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帝都ファーヴニル

ダンジョン攻略が終わり、帝都を目指すこと数日。

何度か俺とジークで運転を代わりながら魔動車で進み、特にこれと行ったトラブルが起こることもなく、無事にたどり着いた。


帝都までの道のりが思った以上に遠く、多くの魔石が消費されることが予想できたので、それを解決するために途中から暇になったアンリが魔石代わりに魔力補給することになった。そのおかげで大幅節約ができたのだが、それからアンリがグチグチと文句を垂れていて煩くなったのは言うまでもない。


「どうだ。ここが我が国の誇る帝都、ファーヴニルだ」


見て分かるほどの大都市。高く建てられた城壁が侵入者を阻むように地平線の向こうまで続いている。

今走っている公道の先には大きな関所があり、このまま進めば通ることになるだろう。


「フフフ、驚いて声も出ないか」

「うわぁ! 教会本部も凄かったけど、こっちもこっちで大きいなぁ!」

「ハッハッハ、そうであろうな!」


燃料タンクとしてずっと後ろで不貞腐れていたアンリが目を輝きだす。まるで上京したての田舎娘そのものなのだが、そのリアクションを見たことでジークは気分よく笑う。


「ジーク、このままコレで入っていってもいいのか? この魔動車ってまだ開発途中のものなんだろ?」

「問題ない。そのまま進むがよい」


ジークに言われるまま関所を通ろうとすれば、魔動車の前に衛兵らしい恰好をした人が立ちふさがってくる。


「そこの奇妙な馬車、停まりなさい」


何となくわかっていたが、停められた。

武器まで構えられて警戒されているので仕方なく停車すると、ジークが魔動車から飛び出した。急に飛び出してきことに衛兵がさらに警戒を強めるが、ジークの姿を確認した瞬間、慌てて姿勢を直して敬礼した。


「お勤めご苦労。報告の方は伝わっているな?」

「ハ、ハイ! 御報告は聞いております! そちらの御三方が、そうなのでしょうか?」

「うむ、そうだ。ならば、後は任せるぞ」

「ハイ! 承りました!」


ハキハキと対応しているが、その言葉の裏には怯えを隠しているようにも見える。

忘れていたが覇者と言うだけあって、ジークは普通の人から見れば恐れられるのだったな。


「まぁ、そういうわけだ。我はしばしの間離れることになるが、詳しいことはそこの男に聞いてくれ」

「そういうわけってどういうわけだよ」

「我にも色々あるのだ。準備が終わり次第迎えを寄越す。それまで自由に楽しむがよいぞ。ハッハッハ」


誤魔化すように高笑いすれば、足早に奥へと去って行った。それからジークの姿が見えなくなると、緊張した面持ちだった衛兵が「ふぅ」と息を吐きだし、肩の力を抜いている。


「えーっと、聞いても大丈夫?」

「え? あ、はい。……ごほん。お待たせしました。ようこそ、帝都ファーヴニルへ!」


礼儀正しい挨拶と共に、改めてこの国を紹介された。




「以上で案内は終わりますが、何かご質問はあります?」


あれから俺たち三人は衛兵が先導する形で帝都ファーヴニルの中へと足を踏み入れ、案内を受けていた。


丁寧、かつ細かいところまで説明するのはそれだけこの国を愛していることの表れなのだろうが、あまりにも長く、くどい説明だったので半分以上は聞き流してしまった。

クゥリルも途中、あくびをして明らかにつまらなさそうにしていたし、こうなるのは仕方のないことだ。


ただアンリだけは最後まで楽しそうに聞いていて、案内の都度に相槌を打ったり感心したりと、これが原因で衛兵の案内が長くなったのだと思う。


あと案内に割り込むように、ジークのことを聞いてみても特に説明らしい説明はなく、「国家機密です」と有耶無耶にされた。反応からして多分何も聞かされてないっていうのが本当のことだろう。


とりあえずこの人が命じられたことは、お金の入った袋を渡すことと、帝都を案内するだけらしい。


「いえ、特にないです……」

「何かお困りのことがありましたら、いつでもお声を掛けてください。では、ごゆっくりお楽しみください」


衛兵が別れを告げれば「ありがとうございました!」と元気よく手を振って見送るアンリ。俺としてはようやく解放されたという思いでいっぱいだった。


この帝都ファーヴニルについて説明すると、この都市を大きく分類すると、開発区、工業区、商業区、一般区、貴族区の五つの区画からなっているようだ。


王城がある北側に貴族区があり、そこから半円形を時計回りに工業区、一般区、商業区の並びが第一から第六まである。

この中に無い開発区と言うのは、まだ手を付けられていない今後開発する予定の場所。つまりスラムと似たような場所と考えていい。開発区は治安が悪いので用事がない限り近づかない方がよいとも教えられた。


昔はもっとごちゃごちゃと区画分けも行われておらず、貴族区を除いた場所は無秩序で、今もその名残か一般区でも施設が残っていたり、工業区でも住居があったりする部分もあると言っていた気がする。


