ハイテクなローテク
騎士団が用意した馬車に乗ることおよそ一時間。
一般区から工業区画に向かう道を進めば進むほど、平屋の数を減っていき空き地が多くみられる。
隣の区画に移動するだけでも一時間かかるとは、流石は首都という事だけあるか。
ガタゴトと揺れながらも馬車の小窓から外を覗く。遠くからでも分かるほどの煙突があり、黒い煙がモクモクと立ち上っていた。
産業革命期真っ只中なのか、工場と言う工場が立ち並んで、同じように煙突から黒い煙を出している。
「へぇ、工業区と言うだけあるな」
「むぅ。ここ空気悪い……」
そこまで広くない馬車の中で隣に座るクゥリルが、気分悪そうにつぶやく。反対側、対面に座るオージンさんも同意するように頷いている。
「あー……確かに。これだけ多いと公害とか気になるけど、どうなんだろう?」
「ほう、ダンナ殿は何か分かるのか? このあたりに赴任している者は、よく不調を訴えているのだが、まさかこの煙が?」
「煙もそうだけど、産業廃棄物とか原因は色々ありそうだね。総じていうなら、こういう場所で長く働き続けるのは、よくはないのは確かだよ」
「やはりそうだったか……。参考になった。今度からこの地区は持ち回りにするとしよう」
文明が発展するのは良いことだけど、こういった問題はどこも同じだな。
ファンタジー世界なら、そこは魔法で発展したものが見たかったけど、魔法が珍しいものだから仕方ないことか。その分、魔道具が機械代わりとして存在しているから、それがどんな風になっているのか気になるところだ。
「そういや、目的地ってどこになるんだっけ?」
「む? そういえば言ってなかったな。これから向かう施設は、ダンジョンについての研究を行っている所だ。内容が内容なので詳しくは説明できないが、秘匿区域に位置する大事な研究所と言っておこう」
「秘匿……? そういえば特Aなんちゃらって言ってたっけか」
「ああ、その通りだ。ダンジョン関連の施設は全て秘匿となるのだが、その中でもとりわけ重大なものが特A級となる」
あっ、今更気付いてしまった。コレ、秘密を知ったからには~的な展開で、そっち方面から責められてしまいそうだ。
「……もしかして俺達が知っちゃダメなことだったり?」
「いや、そんなことはないぞ。一般人であれば立ち入り禁止だが、騎士団の関係であればなんら問題ない」
…………ああやっぱり。談笑していた時から騎士団に入隊させたい感じが伝わっていたけど、手伝うって言ったのは早まったかもしれない。
それからどうやって言い訳しようかと考えていたら、いつの間にか目的地である施設へとたどり着いた。
一目見ただけで分かるほどの惨状。おそらく魔道具的な壁だったのであろう建物が無残にも崩れ落ち、人ひとりが通れる穴が空いている。
穴から見える先もボロボロで、まるで怪獣でも通ったような跡だけ残されていて、酷い有様だった。
跡をたどりながら施設の中へと入っていくと、思っていた通りそこにはアンリがいた。
「やっぱりアンリだ」
「何というかわかっていたけど、ダンジョン絡みになると見境なくなるな、ホント」
「うん、アンリらしい」
呼び止めようと声を掛けようとするが、――ピーピーピー、と奥から警報音が鳴らした何かが向かってきた。
「シンニュウシャニツグ、タダチニタチサレ。ピーピーピー。」
「こんなものまで出てくるなんて……。やっぱりここは邪悪なるモノの隠れ家か!」
アンリの目の前に留まったそれは、腰ほどの高さがある四脚のロボット。長方形の胴体にはカメラの眼が備わっていて、いたるところに伸びている青白いラインがメカメカしい見た目を思わせる。発せられる音声も機械的で、ザ・ロボットといった感じだ。
「なんでロボット? 急に世界観おかしくなったんじゃないの?」
「ロボ……? ダンナ殿が何をいってるか分からないが、あれはダンジョンから鹵獲したゴーレム……いや、それを模して作った魔道ゴーレムと言うヤツだな」
近未来的な見た目なのにローテクな感じがするのはそういうわけか。
アンリが剣を構えたままロボットの様子を見ていれば、再び機械的な音声で「ボウエイソウチ、キドウ」と駆動音が響き、青白いラインの箇所から胴体の一部が上下に分かれた。
「!?」
分かれた箇所から覗かす銃口。「ハッポウ」と一言告げられれば、同時に連続する発砲音と共に無数の針が射出された。
「くッ! はぁああああ!!」
針を弾き、身に掠めながら、一気に距離を詰めると一刀両断!
……とはならず、ガキィン――と見えない壁に阻まれてしまった。
「なっ!? これは結界!? ……なら、壊れるまでやるだけだ!」
驚いた。このロボット、結界の魔道具まで保有しているのか。
あの魔道具って結界が干渉する為か、使っている間は動かせなくなるのに、これは関係なく動き回っている。
「私たちも彼女を止めよう。……あの、クゥリル殿は何故、私の腕を掴んでいるんだ?」
「邪魔しちゃダメ」
「え?」
掴まれた腕を振り解こうと、力づくで引っ張っているのだろうがビクともしていない。無理だというのを悟ったオージンさんは、仕方ないといった感じに肩をすくめた。
「……その反応からして、彼女とは知り合いなのか」
「ぶっちゃけると、ね。詳しいことは後で説明するけど、今は何も聞かないで欲しい」
「はあ。とりあえず分かったが、後で絶対に教えてもうぞ」
ため息交じりに許してくれたが、どこか問題児を見るかのような眼をしている。
「それで、クゥ。本当にアレは止めなくていいの?」
「問題ない。それにもう終わるよ」
クゥリルに促されるように、戦闘の様子を見た。
ロボットは四脚を駆使しながら、懸命に針を発射し距離を取ろうとするが、アンリはもう目が慣れたのか容易く躱して何度も切りつける。
結界に阻まれて直撃はしないものの、長時間の駆動に耐えられないのか、物理的に各部から煙が噴き出てしまっていた。
そして、早くも決着がつく。
熱暴走したロボットが異常な駆動音を一度鳴らすと、青白く光っていた胴体は黒く消灯し、
「これで終わりだぁ!」
アンリの渾身の一撃により、真っ二つに斬られた。
申し訳ありませんが、しばらくの間更新頻度が遅くなるかもしれません。
私的な都合ですが、週1回は必ず更新しようと思ってます。




