眼鏡からは綺麗な蒼い眼を覗かせ、自らの金糸の髪を邪魔そうに払って「ふんふん」と一人頷いている。


これだけ近いと一目で美人だと分かる。だが、それ以上にこの人はアクが強いようだ。

あまりに近すぎるからクゥリルが引き離そうとしたが、今度はクゥリルをターゲットに変えて観察をし始めて、止まる様子がない。


「クフフ、これは研究し甲斐がありそうネ! ジークにしてはとっても良い土産を持ってきてくれたネ!」

「所長、それは一体どういう事ですか?」

「今とってもいいところナノ! ワンワンのダンチョーサンは黙ってテ!」

「……何かおかしいと思いましたよ。今日に限って城下に回されるし、さらに問題ごとばかり起こる」

「モウ、うるさ…………アっ、しまったネ! これ言ったらダメだったヨ!」

「何か裏があるかと思えば、そうですか……そう言う事ですか……」


何やら不穏な気配がしてきた。主にオージンさんが所長に向ける感情が今にも爆発しそうになっている。


「アワワ……困ったネ、このままじゃ不味いネ。そこの人、何とかするネ!」

「え、ボク!?」

「そうネ! もとはと言えばアナタがワタシの研究所に押し入ったのが原因ヨ! だから何とかするネ!」


とんだ無茶ぶりがアンリに飛んできた。原因うんぬんはそうなのだが、多分この状況を招いたのはこの人が迂闊なのと、ここにいないジークが悪い気がする。アンリに頼ったところでどうにかなるとは思えない。


しかし、そんなことは関係ないとばかりにオージンさんはゆっくりと近づいてくる。

表面上はニコニコと笑顔を繕っているが、今その裏に秘められている感情は……うん、所長とアンリの二人に怒気が向けらている。アンリは完全にとばっちりだけど。


「君は勇者だったか。ジークフリート殿下と知り合いのようだけど、殿下はこの帝都に戻って来てるでいいんだね?」

「は、はい! その通りです!」

「そうかそうか。殿下は人に仕事を押し付けておいて、人知れず帰ってきていたのか。……で、ニーベルゲン公爵令嬢。貴女はこのことを知っていて、黙っていたと?」

「エーット……ワタシはさっき知ったことだから関係ないヨ?」


素直に答えたアンリはずっと姿勢を正しているというのに、この所長はまったくと言っていいほど公爵令嬢に思えない態度で一人言い逃れしようとしている。明らかに目泳がして嘘だというのが丸わかりだ。


「そうですか。ですがこの件は事前に知っていたという事ですよね? ならばこの件は自業自得ということで、自己負担でいいですね」

「それは困るネ! ただでさえ予算がないっていうのに、これ以上出費したら何もできないヨ! 悪いのは全部ジークネ!」

「……はあ。殿下のことはこの際いいです。ですが、所長は報告の義務を怠りました」

「エ?」

「本来、教会に関すること……今回であれば勇者のことを我々騎士団に報告する義務があります。ですが、所長は勇者という存在を知りながら黙っていました。つまり、規約違反というわけで、手当は受け取れません。最悪、この研究所は閉鎖されます」

「ヤメテー! ワタシからそれを取り上げないデー!!」


……この人、本当に公爵令嬢?


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