ちなみに今いるのは一般区。中流階級以下が暮らす場所であり、一般的な居住地区。


居住地区であっても、飲食店や商店は普通に立ち並んでいるし、出店も多くある。

話半分だったのでそこの所がどういう基準になっているのか知らないが、おそらく専門的なものや大口取引が必要なものが商業区で、基本的に卸した商品を小売りするのはこの一般区なのだろう。


「それにしても、本当に立派な街だな」

「ん、そうだね。ファグ村とは全然違う。こんなに人が多いとまとめるのが大変そう」


街並みは細かいところまで整えられ、景観を考えられた作りになっている。アスファルトや自動車はないものの、ほぼ現代に近いどこかの外国、その情景と言っても過言ではないと思う。


「あ、そうだ! ちょっとボクは教会を見て来るよ」

「またか。別に止めはしないが、同じ結果になると思うぞ」


帝都までの道中で村に立ち寄るたび、教会に行っては無駄になっていたのに、それでもまだ行くらしい。

アンリの目的は教会にあるはずの通信用の魔道具を借りて、教会本部と連絡を取ることなのだが、そういった外部と連絡できる手段は国の強硬手段により、全て回収されている。


「可能性がある限り、ボクは諦めない。もしかしたらまだ残ってるかもしれないからね」

「ああ、そう。それで合流はどうする? これだけ広いと迷うだろ」

「大丈夫。ボクには旦那さんの居場所が分かるから」


そういえば勇者の力でダンジョンマスターは感知できるんだったな。それにアンリほどの手練れなら一人でも問題ないか。


「そうそう。その間二人で楽しむといいよ!」


バレバレな目配せでクゥリルに合図を送っている。まさかあのアンリが気遣いできることに驚きだ。


「アンリ、それはいい考え」

「それじゃあ、二人ともまたね!」


そう言うと、早くもアンリは人ごみの中に紛れて行ってしまう。


「旦那様。久しぶりの二人きり、楽しもうね」


宿に泊まるときは同じ部屋なので正確には毎晩二人きりには慣れているが、こうやって昼間で二人きりと言うのは久しぶりだ。

大抵は運転中なのもあるが、立ち寄った村とかでも大体はジークかアンリのどちらかは必ずいたから、二人で散策は初めてかもしれない。


「そうだな。金もあることだし、パーっと楽しむか!」

「あ、じゃああっち行ってみよ! さっきからいい匂いしてるんだよね」


早く早くと言わんばかりに腕を引っ張ってくる。年相応な子供っぽさに微笑みながら、クゥリルとの屋台巡りを楽しんでいった。


楽しい時間と言うのは早く過ぎていく。

食べ物だったり、装飾品だったり、色んなものを食べたり眺めたりして、街並みを歩いていたら不意に後ろから声を掛けられた。


「そこの彼女!」


振り向くと、衛兵とは違うが、意匠が似た感じの制服姿の男が立っていた。

灰色の髪に翡翠の眼、頭にはクゥリルとよく似た獣耳が付いた青年。


「おい、男の方はどうでもいいんだよ。ちょっと彼女、オレに顔見せてくれねぇか?」

「…………」


何故かクゥリルは黙り込んで後ろに下がり、俺を壁にするように隠れている。

いつもなら一蹴しそうな気もするのに、何故こんなことをしてるのだろう?


「なぁなぁ、よく見ればかわいい顔してるじゃん。ホラ、隠れてないで出ておいで」

「…………」


何も答えない。ただジーっと俺の後ろに隠れているだけだ。

その態度が気に食わないのか、俺の方を一瞥すると、ある一点を見ると見下す様な目つきとなった。


「チッ。おい奴隷野郎。奴隷風情がオレの邪魔してんじゃねよ。どっか消えろや」


ただのナンパに絡まれたかと思えば、ヤンキーだった。思いっきりガン付けて来るが、クゥリルやジークに比べると随分と可愛い。


全然怖くもないのだが、非力な俺では力で解決と言う手段は無理だ。

クゥリルに「何とかしてほしい」という思いも込めてアイコンタクトを送っててみるが、何故か逆に期待するかのような眼差しで返されてしまった。


「何とか言えや!! ブチのめされてぇのか!?」


え、これを俺がなんとかしないといけないの? …………無言のアイコンタクトの結果、どうやらそうらしい。


「テメェ……オレを怒らせたらどうなるか知らねぇようだな……。オレはこの国の中でも、最高峰と言われる騎士団の所属だ。この意味が分かるな?」


ふと思ったが、まさかこれがジークの言っていた帝国にいるクンロウ族なのか? だけど、目は紫色じゃないし。それに、どこか物足りなさあって……。


「あ、そうか。尻尾が無いのか」

「ア゛ァン?! テメェ、ブッコロしてやる!!?」


どうやら地雷を踏んでしまったようだ。


誤字・脱字報告ありがとうございます!

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